「モバイルバッテリーの種類が多すぎて、どれを選んだら良いかわからない!」
みなさんも、こんな経験ありませんか?
いろいろな種類のモバイルバッテリーが登場し、ユーザーのニーズに合わせて選べる一方、同じような機能なのに価格が異なるものもあり、何が違うのか分かりにくい。購入する際に迷っている人も多いのではないでしょうか。
そこで、似たような機能で価格が異なる3種類のモバイルバッテリーを分解し、中身の違いを比較しながら、それぞれの特徴を探ってみました。分解するのは、i:Engineerでたびたび取材に協力いただいている「ThousanDIY」こと山崎雅夫さん。普段はエンジニアとしてモノづくりに従事しながら、分解を通じてガジェットの裏側の秘密を探っています。
専門家の視点でモバイルバッテリーの裏側を覗いてみると、どんな違いが見えてくるのでしょうか。 分解を通じて、モバイルバッテリーの選び方を教えていただきました。
ThousanDIY 山崎雅夫さん
電子回路設計エンジニア。現在は某半導体設計会社で、機能評価と製品解析を担当。2016年ごろから電子工作サイト「ThousanDIY」を運営。月刊I/Oでの連載およびnoteにて「100円ショップのガジェットを分解してみる」を公開している。Aliexpress USER GROUP JP(Facebook)管理人。マイコンモジュールM5Stackの情報交換やイベントを行うグループ「M5Stack User Group Japan」のメンバー。
モバイルバッテリーを比較するための「4つの指標」
――前回は3種類のLED電球を分解し、その違いを比較していただきました。今回はモバイルバッテリーを取り上げます。最近、いろいろな種類が販売されていて、違いが分かりにくいですよね。
山崎:本当に種類が豊富ですよね。中身はほとんど同じで、外装だけ変えている商品が多いような気がします。
――そうなんですね! 表記してある機能が同じものも多いので、どこが違うのかと不思議に思っていました。
山崎:たまに、表記してある容量より少ないものもありますよ。「こんなサイズで、この容量は入らないだろう」と思って詳しく調べたら「やっぱり少なかった!」とか。
――表記の間違いを見破ってしまうとは(笑)。モバイルバッテリーを選ぶ際にどんなところに注目すると良いでしょうか?
山崎:一般的に①容量、②サイズ(大きさ・重さ)、③ポート数、④出力電流(A)に注目して選ぶことをオススメします。このあたりは、パッケージや外装を見ると確認できます。
あと僕は、信頼できるメーカーであることも重要視しています。あまり聞いたことがないメーカーや明らかに安いものは選ばないようにしますね。例外として、100円ショップで販売しているものは、価格が安いですが比較的信用できますよ。日常生活でルールを守って使用するうえでの安全基準は取得していますし、最低限の機能は備わっていますから。
――4つの指標ですね! でも、これらをどう理解して、比較したら良いかわからないんです。そこで、分解をしながらそのポイントを教えてください!
山崎:はい。今回は、この3種類のモバイルバッテリーを比較してみました。
山崎:A社が大手100円ショップ、B社は某通販サイトでランキングNO.1のメーカー、C社はモバイルバッテリー界隈のオピニオンリーダー的なメーカーです。
税込価格は、A社が1,100円(税込)、B社が4,599円(税込)、C社が2,799円(税込)。ちなみに、3つとも中国製です。
主な仕様の違いを表にまとめてみました。それぞれの項目を詳しく見ていきましょうか。
「大きくて薄い」or「小さくて厚い」どっちがいい?〜①容量と②大きさ〜
――まず、モバイルバッテリーの「大きさ」や「重さ」について。やはり持ち運びを前提に選ぶことが多いので、多くの人が気にするポイントですね。
山崎:今回調査した3つの製品の大きさと重さを比較しました。
山崎:A社とB社は、ほぼ同じサイズで、薄さが特徴ですね。
山崎:C社は他の2社に比べて小さいですが、やや厚みがあります。
山崎:重量は、A社が約224g、B社が約216g、C社は少し軽くて約183gでした。
――サイズの差によるメリット・デメリットは?
