デジタル化を日常生活に取り組む必要はない?DX化の事例を学ぶ

最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をいろいろなところで耳にします。コロナウィルスの影響もあり、その流れがより日常生活に近づきつつあるようです。 しかし実際には、様々な疑問や課題の声が聞こえてきます。

導入していくのにお金もかかるのでは?
システムや仕組みが複雑なのでは?
そもそもITの深い知見が必要なのでは?

そこで、日本デジタルトランスフォーメーション推進協会の代表理事として活動する森戸裕一さんへの取材から、DXの考え方や取り入れ方のヒントを学んでいきます。森戸さんと一緒に、台東区にある佐竹商店街を歩きながら、実際に3軒のお店を訪ね、店主と話しながらDX導入の第一歩を探ってみました。

森戸裕一
ナレッジネットワーク株式会社 代表取締役社長 / 一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 / 内閣官房 シェアリングエコノミー伝道師 / 総務省 地域情報化アドバイザー / その他、大学教授、 NPO理事長などを務める。1990年に大手システム会社に入社して以来、システムエンジニア、セールスエンジニアの育成と企業内人材育成のコンサルティング事業に従事。2002年に独立し、近年はDX、働き方改革・ワークスタイル変革、IoT・AI・ビッグデータ、地方創生、コミュニティづくりとコミュニティシップ、新規事業立ち上げをキーワードに活動。

外の人がおもしろがることからDXが始まる

ーー本日はよろしくお願いします。今回は街を舞台にDXに関するお話を伺えればと思います。まず、そもそもDXの言葉の正しい意味を教えていただけますか?

森戸 裕一さん(以下、森戸):DXとは『デジタル化をすることによって、社会や地域の私たちの生活や働き方が変革すること』です。よくDXとITを混同されがちですが、意味合いが異なります。ITとはテクノロジーそのもので、個人が1人で取り入れてもDXではありません。

ーー違うとは思いつつ、どこかでIT=DXという考えを持っていました。森戸さんが思う商店街のDX事例にはどんなものがありますか?

森戸:宮崎県日南市の油津商店街の例は、DXを活用した再生事例としてよく取り上げられますね。シャッター商店街だった場所に外の人がおもしろがって集まるようになりましたし、知名度は格段に上がったんです。コト作り、ブランディングとして成功事例ではないでしょうか。

※商店街にIT企業を誘致したり、クラウドファウンディングを利用して街の持ち物を貸す取り組みなどを行なっている。

ーー全国の商店街へもDXの考え方が少しずつ広がっているのですか?

森戸:はい、地方の商店街でもDXの意識が広がっています。 その際、商店街という言葉の意味をどう捉えるか、が重要になっています。過去から本来ある役割のものとして捉えるのか、新しい意味合いを持つ場所としておもしろさを見いだすか。後者の考えに沿ってDXの取り組みを行う商店街は全国に増えてきていますね。

ーーしかし各地の商店街は、高齢化が進んでいたり費用面などでデジタルを受け入れづらい環境にあると思うんです。DXに取り組むきっかけは、中の人の意欲から始まるものなのでしょうか?

森戸:いえ、外の人からですね。

ーーえ? 商店街の外の人からDXが始まっていくんですか?

森戸:そうです。商店街の魅力をどう発信していくかがポイントになっていて。魅力そのものは商店街の中の人にありますが、当事者はそこに気付きにくいんです。そこで、私たちのような外の人がおもしろがることが大切なんです。

ーーおもしろがるというのは?

森戸:外の人がデジタルの力を用いて、商店街の魅力を伝えることが大切なんです。商店街はおもしろい人が多いので、そういった人たちに会いに行く。目利きしてくれる店主を頼りに訪ねる。そういった視点で盛り上がってきている商店街はありますよ。

ーーたしかに商店街のお店って人柄が見えますし、人との付き合いが本来の魅力ですよね。

森戸:そう。あと、商品自体を告知しても他のお店でも販売していることが多いのですが、風景はお店独自の魅力になるんです。商品が陳列されている様子や古い看板など。人柄とか風景とか、ものではなくコトを発信していくことで、商店街独自の魅力が伝わり、発展につながるんです。

ーーなるほど、商品単体で見てはいけないんですね。話を伺っている間に1軒目のお店が見えてきました。まずは佐竹商店街の「日用品の店 池田屋」さんに話を聞いていきます。

キャッシュレスによる商店街のDX化

森戸:こんにちは。外の商品が気になり、見入ってしまいました。池田屋さんは日用品のお店なんですね。いつから営業されていますか?

