ピピピ。
コンニチハ!
ワタシは宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんが考案した宇宙ロボ、「みすず3号」です。
ワタシ、宇宙ビジネスに携わるエンジニアや企業たちを世に広めるために開発されたから、“宇宙を舞台に活躍する人”をつかまえて話を聞くのが趣味なの。
この耳に付けているヘッドフォンには、あらゆる言語をリアルタイムで翻訳できるトランスレーション装置が組み込まれているの。だから、どんな国でもどんな星でも宇宙関連の情報が集められるというわけ。
さて、宇宙関連情報といえば、前にテレビで見かけたこのCMが気になったのよね。今日はこの会社に話を聞きに行ってみようと思うの。
「人類初の月面探査レース。日本チームが挑戦します」ですって。なんだかワクワクしちゃうわよね。
仕事を仕事としてとらえていない?

コンニチハ!

こんにちは。ispace(アイスペース)の袴田です。


さっそくですけど、ispaceさんていうのは、その月面探査機を作っている会社?

はい、月面探査をする会社としてローバーも作ってます。大きくは「人間が宇宙で生活することを実現したい」と考えている会社ですね。

わあ、何だか夢が広がる話ね。社員数はどのくらい?

20名ぐらいの社員で、6割がエンジニア、4割がビジネス系の職種です。あと特徴的なのが、4割が外国人でインターナショナルなチームであることでしょうか。

あら、それは珍しいわね。

ええ、ですから世界各国から日本に移住してまで参画してくれる人もいるんですよ。

へえ、なんだか今ドキな感じよね。社員20名だけで回しているのかしら?

いえ、HAKUTOのプロジェクトとしてはスキルを持ったボランティア、いわゆる「プロボノ」の人たちが70人くらいいます。プロボノから正社員に引き抜くケースも多いですよ。彼もそうですし。

こんにちは、コミュニケーションマネージャーの秋元といいます。僕もプロボノから参加しました。

ふーん、プロボノから社員になる人ってどのくらいいるのかしら。

7割くらいがそうですよね。

ずいぶん多いわね。仕事は大変ですか?

いやぁ、仕事してる気はあまりないですね。

え、どういうこと? 毎日遊んでるの?

いえいえ、いわゆる一般的な労働としての「仕事」としてとらえてないんですよ。やりたいことをやっていますので。

あー、そういう考え方って大事よね。

「これをコンテンツとして昇華できたら面白いことになりそうだなあ」と思いながら取り組んでいます。

HAKUTOと素敵な仲間たち (提供:HAKUTO)

そんな素敵な仲間たちでレースに参加してるわけね。

はい、「Google Lunar XPRIZE」というレースですね。

エックス…プライズ? それって具体的にどういうレースなのかしら?

はい、ちょっとこちらをご覧ください。

なるほど、「民間の力で月に探査機を着陸させて、500メートル走行後、写真と画像を地球に送信する」と。それをいち早くやったチームが優勝、というわけね。なんだかすごい話よね。
23億円の使い道は……

どのくらいのチームが参加しているのかしら?

2007年にはじまったレースですが、世界から34チームがエントリーして、先日、ファイナリストが5チームに絞られました。

ファイナリスト!なんだかいい響きだわ。

私たちのHAKUTOと、インド、イスラエル、アメリカ、インターナショナルのチームの5チームです。

まさに5本の指にはいっているわけね。期限はあるの?

当初は「2014年末にはゴールします」なんて言ってましたが、どんどん期限が延長されて、いよいよ各チームとも2017年中に月に向かうことになります。

あら、ついに今年中に決まるわけね。月にはどうやって行くのかしら。私も載せてって欲しいなぁ。

いえいえ、月に行くまではインドのチームと乗合いなんですよ。重さによって費用が掛かるので極限まで軽量化しないといけないですから、ちょっと余計なものは載せられないですね。

余計なもの…。え、でも乗合いだとしたら月に着いてからが競争ってこと?

そうなります。インドのチームとは月に着いてから「よーい、ドン」で競争するっていう。

へえ、じゃあまずは他のチームより先に飛ばさないといけないわね。今はどういう状況なのかしら?

はい、様々な試験を繰り返しながらローバーの最終設計は終わっています。今は部品を発注しているところで、納入されたらクリーンルームで組み立てていく、という感じです。

過酷なフィールド試験を繰り返した (提供:HAKUTO)

わあ、本当にもう最終段階って感じね。優勝したらもちろん、賞金とかあるのよね。さっきの動画で総額「3000万ドル」とか言ってたけど……

ええ、優勝チームは2000万ドルなので、いま(2017年3月中旬)のレートでいうと日本円でだいたい23億円でしょうか。

ちょ……23億円! お、億万長者じゃないの! そんなにあったら使い道に困るわよね。ねえねえ、ワタシさぁ、この耳の部品の色違いが欲しいのよね~

いえいえ、そういうことじゃないんですよ。

え?

