IT関連ビジネスが拡大していく一方、それに対する人材不足が叫ばれています。2020年より小学校でプログラミングが必修となるなど、IT人材の育成・確保が急務となっており、講師の育成や教材の開発が急がれています。
この課題に率先して立ち向かっているのが、創業57年の株式会社アーテック。
教科に関係なく網羅的に教材を開発・販売する国内唯一のメーカーで、年間約500品以上の新商品を開発しています。
同社が開発・販売するのは、ロボットを使ったプログラミング教材「ArTecRobo(アーテックロボ)」。
自社運営するプログラミングスクールをはじめ、小中学校のプログラミング授業で教材として利用されています。
▲株式会社アーテック代表取締役社長 藤原悦さん
アーテックが開発するロボットプログラミング教材「ArTecRobo(アーテックロボ)」とはどのようなものか?
ロボットプログラミングスクール「アーテックエジソンアカデミー」に込めた想いとは何か?
プログラミング教材、教員不足への取り組みを含め、同社代表の藤原悦さんに詳しく伺いました。
子どもが熱中!直感的に作る画期的なロボット教材
アーテックロボは、カラーブロックで組み立て、無料のプログラミングソフトで動きを制御するロボットプログラミング教材。パソコンの画面でプログラミングを行い、センサーやブロックを組み換えながらロボットを仕上げていきます。トライ&エラーを繰り返しながら、プログラミングへの理解を深めることができる画期的な教材です。
▲みんなが作ったアーテックロボ動画集
「アーテックロボは、大きく分けて3つのパーツによって構成されています。弊社の商品『アーテックブロック』※とオープンソースソフトウェア『スクラッチ』※をベースに自社開発した『ブロックプログラミング環境』、さらにオープンソースハードウェア『アルディーノ』の互換機として教育用のアレンジをした『スタディーノ』※です。これら3つの組み合わせによって、粘土や積み木で遊ぶ感覚でロボットを開発することができます」
▲ショベルカーのロボット。アーテックブロックでフレームを作り、真ん中にあるスタディーノがプログラムに従って指令を出す。
※アーテックブロック
アーテックが開発したブロック。今までない構造を採用しており、複数の穴と1つの突起がある形状でタテ・ヨコ・ナナメに組み立てできることが特長。次から次にストレスなく形を変えていくことができます。5種類の形状のブロックだけであらゆる形に作り変えることが可能です。
※スクラッチ
MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボが開発したソフトウェア。プログラミングの学習意欲を引き出すために開発されたもので、ドラッグ&ドロップで直感的にプログラムを組むことができます。
※スタディーノ
イタリアで開発された、初心者でも簡単にセンサーやモーターを使用し、プログラミングできるように設計されたオープンソースの制御基板。
▲ブロックプログラミング環境の画面。左の画面からドラッグして真ん中にドロップさせることで、さまざまなプログラムを組むことができる
パソコンでプログラミングしながら動きを確かめ、ブロックやセンサーの位置を変えて動きを調整。すべての工程が直感的に行えるため、集中力が途切れることがなく、自分の創造力に身を委ねることができます。
また、先生たちが指導しやすいのも特長のひとつ。
2013年に販売を開始し、これまでに2万人を超える生徒がアーテックロボを使っているとのこと。同社のアンケートによると、生徒満足度はなんと100%。プログラミング教育を前進させる商品として、大きな注目を集めています。
これからの教育・人材育成を支える教材を求めて
同社がアーテックロボの開発をはじめた背景には、国の教育方針の変更があると藤原さん。
アーテックはなぜ、ロボットプログラミングに携わるようになったのでしょうか?
「2010年頃から、中学校の技術科で『プログラムによる計測と制御』が必修になり、それに合った教材のニーズが高まっていたことが要因です。他メーカーから販売されていたものが非常に高価であったため、低価格なプログラミング教材が必要とされていました」
教材には学校が用意するものと生徒が負担するものの2種類があり、プログラミング教材は後者に入ります。生徒がプログラミング教材に割ける金額は約2,000円といわれており、アーテックはこの金額に収まる教材の開発に挑みました。
▲プロトコンレーサー
2010年に「プロトコンレーサー」、2011年に「ボタン制御ロボ」など、低価格な教材を次々と発表。低価格・高設計・本格的なロボットとして評価され、テレビにも取り上げられました。
テレビの放送がきっかけで、ロボット学会の方々がアーテックに視察に訪れ、よりよい教材の開発に向けてアドバイスをいただいたとのこと。
▲ボタン制御ロボ
「より高度なロボット教材を開発するには、子どもの忍耐力や理解力に合わせる必要があると教えていただきました。アーテックロボの特長である『ストレスなく直感的に作り変えることができる』という部分は、学会の先生方からのアドバイスを元に設計しました」
「直感的な作り変え」を実現するために、自社製品であるアーテックブロックを利用。
これらの開発がきっかけで、さまざまな知識やつながりを持つ学会とのコネクションやマサチューセッツ工科大学が開発するスクラッチ、イタリアのアルディーノといったオープンソース技術と出会うことができたと藤原さん。
小学生が楽しく学べる本格的なロボットプログラミング教材は、世界中の技術と知識が集結することで生み出されました。
学びを広げ、深める場所
アーテックは、アーテックロボを使ったロボットプログラミング教室として、自社運営の「アーテックエジソンアカデミー」、学研と共同運営する「もののしくみ研究所」の2つを開校。開発だけでなく、スクールの開校まで行う理由は何なのでしょうか?
