close
2021.04.07
2021年1月に音声SNSアプリ「Clubhouse」が日本に上陸して、数ヶ月。 家事の合間や移動中などのスキマ時間にいろんな人の話を聞いたり、気の合う人と繋がったりするのが楽しく、気がついたら何時間もおしゃべりしていたという方も多いようです。一方で、「セキュリティ大丈夫?」「オワコンなんじゃない?」とネガティブな意見もちらほら出てきました。最近はブームが落ち着き、Clubhouseの本当の姿が徐々に見えてきたころではないでしょうか。 そこで今回は、Clubhouseを使いこなしている方々と、Clubhouse上で座談会を開催しました。ご参加いただいたのは日本のITジャーナリスト・ライターの三上洋さん、ラジオDJ・ナレーターのサッシャさん、ITエンジニア兼漫画家のちょまどさんの3名。
業界を超えた3名と、Clubhouseが注目された理由や便利な使い方、Clubhouseあるある、Clubhouseのセキュリティ面やすごいところなどについてお話を伺いました。※本取材は、2021年3月5日にClubhouse上で実施した公開取材の内容を書き起こしたものになります。トーク内容については、各出演者同意のもと掲載をしています。
三上洋 東京都世田谷区出身。テレビ番組制作会社を経て、フリーライター・ITジャーナリストとして活動。専門ジャンルは、セキュリティ、ネット事件、スマートフォン、ネット動画、携帯料金・クレジットカードポイント。https://twitter.com/mikamiyoh
サッシャ ドイツ・フランクフルト生まれ。ドイツ人の父と日本人の母の間に生まれ、幼少期に日本に移住。J-WAVE STEP ONEナビゲーター、金曜ロードショー、ズームイン‼︎サタデー、J Sports、DAZN、STAR WARSオフィシャルナビゲーター、MCとして活躍中。https://twitter.com/sascha348
千代田まどか(ちょまど) ITエンジニア兼マンガ家。外資系大手 IT 企業のインターナショナルチームで、会社と社外エンジニアの方々の橋渡しをするCloud Advocateとして活躍。オタク。Twitter のフォロワー 8.3万人。https://twitter.com/chomado
Clubhouseでの会話中、ビデオ会議ツールを使用し各出演者の様子を撮影しました。 ーーまずClubhouseを使ってみて、どんな第一印象をお持ちになりましたか? サッシャ:面白いタイミングで面白いアプリが来たなーと思いましたね。僕はClubhouseを音声発信サービスではなく「おしゃべりサービス」「出会いサービス」だと認識しています。コロナで外出しづらく飲み会なんかにも行けない状況の中で、これまで出会えなかった人と声を通して出会って、楽しい時間を共有できるっていう。 ちょまど:ほんと、雑談や偶然の出会いに飢えていた人たちをうまく救ってくれましたよね。「誰かとたまたま知り合う」ことの楽しさを再認識させてくれたアプリだと思います。あとClubhouseは機能を音声だけに絞っているのが良くて。パジャマ姿やすっぴんでも気軽に始められるので、空き時間についアプリを開いちゃう。また、ながらで聞ける緩さと同時に、「知ってる人たちの会話を聞いていたら、突然 jump in させてもらえた」というインタラクティブ性も持っていて、とてもハマるものだと思いました。 ーーClubhosueって近年のWebサービスの中でもすごいスピード感で浸透していった気がするのですが、これほど注目された理由ってなんだと思われますか? 三上:上陸したての1月末ごろとかお祭り状態でしたよね。小室哲哉さんと秋元康さんが一緒に曲を作ったり、安田大サーカスのクロちゃんと高橋みなみさんが毎晩トークを繰り広げたりと有名人が多く参加したこともあって、みんなClubhouseを話題にしていました。 ーー確かに。Twitterのタイムラインには毎日Clubhouseの文字が流れていた気がします。Yahoo!ニュースのトップページに載ったりもしていましたね。 三上:そんな熱狂の中、招待枠が1人につき2人までと限られているから使いたくても使えない人も多くて。こういうのをFOMO(Fear of missing out、フォーモ、取り残されることへの恐れ)と呼ぶのですが、それが強くはたらいたのは注目された要因のひとつかなと思います。あと、そもそも耳が空いてたっていう事実は大きいですよね。 ーー耳が空いてた? 三上:はい。今ってみんな、目はずっと使われてるんですよ。それこそもう起きてる間ずっと。Twitter、Instagram、YouTube、TikTok、全部目を使うメディアでしょう? それに比べて耳はそこまで使われていない。 ーーなるほど、つまりClubhouseは他のSNSと可処分時間を奪い合わない? 三上:そういうことです。Clubhouseはバックグラウンド再生ができるから、誰かの話を聞きながらTwitterやInstagramを眺める、という「ながら作業」もできるし。 