月面着陸なんてのは民間でいくら安くやっても50億から100億くらいかかるものなので、賞金を獲得できたとしても赤字です。

赤字? え、じゃあなんでわざわざ挑戦してるのかしら?

賞金だけで利益がでるということではなく、こういった取り組みを通じて業界にイノベーションが起きる環境を作っていこうというのがXPRIZEの主旨なんですよ。民間で月面への輸送が実現できれば、その先には「月面への輸送ビジネス」が展開できるはずです。そうやって次に繋げていくことが重要なんです。
なぜこのレースに参戦することに?

あ、そういうことなのね。失礼しました……。レースの主旨は分かったわ。でもなんで袴田さんがこのレースに参戦することになったのかしら。

もともと「宇宙開発というのは民間で進めていく時代が来る」と考えていました。

へえ、何かそう思うきっかけでもあったのかしら。

ええ、アメリカの大学院にいた時に「Ansari XPRIZE」という別のレースで優勝した人の講演を聴いたんです。そのイベントで強く思うようになりましたね。

なるほど、前の優勝者から刺激を受けたってわけね。

ええ、それと同時に民間でやる時の「課題」も感じたんです。宇宙開発をするエンジニアはいるけれど、民間でやるには「経営」と「資本」がいるだろうなと。だから卒業後はコンサルティング会社に入りました。

エンジニアからコンサルタントへ?それで宇宙とは全く別のことをしていたの?

いえ、宇宙系のイベントのお手伝いなどはしていたんですが、数年経ってXPRIZEのヨーロッパチームに携わっている人に「手伝って欲しい」と言われてから考えるようになりました。でも、一人でなんとかできるものではないですからね。しばらくスルーしてたんです。

まさかの放置プレイ(笑)

その後、別のイベントをやるから企画して欲しいと言われて、そのイベントの打上げの席で「日本でもちゃんとやろうよ」という話が盛り上がって、やりはじめたって感じですね。

まさかの飲み会で決定(笑) でも袴田さんって、もともとはエンジニア志望だったのよね? エンジニアとして何かを作って宇宙へ行こうとは思っていなかったの?

確かに、もともとスターウォーズに憧れて宇宙船を作りたくなって航空宇宙工学にいったわけですが、ちょっと考えが変わりましたね。

どう変わったのかしら。

大学で研究室を選ぶ際、「最先端の細かい領域」ばかりやるような感じだったんですよね。宇宙船を作るにはそうじゃなくて、全体を見渡すようなことをしなきゃいけないだろうと思ったわけです。

全体を見渡すようなことねえ。そういう動きは日本ではあまり無さそうよね。

ええ、もう一つ課題を感じていたのが、「エンジニアリングだけの最適解を求めてもシステムが肥大化してコストが掛かりすぎてしまう」ってことですね。

ん、どういうことかしら?

概念設計をする際に、それが「どれだけコストがかかるか」とか「どういうメリットを生むのか」といった経済的な分析も入れて意思決定しないといけないだろうなと。だから、宇宙船を作るというより、システムを世の中に出していくにはどうしたらいいか、と考えるようになったんです。
日本のエンジニアリングの課題とは

日本人はどうしても目の前のことばかり考えちゃうものね。私はロボットだから関係ないけども。

アメリカの大学院の授業でも特徴的だったんですが、たとえば「旅客機を1機設計しなさい」という課題がでるわけです。それに4人1組で取り組むっていう。

なんだか面白そうね。

ええ、何人乗りかは指定されるんですが、さらに最初の発表で「では、その飛行機は今のマーケットで売れますか?」ということをプレゼンしないといけないんです。

なるほど! 売れることまで考えて設計しろと。

はい、学校であっても「お客様がいる」ということをこの頃から強烈に意識させられるわけですね。それで「何のためにそれを設計するのか」を常に考えるようになりました。当時はまるで頭をカチ割られたような衝撃でしたけど。

何のためにそれを設計するのか、かあ。大事よねぇ。……はっ。そういえばワタシも「宇宙ビジネスに携わるエンジニアや企業たちを世に広めるために開発された」んだったわ。

欧米のエンジニアは、そういうことを常に考えながら価値のある製品を作っているというわけなんです。

「何のために」を考えながら設計する (提供:HAKUTO)

