現在、子どもが持つことも珍しくなくなっているスマートフォン。普及率は高校生で98%ほど、昨年のデータでは小学5~6年生でデビューする子どもが多いなど、低年齢から持ち始める傾向が強くなっています。保護者にとっても、連絡や位置情報を使った見守りなどのメリットがあるのは事実。一方で長時間使いすぎたり悪影響のあるサイトを見たり、最悪の場合では犯罪に巻き込まれるきっかけになったりと、心配のタネが尽きないアイテムなのも確かです。
そんな不安に対する対策として知られているのが、スマートフォン用のフィルタリングサービスです。現在は携帯電話の大手キャリアが共通の名称で提供している「あんしんフィルター」に加え、スマートフォン自体に搭載されているフィルタリング機能なども存在しており、子供のスマートフォン利用に関して様々な制限をかけることが可能になっています。
しかし、そんなフィルタリングはどの程度有効で、現在どのように用いられているのでしょうか。また、実際のところ効果に限界はないのでしょうか。現在のフィルタリングソフトが置かれた状況を、「子どもとネット」をテーマに多数の取材・執筆を手がけるITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザーの鈴木朋子さんに伺ってみました。
鈴木 朋子(すずき・ともこ)さん
ITライター/スマホ安全アドバイザー。ITジャーナリストとして、SNSをはじめとした様々なITサービスに関する記事を執筆。さらに「スマホ安全アドバイザー」として、企業のSNS活用支援や10代のスマホ使用に関する著書も。『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に扱う本』(技術評論社)など著書多数。
フィルタリングは、ブラウザ・アプリ・使用時間の制限が目的
──そもそも、フィルタリングソフトの機能にはどのようなものがあるのでしょうか?
鈴木さん:恐らく最も利用されているのが利用時間の設定です。「毎日10時まで使える」といったような、スマホ自体の利用時間制限ですね。加えて「ゲームは1日◯時間まで」というように、アプリ単体での利用時間制限もかけられます。
とにかく子どものスマホ利用に関しては「寝てほしいのに夜遅くまでスマホをいじってしまう」「夜中まで使っていたせいで、学校で寝てしまう」という悩みが大きいので、これは重要な機能です。
──他の機能にはどのようなものがありますか?
鈴木さん:特徴的なものだと、ネット利用時のブラウザのフィルタリングです。あとはアプリでの課金を勝手にやらせず許可制にする機能や、アプリ自体のインストールを許可制にする機能もあります。
──ネットの使用を制限するのも、いろいろなフィルタリングソフトで共通しているんですね。
鈴木さん:そうですね。フィルタリングソフトは大きく分けて3種類あります。まず携帯電話の三大キャリアが提供している「あんしんフィルター」。各社が開発したフィルタリングですが、現在は3社が名称やアイコンを統一していますね。
もうひとつがスマートフォン内に搭載されているフィルタリングやペアレンタルコントロール機能。例えばiPhoneだったらApple IDを親子で紐づけて、標準機能であるスクリーンタイムを使えばペアレンタルコントロール機能を使えます。Androidにはファミリーリンクというペアレンタルコントロールとフィルタリングができる機能がありますね。
そして最後のひとつが、一般的なソフトウェア企業から提供されているフィルタリング特化のアプリやソフト。この3種のうち、どれかを使うのが一般的だと思います。
▲キャリア以外のメーカーによるフィルタリングソフトは種類や機能、特性もさまざまであるため、記事内では「あんしんフィルター」およびスマホOS専用のフィルタリングソフトを中心に紹介する
──そういったそれぞれのフィルタリングで、設定の仕方が違ったりするんでしょうか?