ちょまど:歩きながらとか、洗い物しながらとかの時間にちょうどいいんですよね。 サッシャ:わかる。Clubhouseは音声という最後のスキマをうまく取りにいきましたよね。デフォルトでバックグラウンド再生ができるのって結構な強みだと思います。YouTubeで同じことをやりたかったら月額1,180円を支払ってプレミアムプランに加入しなきゃいけないから。 みなさんどう使っている? ーーみなさんはClubhouseをどんな感じで使っていますか? ちょまど:私は落合陽一さんのファンで、落合さんの部屋にひたすら入り浸ってますね。あとは推しのタレントさんをフォローしておいて、通知が来たら聞いたり。普段直接お話しできない方の声をこんなに気軽に聞けるのありがたい……尊い……って思いながら聞き入ってます。 サッシャ:僕も聞くのがメインになってます。海外のアーティストの話を聞いたり、ドイツのブームについて話している部屋に入って情報を集めることが多いかな。あと僕は普段の仕事でラジオのDJやインタビュアーをすることが多くて、その文脈でモデレーターをお願いされることもありますね。 三上:サッシャさんは良いモデレーターなんですよねえ。過去にスポーツ中継のお仕事をされているのを横で見ていたことがあるんですが、すごいですよ。パソコンやiPadを4台ぐらい並べて、リアルタイムで情報を拾いながら、MCしながら、ディレクションしながら、円滑に話を進行させていく。それってまんまClubhouseのモデレーターの役割で。プロの仕事ってすごいなあと感心します。サッシャさんがモデレーターやってる部屋ってほんと聞きやすいもん。 ーー読者の中にもClubhouseでモデレーターを務める人が多いと思うので、そのお話もう少し詳しく聞きたいです。良いモデレーターの条件ってズバリ何でしょう? 三上:一言で言うと『朝まで生テレビ!』の田原総一朗さん的なコントロールができる人ですね。場を掌握して、トピックを理解して、必要に応じて話題を転換させられる人。Clubhouse内の機能で言うと、状況を見ながらスピーカーに上げたりオーディエンスに下げたり、ミュートしたりっていう強硬手段をうまく使える人かな。 ちょまど:あとリスナーさんを意識しているモデレーターさんは良いですよね。例えば今この部屋では80人もの人が私たちの話を聞いてくれていますが、そのリスナーさんの中にも何か話したい人もきっといらっしゃって。モデレーターはそういう人をスピーカーとして壇上に上げる権限を持っているので、そのあたりのインタラクティブな機能をうまく使いこなせば、Clubhouseでの時間がもっと楽しいものになると思います。 Clubhouseはオワコン? ーーではちょまどさんのアドバイスにしたがって、この辺りで一度リスナーを交えてお話できたらなと。「Clubhouseあるある」とか「Clubhouseエピソード」について。例えば「盛り上がってる最中に他の部屋をタップしちゃって迷子になりがち」とか。 三上:「いつもClubhouseにいますね」って「それを言うお前もな」とか? ちょまど:「『Clubhosueはオワコン』ってClubhouseで言ってってる」とか? ーーすごい、ポンポン出てくる(笑)あ、tokurikiさんという方が挙手してくれています。いらっしゃいませ! 徳力基彦(note株式会社 noteプロデューサー/ブロガー) noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやソーシャルメディアの活用についてのサポートを行っている。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。https://twitter.com/tokuriki tokuriki:こんばんは。徳力と申します。最近はClubhouseに住んでます。あるあるの話題とはちょっとズレるのですが、Clubhouseがオワコンと言われることについてお話ししたくてですね。 ーーおお、ぜひお願いします。 okuriki:Googleトレンドを見るとパッと見は終わった感を感じる人もいるかもしれませんが、実はこれ、検索数ベースで落ち込んだところで見ても、結構な数がありまして。TikTokが数年かかかったところまで1ヶ月ぐらいで到達してるという見方もできるんですよね。 ーーへーすごい! tokuriki:そうなんです。だからClubhouseは始まったばかりと考えることもできます。むしろ農家さんや長距離ドライバーさんなど、これまでスマホをいじりながら作業することができなかった層に刺さって、今も広がり続けてる印象もあるんですよ。 ちょまど:そもそもなんでオワコン扱いされちゃうんでしょうね? サッシャ:時間軸が違うのが理由じゃないですかね。Clubhouseが日本に上陸してきた1月末の早い段階で使い始めたユーザーの中には2ヶ月経った今、飽き始めてる層もいると思うんですよ。