池田さん:私の曽祖父が開業したお店で、明治40年から営業しています。創業当初は漆器を中心に販売をしていたようで、その後プラスチック製品が多くなり、時代によって商品も変わっていっています。今は、地域の馴染みのお客様や近所の会社員の方が消耗品などを買いに来てくださいますね。

森戸:明治から!? それだけ長く営業されているとお客さんの変化もいろいろありそうですね。

池田さん:そうですね。最近はネットショッピングの影響は大きく、わざわざお店まで来て買ってくださるお客さんは減ってきていますね。変わりに、近場であれば、配達をすることもありますが。

森戸:なるほど。今はインターネットを経由したネットショッピングで、商品名をキーワードに、すぐに目当ての商品を買うことができます。それも、便利ですが、池田屋さんみたいに手作り感あるお店ってとても魅力的だなって思ったんです。店主の思いを感じるんですよね。こういうところはネットにない楽しみだと思いました。

池田さん:ネットだと写真だけなので、物の良さってなかなか伝わりづらいんですよね。私も小さいものを買うにも、現物を見て探して買いたいという思いがあって、それが買い物の楽しさだと思っています。

森戸:池田さんのようなお店では、店主さんに生い立ちとか商品のことを聞きたくなっちゃうんですよね。ITをやっていると快適や便利さがいいと言われますが、必ずしもそうではなくて、対面のコミュニケーションを求めている人もいると思います。ネットショップはやっているんですか?

池田さん:ネットショップはやっていないですね。価格の競争になってしまいますし、私たちは問屋から仕入れているので、値段は下げられないんです。ネットショップをやらないぶん、今はキャッシュレス決済を導入しました。

森戸:佐竹商店街はキャッシュレス決済が盛んなのですか?

池田さん:以前、電子決済のキャンペーンをやっていたことがあるので、そのときに多くの店舗が取り入れたようですね。

森戸:キャッシュレス決済については、地方の商店街では、エリア全体で使えるようにして、ユーザーが買い物に行くきっかけをつくるケースもあるんですよね。キャッシュレスサービスの提供事業者が複数ある中で、共通のサービスを商店街全体で導入することが重要です。

池田さん:佐竹商店街は、近くに日本語学校があって、そこの学生さんがキャッシュレス決済を使うケースが多いんです。

森戸:よく業務効率化のためにITを取り入れようという声もありますが、個人店舗さんや中小企業さんはメリットを感じないこともあります。そこまで大きなお金の動きがなかったり、意外に手動でやったたほうが柔軟性があったり、早いこともある。だから無理やりすることはないと思っています。

しかし、商店街という「面」で考え、観光的な要素を含めると、地域外のお客様が来たときに販売機会を逃してしまうこともある。みんなが現金を持たなくなって、スマートフォンだけを持ち歩く世界になったとき、どう商売を変えていくかという課題が出てきます。

池田さん:そうなんです。中国の若い人たちが買い物をしてくださるとき「財布(キャッシュレスサービスのこと)ありますか?」って聞いてくるんですよ。それを聞いたときに「あ、彼らは現金で買い物をしないんだ」って思ったんです。それが一層導入の後押しになりましたね。

森戸:最近はスマートフォンの月額利用料が下がってきて、全世代にわたってスマートフォンの所有率がどんどん高くなってきていますよね。もちろん、シニア世代の方々の所有率も例外ではありません。キャッシュレスサービスが、シニアの方々にも使いやすくなるような取り組みやサポートがなされてくると、商店街にも変化が起こってきそうですね。

個人的には、お話を聞いたり、お店の商品を見ていると気になる商品がたくさんあって、通いたくなりました。お話を聞かせていただきありがとうございました。

ーーキャッシュレスサービスによる商店街のDX化が進められているんですね。意外な一面が見えました。次は、佐竹商店街の理事である「秋本」さんに話を聞きに行きます。

生活に取り入れるための仕組みづくり

森戸:こんにちは。秋本さんは現在、佐竹商店街の理事をされているとのことで、佐竹商店街のお話を聞かせてください。佐竹商店街は日本で2番目に古い商店街と聞いたのですが本当ですか?