鈴木さん:キャリアが提供している「あんしんフィルター」は、小学生・中学生・高校生といった年齢に合わせた制限のプリセットが用意されています。「小学生向け」はゲームも動画もSNSも使えないようになってるけど、「中学生向け」だとゲームはOKになる……みたいな感じですね。このプリセットを使ってざっくりと制限をかけつつ、細かい部分を家庭ごとのルールに合わせて設定するのが一般的だと思います。
一方で、iPhoneやAndroidのフィルタリングはゼロから設定を組む必要があります。キャリアのフィルタリングが簡単という人もいれば、一から設定できた方がいいという人もいますね。
──ちなみに、どのようなサービスや機能がフィルタリング対象になるのでしょう。
鈴木さん:基本的には暴力的なものやアダルト系のサイトやWebサービス、それにそういう要素を含む可能性があるアプリが対象になります。
アプリに関してはガイドラインがあって、それに沿って「このアプリは〇〇歳以上対象」という基準が決められています。例えばツイッターなどのSNSは、基本的に13歳以上が対象とされているんですよ。
──ブラウザの検索機能も、当然制限はかかるわけですよね。
鈴木さん:スマートフォンの標準ブラウザから見るものは制限されます。「暴力」とか、カテゴリにわかれて表示できないドメインがプリセットされているんです。例えば「あんしんフィルター」の場合だと、標準ブラウザ上でそういったドメインや特定のキーワードに繋がるWebサイトを弾いたり、ブラックリストとしてプリセットされているURLやドメインは最初から見られないという形ですね。
鈴木さん:ただ、これはスマートフォンの標準ブラウザに関しての話なので、アプリ内のブラウザは対象外になります。ですので、例えば「LINEで回ってきたURLを、アプリ内のブラウザで開けてしまう」という弱点があるんですよ。……というかそもそも、LINEも利用推奨年齢が12歳以上のアプリではあるんですけどね。
──ということは、あんしんフィルターがかかっていると小学生はLINEも使えない……?
鈴木さん:アプリ側のルールを遵守するならそうなります(※)。でも、現在は子供にスマートフォンを持たせたい大きな理由が、LINEを使わせるためなんです。なので、あんしんフィルターを使うなら細かい設定を変更してLINEだけを使えるようにしないといけない。
なんですけど、その設定の仕方がわからなかったり面倒だったり……というケースも少なくありません。結果、「うちの子は信用できるし、フィルタリングごと外しちゃおう」ということになるんです。
※ 12歳というのは、あくまでも利用“推奨”年齢。なので、12歳未満の子どもがLINEを使う場合は「保護者の監督下で使用する」のが前提となる
──年齢向けプリセットがあることが、ここで裏目に出るとは。
鈴木さん:18歳未満の子どもがスマートフォンを使用する場合、キャリアショップでフィルタリングソフトをインストールすることが義務化されています。しかし、総務省の調査だと実際のフィルタリングの普及率は40%くらい(※)なんです。管理する側が外しちゃってて、なかなか普及率が上がっていないのが現状ですね。
※ 2021年4月、総務省「我が国の青少年のインターネット利用に係るフィルタリングに関する調査」によると、全体では38.1%がフィルタリングサービスを利用している、とのこと。ちなみに、「フィルタリングを導入するも後に解除した」割合は13.7%、「一度も利用していない」割合は48.2%
フィルタリングにも穴はあるが、無意味ではない
──保護者が管理するのもなかなか面倒なわけですか……。「目的にあわせてフィルタリングを使用する」ということ自体が難しいんですね。
鈴木さん:更に言えば、「フィルタリングをかけたから大丈夫」という話でもないんです。先ほど標準ブラウザ以外のアプリ内ブラウザだと本来なら弾かれるようなURLが見られるという話も出ましたが、きちんとフィルターをかけたとしても、そこを突破しようとする子供はいます。
仲間内で、フィルタリングを無効化する方法を教えあったりすることもあるようなんですよ。他には、フィルタリング解除のために保護者が設定しているパスワードを盗もうとする、なんてこととか……。
──やっていることは完全にショルダーハックですね。ということは、フィルタリングは十分に役割を果たせていない、ということになるのでしょうか?