オワコンって言っているのはきっとそういった人たちですよね。 tokuriki:そう。ブログやツイッターの黎明期も同じことがありましたよね。今使い始めた多くのユーザーにとっては新しいサービスなんですよね。だから全然オワコンじゃないと思います。私自身はClubhouseに住んでるぐらいClubhouseは楽しいです! 一同:笑。賛成! ーー徳力さん、良いコメントありがとうございます。続いて農家の方が挙手してくれてます。あー、なるほど。こうやって話題に関連性の高い人がリアルタイムで参加してくれるのは良いですね。会話がどんどん立体的になっていく。かいちさん、ご参加ありがとうございます! 田宮かいち 東京都出身。神戸製鋼グループ5代目社長田宮嘉右衛門のひ孫。株式会社エコヒルズ代表取締役。秋田エコプラッシュ株式会社取締役。また、田宮トマトの屋号の元、長野県でミニトマトを生産・販売している。https://twitter.com/ktamiya かいち:長野県でトマトとイチゴの農家をやっています。味は濃いめ、農薬薄め、人間性薄めでやらせてもらってます。よろしくお願いします。 ちょまど:自己紹介がめっちゃ慣れてる(笑) ーーClubhouseあるあるをお聞きする前に、先ほど徳力さんが農家の方に刺さってるとおっしゃっていましたが、実際のところいかがですか? かいち:めっちゃ刺さってますね。収穫物の梱包作業をしながら毎日何かしら聞いてますよ。あとは自分で無料でイチゴを差し上げるトークルームを立てたりして、農家としての仕事にも活用しています。 ーーそれほど使い込まれていたら色んなあるあるが聞けそう。 かいち:そうですね。メジャーどころだとミュート機能周りって結構やらかしがちじゃないですか? ミュートするのを忘れてトイレ行っちゃったり、逆にミュートした状態のままで喋っちゃったり。 三上:わかる。どれだけ使い込んでる人でもやっちゃうときはやっちゃいますよね。 かいち:それからClubhouseって初回登録時に「連絡帳に入っている人と繋がりますか?」っていうメッセージが出て、それをYesで進めると一気にフォローする機能があるじゃないですか。あれで高校3年生の自分の息子と相互フォローになっちゃって。んで僕、暇なときにセクシー女優の部屋とか見に行くんですけど、それを嫁に逐一チクるんですよ。なのでブロックしました。息子を。 一同:(爆笑) ーーものすごい鋭角なあるあるを頂きました(笑)。かいちさん、ありがとうございました! データを吸い取られるって本当? セキュリティ大丈夫? ーー先ほどかいちさんの話でふと思ったのですが、Clubhouseのセキュリティ面ってぶっちゃけどうなんでしょう? なんか「中国にデータを吸われる!」っていう記事も出てたりしますよね。三上さんは専門分野がセキュリティとのことですが、このあたりいかがですか? 三上:一言で言うと警戒するならこんなひどいサービスはないですよね。電話帳を丸ごと吸い上げるってセキュリティ的には結構ヤバいことで。初期の頃に元カレ元カノが繋がっちゃうってのが問題になりましたよね。 ーーそれはなかなかセンシティブな……。 三上:あとClubhouseはAgoraという音声技術サービスを使っていて、当初は一部のデータが上海のサーバーを通っていました。なので最悪中国がそのデータを押さえることができる、というのはリスクのひとつと言えます。ただまあ、そんなこと言い出しちゃうと中国と関係のあるどのSNSも使えなくなっちゃいますけどね。 ーー三上さんの視点から「Clubhouseを使う上でこれは心がけておいたほうがいいよ」というアドバイスがあれば教えていただけますか? 三上:プライベートルームでも誰かに聞かれているという意識は持っておくにこしたことはないかなと。2021年3月現在、Clubhouseの公式アプリはiOS版だけの提供ですが、Clubhouseの全会話を再生できるオープンソースアプリ「OpenClubhouse」なんかも公開されちゃってたりしますしね。 ーーなるほど……。会話の内容には気をつけて楽しみたいところですね。 Clubhouseからエンジニアが学ぶべきこと ーーここでi:Engineerの読者に向けて、エンジニアの視点からClubhouseのすごいところ、学ぶべきことについて伺えればと。ちょまどさん、いかがでしょうか。 ちょまど:そうですね。こういった新しいサービスって、エンジニアならではの楽しみ方が2つあると思っていて。まず1つはどんな技術を使ってるか考えながら使うこと。アプリの設定やライセンス情報から、何のライブラリを使って、どんなアーキテクチャになっているかっていうのはある程度わかるんですね。それを紐解きながら使ってみると、開発者の視点をなぞることができて面白いです。 ーーClubhouseはどういうところが面白い設計になっているんですか? ちょまど:音声の届け方を、スピーカーとオーディエンスで変えているところですね。