街中でスマートフォンを使っていると、常にどこからかWi-Fiの電波が入ってきます。
コンビニやカフェ、商業施設から街頭まで、私たちの身近には無料でインターネットに接続できる場所がたくさんあります。
しかし、それらの電波はどこからどのようにやってくるのでしょうか?
そこで今回は、身近なWi-Fi設備の設計や構築、保守管理を行っているNTTBP(エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム株式会社)の担当者3人へ取材。街中や商業施設から発信されているフリーWi-Fiの仕組みや特徴、セキュリティからデータの活用まで街のWi-Fi電波に関するさまざまな疑問を調査しました。
まずは、東京の街中で利用できるフリーWi-Fiについて、NTTBPの浦川さんにお話を聞きました。
浦川竜司さん
「TOKYO FREE Wi-Fi」をはじめ、商業施設ビルやオフィスビル、自治体などのフリーWi-Fi環境の提案・設計〜保守管理などを担当。
街中で使えるフリーWi-Fiはどこからやってくる? ~「TOKYO FREE Wi-Fi」編~
――今日は実際に街中を歩きながら、フリーWi-Fiの裏側を探っていきたいと思います。私たちの周りにはたくさんのWi-Fiの電波が飛んでいます。そもそも街の中で使えるフリーWi-Fiはどのようにして広まっていったのでしょうか?
浦川竜司さん(以降、浦川):日本では2011年から2012年頃にかけて、スマートフォンが爆発的に普及し始めたことがきっかけでした。当時、急増するトラフィックを、携帯キャリアの基地局から飲食店などの光回線等に移すこと(オフロード)を目的に、さまざまなスポットにアクセスポイントを設置するようになりました。これがフリーWi-Fiスポット普及の始まりです。ただ、それらは各携帯キャリアが始めたサービスで、キャリアと契約しているユーザーのみが利用できるWi-Fiでした。
――たしかに、以前は携帯キャリアのフリーWi-Fiスポットをよく見かけました。
浦川:その後、フリーWi-Fiはコンビニエンスストアやチェーン展開しているカフェにも設置され、商業施設や自治体、交通インフラなど人々の生活圏に広がっていきました。Wi-Fiは携帯キャリアのトラフィックオフロードの目的から広がりましたが、今では、観光客や訪日外国人ユーザーの利便性を高める“おもてなし”という認識へ変化しています。
また、最近では、災害・緊急時にもフリーWi-Fiが役に立つということが注目され始め、防災の観点からもフリーWi-Fiは有効な通信手段として認識が広まっています。
――時代と共にフリーWi-Fiの役割が変化してきているんですね。
お話を伺っている間に、フリーWi-Fiに接続されたようです。
浦川:これは、弊社が設置・サポートしている東京都様のフリーWi-Fi「TOKYO FREE Wi-Fi」です。
――「TOKYO FREE Wi-Fi」は過去に他の場所で接続したことがあります。これはどこから電波が出ているんですか?
浦川:おそらく、あの電話ボックスですね。
――『FREE Wi-Fi』と書かれた案内がありますね! 電話ボックスにアクセスポイントが付いていることに初めて気づきました。
浦川:実は、「TOKYO FREE Wi-Fi」のアクセスポイントの中で最も多いのが、公衆電話に設置しているケースなんです。都内に約500箇所こうした公衆電話があります。公衆電話はもともと人通りが多い場所に設置されていて、電話用に敷設された配管を使えます。また一部の公衆電話にはUPS(無停電電源装置)を備え、災害などの緊急時にも一定時間使えるんです。
――なるほど。どこから電波が飛ばされているんですか?
浦川:電話ボックス上の白い機械から電波が飛んでいます。この場所を中心に半径約50mの範囲をカバーしています。
――半径約50m! かなり広い範囲をカバーしているんですね。しかし、これだけ広いと多くの人が接続する可能性がありますし、回線がパンクすることはないんですか?
浦川:通常、家庭用のWi-Fiですと数人が同時接続すれば通信速度は落ちますが、このアクセスポイントは100~200人が同時接続してもほとんど速度が変わらず使用できます。実際に都内のあるアクセスポイントでは1日に5~10GBが使われています。人数に換算すると約数十~数百人が使用しているイメージ。そういったデータを考慮すると、同時接続で速度が落ちることはほどんどありません。
――電話ボックスを離れても接続状態が続くようです。他の場所にも設置されているんですか?
