同じLED電球なのに300円と15,000円? 分解してわかった価格差の”裏側”

日常生活で商品を選ぶ基準といえば、「機能」「価格」「デザイン」などが挙げられます。とくに価格は、ものを選ぶ際の大きなポイントでしょう。しかし、機能はほとんど同じなのに価格差があり、違いがわかりにくい商品も。その一例がLED電球です。

そこで、金額が異なるLED電球3つを分解して、仕様の違いやコストと価格の関係性を探ってみました。分解するのは、『「100円ショップ」のガジェットを分解してみる!』の著者である「ThousanDIY」こと山崎雅夫さん。過去には100円ショップのBluetoothマウスを分解し、その秘密を暴いていただきました。LED電球を分解して分かった価格差の“裏側”に迫っていきます。

ThousanDIY 山崎雅夫さん
電子回路設計エンジニア。現在は某半導体設計会社で、機能評価と製品解析を担当。2016年ごろから電子工作サイト「ThousanDIY」を運営。月刊I/Oでの連載およびnoteにて「100円ショップのガジェットを分解してみる」を公開している。Aliexpress USER GROUP JP(Facebook)管理人。マイコンモジュールM5Stackの情報交換やイベントを行うグループ「M5Stack User Group Japan」のメンバー。

ヒット商品はすぐマネされる!〝高い”と〝安い”が生まれる背景

――山崎さん、今回もよろしくお願いします。先日の「100均ガジェットの分解記事」が大変好評でした。

山崎:おお、そうですか。多くの人に見ていただけたようで嬉しいです。

――今回は3種類のLEDを分解していただくのですが、その前に、価格設定の背景についてお伺いします。そもそも家電製品の価格は、どのように決まるのでしょうか?

山崎:日本のメーカーが製造している家電製品でいうと、店頭販売価格の3割が製造・仕入れ費、3割がメーカー利益、3割が販売店の利益です。さらに製造・仕入れ費3割の内訳は、原材料費が1割、残りの2割は人件費・流通費など。これが一般的な“正しい”割合だと思います。

――“正しい”というのは?

山崎:おおむね理想的な割合、という意味です。しかし最近は、販売店やメーカーが利益を削っていることがあるので、原価比率が上がっている気がします。販売価格が下がる一方、中国の製造原価が上がっているので。とくに人件費は明らかに上がっていますね。

――製造・仕入れ費の割合は、100円ショップの商品も同じなのでしょうか?

山崎:そこはまちまちだと思います。先日の対談で、Seriaのバイヤーさんも「ものによっては原価が100円に近いものもある」とおっしゃっていたので。

――家電製品の価格をみると、最初は高くても、時間が経つと100円ショップで似たような商品が登場することもありますよね。業界内で何が起きているのでしょうか?

山崎:大手メーカーがヒット商品を出すと、中国でマネしたものが大量にでてきます。例えばAppleのイヤホンが発売されると、同じようなイヤホンのチップセットを安価で作る人が必ずいます。それをきっかけに安くなるんです。
始めは粗悪なものだけど、そのうち「機能を削った、普通に使える商品」が出てきます。似たようなケース(外装)が何パターンかあって、汎用性がある基板を作り、組み合わせて商品として売る。そうなると一気に安くなります。

――機能を削りつつ、量産できる汎用性の高い部品ができてくる、と。

山崎:チップ化した部品とケースが揃ったら、大手メーカーの類似商品が開発しやすくなります。最近は100円ショップでもBluetoothイヤホンを売っていますが、別々のメーカーの商品なのに似たような形になっているのは、汎用性ある部品を用いてそれぞれが作っているからです。

――なるほど。ほかに、価格差が生まれる要因はありますか?

山崎:安価なものの中には、そんなに複雑な試験をせず「動いたからOK」程度で発売しているものがあるかもしれません。すぐ壊れるならまだマシで、ごくまれに最初から動かない場合もありますから。不良品が一定数出ることを覚悟で作っているのでしょう。

――検査工程を簡素化することで、価格を安くしているのですね。

山崎:はい、最近は基板に検査用のテストポイントがあったりと、以前より検査の自動化も進んでいる気がします。あと、価格が高いものは安全関係にお金を使っています。ヒューズ(加熱や発火を防ぐ電子部品)をちゃんと入れていたり、LEDを光らせるための電源を生成するコイルも大きめで余裕を持たせていたり。基板も、きちんと設計しているかどうかは一目でわかります。

――山崎さんは、最近のガジェットの価格とクオリティの関係性をどう見ていますか?