Clubhouseでの会話って、話し手側にはタイムラグなしで音声を返して、その会話を聞き手側へ届けるときにはサーバー上でがっちゃんこしてから渡す仕組みなんですよ。これによってスピーカーは話しやすく、オーディエンスは聞き取りやすい設計になってるんですね。 ーーほーーーー。スピーカーが複数で同時に話し出してもストレスなく聞けるのはそういう技術が裏側にあるからなんですね。 ちょまど:そうですそうです。 ーー他に技術面で特筆する点ってありますか? ちょまど:過去に一時、サーバーが落ちまくった日があったんですよ。落合さんの部屋とかなかなか入れないレベルで。でもすぐにClubhouseサイドが対策したのか何かで、それ以降の安定感がすごくて。裏にサーバーを増やしただけじゃない、負荷を軽減させたり分散させたりするような処理を施したんだと思うんですが、その辺など、ものごとの裏側を技術的に考えるのも楽しいですね。 ーーなるほど。ではエンジニアならではの2つ目の楽しみ方はなんでしょう? ちょまど:このサービスがどうして流行ったのか考えながら使うことです。これはエンジニアならでは、というより「サービスを『作る側』の視点」、という感じですが。例えばClubhouseはiPhone版だけを開発していますが、これはターゲットをiPhoneを使っている人、つまり、ある程度新しいもの好きな人に絞っているからなんじゃないかなぁと思います。 ーー確かに。それがうまく刺さって一気に広がった気がします。 ちょまど:そう。あとはチャットやスタンプみたいなリアクション機能をそぎ落として、会話というシンプルな機能に留めることでUIが洗練されています。わけのわからないボタンがないし、日本人の私たちが英語表記でも直感的に使える。その結果としてユーザーがこのClubhouseというサービスに触れる時間が長くなって、さらに使う人が増えていく。そういったことを開発者目線とユーザー目線の両方で深掘りしながら使うと、サービスを作っていく側としての目が養われていくと思います。 アナーキーさが生み出す新しい繋がりと発信 ーーちょまどさん、ありがとうございます! そろそろ時間も迫ってきましたので、最後にClubhouseの活用例について。みなさんの周りで便利な使い方をしている人や、「こう使ったら面白いんじゃない?」などの案があればぜひ教えてください! サッシャ:システム自体がアナーキーなので、アナーキーな使われ方をするのが正しいのかなと感じます。具体的に言うと、いろんなメディアの制約を取っ払った使われ方ですかね。業界を超えた人たちが繋がったり、他局のラジオDJ同士で喋ったり。 三上:同意です。僕が属するセキュリティ界隈では、とある問題が起きたその日の晩にセキュリティ関係のメディア関係者やライターがClubhouseに集まって「ここのコードはヤバくない?」「確かにこれは問題だね」といった議論がなされてきました。こんなの、今までの既存メディアだったら考えられない。 ーーしかもそれが無料で聞けるという。 三上:そう、さらにリスナーが挙手をして質問してくれるのもありがたくて。セキュリティ関係の前提を何も知らない人が持っている疑問って、我々みたいなジャーナリストにとっては新鮮で。それを投げてもらえると「確かにそこはもっと詳しく解説したほうが良さそうだ」というふうに、問題をもっと立体的に解説することができるので。 ーーなるほどー。 ちょまど:私が見た中では経営者の方が採用活動のためにClubhouseを使っていて、さすがだなーと思いました。「VR業界の方繋がりましょう」みたいな感じで業界関係者が集まりやすいトークルームを作って、そこから自然な流れで会社のカルチャーやミッションについて社長が華麗に語ったり、テックリードが熱い思いを共有したりしているんですが、それがかっこよくて。聞いていると「この人と働きたい!」というモチベーションを刺激されるので、ハイアリングの手法としてはかなり精度が高いんじゃないかなあ。 ーーほー。企業の社長の話を直接聞けるのは確かに大きいかも。 ちょまど:そう。社長って言ってしまえばすごすごパーソンじゃないですか。そんな人の話を地元の友達みたいな距離感で聞けるんですよ。その会社は話す人を変えて、何回かに分けてお話ししていたので、聞くたびに自然に距離が縮まっていく感じがしました。これがZoomだとかしこまっちゃうと思うんですけど、Clubhouseだと温度感がちょうどいいのだと思います。 ーーなるほど、顔が見えないことでのやりやすさがありますよね。みなさんとお話ししたことで改めてClubhouseの楽しさや可能性を感じることができました。 今回、お話を聞いて下さった90人ほどの聴衆者の方々、そして、三上さん、サッシャさん、ちょまどさん、ありがとうございました。 取材・文:観音クリエィション
Clubhouseでの会話中、ビデオ会議ツールを使用し各出演者の様子を撮影しました。
ーーまずClubhouseを使ってみて、どんな第一印象をお持ちになりましたか?
