※この「エンビジ!」では、エンジニアに役立つであろうビジネス書をご紹介しつつ、著者の方にもお話を聞いていきます。
さて、今回のテーマは「最新テクノロジー」です。お話しを聞くのは「ザ・テクノロジー」の著者でもある、漫画家の春夏アキトさんです。
――春夏アキトさん、よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
――この「ザ・テクノロジー」では、AI・ロボット・VR・MRなどの身近なものから、仮想通貨・ブロックチェーン・自動運転などに至るまで最新のテクノロジーを漫画で解説していらっしゃいますね。
ええ、それぞれ第一人者や企業に取材をしながら丁寧に書かせていただきました。
――では、いくつかテクノロジーのキーワードを取りあげながら「それによってどんな未来になりそうなのか」をお聞かせください。
はい、わかりました。
VRはどう展開していくか
――この漫画の物語としては、高校1年生の新城が「未来テクノロジー研究部」に入部するところからはじまります。
ええ、最初のテーマはVRですね。VRは「virtual reality(バーチャル リアリティ)」のことですが、VRで使われる映像は大きく分けると「3Dモデリングで作られた世界を映し出すもの」と、「現実の世界をそのまま映し出すもの」の2つあります。
――なるほど。確かに、アプリとゴーグルで「ジェットコースターに乗る体験」みたいなものをやったことがありますが、あれは「3Dモデリングで作られた世界を映し出すもの」でした。
「現実の世界をそのまま映し出すもの」には課題がありまして、それが解像度ですね。人間の目と同様の情報量にするには16K×2の32Kの解像度が必要と言われています。
――32Kで見れるVRはまだ出てないんですか。
ええ、2020年にApple社が出すといわれているもので8K×2の16K。人間の目レベルを目指したものはフィンランドのスタートアップ「Varjo」が現在開発中です。
――じゃあ、仮に人間の目レベルのVRが出てきたら、どんなものが展開されるのでしょうか。
VRを体験した人は分かりますが、かなり没頭性があるのでエンタメに良く使われますよね。ですから展開のひとつは、まず旅行でしょうね。
――ああ、ヨーロッパとか行きたくてもなかなか行けないからVRで体験したいですね。
あとは、TBS「クレイジージャーニー」で出てきそうな秘境や危険な場所もVRなら体験できますよね。それと、展開のひとつとして「タイムマシーン」化ができるかと思います。
――タイムマシーン化?
ええ、例えば今のうちに東京駅を360度VRで撮っておくとします。それから10年後とか20年後にその映像をVRで見ることによって、まるでタイムマシーンに乗ってタイムスリップしたかのように昔にさかのぼることができます。
――なるほど、それは将来の楽しみとしてありそうですね。
他にも、私はゲームが大好きなので現実世界では行けない世界に入り込むことも楽しみですね。いち冒険者としてガンガン冒険したいものです。
――ソシャゲ廃人とか増えそうですけどね……
でもバーチャルの中でひとつの世界ができると思います。例えば「パソコンがあればできる仕事」だったら、仮想空間内でもできるわけです。
――そうか、VR内でプログラミングしながら生活するプログラマーとか?
そういう人も出てくるでしょうね。それに国境も無くなるでしょう。リアルタイムGoogle翻訳みたいなのが出てくれば、仮想空間内では国境も仕事の垣根もなくなるので、もう1つの世界が生まれます。この動きは思ってる以上に早いんじゃないでしょうかね。
――まあ、オンラインゲーム上でのコミュニティは既にあるわけですものね。
ええ、それがより一層、精巧になっていくかと。ですから、人によって現実に生きる人・半分仮想に生きる人・全部仮想で生きる人・みたいに分断されるかも知れませんね。
MRもいつか当たり前になる
――そのVRに対して「MR」というのもよく聞きますが、これは何でしょうか。
MRは「Mixed Reality」の略で、日本語では「複合現実」ですね。ポケモンGOのような「AR」をさらに発展させたのが「MR」という新しい技術で、目の前の空間にさまざまな情報を3Dで表示させ、そこにタッチし入力もできるようになる。現実世界と仮想世界をより密接に融合させたものですね。
――なるほど、だからMixed(複合)なんですね。
はい。さらに3Dモデルが内部まで作りこんであれば、その内部まで覗くことができますから、教材としても使えそうですよね。
――教材として使う、というと?
例えばカエルの生態なんかも解剖せずにMR内で確認できたり、飛行機の内部がどうなっているかというモデルもMR内で確認できたり、そういった使い方ですよね。あとは漫画にも書きましたが、スポーツのインストラクターみたいな使い方もできます。
――そうか、学校の教科書とかスポーツジムとかでも使われそうですね。
既に使われている例としては、医療現場において手術前の準備として「これからオペをするのは具体的にどんな部位で、どうするか」というシミュレーションを皆で見ながらしているようです。
――へえ、皆で見ながらできるんですか?
そうそう、MRの特徴は“同じMR空間を複数の人間が同時に体験することが可能”という点なんです。だから、今後の使い方のひとつとして「MR出社」というのも想定できますよね。
――MR出社!
ええ、MR内の会議室において皆で新商品のサンプルを見ながら議論するとかですよね。現在のビデオチャットだけでは限界がありますが、MRなら自宅にいながら会議室でモノを共有しながら大勢で議論ができます。
――なるほど。仕事や学校、病院などでの使い方がメインになるんでしょうか。
いえ、先ほどのVRと同じように、たとえば旅行でも活躍しそうですよね。実際の旅行先と土地の情報がリンクしたり、同時通訳の機能もリアルタイムで行われたりすると、かなり楽しめると思います。
――わあ、それはすごい。速く普及して欲しいですね。
ええ、MRもいつか当たり前になっていくと思います。今って「ガラケーって昔あったよね」とか言っていますが、いずれは「スマホって昔あったよね」みたいになっていくかも知れないですよね。
自動運転は早く実現できるのではないか
――続いて自動運転ですが、こちらも実際に取材をして描かれたんですか。
はい、テスラで取材をしてきました。その取材の様子も漫画に描いています。
――お話しを聞いてみて、どうでしたか?