山崎:100円ショップのガジェットは、クオリティがかなり高くなっています。ただ、100円で売れなくなってますよね。300円や500円になっている。一方で、普通の家電量販店で売っているメーカー品は、高く売るために高機能化している気がします。たとえば大手メーカーのBluetoothイヤホンには、タッチセンサーやノイズキャンセル用マイクが付いていますよね。ただ音を聞くだけならそこまで要らないのでは、と思うような機能がいっぱいある。

100円ショップの台頭により、一般家電メーカーが価格勝負をやめて、機能で勝負する方向になっているのではないでしょうか。

光り方が微妙に違う? 3つのLED電球を並べてみたら……

――今回は異なるメーカーのLED電球を分解していただきました。まずは外見や重さ、ワット数などスペックの違いを教えてください。

山崎:分解したLED電球は、以下の3つです。

A社(100円ショップ)…300円
B社(一般家電メーカー)…1,500円
C社(特殊メーカー高級品)…15,000円


山崎:A社はポリカーボネートとアルミ、B社はポリカーボネートとプラスチック、C社はガラスとアルミです。

――それぞれ組み合わせが違いますね。

山崎:ポリカーボネートは割れにくいので、扱いやすいんです。それに比べるとガラスは割れやすいし、加工費も高くなります。C社はガラスで高級感を出しているのかもしれません。あとC社はボディ部分のアルミが大きいので、価格にも影響しているでしょう。

山崎:素材の違いからそれぞれの重量も異なり、A社が48.35g、B社が68.60g、C社が118.50gでした。あと基板の重さも、持ってみると違いがわかります。

――光り方も違うのでしょうか?

※ルーメンとは光の明るさを指します。

山崎:商品規格としては、A社とB社が7.3W/810lm(ルーメン)、C社は8.5W/900lmです。ただ、A社はやや暗めで、輝度ムラ(均一に光っているかどうか)も大きい。B社は輝度ムラが少ないですね。C社は明るくて色が白く、輝度ムラは少なめですが、フリッカー(ちらつき)が少しありました。

比べてみると全然違う? 分解してわかった部品のクオリティ

――さて、ここからいよいよ分解ですね。

山崎:まず放熱金具を並べてみました。

――放熱金具は、どんな役割があるのでしょうか?

山崎:LEDが発熱するので、温度を下げる必要があるんです。電子部品は、温度が高くなればなるほど劣化のスピードが早くなるので。

ただ逆に、熱を外へ逃がしすぎると、持ったときに熱くなります。白熱電球は、長く点灯していると触れないくらい熱くなりますよね。LEDはそこまで熱くなりませんが、火傷などのクレームを避けなければなりません。劣化スピードを抑えつつ、手で持っても危なくない設計にする必要があるため、放熱が重要になるんです。

A社は、真ん中の金具と外装を接着して放熱しています。B社は放熱の外装をプラスチックで覆っていますね。

――なぜプラスチックを付けているのでしょうか?

山崎:手で触ったときに熱くないように工夫しているのでしょう。日本のメーカーならではの工夫ですね。

C社は、大きくて重いアルミブロックを使っていて、かなり放熱を意識していますね。放熱をちゃんとするかしないかで、LED電球の寿命に直接関わってきますから。

――熱でそんなに変わるんですね。

山崎:LED自体も、放熱しないとだんだん暗くなります。きちんと放熱したほうが、寿命が長く持つんです。

――C社は長寿命にこだわっているから値段が高い?

山崎:そうですね。A社とB社の商品設計寿命は4万時間ですが、C社は30万時間となっています。あとはガラスとアルミの原価が高いのも、価格に影響しているでしょう。

続いてLED基板を比較しました。こちらも明らかに値段が違いますね。

――LED電球の中はこんな感じになっているんですね! この黄色いものはなんですか?

山崎:メーカーによって大小大きさが違いますが、これがLEDです。それぞれのLEDの価格も調べました。A社は小さなLEDが18個ついており、1つ約0.3円。B社は、数は少ないものの高輝度タイプのLED11個、1つ約3円です。C社は、15x15mmサイズの大きなLEDで、価格は1つ250円くらい。発光面が大きいので、値段も高くなります。

――LEDの大きさや価格がこんなに違うんですね! 見た目ではA社B社が複雑に見えますが、C社のほうがお金がかかっているんですね。

山崎:部品の少なさもポイントなんです。部品の数が多いほど、壊れやすくなります。C社は、壊れる確率を低くするために、部品の数を減らしているのでしょう。あと、C社は大きなLEDが一つだから、輝度ムラ(均一に光っているかどうか)が少ないですね。

――基板についてはどうでしょうか?

山崎:LEDを動かしている基板は、比べてみると明らかに違いますね。

山崎:まず基板の材質でみると、A社はガラスコンポジットと呼ばれる素材を使って価格を抑えていることがわかります。また、片面しかパターンがありません。部品も非常に少ない。B社とC社は、一般的な電子機器に使われているガラスエポキシと呼ばれる素材です。

――A社に比べてB社やC社は明らかに部品が多いですね。どういう違いが生じるのでしょうか?