サッシャ:面白いタイミングで面白いアプリが来たなーと思いましたね。僕はClubhouseを音声発信サービスではなく「おしゃべりサービス」「出会いサービス」だと認識しています。コロナで外出しづらく飲み会なんかにも行けない状況の中で、これまで出会えなかった人と声を通して出会って、楽しい時間を共有できるっていう。
ちょまど:ほんと、雑談や偶然の出会いに飢えていた人たちをうまく救ってくれましたよね。「誰かとたまたま知り合う」ことの楽しさを再認識させてくれたアプリだと思います。あとClubhouseは機能を音声だけに絞っているのが良くて。パジャマ姿やすっぴんでも気軽に始められるので、空き時間についアプリを開いちゃう。また、ながらで聞ける緩さと同時に、「知ってる人たちの会話を聞いていたら、突然 jump in させてもらえた」というインタラクティブ性も持っていて、とてもハマるものだと思いました。
ーーClubhosueって近年のWebサービスの中でもすごいスピード感で浸透していった気がするのですが、これほど注目された理由ってなんだと思われますか?
三上:上陸したての1月末ごろとかお祭り状態でしたよね。小室哲哉さんと秋元康さんが一緒に曲を作ったり、安田大サーカスのクロちゃんと高橋みなみさんが毎晩トークを繰り広げたりと有名人が多く参加したこともあって、みんなClubhouseを話題にしていました。
ーー確かに。Twitterのタイムラインには毎日Clubhouseの文字が流れていた気がします。Yahoo!ニュースのトップページに載ったりもしていましたね。
三上:そんな熱狂の中、招待枠が1人につき2人までと限られているから使いたくても使えない人も多くて。こういうのをFOMO(Fear of missing out、フォーモ、取り残されることへの恐れ)と呼ぶのですが、それが強くはたらいたのは注目された要因のひとつかなと思います。あと、そもそも耳が空いてたっていう事実は大きいですよね。
ーー耳が空いてた?
三上:はい。今ってみんな、目はずっと使われてるんですよ。それこそもう起きてる間ずっと。Twitter、Instagram、YouTube、TikTok、全部目を使うメディアでしょう? それに比べて耳はそこまで使われていない。
ーーなるほど、つまりClubhouseは他のSNSと可処分時間を奪い合わない?
三上:そういうことです。Clubhouseはバックグラウンド再生ができるから、誰かの話を聞きながらTwitterやInstagramを眺める、という「ながら作業」もできるし。
ちょまど:歩きながらとか、洗い物しながらとかの時間にちょうどいいんですよね。
サッシャ:わかる。Clubhouseは音声という最後のスキマをうまく取りにいきましたよね。デフォルトでバックグラウンド再生ができるのって結構な強みだと思います。YouTubeで同じことをやりたかったら月額1,180円を支払ってプレミアムプランに加入しなきゃいけないから。
ーーみなさんはClubhouseをどんな感じで使っていますか?