左:デジタルサイネージ 右:観光案内標識
浦川:はい、ほかにはデジタルサイネージ、観光案内標識、建物内などにもWi-Fiは設置されています。観光案内標識の場合は標識そのものにアクセスポイントを付けているのではなく、近くのビルの屋上から標識に向けて電波を飛ばしているんですよ。
都立施設やデジタルサイネージ、観光案内標識に設置されたアクセスポイントは都内に約500箇所。電話ボックスと合わせると計1000箇所に「TOKYO FREE Wi-Fi」のアクセスポイントがあります。
――それだけ多くの場所にアクセスポイントを設置していくなかで、苦労したことはありますか?
浦川:街頭にアクセスポイントを設置する際に、様々な地権者との交渉が大変ですね。またWi-Fi電波の障害にならないよう、アクセスポイントの周囲の環境整備をするところも苦労します。
――私たちがフリーWi-Fiが使える背景には、地道な苦労があるんですね。ところで「TOKYO FREE Wi-Fi」はもともと外国人旅行者向けに設置されたものなのですか?
浦川:大きな目的はそうです。日本は2014年頃から観光立国を目指した様々な取り組みを行うなかで、訪日外国人旅行者からフリーWi-Fi環境についての不満の声が上がっていました。それを受けて、東京都様は“おもてなし”のひとつとして、外国人の方たちにとって使いやすく利便性の高いフリーWi-Fi環境を提供しようと2015年の12月からスタートしています。設置場所は訪日外国人旅行者の方たちがどこでWi-Fiを使っているかを調査をして、そのデータをもとに利用頻度の高いエリアから工事を進めてきました。
最初は美術館や都庁でWi-Fiを使えるようにするところから始まり、2019〜2020年に公衆電話へアクセスポイントを設置。そこから一気に街中でのフリーWi-Fiが広まっていきました。
――日本は海外に比べてフリーWi-Fiの普及が遅れていたのですね。現在はどうですか?
浦川:東京都様に関しては欧米各国と比べて遜色のないWi-Fi環境が整っていると思います。「TOKYO FREE Wi-Fi」は通信速度が速く回線も安定していて、利用時間の制限もありません。一度接続すると、24時間以内であれば異なる場所であっても「TOKYO FREE Wi-Fi」に自動的につながります。
フリーWi-Fiに自動でつながる「Japan Wi-Fi auto-connect」(16言語対応)というアプリをダウンロードしていれば、「TOKYO FREE Wi-Fi」だけでなく空港、駅、公共機関、商業施設、コンビニ、街なかなど、日本全国にあるフリーWi-Fiにアクセスする度に利用登録をすることなく接続することができます。
例えば羽田空港から電車に乗って東京駅に着き、東京駅周辺を歩きながらコンビニに寄る……、というよくありそうなルートもフリーWi-Fiにつながったまま移動することもできます。
結果、訪日外国人の方たちからも好評の声をいただいており、さらに多くの国内のお客様にも利用いただいています。
――利用者の視点に立ったフリーWi-Fiを提供するためにいろいろな工夫や苦労があることがわかりました。浦川さん、ありがとうございました。
商業施設のWi-Fiはどこからやって来る?~「WITH HARAJUKU」「品川シーズンテラス」編~
続いて、NTTBPの大崎さんに商業施設のフリーWi-Fiについて、お話を聞きました。
大崎裕司さん
「WITH HARAJUKU」や「品川シーズンテラス」など、商業施設ビルやオフィスビル、その他自治体が推進する街の活性化のためのフリーWi-Fi環境を提案・設計。
――大崎さん、本日はよろしくお願いします。原宿駅の近辺でスマートフォンを利用していると、「WITH HARAJUKU」というフリーWi-Fiにつながります。これはNTTBPさんで設置しているものですか?
大崎裕司さん(以下、大崎):はい。「WITH HARAJUKU」は2020年6月にオープンした、原宿エリアでは最大規模の複合商業施設で、原宿の新たなランドマークとして誕生しました。開業2年前からフリーWi-Fiの導入に向けて打ち合わせ等を重ね、グランドオープン前は緊急事態宣言等の影響で、予定していた工事が進められなくなるという事態となり大変でしたね。
――「WITH HARAJUKU」の各店舗の中を歩いてみても、Wi-Fiのアンテナらしきものは見つかりません。どこに設置されているのでしょう?
