※この「プロにキク!」では、毎回その道のプロに話を聞いて、私たちエンジニアに効きそうなノウハウをシェアしていきます。
さて、今回のテーマは「IoTシステム」です。IoTというのは“Internet of Things”、つまり「モノのインターネット」だというのはご存知の方も多いと思います。
ただ、それが「自分で作れる」と聞くと「本当に?」と思われるかも知れませんよね。
今回は、「誰でもIoTシステム開発はできます」と仰るアンビエントデータ―株式会社の下島健彦さんにお話しを聞いていきます。
――下島さん、よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
――下島さんはIoTデータ可視化サービスを開発・運営されていて、最近は『IoT開発スタートブック』という本も出されたそうですね。
ええ、IoTデータ可視化サービスを本業としてやらせていただいてます。
「IoT開発スタートブック」(技術評論社)
「自分で作るIoT」とは
――「自分で作るIoT」をテーマにしたセミナーも全国でやられていると聞きますが。
そうですね。先日も地方に行って製造業向けに「自分で作るIoT」をテーマにお話しをさせていただきました。
――製造業向けに「自分で作るIoT」の話しというのはどういうことでしょうか?
工場のなかには様々な工作機械がありますよね。例えばエアを発生させるエアコンプレッサーが3台あって、1日中フル稼働しているかというとそうではないわけです。
――ああ、稼働していない時間帯もあるでしょうね。
それに、始業の時に立ち上げて、終業の時に落とすわけですが、落とし忘れたりもする。そうすると一晩中エアコンプレッサーがスタンバイ状態になっているのです。
――電気代が掛かりそうですね。
そもそも3台あったとして、常に稼働させておく必要があるのか。中小企業の経営者というのは漠然とそんな疑問を持っていたりするんです。
――その経営者の疑問を解消するのがIoTということですか。
ええ。とはいえ、「IoTがいいらしい」と聞いても、どうしていいか分からなかったりします。ただ、中小企業の経営者は現場を経験した方が多いので、地に足が着いた課題意識をお持ちなんですよね。
――大企業だと「なんかよく分からないがIoTをやれ」みたいな感じだったりしますよね。
そうそう。中小企業だと、さっき言ったような「エアコンプレッサーの稼働率を平準化しよう」とか「ちゃんと監視しよう」というところから、それに対して「IoTってどう役立つの」と考えていたりするのです。
――それに対して下島さんは「自分で作りましょう」と答えているわけですね。
そうです。要件が明確になってないうちに外注するとすごく高くつくことが多いですよね。
――確かに。
だから「自分で作って使いましょう」と言っているのです。
IoTシステムをどうやって作るのか
――では実際にIoTシステムを作るにはどうしたら良いのでしょうか。
まずIoTの構造ですが、大まかに言うとこの図のような形になっています。
マイコンがあって、センサーがあって、それらがネットワークにつながり、クラウドサービスでデータを確認できるという感じですね。
――意外とシンプルなんですね。言語は何を使うんでしょうか。
使う言語はC++とMicroPythonが多いですね。なので、プログラミングの知識がある人のほうが入りやすいでしょうね。
――なるほど、確かに。
マイコンの種類としてはArduino(アルドゥイーノ)やRaspberryPi(ラズベリーパイ)、ESP32などがあります。そして、クラウドにつなげてデータを見るわけですが、こちら側は弊社でやっている「アンビエント」など、フリーミアム(基本部分が無償)のものが色々あります。
マイコンはいくつか種類がある(『IoT開発スタートブック』より)
――それをどう繋げていくか、というのが難しそうですよね。
電子工作なのでパーツや工具が必要ですが、どんなお店でパーツを買ったらいいのか、どんな工具を用意したらいいのかということも本に書いていますよ。
――パーツはやっぱり秋葉原とかで用意しないといけないのでしょうか。
いえいえ、電子部品の通販サイトがありますし、そこでの買いかたも本で紹介していますよ。
――おお、それはいいですね。コスト感はどのくらいなんでしょうか。
ESP32で4000円くらいですし、クラウド側は先ほど言ったように無償サービスがありますし、飲み代1回分でできてしまいますね。
――飲み代1回分でIoTシステムが!もっとお金かかると思いましたけど、意外と安いんですね。
そうなんですよ。10万円ぐらい掛かるとイヤでしょうけど、4000円くらいならちょっと勉強するのにいいですよね。
――センサーにはどういった種類のものがあるのでしょうか。
センサーには、温度・湿度・電流・気圧・音・距離・加速度など種類があって、それぞれデータを取ることができます。
――センサーを使った実際の事例などはありますか?