ちょまど:私は落合陽一さんのファンで、落合さんの部屋にひたすら入り浸ってますね。あとは推しのタレントさんをフォローしておいて、通知が来たら聞いたり。普段直接お話しできない方の声をこんなに気軽に聞けるのありがたい……尊い……って思いながら聞き入ってます。
サッシャ:僕も聞くのがメインになってます。海外のアーティストの話を聞いたり、ドイツのブームについて話している部屋に入って情報を集めることが多いかな。あと僕は普段の仕事でラジオのDJやインタビュアーをすることが多くて、その文脈でモデレーターをお願いされることもありますね。
三上:サッシャさんは良いモデレーターなんですよねえ。過去にスポーツ中継のお仕事をされているのを横で見ていたことがあるんですが、すごいですよ。パソコンやiPadを4台ぐらい並べて、リアルタイムで情報を拾いながら、MCしながら、ディレクションしながら、円滑に話を進行させていく。それってまんまClubhouseのモデレーターの役割で。プロの仕事ってすごいなあと感心します。サッシャさんがモデレーターやってる部屋ってほんと聞きやすいもん。
ーー読者の中にもClubhouseでモデレーターを務める人が多いと思うので、そのお話もう少し詳しく聞きたいです。良いモデレーターの条件ってズバリ何でしょう?
三上:一言で言うと『朝まで生テレビ!』の田原総一朗さん的なコントロールができる人ですね。場を掌握して、トピックを理解して、必要に応じて話題を転換させられる人。Clubhouse内の機能で言うと、状況を見ながらスピーカーに上げたりオーディエンスに下げたり、ミュートしたりっていう強硬手段をうまく使える人かな。
ちょまど:あとリスナーさんを意識しているモデレーターさんは良いですよね。例えば今この部屋では80人もの人が私たちの話を聞いてくれていますが、そのリスナーさんの中にも何か話したい人もきっといらっしゃって。モデレーターはそういう人をスピーカーとして壇上に上げる権限を持っているので、そのあたりのインタラクティブな機能をうまく使いこなせば、Clubhouseでの時間がもっと楽しいものになると思います。
ーーではちょまどさんのアドバイスにしたがって、この辺りで一度リスナーを交えてお話できたらなと。「Clubhouseあるある」とか「Clubhouseエピソード」について。例えば「盛り上がってる最中に他の部屋をタップしちゃって迷子になりがち」とか。
三上:「いつもClubhouseにいますね」って「それを言うお前もな」とか?
ちょまど:「『Clubhosueはオワコン』ってClubhouseで言ってってる」とか?
ーーすごい、ポンポン出てくる(笑)あ、tokurikiさんという方が挙手してくれています。いらっしゃいませ!
徳力基彦(note株式会社 noteプロデューサー/ブロガー) noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやソーシャルメディアの活用についてのサポートを行っている。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。https://twitter.com/tokuriki
tokuriki:こんばんは。徳力と申します。最近はClubhouseに住んでます。あるあるの話題とはちょっとズレるのですが、Clubhouseがオワコンと言われることについてお話ししたくてですね。
ーーおお、ぜひお願いします。
okuriki:Googleトレンドを見るとパッと見は終わった感を感じる人もいるかもしれませんが、実はこれ、検索数ベースで落ち込んだところで見ても、結構な数がありまして。TikTokが数年かかかったところまで1ヶ月ぐらいで到達してるという見方もできるんですよね。
ーーへーすごい!
tokuriki:そうなんです。だからClubhouseは始まったばかりと考えることもできます。むしろ農家さんや長距離ドライバーさんなど、これまでスマホをいじりながら作業することができなかった層に刺さって、今も広がり続けてる印象もあるんですよ。
ちょまど:そもそもなんでオワコン扱いされちゃうんでしょうね?
サッシャ:時間軸が違うのが理由じゃないですかね。Clubhouseが日本に上陸してきた1月末の早い段階で使い始めたユーザーの中には2ヶ月経った今、飽き始めてる層もいると思うんですよ。オワコンって言っているのはきっとそういった人たちですよね。
tokuriki:そう。ブログやツイッターの黎明期も同じことがありましたよね。今使い始めた多くのユーザーにとっては新しいサービスなんですよね。だから全然オワコンじゃないと思います。私自身はClubhouseに住んでるぐらいClubhouseは楽しいです!
一同:笑。賛成!
ーー徳力さん、良いコメントありがとうございます。続いて農家の方が挙手してくれてます。あー、なるほど。こうやって話題に関連性の高い人がリアルタイムで参加してくれるのは良いですね。会話がどんどん立体的になっていく。かいちさん、ご参加ありがとうございます!