大崎:ほとんどが天井裏です。天井に点検口があり、その近くにアクセスポイントは設置されています。点検口は機器の点検や故障時に機器交換をするときに利用します。最近の商業施設や店舗では景観を重視しているところも少なくないので天井裏に設置するケースは多いですね。その場合、電波は若干弱くなることもありますが、それも考慮して機器の設定や設置場所を決めていきます。
一部、駐車場のアクセスポイントは見ることができますよ。
――これですね。どんな仕組みになっているんですか?
大崎:インターネット回線を引き込み、ルーターと給電HUBをLANケーブルで通して、アクセスポイントに接続します。「WITH HARAJUKU」の場合、施設全体のフリーWi-Fiは4本のインターネット回線を使用し、1回線につきアクセスポイントが約10台ぶら下がっています。1回線に集中しWi-Fiの通信速度が低下することがないよう、複数回線に振り分け、快適にご利用いただけるようにしています。
――見た目は小さな機器で家庭用のWi-Fiルーターと似ていますが……性能が違うのでしょうか?
大崎:同時アクセス数が大きく異なります。弊社が提供するフリーWi-Fiのアクセスポイントは100~200人近くの端末から同時アクセスが可能です。動画コンテンツを視聴するなどの通信量が多い利用者がたくさんいればどうしても通信速度は低下してしまいますが、同時接続でパンクするということがないよう設計しています。この施設のアクセスポイントは1台あたり半径約30mをカバーすることができます。
――「WITH HARAJUKU」の施設全体にフリーWi-Fiの電波が発信されているんですか?
大崎:はい、商業施設の共有部から各店舗内に電波は飛んでいます。弊社はこれまで、様々な商業施設のフリーWi-Fiの設置・保守管理をしてきました。その経験を元に、電波の届く範囲や設置場所でのフリーWi-Fi利用者数を試算して、最適なアクセスポイントの数・設置場所を導き出し設計しています。
――なるほど。施設や利用者数に合わせた設計・設置方法がされていると。
大崎:はい。他に、品川にある複合オフィスビル「品川シーズンテラス」を例に挙げてみます。こちらは、飲食店やコンビニなど商業施設とオフィスが入った複合オフィスビルです。
オフィスロビーフロアと喫煙所や休憩場所、それからレストランフロアと隣接する屋外のイベント広場などでフリーWi-Fiをご利用いただいています。そのなかでも、広いイベント広場にはこれまで紹介した屋内のアクセスポイントとは異なる機器を設置しています。
――とても広い広場ですね。どこに設置されているんですか?
大崎:イベント広場の場合は3箇所に2mほどの支柱を立て、そこに屋外用のアクセスポイントを設置しています。
この屋外用アクセスポイントは、「WITH HARAJUKU」でご紹介した屋内用のアクセスポイントより広範囲をカバーできます。さらにアンテナをプラスすることで、敷地の端から敷地内に向かってイベント広場を囲うように電波を飛ばしています。このテラスにように見通しの良いエリアだと直線距離で約100mほど先まで電波を飛ばすことができます。
――100m! すごい! 外にいても建物内と同じフリーWi-Fiが使えるのはとても便利ですね。こうした施設のオーナーさんがフリーWi-Fiを導入されるメリットは何でしょう?
大崎:来館されるお客様に対しての“おもてなし”としてフリーWi-Fiは、今やあって当たり前のものになっています。
また、最近では、フリーWi-Fiの別の活用方法も出てきています。例えば、レストランや喫煙所、リフレッシュルームなどは、その場所まで行き目視で混雑状況を確認することなく、遠隔から混雑状況を把握するソリューションがあり、このような仕組みのインフラとしてWi-Fiを活用しています。
フリーWi-Fiは本当に“危険”なの?
――施設での使用における工夫がとてもよくわかりました。ところで、フリーWi-Fiという言葉をネット検索すると、よく「危険」という表現も一緒に出てきます。フリーWi-Fiの何が危険なのかも教えてもらえますか?
