少子高齢化による労働人口の減少が叫ばれる中、昨今注目を集めているのが「RPA(Robotic Process Automation)」。
これまで人の手で行われてきたオフィスワークの単純作業をロボットによって自動化するサービスです。労働力を補うだけでなく、ヒューマンエラーの削減や生産性の大幅な向上など、さまざまなメリットを持つRPAとは一体どんなものなのか?
また、どのような技術が使われているのか?RPAプラットフォームを開発・展開する UiPath で若手コンサルタントとして活躍する海老名陽太郎さんにお話を伺いました。
人に変わってロボットが単純作業可を自動化するRPAとは?
―まずはじめに、RPAとはどのようなサービスなのでしょうか?
▲海老名陽太郎さん
海老名さん「オフィスワークの中でも定型的なルーティンワーク作業を、人に変わってソフトウェアロボットが極めて効率的に自動化するサービスです。例えば製造業の工場で製品を量産するためのロボットが使われるように、PCをPRAで自動操作させることで、人は単純労働から解放され、空いた労働時間を別の創造的な活動に当てることができるのです。」
―RPAとAIとはどのように違うのでしょうか?
海老名さん「よくRPAとAIは同じようなものだと誤解されがちですが、明確な違いがあります。AIが過去のデータをもとに『判断』を学習し動くのに対し、RPAは『ルール』をベースに動きます。RPAはAIのように自分で考えて学習し、判断するものではなく、人が決めたルールに忠実に従って動くのです。マクロのイメージに近いですが、マクロのように限定的な処理ではなく、アプリケーションを横断し、『クリック』や『タイピング』といった人の行動までそのまま代替してくれます。」
―RPAは具体的にどのようなシーンで導入されていますか?
海老名さん「例えば証券会社などで与信診断やアンダーライティング※で使われたり、マーケティングの市場調査目的で、複数サイトで商品の価格を比較したりと、業界問わずさまざまなシーンで導入されています。与信診断などでは人間の手が入らないのでコンプライアンス的な意味でも安心でき、金融系の企業とは非常に親和性が高いと思います。」
※アンダーライティング
証券会社が株式や債券、CBなどを新たに発行する際に行う引受・売出し業務
―RPAを導入する際、企業はどのような準備をする必要がありますか?
海老名さん「RPAはひとつのアプリケーションを導入するのとは違うので、インストールしてすぐに使えるというものではありません。まずは企業の業務内容を洗い出し、切り分け・分析して、どの部分が自動化できるのかを整理する必要があります。そもそも業務が整理されていないとRPAを効果的に使うことができません。RPA導入が業務フローを見直すきっかけになるとも言えるかもしれません。」
導入しやすくさまざまな業務に対応するUiPathの「RPAプラットフォーム」
―UiPathの「RPAプラットフォーム」とはどのようなプロダクトなのでしょうか?
海老名さん「当社のPRAは大きく分けて3つの製品で構成されます。業務自動化のワークフロー設計に必要なツールであるStudio(ステューディオ)、設計されたワークフローを実行するRobot(ロボット)、そしてそれらを統合管理するツールOrchestrator(オーケストレーター)の3つです。Robot は1アカウントで複数のジョブを遂行できますが、同時進行はできません。ジョブを順番に並べ、『この仕事が終わったらこの仕事』と指示することは可能です。Orchestratorは、大企業がRobotを300〜400アカウントという単位で導入する際、これを人間が管理するとワークフローの割り振りや、バージョンアップの管理などに手数がかかって本末転倒になってしまうので、それらのアカウントを自動管理するのに有効的です。Orchestratorについては、業務の規模が小さなうちは必ずしも必要というわけではありません。 また、Robotには2つの種類があります。アンアテンデッドロボット(バックオフィスロボット)は、人間がPCの前に座って都度チェックをしなくてもOrchestratorからの指示でひとかたまりの業務を自動で実行してくれるもの。一方アテンデッドロボット(フロントオフィスロボット)は、人間の判断が一部必要になる作業において、繰り返しのルーティン作業になる部分について、人間がPCの前で指示をすることをトリガーに処理を行ってくれます。 」
―他社のRPAと「RPAプラットフォーム」との違いは何ですか?