田宮かいち 東京都出身。神戸製鋼グループ5代目社長田宮嘉右衛門のひ孫。株式会社エコヒルズ代表取締役。秋田エコプラッシュ株式会社取締役。また、田宮トマトの屋号の元、長野県でミニトマトを生産・販売している。https://twitter.com/ktamiya
かいち:長野県でトマトとイチゴの農家をやっています。味は濃いめ、農薬薄め、人間性薄めでやらせてもらってます。よろしくお願いします。
ちょまど:自己紹介がめっちゃ慣れてる(笑)
ーーClubhouseあるあるをお聞きする前に、先ほど徳力さんが農家の方に刺さってるとおっしゃっていましたが、実際のところいかがですか?
かいち:めっちゃ刺さってますね。収穫物の梱包作業をしながら毎日何かしら聞いてますよ。あとは自分で無料でイチゴを差し上げるトークルームを立てたりして、農家としての仕事にも活用しています。
ーーそれほど使い込まれていたら色んなあるあるが聞けそう。
かいち:そうですね。メジャーどころだとミュート機能周りって結構やらかしがちじゃないですか? ミュートするのを忘れてトイレ行っちゃったり、逆にミュートした状態のままで喋っちゃったり。
三上:わかる。どれだけ使い込んでる人でもやっちゃうときはやっちゃいますよね。
かいち:それからClubhouseって初回登録時に「連絡帳に入っている人と繋がりますか?」っていうメッセージが出て、それをYesで進めると一気にフォローする機能があるじゃないですか。あれで高校3年生の自分の息子と相互フォローになっちゃって。んで僕、暇なときにセクシー女優の部屋とか見に行くんですけど、それを嫁に逐一チクるんですよ。なのでブロックしました。息子を。
一同:(爆笑)
ーーものすごい鋭角なあるあるを頂きました(笑)。かいちさん、ありがとうございました!
ーー先ほどかいちさんの話でふと思ったのですが、Clubhouseのセキュリティ面ってぶっちゃけどうなんでしょう? なんか「中国にデータを吸われる!」っていう記事も出てたりしますよね。三上さんは専門分野がセキュリティとのことですが、このあたりいかがですか?
三上:一言で言うと警戒するならこんなひどいサービスはないですよね。電話帳を丸ごと吸い上げるってセキュリティ的には結構ヤバいことで。初期の頃に元カレ元カノが繋がっちゃうってのが問題になりましたよね。
ーーそれはなかなかセンシティブな……。
三上:あとClubhouseはAgoraという音声技術サービスを使っていて、当初は一部のデータが上海のサーバーを通っていました。なので最悪中国がそのデータを押さえることができる、というのはリスクのひとつと言えます。ただまあ、そんなこと言い出しちゃうと中国と関係のあるどのSNSも使えなくなっちゃいますけどね。
ーー三上さんの視点から「Clubhouseを使う上でこれは心がけておいたほうがいいよ」というアドバイスがあれば教えていただけますか?
三上:プライベートルームでも誰かに聞かれているという意識は持っておくにこしたことはないかなと。2021年3月現在、Clubhouseの公式アプリはiOS版だけの提供ですが、Clubhouseの全会話を再生できるオープンソースアプリ「OpenClubhouse」なんかも公開されちゃってたりしますしね。
ーーなるほど……。会話の内容には気をつけて楽しみたいところですね。
ーーここでi:Engineerの読者に向けて、エンジニアの視点からClubhouseのすごいところ、学ぶべきことについて伺えればと。ちょまどさん、いかがでしょうか。
ちょまど:そうですね。こういった新しいサービスって、エンジニアならではの楽しみ方が2つあると思っていて。まず1つはどんな技術を使ってるか考えながら使うこと。アプリの設定やライセンス情報から、何のライブラリを使って、どんなアーキテクチャになっているかっていうのはある程度わかるんですね。それを紐解きながら使ってみると、開発者の視点をなぞることができて面白いです。
ーーClubhouseはどういうところが面白い設計になっているんですか?
ちょまど:音声の届け方を、スピーカーとオーディエンスで変えているところですね。Clubhouseでの会話って、話し手側にはタイムラグなしで音声を返して、その会話を聞き手側へ届けるときにはサーバー上でがっちゃんこしてから渡す仕組みなんですよ。これによってスピーカーは話しやすく、オーディエンスは聞き取りやすい設計になってるんですね。
ーーほーーーー。スピーカーが複数で同時に話し出してもストレスなく聞けるのはそういう技術が裏側にあるからなんですね。
ちょまど:そうですそうです。
ーー他に技術面で特筆する点ってありますか?