「アメリカのタフツ大学に、理工系・教育系の研究者が一体となりSTEM教材研究※や教育実践を行う機関があります。その機関の研究対象にアーテックロボが選ばれ、意見交換を行う機会があったんです。そこで言われたのが、教材を開発することがゴールではないということでした。大人と子どもが一緒になって、ロボットやプログラミングへの理解を深め、その過程で問題解決能力や創造力を養う場を設けることが大切だといわれ、自社でスクールを作ることにしたんです」
※STEM教材研究
科学・技術・工学・数学の教育を総称する言葉。
プログラミング教室のニーズはここ数年で飛躍的に伸びており、イー・ラーニング研究所が行ったアンケートによると「子どもにさせたい習い事ランキング」で第1位。アーテックロボを使用した教室はここ1年半で1,200校へと増加し、来年にかけて3,000校まで増える予定とのこと。
▲エジソンアカデミーの動画
「自分で答えを作っていく創造力を養い、ITや情報リテラシーの基礎が学べるプログラミングは、これからの時代を生きるのに必須の能力です。子どもへのプログラミング教育は国策として行われており、親たちもその重要性に気づきはじめています」
エジソンアカデミーでは、小学校3,4年生が2年で高校生や大学生と同じレベルの知識と技術を身につけられるカリキュラムを用意。入会のハードルも非常に低く、プログラミングの知識がまったくない状態でも安心してはじめることができます。
また、学研と共同運営する「もののしくみ研究所」は、「大人が持つ知識や技術をすべて子どもに伝え、未来のイノベーターを育成する」を目的に開校。自動ドア、信号機、踏切などの身の回りにあるもののしくみを学び、その後アーテックロボで実際に作ってみるという、STEM型のカリキュラムを採用しています。
アーテックは、ロボットプログラミングの学びをさらに深めるための場として、2つのスクールを開校。
「エジソンアカデミー」と「もののしくみ研究所」の2つを通して、子どもたちの未来を強力にサポートします。
学びのフィールドを広げ、将来のイノベーターを育成する
アーテックは、2020年のプログラミング必修化に向けて、新しい教材の開発にも着手しています。プログラミング経験のない先生がほとんどの中、より教えやすい教材の開発が求められていると藤原さん。
「塾用カリキュラムは、スクールなど集中してプログラミングを学べる環境に向けて作られています。一般の小中学校で必修化した場合、そのまま応用することは難しいのが現状です。そのため、例えば理科室にあるものを使って組み立てられるものや電気や電流のしくみを解説・実践する授業の中にロボットプログラミングを取り入れるなど、先生たちの負担の少ない教材にするべく開発を進めています」
今後さらに拡大していくプログラミング教育において、アーテックの存在感はどんどんと大きくなっています。モンゴルでは、国家指定教材としてアーテックロボが選ばれるなど、その魅力はすでに国内にとどまりません。
藤原さんは、現状に甘んじることなく未来のイノベーター育成のために、さらに取り組みを進めていくとのこと。
▲開発中の小学生向けのアーテックロボ。低学年からの教育もカバーする。
「今年、ユニバーサルロボティクスチャレンジというアーテックロボのコンテストを開催しました。小・中学生が参加したのですが、入賞者の中には小学校2年生の子もいました。アーテックロボによって、世代を超えたイノベーターの卵がすでに生まれています。将来的にはアーテックロボにAIやIOTを加え、学びのフィールドをさらに大きくさせたいと考えています。テクノロジーの魅力やしくみをどんどん子どもに伝えていき、大きなイノベーションを産む人材を育成していきたいですね」
将来的なIT人材の不足が課題となっている今、アーテックロボを中心としたロボットプログラミング事業は重要なソリューションのひとつです。今後さらに進化していくアーテックロボは、子どもたちをどのような人材へと育てていくのでしょうか?アーテックロボのこれからに要注目です。