秋本さん:そう。東京では商店街として、初めて組合を結成した街です。私が子供の頃はアメ横商店街よりも活気があり、商店街の道は前が見えないぐらい人であふれていましたね。私のお店「秋本」は昭和11年に私の父が開業し、今年で85年です。もともとは呉服屋として営んでいましたが、20年ほど前から婦人服専門店としてやっています。昔はこの商店街に呉服屋さんが10軒以上ありましたが、現在は全て閉店してしまいました。

森戸:最近はどんなお客様が来られるんですか?

秋本さん:この商店街は地域のお客様が圧倒的に多いですね。コロナウィルスが流行する前は、近くにホテルや民泊も多かったので、インバウンドのお客様も多かったです。海外のお客様は上野・浅草をまわって佐竹商店街に来てくれ、結構買い物をしてくださっていました。

森戸:昔から今までの店舗の移り変わりはどうですか?

秋本さん:そうですね、店舗の数はピーク時の約半分以下になっていますね。お店を営んでいる店主たちは高齢化とともに店舗を閉店する方が増えてきています。その後、貸店舗にすると以前は借りたいという人もいましたが、コロナの影響もあり、店主は貸すことなく住居として住む方が増えましたね。

森戸:地方の商店街でも、お店をやっていた方がシャッターを閉めて住居として住まわれている方が多いようですね。商店街ではホームページもやっていますか?

秋本さん:やっています。簡易的なサイトですが。他の商店街さんでは助成金を利用してホームページを作っているところは多いようですが、自分たちで更新ができなく、止まってしまうことが多いみたいなんです。商店街として告知をするときに、情報そのものを制作会社にどう渡すかも問題になっているようで、わざわざ郵送で送るところもあるのだとか……。それに更新にお金がかかると頻度も落ちてしまいます。なので、せめて自分たちでやっています。

森戸:最初は助成金や補助金を活用して作って、その後、継続的にやっていく仕組みをどう作るかですね。最近では大学生が商店街と組んで、ホームページの維持管理をする取り組みをやっているところもあるようです。
ところで、秋本さんの商品を見ていると婦人服の商品にどこか呉服屋さんの雰囲気がありますね。

秋本さん:そう! メーカー自体が呉服から婦人服へ移行していますから。一部和服も置いていますよ。

森戸:和服は着る機会を増やさないといけないという声もありますが、実際に着物を着ると周りから不思議がられますからね。

秋本さん:みなさん、浅草などで着物を借りて着て写真を撮ったりしていますが、なかなか日常では着ないですよね。正月にも着ないですし、呉服屋さんは減る一方で……。

森戸:浅草のお店は、観光客の方々に向けてWebで事前予約を取って、着物をレンタルして、返却をするというビジネスでしたね。その考えを取り入れて、地域の方々にも着物を買ってもらうのではなく、日常の必要なときにWebを通じてレンタルをしてもらい、終わったらお店に返却。そんな着物との付き合い方で生活に取り入れるという提案もあります。

秋本さん:最近、ブランドバッグでも同じ方法のサービスがありますね。私のお店も呉服屋から徐々に変わってきて、すぐに大きく変えるのは難しいですが、やはり変化は必要です。商店街全体としても変化をしながら、オリジナリティがあるお店が増えていくことで、魅力発信につながればいいですね。

森戸:私自身もたまに和服を着ることがあるので、ぜひ、新しい取り組みを行ってほしいです。お話を聞かせていただきありがとうございました。

ーー販売から観光客のレンタルへ、そして日常でレンタルをして暮らしに取り入れる、そんな呉服屋の新しいビジネスのあり方も見えました。最後は、スーパーマーケットの「BP FARM」さんへ。

ライブコマース配信で、新たな場所に商品を届ける

森戸:こんにちは。PB FARMさんにはあまり見かけない商品や新鮮な野菜がたくさんありますね。いつから営業しているんですか?

きよのさん(店主):我々は惣菜会社の子会社としてスタートし、平成2年に独立しました。PB FARMとしてこの場所に店舗を構えたのは7〜8年前です。PBとはプライベートブランドの略称です。農業法人をもともと持っていたので、自分たちで作ってたものを提供しようという流れから、プライベートブランド=PBという社名にしました。スーパーのオープンと同時に農業も始め、様々な作物を育てて、失敗もありましたが……。そんな経験をしてきたので、今は生産者さんの苦労を理解し、お付き合いをさせていただいています。

森戸:なるほど、PBの裏にはそんなストーリーがあったんですね。
最近、食に対しての安心安全への変化や、コロナウィルスの影響から自炊をする方が増え、いい食材を買う人が増えたと聞きます。PB FARMさんのお客様にもそういう傾向が見られますか?