ちょまど:過去に一時、サーバーが落ちまくった日があったんですよ。落合さんの部屋とかなかなか入れないレベルで。でもすぐにClubhouseサイドが対策したのか何かで、それ以降の安定感がすごくて。裏にサーバーを増やしただけじゃない、負荷を軽減させたり分散させたりするような処理を施したんだと思うんですが、その辺など、ものごとの裏側を技術的に考えるのも楽しいですね。
ーーなるほど。ではエンジニアならではの2つ目の楽しみ方はなんでしょう?
ちょまど:このサービスがどうして流行ったのか考えながら使うことです。これはエンジニアならでは、というより「サービスを『作る側』の視点」、という感じですが。例えばClubhouseはiPhone版だけを開発していますが、これはターゲットをiPhoneを使っている人、つまり、ある程度新しいもの好きな人に絞っているからなんじゃないかなぁと思います。
ーー確かに。それがうまく刺さって一気に広がった気がします。
ちょまど:そう。あとはチャットやスタンプみたいなリアクション機能をそぎ落として、会話というシンプルな機能に留めることでUIが洗練されています。わけのわからないボタンがないし、日本人の私たちが英語表記でも直感的に使える。その結果としてユーザーがこのClubhouseというサービスに触れる時間が長くなって、さらに使う人が増えていく。そういったことを開発者目線とユーザー目線の両方で深掘りしながら使うと、サービスを作っていく側としての目が養われていくと思います。
ーーちょまどさん、ありがとうございます! そろそろ時間も迫ってきましたので、最後にClubhouseの活用例について。みなさんの周りで便利な使い方をしている人や、「こう使ったら面白いんじゃない?」などの案があればぜひ教えてください!
サッシャ:システム自体がアナーキーなので、アナーキーな使われ方をするのが正しいのかなと感じます。具体的に言うと、いろんなメディアの制約を取っ払った使われ方ですかね。業界を超えた人たちが繋がったり、他局のラジオDJ同士で喋ったり。
三上:同意です。僕が属するセキュリティ界隈では、とある問題が起きたその日の晩にセキュリティ関係のメディア関係者やライターがClubhouseに集まって「ここのコードはヤバくない?」「確かにこれは問題だね」といった議論がなされてきました。こんなの、今までの既存メディアだったら考えられない。
ーーしかもそれが無料で聞けるという。
三上:そう、さらにリスナーが挙手をして質問してくれるのもありがたくて。セキュリティ関係の前提を何も知らない人が持っている疑問って、我々みたいなジャーナリストにとっては新鮮で。それを投げてもらえると「確かにそこはもっと詳しく解説したほうが良さそうだ」というふうに、問題をもっと立体的に解説することができるので。
ーーなるほどー。
ちょまど:私が見た中では経営者の方が採用活動のためにClubhouseを使っていて、さすがだなーと思いました。「VR業界の方繋がりましょう」みたいな感じで業界関係者が集まりやすいトークルームを作って、そこから自然な流れで会社のカルチャーやミッションについて社長が華麗に語ったり、テックリードが熱い思いを共有したりしているんですが、それがかっこよくて。聞いていると「この人と働きたい!」というモチベーションを刺激されるので、ハイアリングの手法としてはかなり精度が高いんじゃないかなあ。
ーーほー。企業の社長の話を直接聞けるのは確かに大きいかも。
ちょまど:そう。社長って言ってしまえばすごすごパーソンじゃないですか。そんな人の話を地元の友達みたいな距離感で聞けるんですよ。その会社は話す人を変えて、何回かに分けてお話ししていたので、聞くたびに自然に距離が縮まっていく感じがしました。これがZoomだとかしこまっちゃうと思うんですけど、Clubhouseだと温度感がちょうどいいのだと思います。
ーーなるほど、顔が見えないことでのやりやすさがありますよね。みなさんとお話ししたことで改めてClubhouseの楽しさや可能性を感じることができました。 今回、お話を聞いて下さった90人ほどの聴衆者の方々、そして、三上さん、サッシャさん、ちょまどさん、ありがとうございました。
取材・文:観音クリエィション
この記事が気に入ったらいいね!しよう
いいね!するとi:Engineerの最新情報をお届けします
2021.02.16
2022.06.01
2015.10.14
2020.12.25
2021.02.08
パーソルクロステクノロジー エンジニア・IT派遣
© PERSOL CROSS TECHNOLOGY CO., LTD.