「自社サイトを訪問しているのがどんな人か、リアルタイムで分析できたら便利だろうな」 「実店舗と同じように、オンライン上でも接客ができないか」
ウェブサービスを運営する人なら、1度は抱えたことのあるこの悩み。実店舗という“リアル”な空間とは異なり、ウェブサイトという“オンライン”の空間では、ユーザー情報を即座に知ることは困難です。まして、「サイト上でユーザーの状況に合わせて接客をする」など、かつては夢物語でしかありませんでした。
しかし、この夢を実現してくれるサービスがあります。株式会社プレイドの提供する「KARTE」。サイトにこのサービスを組みこむだけで、リアルタイム解析でユーザーの情報を可視化し、それに応じたアクションを自動で実行する“ウェブ接客”を実現してくれるのです。
今回ご登場いただくのは、KARTEの開発・運用を担当するエンジニアの五十嵐渉(いからし わたる)さん。
これから普及が進んでいくであろうウェブ接客、つまり“ウェブ上でのおもてなし”という領域において、KARTEはどのような未来を実現しようとしているのでしょうか?
倉橋・柴山2人の創業者の「運命の出会い」が、KARTEのサービスコンセプトを決定づけた
―「ウェブ上で接客をする」というKARTEのサービスコンセプトは非常に斬新ですよね。これは一体どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
五十嵐:弊社には倉橋健太と柴山直樹という2人の創業者がいるのですが、その両名のディスカッションの中で生まれたアイデアです。
倉橋は元々、楽天株式会社で楽天市場のウェブディレクションやマーケティングを担当していました。その業務の中で、ECサイトにおける、ある“課題”に頭を悩ませていたそうです。
―その課題とは、どのようなものだったんですか?
五十嵐:ECサイトでは、サイトに訪問していただいても購入に到るのは1~3%と言われています。集客に力を入れても、ほとんどのお客様は何も購入せずに離脱してしまうのです。
そのため、サイトに訪問していただいた後に何かしたいというのは多くのサイトの共通の課題でした。この課題を解決しようにも、解決のためのデータが取れていない、データを活用できていないということが多く、ユーザーに対しての最適なアクションを取ることは難しかったのです。
―それを解決するために、何か新しいサービスモデルが必要だったと。
五十嵐:はい。そこで登場してくるのが、もう1人の創業者である柴山です。柴山は元々、東京大学で脳科学や機械学習を学んでいて、そのスキルをビジネスに活かしたいと考えていたそうです。そんなとき、社内にいるメンバーの1人がたまたま2人を引き合わせました。
―おお!まさに、運命の出会いというやつですね。
五十嵐:その通りです。それで冒頭に述べたディスカッションの話に戻るわけですが、2人の間で「蓄積したデータを利用して、サイトに今誰か来ているかを把握できるようになれば、ウェブ上での接客が実現できるのではないか」というアイデアが生まれ、それがきっかけとなってKARTEのサービスコンセプトが形成されました。
ウェブ接客の必要性を、サイトの事業者は痛感していた
▲サイトを訪れるユーザーの属性情報、購入履歴などをリアルタイムで取得し、その情報に基づき、ユーザーへの最適なアクションを可能にする。サービスを実現させたのはデータ解析処理の進化だと五十嵐さんは述懐する。
―初めは、どういった業界にKARTEを導入していったんですか?
五十嵐:「接客」という言葉の響きから、ファッション系を中心としたECサイトに興味を持っていただくことが多かったですね。まだKARTEが正式リリースする前の段階から、そういった事業者へサービスコンセプトを積極的に説明しに行っていました。
―正直な話、初めの頃はサービスの有効性に疑問の声が上がりませんでしたか?「本当にオンライン上で接客なんてできるの?」と考える方もいるかと思いますが。
五十嵐:そう考えるのが自然ですよね(笑)。けれど、実はそういった声はほとんど上がらなかったんです。
―それはどうしてですか?
五十嵐:フタを開けてみると、サイトの事業者はやはり同じような悩みを抱えていました。「ユーザーを集めても、なかなか購入に結びついてくれない」と。だからこそ、私たちが思い描いていた「実店舗と同じように、ウェブ上でも接客をする」というコンセプトの必要性を、すごく理解してくれたのです。
―事業者とマインドを共有できたことが、スムーズな導入につながったわけですね。導入した企業の中で、特に成果を上げているのはどういった業種ですか?
