大事なスマホ画面を傷や衝撃から守るため、いまやスマホユーザーの必須アイテムとなった液晶保護用のガラスフィルム。スマホを落としたときやぶつけてしまった時など、筆者も度々お世話になっています。
しかし、スマホを落とした時にかかる衝撃はなかなかのもののはず。薄いガラスフィルムを貼っただけでダメージから画面を守れるのは、一体どういう仕組みなのでしょう。
スマホ用アクセサリーブランド「NIMASO(ニマソ)」を運営する紅松株式会社に、その歴史やおすすめの使い方など、あまり意識したことがなかったガラスフィルムのお話を伺いました。
ガラスフィルムは、割れたら「ありがとう」が正解
——これまでスマホを落とすたびに気になっていたのですが、そもそも、どうしてあんな薄いシートを貼るだけで、スマホの画面を守れるのでしょうか?
凌さん:ガラスフィルムが、スマホ本体のかわりに衝撃を受け、それを吸収している、というのがものすごくざっくりした説明になります。ガラスフィルムの主な素材は、一般的なガラスよりも耐衝撃性に優れた「強化ガラス」です。スマホ本体に加わった衝撃を強化ガラスのほうに受け流すことで、フィルム全体で受け止める仕組みですね(※)。
衝撃の吸収には、強化ガラスだけでなく、ガラスフィルム内部の接着剤(AB接着剤)の層も緩衝材として機能しています。ここがクッションの役割を果たすだけでなく、ガラスフィルムが割れてしまった時に破片が飛び散らないようにする役割も果たしているんですよ。
※ もう少し難しい言葉を使うと、落下時にスマホには衝撃の波(応力派)が発生する。それをスマホ本体に留めておくと機器本体にダメージが入り、画面ひび割れを引き起こす。そこで、貼り付けているガラスフィルムの方に衝撃の波を逃がす、というのが主な考え方。形状は違うが、耐衝撃機能を持つスマホケースも仕組みは近い
▲紅松株式会社 事業部 凌青(りん・せい)さん
——強化ガラスと接着剤の層でスマホへの衝撃を吸収している、と。
凌さん:そして、強化ガラスと接着剤をもってしても吸収しきれないほどの衝撃が加わったときは、ガラスフィルムが割れます。この「割れる」というのも、衝撃を吸収するひとつの方法なんですよ。
ガラスフィルムは、「スマホの画面を守って、割れないようにする」というよりも、「普段からスマホ画面を保護しつつ、いざというときはガラスフィルム自体が割れて画面を守る」仕組みなんですよね。この「いざというときは割れる」というのをご存知でない方が意外といらっしゃるみたいで。
▲ 「OCA光学層」から「光学シリカゲル」までの3層がまとまったものを「AB接着剤層」と呼ぶ。フィルムが持つ機能によって表面のコーティング内容が変わったり、特有の機能を持つ層が追加で加えられたりすることも
凌さん:たまに、お客様から「使ってたら、ガラスフィルムが割れちゃったんだけど?」という問い合わせをいただくことがあるんです。もちろん想定外の要因で割れてしまうこともあるんですが……もしかしたら、使っている中でスマホに何かしらのダメージが入って、知らないうちにガラスフィルムが身代わりになっていた、ということもあると思うんですよ。
——となると、ガラスフィルムが割れたときは「えっ、なんで割れてんの?」ではなく、「守ってくれたんだね、ありがとう」と思うのが正しいですね。「割れるのだって役割」ということは、すべてのユーザーが知っておくべきことかもしれません。
凌さん:言うまでもないですが、割れたり、ひびが入ったりしたガラスフィルムはすぐに交換したほうがいいです。ガラス片で指を傷つけてしまうかもしれませんし、そもそもひびが入った状況ではガラスフィルムとしての役割が果たせませんから。
きれいなスマホの登場で、「傷つけずに使いたい」需要が
——画面保護用のガラスフィルムは、やはりスマホと同時に国内で普及していったのでしょうか?