レースの戦況を聞きに来たと思ったら、随分深い話になってきたわね。日本のエンジニアリングでは課題があるということね。

ええ、上手くいっている業種もあると思いますが、宇宙産業は特にエンジニアが細分化しすぎて専門性が強くなりすぎているんですよね。

え、でも専門性が強いっていうのは良いことじゃないのかしら。

それも大事なことではあるんですが、そういう人が上に立って意思決定をしようとすると「自分の機能を最大化すること」しか考えないんです。

……わあ、なんか思い当たる組織がいくつか出てくるわね、その話。

システムとしての最適解を生み出せない状況になってるんじゃないかな、と思うことがよくありますよね。専門性も大事ですが、それらをファシリテートする能力を持っている人が大事かなぁと。

でも、日本ではそういう人材があまりいないわよね。なぜなのかしらねぇ?

やっぱりさっきの話と一緒で「教育」なんだと思います。例えば、Ph.D.ってあるじゃないですか。日本のPh.D.教育は「専門性を高めるためにある」という感じなんですが、アメリカのPh.D.教育は「問題解決の方法論」を教えているんですよね。新しい問題にチャレンジして解決するための方法論。これって、ビジネスでも十分に使える考え方で。

なるほど、たしかアメリカの会社の社長でPh.D.持っている人っているわよね。

結構いますよ。Googleのエリック・シュミットとかもそうですね。
これからのエンジニアが心がけるべきこととは

じゃあ、これからの日本の若者たちに何か伝えておきたい事とかあるかしら?

そうですね。「弁護士になりたい」とか「宇宙飛行士になりたい」といった固有名詞を目指すのではなくて、それになった時に「どんな世界を作りたいのか」「何に幸せを感じるのか」といったことをもう少し深く突き詰めて考えていったほうがいいんじゃないかと思います。

ああ、「希望の会社に就職したらゴール」みたいな人も多いって聞くわよね。

ええ、そうではなくて、もしかしたらその会社やその職業でなくとも目的は達成できるかもしれないわけです。

宇宙船を作るエンジニアじゃなくて経営者になった袴田さんみたいに。

そう、私も「宇宙船が飛び交っている世界をつくること」に携われたらいいな、と思って今まさに取り組んでいますからね。

袴田さんはこれからエンジニアにとってどんな時代になっていくと考えてます?

今の時代って、「停滞期」になっていると思うんですよね。ただ、その停滞期の次には必ず新しい時代が来ると思うんです。アップルやソニーも大変な時代に生まれているけど新しい時代を築きました。ですから、それぞれが自分なりのチャレンジで一歩を踏み出していけば新しい時代に対応できますし、新しい時代を作ることもできると思うんです。

新しい時代を作る。なんだか壮大な話ね。

私たちも「民間だけの力で月面に探査機を送る」なんていうと「そんな夢みたいな話……」と言われることも多いですが、一歩一歩計画を立てて実行していけば実現できる、というのを世の中に示していきたいと思います。

なんだか元気が出てくる話ね。袴田さんって、いつも宇宙のことばかり考えているのかしら?

いやぁ、宇宙のことばかり考えていられないですよ。資金だとか組織のことだとか……やっぱりお金ですよね。お金がないと前に進まないですから、お金がないときは特に頭がいたいです。

ベンチャーですものね。やっぱりスポンサーさんに支援してもらったりするのかしら。

ええ、あとは、クラウドファンディングをしたり。今もまさにやっているんですよ。
▼世界初!民間の力で月へ。皆でHAKUTOの月面探査ローバーを打ち上げよう!
https://a-port.asahi.com/projects/hakuto/

あら、これも今ドキな感じよね。クラウドファンディングで資金を提供すると何か見返りがあるわよね。これはどういう見返りがあるのかしら。

見てもらうと色々あるのが分かると思いますが、人気なのは「ご自身のお名前をローバーに打刻してあげます」というやつですね。

え、ローバーに自分の名前を打刻してもらえるなんてテンション上がるわね。

ええ、みすず3号さんも月に連れて行くことは難しいですが、お名前を月面に着陸させますよ。

嬉しい! さっそく申し込むわコレ。それにしても最初は「レース」って聞いたから、優勝したらシャンパンファイトでお祝いするような感じかと思ったけど、随分イメージと違ったわね。

あ、でもシャンパンファイトもやりたいですね。

いや、そこは日本人らしく「菰樽(こもだる)」でいきましょうよ。

※「菰樽(こもだる)」ってこんなやつ

「いよー!」パカン!って(笑) 秋元さん、それいいわね。ぜひそんな光景を見せて欲しいものだわ。

早い段階でお見せできるように頑張ります。

楽しみにしてますね!
ispace の皆さん、HAKUTOの皆さん、頑張ってくださーい!
ピピピ。

