8月某日――
編集担当者:宇内
「ヨッピーさん、どうしました?」
ヨッピー
「色々あってもう疲れたんよ。株価がどうとか法律がどうとか、そういうのもう完全にやりたくない」
「めちゃくちゃ消耗してるじゃないですか。そうは言っても記事の締め切りが近いので、何か書いていただかないと……」
「嫌です。なぜなら、僕はもうインターネットに疲れたから」
「あれだけネットネットうるさかった人が……。実は、そんなこともあろうかと思って、ちゃんと準備してきたんですよ」
「これです!」
「日本地図? なんで?」
「インターネットに疲れたなら、一旦、インターネットから離れればいいんですよ。スマホを置いて旅に出ましょう」
「おー、なるほど。スマホがないと不便だから、逆説的に『インターネット最高!』ってなるってことね。ホテルの予約は面倒くさいし、道順を調べたり美味しい食べ物屋さん探したり観光地探したりするのも、ネットがないとけっこう大変だろうなぁ」
「トラブルを先読みしないでください。では、コレを投げてください!」
「ダーツ?」
「はい。投げて刺さった場所に行きましょう」
「これ知ってるよ。テレビで見たやつ」
「それは内緒でお願いします」
「所さんの番組で見た」
「だから言うなっての!」
「1回、練習で投げていい?」
「1回だけですよ」
「別に旅行なんてしたくないから、東京を狙う」
「なんたるやる気のなさ」
「せーの!」
「埼玉の川口に刺さった」
「近すぎ。言っておきますけど、これは練習ですからね」
「この調子なら本番もかなりいいセンいけると思う。近場で済まそうぜ、近場で! 横浜で肉まん食って帰ろう!」
※距離を離されました
「よし! じゃあ本番!」
「はい。海に刺さったらもう1回で!」
「よっ!」
「おい。もう少しで北方領土じゃねえか」
「一番刺さってはいけない所」
「国際問題になるわ。まあ、ハズれたからもう1回!」
「よっ!!」
「おっ! ギリギリ陸地に刺さってる! これどこ?」
「新潟県の、米山……?」
「完全に聞いたことない地名」
「では、今回の目的地は新潟県の米山に決定です! 出発まで米山のことをインターネットで調べるのは一切禁止で! さらに当日は、スマホを没収してから旅に出ていただきます!」
「えーーー」
出発当日
はい、そんなわけで改めまして皆さんこんにちは。ヨッピーです。
朝っぱらから東京駅に来ております。
前述の通り、なぜか新潟県の米山という所に行くハメになったのですが、「米山」という地名を聞いたのはおそらく人生初ですし、そもそも新潟県に足を踏み入れるのも初めてであります。果たしてスマホもなしに無事たどり着けるのでしょうか。
約束通り、スマホを没収される僕。
「うおー! マジか……! 僕、丸一日インターネットに触れないのなんて社会人になりたての研修のとき以来だと思うわ……! 12年ぶりくらいかもしれない」
「まあ、ヨッピーさんはネット厨だし、インターネット脳すぎるきらいがあるので、この機会に矯正してください」
「そもそも、米山までどうやって行くのよ……」
「知りませんよ。駅員に聞いたらどうですか?」
「マジか……!」
「じゃ、米山についてちゃんとレポートしてくださいね! 地図を見る限り海が近いので、海辺でたたずめばネット疲れが癒されるかも」
「OLの傷心旅行じゃねぇんだぞ、この野郎」
そんなわけで、編集担当の宇内とはこちらでお別れ。ここから撮影は自分で行います。
肝心の米山までどうやって行けばいいのかがサッパリわからないので、とりあえず切符売り場に行って駅員さんに聞いてみました。
「あの、新潟の米山という所に行きたいんですが……」
「あ、米山ですね。東京駅からでいいんですか?」
「おお。米山駅というのがあるんですね! じゃあ、東京駅からそこまでお願いします!」
「はい。では長岡駅までは新幹線で、そこから直江津行きの電車に乗り換えてください」
「やったー! ありがとうございます! 目的地まで駅が通ってるなら楽勝やんけ!」
そして新幹線へ!