自動運転は意外と早く実現できるのではないかと思いましたね。
――それはどんなところから?
テスラで試乗した車はレベル2で、それでもすごかったんですが、2020年にはレベル3が可能になりそうだからです。
――そのレベル2とかレベル3というのは……
あ、これも漫画に描いてますが、自動運転のレベルですね。
現在は限定された場所でも法律上レベル2までしか走れないのですが、2019年5月17日に自動運転の実用化に向けた安全基準を定める改正道路運送車両法が成立したんです。これによってレベル3が可能になる、と。
<参考>高速道の自動運転、20年実現へ前進 改正法が成立 (日本経済新聞)
――すると、2020年には運転操作すべてを自動運転にしても良くなるわけですか。
ええ、特に最近は高齢者の運転事故の問題も増えています。足腰の悪い人とか地方在住だとか、単に免許返納にすればいいというわけではなかったりします。
――確かに、大きな問題ですが簡単に解決できそうにないですね……
ですから、自動運転やパーソナルモビリティが進んでいくとそういった問題も解決しやすいですよね。まずは交通量があまり多くないところで自動運転バスを走らせてみると良いと思うんですよね。
――中国なんかはすでに走っている地区がありますよね。
そうそう、日本でも“特区”のような形でやっても良いかもしれませんよね。いずれにしても公共交通機関から変わっていくのではないでしょうか。
――なるほど。自動運転の車やバスが増えていくと、私たちにはどんなメリットがあるでしょうか。
やはり大きいのは通勤のストレスがなくなることではないでしょうか。
――ああ、通勤電車のストレスはハンパないですからね。特に東京は。
レベル3の自動運転で通勤できたら、スマホいじっているうちに会社に着くわけですからね。実現が楽しみです。
5Gによって何が起きるか予想がつかない
――もうだいぶ未来感を味わってきましたが、最後に5Gを取りあげさせてください。
5Gは多くの技術にリンクする話ですよね。さきほど出てきたVR・MR・自動運転にも関係しますし。
――そもそも5Gって4Gの次ってことですよね。
そうです。次世代通信技術。通信速度は今までの100倍になります。
――100倍!
1ギガくらいのアプリや動画だったら秒でダウンロードできますね。
――秒で!
ですから、VRだったらリアルタイムの画像を表示することができます。まさに今のハワイ、とか。ですからツアーガイドが360度のVR画像を流すトラベルツアーとか出てきそうですよね。
――なるほど。
そこに360度歩けるウォーキングマシンを組み合わせると、かなりリアルな旅行体験もできそうですし、ゲームと組み合わせても面白いですよね。
――うわあ、面白そう。
それに、ドローンと組み合わせたら今まで見たことのない視点での旅行が楽しめそうですし。
――なるほど、真上から見る紅葉とか。
そうそう、もっといくとカメラを搭載したロボットにエベレストを登山させて、その映像をリアルタイムでVRによって体験するとかね。
――すげえ!
あと、東京オリンピックには間に合わないと思いますが、5G環境でMRグラスが間に合えばスポーツも普通に見るより楽しめるようになりそうですよね。
――例えばどんな感じでしょう?
サッカーだったら、選手のデータが出てきたり、ルールが表示されたりとか。楽しめるかどうかって「知ってるかどうか」だったりしますからね。リアルタイムで情報が出れば、より楽しめそうじゃないですか。
――確かにそうですね。ルールとか選手のことをよく知らないとなかなか楽しめない。
あと、エフェクトが付いたりしてもいいですよね。格闘技とかもゲームみたいに楽しめそう。フェンシングでは既にそういった取り組みをしているそうですけどね。
――なるほど、フェンシングも目で見るだけじゃ分かりにくいですものね。
あとは競技場にドローンも投入されれば視点もたくさん選べますし、カメラが超小型化されて選手に取り付けられれば選手視点の試合も見れます。
――わあ、サッカーでシュートを決める時の気持ちが味わえたりとか。
キーパーの視点になってフォワードが迫ってくる様子とかもいいですよね。
――こわい!でも体験してみたい!
ウサイン・ボルトと100メートル走を競争する体験とかも出来そうですし。
――……いやもう、なんでもアリですね。
ええ、5Gによって何が起きるかは予想がつかないですよね。エンジニアじゃなくても発想力があればいくらでも面白い使い方ができると思います。
――エンジニアならさらに面白いものができそうですよね。
そう、これからは解像度も上がってコストも安くなっていきますし、通信速度も速くなっていきますからね。でも大事なのは、“消費者が欲しいと思わないと進まない”ということです。
――そうか、需要と供給ですもんね。
いま繰り広げられているキャッシュレス化もそうだと思います。使いたい、と思う人が増えていかないと、普及は進みにくいですよね。
――そのためには「多くの人が知る」ということが大事ですよね。
だから、技術の進歩を速めたいために「この本を多くの人に広めたい」という気持ちがあるんですよね。テクノロジーリテラシーというんでしょうか。私たちはそれを高めていかないといけません。
――では、まずこれを読んで未来のテクノロジーのことを知るところからですね。
はい、ぜひ読んでみて欲しいです。
漫画で学びやすいですから、まずはこの本から手にとってみてはいかがでしょうか。
「ザ・テクノロジー ~マンガでわかる11の最新技術~」(NewsPicks Comic)
春夏アキトさん、ありがとうございました!