海老名さん「当社の製品はマイクロソフトが開発したアプリケーション開発・実行環境『.NET Framework』で開発されています。.NET Frameworkは仕様が柔軟で適用できる業務の幅が広いのが特徴。他社の製品だとブラウザがIE限定だったり、レガシーシステムは対応外だったりと問題が多いですが、当社のPRAは対象のアプリケーションを選びません。また、ユーザーコミュニティが形成されているのでフォーラム※などでユーザーが質問を投げかけると弊社の人間か当社のシステムを熟知したユーザーがすぐに回答してくれます。他にも、導入を検討している企業様は60日間、製品版と同じ機能の評価版を触って試すことができます。 また、無償で受けられるオンライントレーニングコースがユーザーであるなしにかかわらず一般公開提供されていたりと、導入のしやすさもお客様から喜んでいただいています」
※フォーラム
Ui Pathのホームページに設けられた情報交換のための掲示板
AIと連携の可能性も。UiPathのRPAが世界の労働生産性を底上げする未来像
―UiPathがRPA開発に取り組むことになったきっかけはありましたが?
海老名さん「当社は2005年にルーマニアで発足した企業です。テクノロジーが進化する中、人間がルーティンワークに追われて本来やるべき創造的な仕事ができないことを企業として憂いていました。そこで『人間は人間にしかできないことをしよう』というコンセプトからRPAの開発に至りました。ちょうど日本で起こっている『働き方改革』の流れともマッチして注目を集めるようになったのだと思います。」
―海老名さんはUiPathでどのような業務を行っているのでしょうか?
海老名さん「私はRPAコンサルタント・RPAディベロッパーとして、導入する企業の開発援助やトラブルシューティング、運用設計に関するアドバイスなどを担当しています。エンドユーザーの開発者や関連するコンサルティングファームと運用方法などを検討し、とても多くの人と日々関わっています。」
―海老名さんがUiPathでRPAの開発に取り組むことになったのはなぜですか?
海老名さん「私は2017年の12月に当社に入社しました。それまでは海外の大学院で統計学の研究をしていました。当時、よく研究仲間や教授から『単純な書類整理などに追われて本当に好きな研究の仕事ができない』といった不満の声を聞いていて、私自身もそれを実感しながら、問題意識を感じていました。そして、日本は先進国の中でも労働生産性がワーストであることを知り、こうした状況に一石を投じたいと考えていた時、UiPathと出会ったんです。」
―RPAコンサルタントである海老名さんから見たRPAプラットフォームとは?
海老名さん「当社のRPAプラットフォームは、まるで新入社員に仕事を教え込むかのように、さまざまな作業を覚えさせることができます。人間と違って、一回で仕事を覚えられなかったり、ミスをしたりということもなく、情報処理能力も高いので作業効率は格段に上がります。ある企業はロボット人事部のようなものを設けて業務で使うPCのログインIDをロボットそれぞれに付与しているというケースもあります。現状では大企業が大規模な工数削減のためにRPAを導入するケースが多いですが、業務フローがある程度パターン化しており、かつ明確であれば中小企業が秘書を採用するような感覚で導入するという利用も有効的だと思います。」
―最後に、「RPAプラットフォーム」の今後の展開について教えてください。
海老名さん「RPAの技術はAIとの親和性も高いと思います。例えばAIが人とRPAの仲介役となることで、より良いソリューションが生まれる可能性もあります。人の代わりにAIが判断をしてRPAに指示を出す等をすれば完全自動化も可能になるのではと考えております。そういう意味で言えば、完全自動化への第一ステップがRPAで、その次にAIがあるという見方もできると思います。今後も最先端の技術に目を向けながら、世界の企業が抱える問題と向き合っていきたいです。」
少子高齢化による労働力不足や長時間労働といった社会問題の改善に寄与する「RPAプラットフォーム」。
マイナス要素の解消に世界の注目が集まりますが、海老名さんが語ってくれた「RPAプラットフォーム」の最も大きな恩恵は、むしろ「労働生産性を上げる」というポジティブな視点でした。
人が人にしかできない仕事に専念できる日が訪れるのは、そう遠くない未来なのかもしれません。