スマホを使えない以上、車内で絶対ヒマになるので週刊誌なんかを大量に買い込みました。3冊あわせて1,490円。
スマホさえあれば適当にゲームしたりネットしたりで雑誌なんて読まないのになぁ、と思ったのですが、そう考えるとスマホが普及したせいで雑誌が売れなくなるのは当然の流れなのかもしれない。
さらには、スマホでメモも取れないので紙とペンも買ったのですが、道中にメモった僕の気持ちをここで公開しておこうと思います。
はい。不安感がマジですごいです。
スマホが手元にないだけでこんなに不安になるのか……!
無駄に不安がるオッサンを乗せて、新幹線は長岡に向かって走りだす。
長岡に到着
雑誌を読んだり居眠りしたりでざっくり2時間弱。
新潟県の長岡駅に到着しました。花火大会で全国的にも有名な街ですね。
この長岡駅で直江津行の電車に乗り換えるとのことで、改めて在来線のホームで電車を待ちます。
来ない。
電車が全然来ない。
「これはおかしい」と思ったので、駅員さんに聞いてみました。
「米山に行きたいんですが、このホームで合ってますかね……?」
「ああ、米山ね。このホームで合ってるけど、次に来るのは2時間後だね」
「えーーーー! 2時間後!?」
時刻表をよく見てみると、確かに「直江津行」の電車はかなり本数が少ない! 長岡に到着したのが12時45分で、次の直江津行きが14時45分!
とんだトラップに引っかかったもんやでぇ……!
スマホさえあれば、時間を調べるのなんて簡単なのに……!
仕方ないので長岡駅で途中下車しました。
普段の僕なら2時間あれば、いの一番に銭湯やらサウナやらに突撃するところなのですが、そもそもこの長岡駅近辺にそういう施設があるのかどうかもよくわかりません。
うおー! スマホがないと不便すぎるー!
観光するにしても、歩いて行ける範囲内に何があるのかサッパリわからないので、駅員さんに頼ることにしました。
「すいません、この辺で歩いて行ける観光スポットみたいなのありますかね……?」
「それなら駅を出て、通り沿いに観光プラザがあるから聞いてみるといいよ」
「ありがとうございます!」
そして、駅員さんに勧められてやってきた観光プラザ。
「すいません、次の電車まで2時間くらい時間があるので、歩いて行ける範囲内でいい所がないか探してるんですが……」
「なるほど。歴史は好きですか? 山本五十六記念館と、河合継之助記念館がありますよ」
※山本五十六……太平洋戦争時の海軍大将。最後までアメリカとの開戦に反対していたことで知られる。ブーゲンビル島上空で敵機の攻撃を受け戦死
※河合継之助……越後長岡藩家老。幕末期の混乱の中、数々の改革で藩政を建て直すも、戊辰戦争における北越戦争で新政府軍との激戦の末に戦死
「おー! 河合継之助! 僕、司馬遼太郎の『峠』を読んでたんで大好きですよ! 行きます!」
この、街の人に話しかけて情報を集めて目的地に向かうって、「昔やったことある気がするんだよなぁ」と思ったんですが、その理由がわかりました。うん、これドラクエだわ。
そんなわけで、こちらが山本五十六記念館で、
こっちが河合継之助記念館。
この「常在戦場」というのは長岡藩の教えで、「常に戦場にいるつもりで緊張感を持って生きろ」みたいなことでしょうか。子どもの頃に通っていた学習塾のスローガンとして、この言葉が壁に貼り出されていた気がします。いま思えば子ども相手に「戦場」とか言ってよかったのかな……。
こちらは、喫茶店らしき店にえらい行列ができていたので並んで食べてみた「長岡レーメン」です。普通なら食べログなんぞを起動して、近くで評判のいい店に入ったりするわけですが、何せスマホがないのでその辺はカンと行列の数で推測するしかない!
ちなみに大アタリでした! うまい!
東京に戻ったあとに調べてみたら、食べログの評価も3.5くらいありました。ネットのみんなも納得のうまさ!
暇つぶしに本屋さんにも寄ってみたのですが、「田中角栄コーナー」があって驚愕しました。さすがは新潟……!