大崎:例えばカフェなどのフリーWi-Fiを使おうとすると、正規のものとよく似た名前のSSID(ネットワーク名)を持つWi-Fiが見つかることがあります。なかにはまったく同じSSIDが存在していることもあります。
これは「なりすましWi-Fi」と呼ばれるもので、悪意ある人が自分のモバイルWi-Fiルーターなどを使って仕掛けているものです。ただ、仮にこうしたなりすましWi-Fiに接続しても、実はそれだけで大きな問題が起きるわけではありません。問題はそのなりすましWi-Fiを設置した人が用意したフィッシングサイトに接続してしまうようなケースです。(詳しくはこちら)
――まったく同じSSIDだと、なりすましWi-Fiに注意している人でも見分けがつかないということでしょうか。
大崎:おそらく見分けがつかないでしょう。スマートフォンなど端末のOSだけではどちらが正しいWi-Fiなのか判断できません。一度でもそのフリーWi-Fiに接続した場合、端末は正規のSSIDと同じ名前のなりすましWi-Fiがあったら、強いほうの電波につなぎにいこうとしてしまうんです。
――なりすましWi-Fi以外に危険なことはありますか?
大崎:よく言われるのは、家庭で使うようなWi-Fiルーターを設置しているフリーWi-Fiスポットは少し注意が必要ということです。Wi-Fi接続時のパスワードがあるなしに関わらず、同じアクセスポイントに接続している端末同士の通信ができる設定になっていることがあるからです。家庭でエアコンとスマホ、テレビとカメラをWi-Fiでつなぐことと同様の原理です。結果、情報を盗み見られる可能性があるんです。(詳しくは(詳しくはこちら)
――このような危険を防ぐにはどうすれば良いのでしょうか?
大崎:以下のポイントに注意してフリーWi-Fiを利用することをお勧めします。
安全にフリーWi-Fiを使用するためのポイント
- ①正体不明のフリーWi-Fiには接続しないこと。
- ②もし、接続するときには、フォルダの共有設定をOFFにするなど、他の端末からファイルが見られないようにする。
- ③接続したサイトが「HTTP」で始まるURLのサイトだと、そのサイトは暗号化されていないため情報を盗み見られる可能性があるので要注意。「HTTPS」で始まる暗号化されたサイトに接続するようにする。
- ④外出先で個人情報等の重要な情報を入力することは控える。やむを得ない場合は、フリーWi-Fiを利用せずモバイル通信を使う。
- ⑤フリーWi-Fiが普段と異なる動き(二重ログイン、他情報入力の誘導等)をしたら、一旦切断する。
- ⑥なりすましWi-Fiを検知し遮断する機能のあるWi-Fi接続アプリを使用する。
→NTTBPで開発したアプリ「Japan Wi-Fi auto-connect」。
――小さなことに注意することで危険を防げるんですね。⑤はどのようなアプリですか?
大崎:NTTBPが設置したフリーWi-Fi、連携している各種フリーWi-Fiに自動接続できる無料のアプリです。
自動でフリーWi-Fiに接続するという基本機能に加え、このアプリに対応しているSSIDに関しては、なりすましWi-Fiも感知し利用者に注意メッセージを送ります。接続中の通信状況も確認でき、アプリ対応のフリーWi-Fiの場合はネットワーク名の横に「対応Wi-Fi」と表示されます。こういったアプリの表示機能で確認するのもよいでしょう。
――お話を伺いながら、アプリをはじめとして、Wi-Fiを利用するうえでの最低限の知識や情報収集の必要性を感じました。
大崎:Wi-Fiを使ってインターネットにつながるまでには何段階かステップがあり、そのなかで注意点を守りさえすれば誰でも安全に使えるのですが、伝わりづらいんです。そのため、ひとくくりに「フリーWi-Fiは危険」という言い方をされてしまうのかもしれません。しかし、それらは都市伝説のようなものだと個人的には思っています。本当はフリーWi-Fiだから危険なのではなくて、家庭や会社のWi-Fiでも、さらに有線接続でも危険性は同じようにあるんです。
――フリーWi-Fiで接続した、その先に注意が必要ということですね。ユーザーとしてもそこに潜む危険があることを理解して使っていきたいと思いました。ありがとうございました。
フリーWi-Fiのデータ活用と可能性
フリーWi-Fiについて、ユーザーが使いやすいように様々な工夫がなされていることがわかりました。最後に、フリーWi-Fiを提供しているオーナー側のメリットや活用方法に注目してNTTBPの石川さんにお話を聞きました。
石川顕一さん
データサイエンティストとして、フリーWi-Fiのアクセスポイントの利用ログと、フリーWi-Fiアプリ「Japan Wi-Fi auto-connect」に記録されるログの分析を担当。
――フリーWi-Fiは提供するオーナーさんには、おもてなし以外にどんな活用方法があるのでしょうか?