鈴木さん:そういうわけでもありません。例えば、犯罪への巻き込まれ率とフィルタリングの使用率を調べたデータがあるんですが、犯罪に子どもが巻き込まれた家庭でのフィルタリング使用率は10%以下、という結果が出ています。
また先ほども話した通り、子どものスマートフォンに関する保護者の最大の悩みは長時間利用なので。そこに対しては、十分にアプローチできています。とはいえ、どうしても抜け道はありますし、フィルタリングをかけてもトラブルを100%起きないようにすることはできないのですが。
──最終的には本人の使い方次第だが、無意味かというとそうでもない、と。
鈴木さん:ただ、スマートフォンを購入してフィルタリングをかける時には、保護者と子でどういう制限をかけるか話し合う必要がありますよね。「夜9時までは使っていいことにしよう」とか、「このアプリは使ってはいけません」とか。そこできちんと話し合っておくだけでもずいぶん違うんです。
子どもはどうしてもフィルタリングを突破しようとしますが、そこで大事なのは、保護者が関心を持って見守ること。フィルタリングと同じくらい、家庭でルールを作ってそれを守らせるというアナログの見守りは大事です。セキュリティがどれだけ強固でも、結局ヒューマンエラーで穴が開くことだってありますよね。それと同じで、デジタルとアナログ、両方の見守りが大事なのだと思います。
──なるほど。「親がこれほど気にするくらい、大事な話題なんだぞ」と話し合いを通して子どもに気付いてもらうイメージでしょうか。
鈴木さん:年齢に合わせて、スマホでできることもやりたいことも変わってくるので、いつまでもフィルタリングソフトでがんじがらめにしておくこともできませんよね。フェイクニュースや詐欺のメールを見分けるリテラシーも養わなくてはならないし、デジタル技術をうまく使えるようにもなってほしいわけですから。
ちっちゃい頃はキツめに規制してだんだん緩めるとか、フィルタリングは保護者が成長を見ながら段階的に外していくものでしょうし……。その過程に交流の機会があると思います。
「フィルタリングで、友だち同士の足並みが揃わない」問題も
──しかし、子どもの側はフィルタリングソフトについてどのように感じているのでしょう。本当はもっと自由に使いたいのに、うざったい存在だと思うのですが……。
鈴木さん:そう思っている子も多いかもしれません。ただ、反面で必要なものだと思っている子もいると思います。お家だけでなく、最近では学校からその目的についての説明もあります。ただ、そこで悩ましいのが各家庭でフィルタリングの基準がまちまちなところなんですよね。
──「〇〇くんの家はお小遣いがうちより多い!」みたいな感じでしょうか。いつの時代もそういう悩みがあるんですね。
鈴木さん:そもそもスマホを持たせる年齢からバラバラですから。そこにばらつきがあると、生活に支障が出ることもあります。例えば連絡をグループLINEでやっている部活で、1人だけLINEが使えない子がいると、別で電話連絡が必要になったりとか。皆と同じゲームで遊べなかったり、遊べても課金していい額が違ったりとか。
あとは卒業式とかのイベントで今の子はたくさん写真を撮るんですが、写真の受け渡しがLINEやInstagramだと、SNS禁止のご家庭では受け取れませんよね。
──「夜中までテレビが見られない」とか「1時間しかゲームで遊べない」とかに比べて、影響が出る範囲が広そうですね。
鈴木さん:LINEのアカウント名の下に一文を表示できるステータスメッセージっていう機能があるじゃないですか。最近の子って、あそこに「スマホは22時まで」とか書いてるんです。それはフィルタリングで22時以降はスマートフォンやLINEが使えなくなるよっていう意味なんですけど、そういう使い方をしている子もいますね。
──あの機能をそんなふうに使うなんて、想像したこともなかったですね……。
鈴木さん:百歩譲って友人同士でのコミュニケーションに齟齬がある程度ならまあいいのですが……。最近では、子どもを狙った犯罪や、危険な目にあう入り口も多様化しているんです。
──それはどういったことでしょうか?
鈴木さん:「ネットで出会った人と直接会うのは危険」というのはよく言われることですが、出会いのきっかけになりやすいSNSは、フィルタリングソフトの機能である程度カバーできる領域ではあります。しかし最近だと、知らない人とゲームで出会う、というケースも増えているんですよね。
例えばオンラインゲームのボイスチャットで我が子が悪い大人と知り合って何かしらの会話をしたとしても、フィルタリングソフト上では「1時間ゲームをした」としかログが残らないわけです。その中で通っている学校や住所などの個人情報が漏れて、ボイスチャットで知り合った子を県外に連れ去った事件も実際にありました。あとはライブ配信アプリで誰かと交流をしていたとしても、それはフィルタリングソフト内では記録されません。
──どこでコミュニケーションをしているかわからないのに、そのすべてに制限をかけるのは現実的ではないですね。難しい……!