凌さん:そうですね。決定的だったのは、iPhone 4の登場でした。
いちおう、それまでもスマホ用の画面保護フィルムはあるにはあったんですが、ほとんどが樹脂素材のものでした。プラスチックに近い素材で、買ったばかりのガラケーの画面に張り付いているフィルムや、パソコン等の画面保護に使われているシートもほとんどが樹脂素材です。
——樹脂素材は、画面保護フィルムとしてどういった特徴があるのでしょう。
凌さん:樹脂素材は柔軟性が高く、表面が大きくカーブしている画面でも貼りやすいのが強みです。でも、強化ガラスと比較すると傷がつきやすいんですよ。爪でひっかくだけで跡がのこってしまうんです。
スマホって、使うときは常に画面を触りますよね。その最中にうっかり爪で触ってもダメだし、他の硬いものとスマホをポケットに入れていただけで保護フィルムが傷だらけになってしまうんです。なので、この時期は「つけていても意味ないから」とスマホに保護フィルムを貼らない人も一定数いたと記憶しています。
▲NIMASOはフィルムの他にもスマホ用ケーブル等を生産・販売するスマホグッズブランド。商品はECサイトを中心に販売されている
——樹脂素材フィルムの特性がスマホと噛み合っていなかった、と。スマホはそれまでの携帯端末と「画面の役割」が違いますし、しょうがないことなのかもしれません。
凌さん:そんなタイミングで発売されたのが、iPhone 4です。iPhone 4って、背面がガラス仕上げになっていて、これまで見たことがないくらいきれいなスマホだったんですよ。
初めてiPhone 4を手にとって「このきれいなスマホを大切に使いたい!」と思う人が増えたんだと思います。背面がきれいだからケースにも入れるし、画面もなるべく傷をつけないように使いたいんだけどどうすれば、と。
——iPhone 4は、形状もそれまでのラウンドフォルムから角張ったデザインになって、とても洗練されたスマホ、という印象でした。きれいなスマホが、持つ人の意識も大きく変えたんですね。
凌さん:ガラスと樹脂素材の大きな違いが、その光の透過率です。樹脂製よりもガラス製の保護フィルムのほうが、液晶画面がキレイに見えるんですよ。
iPhone 4は、前機種より画面の解像度もかなり高くなりました。スマホ本体だけじゃなくて画面もこんなにきれいなのに、透過率の低い保護フィルムを貼るなんてもったいないじゃないですか。そこから、「ガラス製の保護フィルムを貼って、スマホ画面をカバーする」というのが、少しずつ一般的になっていったのだと思います。
——なるほど。やはりiPhoneが世間に与えた影響は大きい……。
凌さん:例えば水族館の水槽に使われているアクリルも、強度があって透明な樹脂素材ですが、ガラスほどの透過率はありません。透過率が高く、耐衝撃性があり、大きな衝撃を受けたときは「割れて吸収する」という働きができる。一通りの条件が揃っていますし、ガラス以上にスマホ保護に向いている素材はないかもしれないです。
もちろん、樹脂がガラス素材より劣っている、というわけではないです。例えば、現在のApple Watch用の保護フィルムは、ガラスより樹脂素材がメジャーです。Apple Watchは表面が大きくカーブしているので、柔軟性が高い樹脂素材がガラス素材よりも適しているんですよね。
ガラスフィルム進化の目標は「使い心地」へ
——どうしても意識せずに使ってしまいがちですが、他にガラスフィルムはどのような進化をしているのでしょうか?
凌さん:近年のガラスフィルムは、強度よりも使い勝手が進化している印象です。表面の光沢を抑える「アンチグレア」機能やブルーライトカットなど、使う人の目的に合わせた商品のバリエーションが増えていて、他社さんからは表面がサラサラで指を動かしやすい「スマホゲーム用のフィルム」というのも発売されていますね。
他には、「ガラスフィルムの側面」は作り手の工夫が詰まっている部分だったりもします。とても地味な部分になってしまうのですが……。
——ガラスフィルムの“キワの処理”ですね。どのような変化をしているのでしょう?