きよのさん:あります、あります。いいものを選ぶ傾向にありますね。野菜でも新しい品種を求められたり、生産者の顔や産地が見えるものを選ばれますね。

森戸:このお店には目利きをする人がいる、マイスターのような選ぶ人がいて、それがお客様にも伝わっていると。

きよのさん:そうですね、PB FARMの従業員は、様々な場所で仕入れにも携わってきているので、目利きは自信があります。
最近では、農家さんに直接野菜を持ってきて販売してもらったり、惣菜を販売してもらうなど場所を提供して、新しいお客様とのコミュニケーションを生んでいます。

森戸:お店のスペースを利用するという考えでは、オープンキッチンのような形態をスーパーに構えることが流れとして起きはじめています。コロナウィルスの影響でレストランを閉めてしまったシェフたちは、肉屋さんや魚屋さんのキッチンを借りて、その店の食材を使って特別な料理を提供するんです。シェフたちは、自分のお店を持つことなく、場所と食材が手に入る。そして、お店側は料理人を雇用するわけではないですし、食材を使ってもらうきっかけにもなる。

きよのさん:シェフの冠が付いた料理は、その人ならではですね。ぜひ厨房を貸したいです(笑)。

森戸:集客はシェフのSNSが力になってきます。商店街の中から拡散していくのは難しいですが、外からコミュニティを持っているシェフがその場所に来ることで、お客様も付いてきますよね。

きよのさん:SNSの力はすごいですよね。PB FARMに来る海外の観光客の方の中には、このお店で日本のお菓子を買って、SNSで広めてくれた方がいらっしゃいました。それを見た、別の観光客の方が画面を見せながら、同じものを求めていく姿も見られました。ですから、商店街にも、SNSは欠かせないと感じています。

森戸:中国ではライブコマースがとても流行っています。中国のデパート等ではインフルエンサーと呼ばれる方々を招き、商品の実演販売をライブで配信してもらうことで、中国全土に広めていくんです。彼らはWeiboやWeChatを通じて数百万人に広めることができます。そして、問屋のような感覚で大量の商品を届けていける。そういう考え方をPB FARMさんに取り入れることもできそうですね。

Weibo…テキスト・画像・動画・生放送・ストーリーなどの配信ができる中国最大のSNSサービス。ECサービスとの連携により「Weibo」上で電子決済ができ、プロモーションから販売までをワンストップでできる。

WeChat…メッセージ、通話、ビデオ(動画)通話、ボイスメッセージなどの機能を備えた中国のメッセンジャーアプリ。WeChat上で商品の販売、繋がっている友人に向けて商品の宣伝・販売を行うこともできる。

きよのさん:なるほど、そういう考え方があるとは。大手通販サービスの利用だけではないんですね。

森戸:そうなんですよね。小売店でIT化というとネットショップが思い浮かびます。しかし、オンラインモールに載せると手数料を取られてしまって利益がほとんどでなくなります。ならば、今まで販売することができなかったエリアへ、人に仲介してもらうことで大量に商品を届けることもできる。特に日本のお菓子は、海外でも好評ですからね。日本中のお菓子をPB FARMさんに集めて、東京に来た中国のインフルエンサーさんにライブコマースで実演販売してもらい、越境で販売することができます。

きよのさん:PB FARMには地方のお菓子も置いていて、コアなファンの方々もいらっしゃるんですよ。

森戸:実際に中国のインフルエンサーさんを呼ぶ際も、様々なお菓子が集まっている場所がいいですよね。その際確実に絵になる場所が必要なんです。それが実店舗です。

きよのさん:なるほど。おもしろいです。

森戸:実店舗で商品を販売することとは、異なる仕組み・販路でビジネスを展開することができるんです。それがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。表側ではわからないけれど、裏側では求めている商品を人に届けることができます。コミュニティを分けることにもつながります。

きよのさん:アナログで地道にやらなきゃだめかなぁと思っていたけれど、そうじゃないんですね。

森戸:アナログでやっている様子も、必要ですよ。海外の人たちから見たら信用につながりますから。 YouTuberと一緒で、背景の絵が必要です。
何でもネットにすれば良いのではないんです。PB FARMさんには、「お店に目利きする人がいて、全国から本物を仕入れている」というストーリーがある。これはネットには醸し出せないこと。それをライブコマースでは、動画配信していくことができます。

きよのさん:話を聞いていて「なるほどなぁ」と思いました。とても勉強になりました。

森戸:PB FARMさんはお店の面積も広いですし、いろいろな可能性がありますね。ぜひトライしていただきたいです。

商店街はこうやって変わっていく

ーー今回、商店街を回ってみて3店舗の方にお話を伺うことができました。どう感じましたか?