山崎:モバイルバッテリーの本体サイズはバッテリーの容量に直結するんです。バッテリー容量と大きさはほぼ比例するので、容量に対して小さすぎる製品は疑ったほうが良いでしょう。
C社は他の2社に比べて小さいですが、厚みがあります。小さくても厚みがある部品を使っているのでしょう。サイズの違いによるメリット・デメリットは、バッテリー本体を見ることでより明確になってきます。
――「小さければ良い!」というわけではないんですね。
山崎:はい。3つの製品の内蔵バッテリー容量はすべて10,000mAh。A社だけ定格容量6,200mAhと記載されていましたが、B社とC社は記載なし。
――定格容量とは、なんですか? バッテリー容量とは違うのでしょうか?
山崎:定格容量とは、規定された条件下で蓄えられる電気量のことです。内部の電池は、電圧が3.7Vです。しかしスマートフォンへの充電時は5Vに昇圧しているので、そのぶん電流容量が減ります。したがって10,000mAhと書いてあっても、実際は取れる容量が少なくなるのです。
――そういう仕組みなのですね。B社、C社も同じですか?
山崎:おおむね同じくらいでしょう。ただ、たいてい内蔵バッテリー容量で表示されているので、定格容量が明記されているものは少ないです。
――外から見たところでは違いはないと。では中身はどうですか?
山崎:3社に共通していることですが、モバイルバッテリーの中身の80%くらいは電池が占めていて、残りの20%は基板なんです。
内蔵バッテリーは、A社とB社は、スマートフォンでも使われているものと同じリチウムポリマー電池です。C社は乾電池型のリチウムイオン電池が3本使われていますね。これは1個あたり3,350mAh x 3個なので、正確には合計10,050mAhです。
――リチウムポリマー電池とリチウムイオン電池はどう違うのですか?
山崎:リチウムポリマー電池は薄型のため、本体の厚みを抑えることができます。しかし、膨張の危険性があります。よく長年スマホを使い続けていると本体が膨らむことがあり、それもこの電池を使っているからです。もし傷がつくと発火、爆発する場合も……。
――時々「バッテリーが爆発した」というニュースを聞きますが、まさにこれなんですね! なぜ膨張するのでしょうか?
山崎:過充電(充電しすぎること)や過放電(電力を放出しすぎること)によって、中にガスが発生します。そこに傷がつくと化学反応が起きて爆発するのです。とくに不純物が入っているような質の悪い電池だと、膨れたり燃えたりしやすいので。
平らなところに置いてカタカタ、グラグラしたら危ないというサインなので、替えたほうがいいですね。あとは、モバイルバッテリー本体を充電する時に、満充電になるのが早すぎると、劣化している可能性が高いです。
――リチウムイオン電池はどうですか?
山崎:乾電池特有の厚みが出てしまいますが、本体の大きさをコンパクトにすることができます。あと、価格が高くなってしまうことがあり、この電池は秋葉原で買うと1個500~600円くらいします。C社のリチウムイオン電池は1つ1つの周囲を筒状のもので密封しているので、落として破裂する確率はかなり低い。
確認したところ、3社のバッテリーにはすべて保護回路が付いているため過充電や過放電を防ぐ安全対策がなされていますし、外装がガッチリはまっているので、落とした拍子に開いて傷つくことはないでしょう。
――通常使用では、安全性は問題ないと。比較したことで、A社B社は「全体のサイズは大きいが、本体の幅が薄くなる」、C社は「全体のサイズは小さいが、本体の幅が厚くなる」という結果が出ました。
2つ同時に繋いだら、充電されない可能性も〜③ポート数〜
――次に、ポート数について。今は、スマートフォンとタブレットを併用している人も多いですし、数が多いほうが便利だなと思っています。
(赤い囲みが出力ポート)
山崎:A社とB社は出力ポートが2つ、C社は1つだけです。
確かに、2つのポートが搭載されているほうが便利だと感じるかもしれません。ただし複数のポートがあると、全ポートの合計出力電流に制限が生じます。
山崎:A社とB社は、各ポートの出力電流を個別に制御していないので、もしデバイスを同時に2つ接続すると、充電が止まってしまう可能性があります。
――2つ付いているのに同時充電はNGなんですか?