※田中角栄は新潟を基盤に活動した政治家・元首相
無事に時間をつぶせたところで、やっとこさ直江津行きの電車に乗り込みました。
今度こそ正真正銘、米山に向かう。
日本海沿いを電車が走る。
ちなみに米山駅については、本屋さんの観光ガイドブック的なもので情報を集めたのですが特に何も書いてませんでした。嫌な予感しかしない。まあ、着いてから駅員さんに聞けばいいか……。
目的地「米山」に到着
そんなわけで長岡から電車に揺られること1時間、無事に米山駅に到着!
ヒュー! 遠かったーーーーー!
東京駅から長岡まで2時間、さらに2時間つぶした後に長岡から米山まで1時間といった道のり! 片道5時間!
ネットで時間をちゃんと調べていれば最短3時間で着いたことを考えれば「ネットってやっぱり便利だな」と言わざるを得ない。
そして、気になる米山駅周辺の様子は……?
「うん、見事に何もないな」
仕方ないので、この米山駅周辺のオススメ観光地なんかについて、まずは駅員さんに聞いてみたいと思います!
しかし……、
「無人駅かゴラァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
そうなんです。まさかの着いてビックリ無人駅! なにそれ! 完全にトラップやんけ!
ちなみに駅の周りはこんな感じ。観光プラザなんてあるわけもない。
これは困った!!
海が近くにあるので「とりあえず海でも見るか」と思ったのですが、
海に行くには線路をまたぐ必要があるのに、ずーっと線路が続いていてどこから海に向かえばいいのかすらわかりません。
Googleマップがあれば一撃なのに……!
おじさんに出会う
途方に暮れていると、駅の近くで作業中のおじさんを発見。
「あのー、海に行きたいんですがどうやれば行けるんですかね……?」
「あ、海!? 歩きだと遠いよ!? なんなら車で送って行ってやろうか?」
「えー! いいんですか!」
「おう! いいよ! さあ乗って乗って!」
そんなわけで、おじさんの軽トラに乗せてもらった僕。やったーーー! めちゃくちゃ助かるーーーー!
「でも、こんな所に何しに来たの!?」
「いやー、かくかくしかじかでインターネットに疲れたんですが、ダーツが刺さったのでなぜか米山に来ることになりまして……」
「あー、ダーツね! それ知ってるよ! 兄さんテレビの人だ!」
「すいません、テレビではないです。インターネットの記事にするんですが……」
「あ、違うの!? でもさ、せっかく来たんだから米山のいい所を紹介してやるよ! その代わり、バッチリ書いてくれよな!」
「やったーーーー! おじさん最高~~~~~~~~~!」
さあそんなわけで、親切なおじさんに米山を案内していただくことになりました。地獄に仏とはまさにこのこと……!
ちなみにおじさんは、某大手化学メーカーを退職されてからは、市議会議員の後援会の会長をやったり、海に出て漁をしたり、山に入ってイノシシを捕ったりしているそうです。
車はどんどん山の方へ。
「まあ、この辺は田舎だからよ! 別に何をするわけでもないんだけどさ! やっぱりこうやって海も近いし山も近いっつーのはいいよね! 漁業権も持ってるからさ、海入って牡蠣捕ったりしてな! これがうまいんだから!」
「へー! 新鮮な牡蠣、めちゃくちゃうらやましい……! じゃあ、海に行くのも山に入るのも、趣味みたいなもんですか?」
「そうそう! タイが食いてぇなと思ったら海に出てタイを捕ってきてな、イノシシ鍋が食いてぇと思ったら山に入って罠を仕掛けるんだよ。やっぱり新鮮な食材がなんでもうまいよ!」
「ネットに載せていいですか?」って聞いたら「おう! バンバン載せてくれよ!」と陽気に答えてくれたおじさんこと、矢作(やはぎ)さん。マジで矢作さんに出会ってなかったらどういう企画になるかわからんかったわ……!