鈴木さん:なんせ本格的にスマートフォンが普及し始めてまだ10年ちょっとなので、保護者にしても先生にしても「子供時代にスマートフォンがあった」という状況がわからないんです。ガラケー時代はブラウザの機能も限定的でしたし、今みたいに常にネットに繋がっていてSNSを使うようなことはできませんでしたから。
大人もよくわからないまま子供にスマートフォンを持たせることになってしまっていますし、子供にスマートフォンが普及することで事件化することが多くなりました。思ってもみなかった展開が起きていると思います。
フィルタリング+リアルの見守りで、ネットに少しずつ慣れていく
──そういった犯罪やトラブルに子供が巻き込まれないようにするには、どうすればいいと思いますか?
鈴木さん:本当は火傷程度のダメージで済む失敗を経験して「こういうことは危ないな」というのを子供本人が少しずつ学んでいけるのが理想的ではあるんです。
ただ最近は「イキってインスタグラムのストーリーズに飲酒してるところをアップロードしたら、多くの人に保存されて一生残るダメージになった」みたいなことが容易に起こります。もちろん未成年飲酒はダメですが、それが一生の傷になるのも厳しい。以前のように「軽い失敗を積み上げる」というのが難しくなっていると思います。
──以前であれば小さな間違いを経験しながらネットに慣れていったものですが……。今は「子どもが勝手にネットに慣れていく」のではなく、ある程度は保護者の方で手引してあげる必要がある、と。
鈴木さん:なので、問題のあるスマートフォンの使い方をしていないか、トラブルに巻き込まれていないかどうか、きちんと親子間でコミュニケーションをとることが大事だと思います。スマートフォンをブラックボックスにしないことが重要です。
──具体的に、どんなコミュニケーションを取るのがいいんでしょうか?
鈴木さん:子どもの年齢にもよりますが、他愛のない話でいいと思います。「こないだこんな変な動画見つけたよ」とか「写真加工のいい方法しらない?」とか。SNSもお互いフォローしあうとか。
SNSは複数のアカウントを持っている子が多いでしょうけど、それならそれでいいので、メインのアカウント同士だけでも相互フォローになっておけばいいと思います。保護者だって正しいSNSの使い方がわからなかったりするわけですから、「ママ友のグループLINEで通知が多くて困る」とか、使い方に関する相談を子供にしてしまってもいいと思います。
──スマートフォンやネットに関して、「普通の話を普通にできる」状態をキープしておくべき、ということですね。
鈴木さん:後ろ暗い使い方をしてる子って、今までの普通に使っていたのに、急に親の前からスマホを隠し始めたりするんです。そうやって普段の生活の中でスマートフォンの話をしていれば、トラブルがあった時にも早めに気づけます。友人間でのトラブルが起きているとか、高額な課金にしても1回目で気づけたりとか。
──そうやってコミュニケーションを取る中で、適切な使い方を学べたらいいですよね。
鈴木さん:今後、ネットを使わない世の中になるということはおそらくないと思います。便利なものではありますし、学びもある。だから、難しいけど正しい使い方はずっと学んでいかなくてはならないんです。
例えば、大人からすればどうかと思うような話をする暴露系YouTuberにしたって、それ自体は犯罪行為というわけではないじゃないですか。なので、そういう動画を観ている子どもを頭ごなしに叱りつけたり、見るのをやめさせるのもちょっとおかしい。そこで「こういうやり方はどうかと思う」とか、「この人はこれで再生回数を稼いで商売をしている」とか、保護者からその考えや仕組みを伝えることでリテラシーが育っていくのではないかな、と。
──コミュニケーションをとりつつ、一緒に考えてリテラシーを育てるというのは理想ですね。
鈴木さん:繰り返しになりますが、フィルタリングにしても親と子がそれを通じて交流するのが大事だと思っています。子供に料理を教えるにしても、いきなり揚げ物を作らせるのは危ないから、最初は包丁の使い方とかから教えて、徐々にステップアップしますよね。そういう感じで、成熟度に合わせてネットに慣れて、使いこなせるようになるのが理想かなと思います。
文=しげる/図版とイラスト=藤田倫央/編集=伊藤 駿(ノオト)