山崎:はい。ですから「2つのポートに繋いで充電していたつもりなのに、実は充電されていなかった」という事態が起こりえます。とくにタブレット2台を繋いで充電するのは避けてください。
――「スマホ2台」とか「スマホとタブレット」はどうですか?
山崎:デバイスの仕様によるので、やってみないとわからないですね。1台だけならほぼ大丈夫ですが、2ポートで2台繋げるとストップしまう可能性があります。
――C社が1ポートなのは、そのあたりの安全性を保つため?
山崎:きちんとした設計と、値段との兼ね合いだろうと思います。A社とB社は2ポートあるけど、実質1ポートを並列に繋いでいるようなものなので。
――ポート数が2つあることで2台同時充電はできるが、繋げるデバイスによっては同時充電できないことがあると。確実に充電をするなら1ポートタイプを選ぶほうが良いんですね。
「A(出力電流)が大きければいい」というわけではない〜④A(出力電流)〜
――続いて、パッケージの表記に「A(出力電流)」という記載がありますが、この数値は何を意味しますか?
山崎:Aはモバイルバッテリーから流れる電気の量を表します。数値が大きいほうが繋げたデバイスを早く充電することができます。
――では数値が大きいほど優れているんですか?
山崎:いえ、実はそうではないんです。「パッケージの表記に対して実際の値はどうなのか」を調べることで、良し悪しが見えてきます。
山崎:モバイルバッテリーからデバイスへどれほどの電流が流れるか、テスターを用いて計測しました。
(A社)ポート数2
表記…2つのポートの合計が最大2.4A
実測…2.85A
(B社)ポート数2
表記…2つのポートそれぞれで2.1Aと1A
実測…2つのポートそれぞれで2.5A
(C社)ポート数1
表記…1つのポートで2.4A
実測…1つのポートで2.55A
B社は、表記上1Aのポートにも2.5A流せてしまう。なぜ1Aにしたのか疑問です。
C社は、表記上2.4Aに対し実測2.55Aで、最も正確な数値でした。
――それでいうと、A社が実測2.85Aなので、一番早く充電できる?
山崎:はい。ただ表記2.1Aに対し2.85Aの電流を流しているので、中の発熱設計が大丈夫なのか? と心配になりますね。
――多ければ良いというわけではない、と。
山崎:たしかに最大出力電流が大きければ、充電時間を短縮できる可能性はあります。ただ、安全性を考えると表記通りにきちんと制御できるのが良い設計です。そういう意味では、C社はほぼ理想的で一番いい設計ですね。ただ、3つとも、通常使用には問題ないレベルでしょう。
これはあくまで今回試した環境での実測値で、繋げる相手によって数値は変わります。
――繋げる相手とは?
山崎:充電電流は、スマホなど接続する先の充電規格との組み合わせで決まります。メーカーごとに独自の充電規格があるため、モバイルバッテリーを購入する前にお手持ちのスマホの規格をチェックしてください。
主な充電規格と3つのモバイルバッテリーとの相性をまとめました。
山崎:A社とB社はUSB BC対応、C社はそれに加えてQC(急速充電)に対応していました。
――デバイスによって、対応する充電規格が違うのですね。正直、そこまで考えていませんでした。
他にもある、選ぶ時に確認したいポイント
――ここまで、モバイルバッテリーを選ぶ時の目安になる、4つの指標の違いを教えていただきました。その他に、チェックした方が良いところはありますか?