こちらは、松尾芭蕉が「奥の細道」への旅の際に泊まったとされる「たわら屋」の跡地。この辺は街道沿いで、昔は宿場町として栄えていたんだとか。
こちらは鉢埼(はっさき)関所の跡。上杉家によって管理されていた関所で、日没後は封鎖されるなど厳しく管理されていたそうです。
そして最後に連れて行ってもらったのが、こちらのお堂。
「ここが、大清水観音堂ね。お堂が国の重要文化財に指定されてるんだけどさ、上杉景勝の支援で室町時代に建てられたものなのね」
「へー。すごい。当時の建物なんですか?」
「そうそう。屋根は葺き直してるけど、建物は当時のままだよ」
お堂の中はこんな感じ。
「ここはね、昔は山道しかなくて来るのも一苦労だったんだけど、せっかくの重要文化財なんだからっつーことで、お役所に頼んで道を整備してもらったんだよね」
「へー。おじさんが?」
「そうそう。市長に頼んでね。田舎は政治家との距離が近いからさぁ」
「なるほど。大阪、東京で暮らしてきた僕にはなかなかわからん感覚ですな……」
そんな大清水観音堂から見える景色。
「めちゃくちゃ気持ちいいですね!」」
「だろ! まあ、兄ちゃんもなんでインターネットに疲れたのかは知らないけどさ、外野からゴチャゴチャ言ってくるやつのことなんか気にしなくていいんだから。自分が正しいと思ったことを素直にやればいいよ!」
「いやー、今日は本当にありがとうございました!」
「おう!」
「じゃあ、また来てくれよな!」と言いながら去ってゆく矢作さん。
いやー、本当に助かった! ナイスタイミングすぎてヤラセくさいなと思ったけど、読者の人たちも矢作さんの軽トラのガチっぷり(果物の収穫のために荷台を改造したらしい)を見れば納得してくれるかもしれない。
神様ってどっかで見てくれてるもんだな……!
新潟市内へ
そして矢作さんと別れ、米山の探索を終えた後は、電車に乗って新潟市内へ。
新潟駅に着いた頃にはもうすっかり暗くなっていた。
日本海に面した新潟といえば、海の幸!ということで、お寿司と……、
日本酒をいただきました。
メモ帳に残された「酒うまい」の文字。
自分で言うのもアレだけど、もう少し他に書きようがあったんじゃないかと思う。
ちなみにホテルの予約もネットがないとなかなか面倒なのですが、駅を出てすぐの観光協会さんにお願いをして、安心の「東横イン」を予約!
よっしゃー! これで完全に任務完了じゃ~~~~い!
めちゃくちゃ疲~~~~~れ~~~~~た~~~~~~~~~!
そんなわけで「スマホレス旅行」のまとめ~~~!
スマホレス旅行まとめ
●スマホを持たずに知らない土地に行くと「ドラクエ」みたいになる。そういう意味ではインターネットでアレコレ調べてから旅に出るのは「ゲームに攻略本を持って挑む」みたいな感覚に近い
●その「ドラクエ旅」ならではの面白さは間違いなくあるので、人生で一度くらいは経験してみてもいいかもしれない。今回の矢作さんのような「スマホを持っていたら出会えなかった、いい出会い」が、あなたを待っているかも
●ただしスマホがないと死ぬほど不便なことは間違いない。新潟市に着いてからは、評判のいいお店とか駅から近い温泉も全然調べられなかったので、新潟については改めて事前にちゃんと調べた上で、再度乗りこみたいと思っている
●電車のように「長丁場」であることを理解していれば、雑誌などで時間をつぶせるけれど、「お寿司を待ってる時間」「エレベーターを待ってる時間」など、ちょっとした待ち時間にスマホでヒマをつぶせないのが特につらい
●あとは、スマホを持ってないと得体の知れない不安感にずーっと襲われ続けるので、インターネットから解放されるどころかずっとインターネットに捕らわれている感覚に陥る
●スマホやインターネットが世の中に広まった陰には、技術者(エンジニア)の努力がある! ありがとう!
そして翌日
やっぱり……、
インターネット、最高~~~~~~~!
(おわり)
【取材・文】
ヨッピー + ノオト
ヨッピー
フリーライター。平日毎日更新のおばかサイト「オモコロ」にて体を張った実験記事を執筆。ほかにも「ジモコロ」「トゥギャッチ」などで連載中。ブログ「ヨッピーのブログ(仮)」 TwitterID「@yoppymodel」