森戸:今日、店主の方達から「商店街に人が歩いていない」という声を聞きました。 歩いていないのであれば、歩いている人にものを売るという考えを捨てなければならない。 歩く理由をつくるのなら、地域のお客様には見えない別の顔を持つことも必要なんです。表側では、地域の人に馴染みある商品を販売し、裏側ではデジタルを駆使して別のレイヤーの人たちが求めるものを販売する。お店に別の顔を持たせるというタブルスタンダードなやり方がDXだとできます。

ーーその場所で、目の前のお客様だけを見ていてはDXのイメージが湧きにくいんですね。その枠組みをどれだけ外すかですね。

森戸:そう。それぞれのお店さんのお話を聞いていると、自分たち以外のお客様の姿を思い浮かべたときに、シニア世代の方の存在が強く出てきました。そして、その人たちは電子決済を使わない、と。しかし、東京や世界に目を向けると何千万、何億人がキャッシュレス決済を使っている。そうするとやはり、必要になってくる。では、そこで何を売るかが重要になります。その売り方の例として、先ほどお店の方々に提案したものがありますね。

ーーDXは新しい仕組みやシステムを取り入れなければならないと思っていましたが、そうではないんですね。

森戸:シニア世代の方々に無理にデジタルを使ってもらおうとするのではなく、広い世代でデジタルを一緒に使って面白がってもらうんです。それが地域のデジタル活用コンテンツになる。
分業ですね。商店街は場を提供し、そこにはおもしろい店主たちがいます。場を見せる人がいて、その外側にお金を払う人がいます。お金を払う人たちは、商店街の活性化というよりも、場のおもしろさや人のキャラクター、背景の歴史・ストーリーに価値を感じています。場を見せる人がそれらの魅力をARやVRなど様々な技術で伝えていく。そんな形が商店街におけるDXだと思います。

ーー既存のプラットフォームを活用するんですね。

森戸:そうです。東京はテクノロジーを理解しているエンジニアが多く、使える人々もたくさんいます。技術をどこで使うべきなのか。これからは、キラキラした新しい場所じゃなくなってくると思うんですよね。DXでは、歴史がある・本物がある、そこに技術を使う傾向に変わってくると思います。

ーー商店街の中の人たちが必ずしもやる必要はなく、外の人たちの力をうまく使っていくと。でも、DXをやっていくうえで、お店の中の人たちが意識することはないんですか?

森戸:自分たちがやってきた仕組みは重要で、それを活かして新しい仕組みを別でつくらなければいけないのです。別軸はWebのコミュニティを中心にしていくもので、一緒にやらない方が良いんです。

ーーDXを実現する際に大切なことはありますか?

森戸:DXで一番重要なことは“魅力的なビジョン”を持つことだと思うんです。 2030年に商店街がどうなっているかをおもしろいビジョンで考える必要があります。そこから逆算して、何をすべきか。今までのこと・これからのことを整理する必要があります。 商店街で、ものを売ることだけでなく、立地や人に注目したときに、まだまだ大きな可能性がありますよね。

近年は、郊外に住居を構えて生活していく傾向が高まっています。しかし、コミュニティが分断されてしまいますし、人々は寂しさを感じるんですよね。そうなったときに再び街に戻ってくると思うんです。そのときにコミュニティに楽しさを求める。商店街にコミュニティができることこそ、私が描く2030年の姿です。

ーーそんなときにデジタルはどう関わってくるのでしょうか?

森戸:コミュニティに身をおきたい人たちが現金ではなく、クラウドファウンディングのようなWeb上でお金を納め、場に属していく方法がありますね。今までは商店街で商売をしていた人たちが自治会費を払っていました。居住の考え方も多拠点になってきていますが、自分の商店街を持つという考えにつながりますね。

ーーそれはおもしろいですね! デジタルによる商店街の未来が浮かんできました。実際に商店街を見て、そこで働く人たちの話を聞きにいくことで、「DXとは何か」が少しずつ見えてきました。本日はありがとうございました。

撮影:長野竜成
取材+文:株式会社LIG

この記事が気に入ったらいいね!しよう

いいね!するとi:Engineerの最新情報をお届けします

プライバシーマーク