石川顕一さん(以下、石川):フリーWi-Fiの利用ログを分析することで、特定の場所にあるアクセスポイントでどれくらいの数の利用があったのか、どの言語の人が使う人が何人利用したのかを集計できます。さらに、例えば「WITH HARAJUKU」のSSIDに接続したまま館内を移動していれば、館内のどのアクセスポイントからどのアクセスポイントに移動したのか動線がわかります。
――人の移動がわかるんですね! どのようにして情報を得ているのでしょうか?
石川:Wi-Fiのアクセスポイントにスマートフォンなどの端末が接続されると、アクセスポイントと端末との間で、MACアドレスという端末に固有の識別IDのやり取りが発生します。すると、いつ・どこのアクセスポイントに・どのMACアドレス(端末)が接続したかがわかり、人の移動、すなわち動線がわかるんです。
――MACアドレスは端末の識別IDだということですが、そのデータからスマホの持ち主が誰かもわかるのですか?
石川:いいえ、それはわかりません。フリーWi-Fiに関しては携帯電話のような契約者情報がないため、スマホの持ち主が誰かといったことは分からない仕組みになっています。MACアドレスは、以前は端末ごとに一つの値が決まっていましたが、最近ではプライバシーに配慮してSSIDごとにランダムに変わる仕組みを採用する端末が増えています。
――スマホを所有している個人名は知られないわけですね。
石川:はい、個人情報はわかりません。また、先ほど館内をどのように回遊しているか動線がわかると言いましたが、これもプライバシー保護のため、特定の1人の動線を抽出して分析することはしていません。それにオーナーさんにすると、1人の利用者の動線を分析することにはあまり意味がないんです。一方、「訪日外国人旅行客」の分析であれば、英語の人がどんな動きをしているか、韓国語だったらどうかという特定の言語の人たちの傾向のデータが役に立ちます。
商業施設でも自治体でも、どの言語の方がどんな場所によく立ち寄っているのか、動線に対してどのようなアクションが取れるかを考えられますから。
――フリーWi-Fiの利用者の言語情報も含めた動線の分析が、自治体や商業施設に役立つということですが、利用者の言語情報はどうすればわかるのですか?
石川:フリーWi-Fiの利用を開始する際、弊社では認証登録をしていただいています。この認証登録の画面をわかりやすくするため、スマートフォン等の端末の設定言語の情報も取得・参照しています。この情報とフリーWi-Fiの利用ログを掛け合わせることで言語別の動線が分析できるのです。
――他にわかることはありますか?
石川:特定エリア内での大体の滞在時間もわかります。また、過去に一度ある施設のフリーWi-Fiに接続した端末が、同じ施設で何回接続したかもわかります。
――つまり、リピーターがわかるということですか?
石川:そうです。以前、あるサッカークラブ様の依頼でスタジアムにいらっしゃった観客について分析したことがあります。年間の全試合を対象に、観戦した試合数に対してそれぞれの顧客数の分布を分析しました。その結果、一見さんの人数や全試合観たコアなサポーターの人数が分かり、マーケティングに活用いただくことができました。
――それぞれの施設や自治体が持っている別のデータとも突き合わせて、そうしたWi-Fiの利用ログを分析するといろいろなことがわかりそうです。
石川: Wi-Fiのデータ分析はまだどのように役に立つのか手探りのところがあって、お客様の声を聞きながらどのようなニーズがあるのか、何ができるのかを探っている状態だとも言えます。
――なるほど。データ分析以外にも、フリーWi-Fiの新しい活用法などあるのでしょうか?
石川:我々は、様々なイベントでフリーWi-FiやWi-Fiを活用したソリューションを提供しています。例えば、全国各地のマラソン大会にて、選手に位置情報のタグを付け、Wi-Fiを通じて、選手の場所・ラップタイムの把握などができる仕組み等も提供しています。最近では、Wi-Fiを使った、非接触のスタンプラリーなども開催しました。(詳しくはこちら)
――誰でも使えるものではなく、特定のコミュニティで活用できるフリーWi-Fiを提供しているのですね。データの活用を含め、その利用方法や未来にはまだまだ多くの可能性がると感じました。本日はありがとうございました。
撮影:岡田佳那子
取材+文:大岡雅弘