例えば、小さな工場で「作業環境を管理しよう」ということで、タッパーの中にマイコンとセンサーを入れて工場内の温度・湿度の管理をしているところがあります。
――タッパーっていうのがいいですね!高価なシステムを買わなくてもできるんですものね。いいなあ。
他にも、家庭の分電盤にセンサーをつけて消費電力をモニターすることもできます。何時ごろにどのくらい電気を使っているかがリアルタイムで分かるんです。
――ああ、それもいいですね。自宅用に使えそう。
自分用に作る方がモチベーションは高いと思うので、まずは自宅の温度や湿度を測るというところからやるといいかもしれませんね。
Google Homeにセンサーの値を言ってもらう例
――センサーを組み合わせると色んなことができそうですよね。
ええ、アイデア次第でなんでもできるようになります。簡単なものでいいからまず自分で作ってみるというのが大事です。これをやればいいという王道や正解があるわけでもないですから。
IoTシステムを自分で作ってみたほうがいい理由
――工作するのも何だか楽しいですよね。
まあ、楽しいだけでなくエンジニアの方であっても“データの発生源についての理解”をしておいたほうが良いと思うんです。クラウド側に詳しいエンジニアは多くいますが、組み込み系エンジニアって少ないんですよね。だから、データがどう発生するのかという動きも経験することで視野が広がると思います。
――そうか。先ほど仰っていたように中小企業の方ならなおさらですね。
いえいえ、大企業であっても、「新規事業開発」みたいな動きをする人ならやってみて欲しいですね。
――大企業の新規事業開発で工作をやってみろ、とは?
新規事業開発というのは失敗の連続です。なのに、「あのチームのROIはどうなってるんだ」などと急いで成果を求められてしまう。だから、新規性のない手堅いところを“新規事業”などと称してはじめてしまうか、お金を使いすぎて上から止められてしまうかのどちらかが多いんですね。
――今回のIoTシステムならコストが低いですものね。
ええ、コストを下げられますので、まず作ってみて、まずデータを取ってみる、という動きができるわけです。
――この「まず作ってみる」という動きが重要になるわけですか。
そうです。大企業では「企画をやりたい」と言いながら、実際には自分で手を動かさない人が多いです。でもスタートアップ企業だったら自分で何でもやらないといけないから、必然的に手を動かします。IoTシステムを制作してみる場合でも、いきなり正解にはたどり着かないことが多いので、現場の人がとにかくプロトタイプを作って試していくわけです。
――現場の人がやる、というのが大事ですか。
ええ、現場の人がやることに意味がありますね。現場の人は肌感覚で数字をもっていますから、情報量が多いです。そうなると、軌道修正がしやすいんですよね。
――では、まずこの本を見ながらIoTシステムを作ってみて、データを取るということをやってみろ、と。
そう、なにか思いついたらやってみましょう。すぐ動いておけば、いざ本格的に事業としてやろうとした際にデータが溜まっているので、進めやすくなりますよ。ネット上にいろんな情報はありますが、万遍なく説明しているサイトはあまりないので、この本をひととおり眺めてもらえると良いかな、と思います。
――そして、「データを見る」という部分については下島さんもサービスを提供しているわけですよね。
はい、「アンビエント」というクラウドサービスを提供しています。
メールアドレスでユーザー登録をしていただければOKで、無償の部分だけでも相当な範囲が使えます。サンプルプログラムも大量に作っていますし、技術情報も開示していますので見ていただけたら嬉しいですね。
――まずはこれらを見ながらやってみて、ということですね。
ええ、是非とも。
今回は「IoTシステムの製作」や「データ収集」が気軽に始められるということがよく分かりました。「まず動いてみる」というクセをつけるためにも、すぐに取り組んでみるといいですよね。
まずは本を読みながら部品を買って作ってみましょう。そして、身近な環境からデータを取ってみてはいかがでしょうか。
下島さん、ありがとうございました!
取材協力:アンビエントデータ―、技術評論社
取材+文:プラスドライブ