凌さん:例えば、最初期のガラスフィルムは側面に特別な加工が施されていなかったので、フィルムの角が直角に尖ったままだったんですよ。
でも、これでは指がひっかかるし触り心地も良くないので、ガラスフィルム側面の角を落としてなめらかにする「ラウンドエッジ加工」(※)が施されるようになりました。
※ 手触りをなめらかにするほか、ガラスの縁に衝撃をかかりにくくする効果もあるのだとか
——ホームボタンがないタイプのスマホを使っている人には、特にうれしい加工ですね。「画面の外側からスワイプする」動きをする時に、いちいちガラスフィルムが指に引っかかるのはストレスですから。
凌さん:近年では、画面が完全な平面ではなく、縁にむかって軽くカーブしている設計のスマホも増えてきましたよね。こういった場合は、完全に平らなガラスフィルムでは画面にフィットしないので、機種ごとにエッジが少しカーブした形に加工しています。
そして端がカーブしている画面にガラスフィルムをぴったり貼るのはとても大変なんですよ。とはいえ、正しい位置からズレたり貼付け時に気泡が入ったりしてしまったガラスフィルムは、ご存知の通り気持ちのいいものでないので。NIMASOはガラスフィルムをスマホ画面に貼り付けるためのガイド枠(※)をフィルムと一緒に販売しているんです。
※ 液晶保護フィルムの貼り付けを簡単に行うために同社が開発・提供している補助具。スマホケースのように本体にガイド枠をセットし、それにあわせてガラスフィルムをセットすればズレる心配がなく貼り付けることができる
——これ、以前に自分も使ったことがあるのですがとても便利でした。
凌さん:やはり、「せっかくガラスフィルムを買ったのに、貼付け時にズレて、1枚ダメにしてしまった」「もっと貼りやすくしてほしい」と思っている人はたくさんいるんですよ。
現在は、より使い勝手を高めた新しいガイド枠を準備している段階です。この新なガイド枠はこれから発売になるはずのiPhoneの新モデル用のガラスフィルムとセットで発売する予定です。もっと簡単に、ノーストレスで貼り付けられるグッズになる予定ですよ。
▲発売前のガイド枠。フィルム裏面のシールを剥がし、ガイド枠ごとスマホに上からかぶせることで、画面にフィルムを貼り付けることができる。写真は発売前のもので、デザインは変更になる可能性があるとのこと(提供:紅松株式会社)
——几帳面な人にとっては「フィルム貼り付け」はとてもストレスを感じる作業ですからね。新ガイド枠も楽しみにしています。
表面の光沢が失われるため、定期的な交換もおすすめ
——最後に「メーカーさん的におすすめしたいガラスフィルムの使い方」がありましたら、教えてください。
凌さん:いろいろな場所でおすすめしているのが、ガラスフィルムは割れなくても定期的に交換することでしょうか。機種変更した時にガラスフィルムを貼って、割れない限りそのまま、という人もいるんですが、使い続けていると、ガラスフィルム表面のコーティングが少しずつ剥がれていくんですよね。
そうすると画面の光沢もなくなってくるし、気にならないレベルの汚れも溜まっていくので。久しぶりにガラスフィルムを張り替えたら、「こんなに画面キレイだったの?」と驚くと思いますよ。
——なるほど! これまでは「スマホを買い替えたときの儀式」でしたが、もうちょっと意識して使ってみたほうが良いのかもしれないです。
凌さん:ガラスフィルムはたくさんの方に使用されるスマホグッズになりましたが、「なんか割れちゃったんだけど」という問い合わせをされるお客様がいらっしゃるように、その役割や仕組みをよく知らない方がまだまだ多いんですよ。
なので、ガラスフィルムにもっと興味を持ってくれる方が増えたら、メーカーとしてはこれほどうれしいことはないですね。
——「割れたら『ありがとう』の気持ち」はもっとたくさんの方に知ってもらいたいですね。本日はありがとうございました!
文=伊藤 駿/図版とイラスト=藤田倫央/編集=ノオト