山崎:パッケージなどにPSEマークが表示されているか確認しましょう。今回は、3社とも明記されていました。PSEとは、電気製品が安全性を満たしていることを示すマークで、モバイルバッテリーは2019年2月から表示が義務付けられています。したがって、PSEマークが付いていないものは買ってはいけません。
――信頼できるメーカーか否かをチェックできるポイントですね。そのほかにありますか?
山崎:付属のケーブルもしっかりとチェックしたほうが良いでしょう。今回はA社、B社は充電専用、C社だけ充電・通信対応ケーブルでした。
――どういう違いがあるのでしょうか?
山崎:C社のケーブルは通信可能なので、接続先のポートを確認し、引っ張ってくる電流の条件を変えられます。たとえばパソコンのUSBポートに接続する場合、Type-Cを除けば100~500mAしか電流を流せない仕組みになっています。通信対応ケーブルであれば「接続先がパソコンのUSBポートだから、500mAまで」と制限してくれるのです。
一方、A社とB社のケーブルは充電専用なので、可能な限り電流を引いてしまう。そうすると、パソコンのポートがシャットダウンします。最悪、パソコンが壊れる可能性もありますよ。タブレットだと、繋いだ瞬間にリセットがかかることも。パソコンやタブレットからモバイルバッテリー本体へ充電する場合はケーブルを確認する必要があります。
――それはコワいですね! でも充電専用か、通信もできるケーブルか、見た目では分からないですよね?
山崎:A社、B社とも、パッケージに「同梱しているケーブルは充電専用です」「お手持ちのスマホの通信対応ケーブルを使ってください」と書いてあります。ただ、開けちゃうと分からないので、必ず購入時に確認しておいてください。ほとんどの人は、スマホを充電するために使うはずです。であれば、スマホ用のケーブルを繋いでください。
――一応ケーブルが付属しているけど、おまけみたいなものである、と。
山崎:そうです。どうせなら、ちゃんとしたケーブルをつけてよ、と思いますけどね(笑)。 その点、C社の付属品は通信もできるケーブルで驚きました。
値段で選ぶか、安全性で選ぶか
――今回3つの製品を比較してみて、山崎さんはどのような見方をしますか?
山崎:A社とB社は、一般的な格安USB充電器の搭載バッテリーの容量と出力電流を増やしただけのようにみえます。A社は表記に対して出力電流がかなり大きいので、USB BC規格以外のデバイスを使う場合、内部温度上昇に注意が必要です。
B社は、中身よりも外観のデザイン性が特徴でしょう。レザーのような質感の素材で覆われており高級感がありますね。ただ「1Aポートと書いてあるのに、実際は2.5Aまで出力できる」など、製品の信頼性や設計レベルに疑問が残ります。
C社は、過電流保護や基板の静電気保護、専用コントローラによる回路設計、内蔵バッテリーの選択など、きちんと設計しているなと感じました。本体の厚みが唯一の欠点ですが、使用環境で問題なければ妥当でしょう。むしろ、この値段でよく作っているな、と感心するくらいです。
※i:Engineerによる参考情報となります。
――では3社の商品をメリットごとに分けるとしたら?
山崎:A社は「値段が安い」「薄い」、B社は「デザイン性」、C社は「小さい」「安全性」です。比較することで、それぞれのメリット・デメリットが見えてきますが、通常使用で大きなマイナスがあるわけではないので、自身が使用するシーンや使い方と合わせて選ぶと良いでしょう。
ーー同じ10,000mAhなのに、こんなにも中身が違うとは思いませんでした。分解することで見えてくる世界がありました! 本日はありがとうございました。
まとめ
購入する際、「とりあえず容量が大きいものを」「安ければいい」と安易に考えている人は多いのではないでしょうか。しかし実際には、使い方や接続するデバイスを考慮する必要があります。
「全ての人に合う」製品はなかなかありません。だからこそ、違いを理解することで、より自分に合った商品を選ぶことができるようになるでしょう。
取材+文:村中貴士