五十嵐:やはりファッション系のECサイトですごく成果が上がっていますね。ファッションって、それぞれのユーザーによって趣味嗜好が全然違いますよね。好みのブランドだってバラバラだし、そもそもユーザーが男性か女性かによっても、購入するものは変わってきます。だからこそ、KARTEが提供している「ユーザーの情報をリアルタイムに可視化し、各ユーザーセグメントに合わせた施策を実施する」という機能と相性が良かったのです。
当初は購入が目的のECサイトへの導入が多かったですが、最近では不動産などのお問い合わせを目的としたサイトや、人材、金融などの会員登録を目的としたサイトなど、多様な使い方をしていただいています。
「何もしない」のが最善の選択というケースもある
―ユーザー属性を「見える化」するのって、けっこう大変な作業かと思います。どうやってその機能を実現しているんですか?
五十嵐:ユーザーがそのウェブサイト上でどんな動きをしたかを、様々な観点から計測しています。「どのページを見たのか」「どのリンクやボタンをクリックしたのか」「何を購入したのか」といったように。そうした行動やイベントを元に、各ユーザーをセグメントに分けられるようになるのですよ。
これを活用すれば、特定のユーザーの行動を詳細に追跡することだってできます。例えば、「朝、通勤中に商品を観ていたけれど買わなかった。次は昼休みに商品を観ていたけれど、やっぱり買わなかった。最後に、夜22時くらいに家でゆっくりしているタイミングで購入に至った」という具合です。
―データ解析の技法がフル活用されているんですね!ちなみに、ユーザーセグメントごとに、実施する施策も分けていたりするんですか?
五十嵐:はい、分けていますね。ユーザーによっては、施策を“実施しない”というケースだってあるんですよ。
―えっ!それってどうしてですか?
五十嵐:画面上にクーポンやセールなどの情報などが表示された場合、それを「お得な情報だ」と思う人もいれば、「邪魔だなあ」と思う人もいるじゃないですか。後者のユーザーに対して、良かれと思ってそれを表示し続けるのは、ユーザビリティーを著しく下げてしまうことになるんです。
▲特定のユーザーに対して「このタイミングで、この情報を表示する」といった個別最適が可能だ。もちろん、「表示しない」という選択肢も含まれる。お客様が入店する、タイミングを見て声かけする、といったようなリアル店舗での接客概念を、ウェブ上で巧みに表現するサービスだ。
―なるほど。実店舗でも似たようなケースってありますよね。洋服を選んでいるときに、店員さんから話しかけられるとすごく鬱陶(うっとう)しく思うこと、ありますし。「もてなさない」ことが、おもてなしということなんですね。
五十嵐:その感覚に近いと思います。「何もしない」のがベストの接客の場合もあると思いますよ。KARTEを使えば手軽にA/Bテストを実施できますし、ユーザーのセグメントによって表示するものを変えたりして、ユーザーにとってベストな体験を探っていけます。
まだまだウェブは使いづらい。サイトはもっとユーザー最適化できる
▲プレイド入社前はECサイトでの検索エンジンの開発を行っていた、と五十嵐さん。当時の課題意識を、KARTEで解決することはエキサイティングな仕事だと笑う。
―今後、どのようなことを実現していきたいと考えていますか?
五十嵐:私たちが目指しているのは、蓄積したデータやナレッジを「ユーザーの価値に還元していく」ということです。今は、ウェブ上での接客という部分に特化してサービスを開発していますが、将来的には違った切り口でも、その価値を提供できるようになっていくはずです。
私たちが作っているKARTEは企業(toB)を対象としたプロダクトですが、本当に大事なのはその先にいる一般のユーザー(toC)の体験です。ユーザーの満足度をどれだけ意識できるかというか。その“おもてなし”の発想が、サービスにおける“良い体験”を作りだしてくれると思うんですよね。
どれだけ技術が進歩しようとも、“おもてなし”の本質は変わらない
「ウェブ上で接客をする」という斬新なサービスコンセプトを打ち出し、ウェブの世界観を大きく革新させつつあるKARTE。インタビューを通して伝わってきたのは、そのサービスを支えている人々の、徹底した“ユーザーファースト”のマインドでした。
どれだけテクノロジーが進歩し、生活が便利になろうとも、はるか昔に人類が“商売”を始めてから現代に至るまで変化しないもの。それは、「お客さんに満足してもらうのが何よりも大切」だという理念です。
その本質は、たとえ実店舗であろうと、オンライン上であろうと、揺らぐことはないのかもしれません。
取材協力:株式会社プレイド