山崎:簡単にいうと、明るさやちらつきを細かく制御するための部品が付いているか、いないかの違いです。基板が熱くなると電流が増加し、それに伴って明るさも変化します。電流を細かく制御することで、一定の明るさになるようにしているんです。

――LEDの明るさを安定させるための部品、ということですね。

山崎:C社が特徴的なのは、青いフィルムコンデンサ(電気を蓄えたり、放出する部品)が8つもある点。A社やB社には電解コンデンサが付いていますが、高温だと寿命が短くなってしまうこともある。C社の青いフィルムコンデンサは電解コンデンサに比べると、信頼性が高いんです。ここが長寿命のポイントの一つになっていますね。あと、C社はヒューズも高級なものが付いています。B社はやや安価なヒューズですね。

――ヒューズにはどういう役割があるのでしょうか?

山崎:何か異常が発生したとき、自分だけが壊れるようにするための部品です。ヒューズがないとブレーカーまで巻き込んでしまい、最悪、火が出てしまう可能性もあります。A社はヒューズがついていませんが、電流制限用抵抗があるので、トラブル時はそこが切れることを期待しているようです。

――他の機器への影響や火事を防ぐために、ヒューズが必要なのですね。他に、基板からわかる手間のかけ方や工夫はありますか?

山崎:B社とC社は、基板に部品がびっしり付いているので、全て機械で実装するのは難しいと思います。おそらく一部の部品は手作業で実装していますね。あとA社とB社は、片面しか表面実装部品がありません。C社は表と裏、2回表面実装している。手間をかけて作っているのがわかります。

――それも価格差に影響しているのですね。

山崎:価格差が出る要因として一番大きいのは、フィルムコンデンサです。あとは基板の素材と部品数、手作業など。C社は高い部品を使っていますし、LEDやアルミなど、それなりにお金をかけて作っています。

――どこか一つではなく、3社を比較し全体的に見ると価格差がわかる、と。

山崎:はい。C社は他の2社に比べて価格帯が大きく異なりますが、真面目に設計すると、これくらいの価格になってしまうのでしょう。中身の部品や仕様からも作り手の熱意が伝わってきます。それに、基板の一部を塗りつぶして、分からないようにもしていますね。品番が分かってしまうと、マネして同じものを安く作ろうとする業者が出てきますから。

LED電球の裏側にあった真実

――3種類のLED電球を分解してみて、「ここは苦労しているだろうな」と感じたところは?

山崎:基板をびっしり埋めるのは大変そうですね。C社はたぶん手作業なので、この小さなスペースによく刺したなと思います。一方でA社は、機械を使って自動で付けているので、それほど手間はかかっていないでしょう。

――B社はどうですか?

山崎:コンデンサは、わざわざチューブを入れてリード線を伸ばしていますね。縦に付けると入らないから、横にしたかったんでしょう。これは完全に手作業です。

――限られたスペースに入らないから、わざと向きを変えているのですね。

山崎:そうです。1,500円でよく作っているなと思いますよ。A社に比べると高いけど、中身的には妥当な金額でしょう。B社は、「日本で設計したらこうなるんだろうな」という納得感があります。部品も多いですから。

でも実は、3つともメイドインチャイナなんですよ。

――そうなんですか?! 同じ中国でも、作ってる工場が違う?

山崎:違うと思います。工場によって精度やクオリティに差があるので。信用できるところを探したのかな。A社も、これを作って300円で売るのは凄いですよ。機能を満たしていますから。

――A社は、「寿命4万時間」を満たせるスペックになっているのでしょうか?

山崎:それはもう、実際に使ってみないとわかりません。仮に4万時間持たなくても、ほとんどの人は文句を言わないんじゃないかな。300円だし。価格的には、日本のメーカーはかなわないでしょう。

――C社の15,000円はどうですか? 中身を見て、価格は妥当だと感じますか?

山崎:「フェラーリが高いか、安いか」という話と一緒ですね。大量生産ならもっと安くできるはずだけど、作っている数が少なく、特殊な製品なので。とにかくこだわって作りたかったんでしょうね。妥協はしてないですし、このような「1品ものの高級品」を作りたい技術者はたくさんいますから。

何を基準に選べばいい? 「価格差」と「機能」「安全性」のバランス

――山崎さんから見て、価格差があることの良い点、悪い点とは?

山崎:安心して使えるか、使えないかの違いだと思います。日常で常に電気が通った状態の家電製品は、高くても信頼できるものを買いますよね。特に電球はつけっぱなしにするから、事故があると怖いでしょう。

――やはり安全性が大きい、と。

山崎:国内メーカー品は、「安心をお金で買っている」と思えばいいのではないでしょうか。家電系は特にそうですね。 秋葉原の露店やアマゾンのマーケットプレイスなどに出店している怪しいメーカーの安いガジェットは、中を開けると怖い作りになっているものもあるので。最悪、火が出たり、感電したりする可能性もゼロではありません。

――確かに、「モバイルバッテリーが発火した」という事故のニュースを見ますね。

山崎:海外の通販サイトなどで出どころのわからないメーカーのものを買うなら、大手100円ショップで買ったほうが信用できるでしょう。昔に比べると、そこまで酷いものがなくなっているし、もし不具合が起きたらちゃんと回収して、分析・改善しているので。

最近は怪我や発火等はないように、気を付けて作っているはずです。ただ100円ショップの商品は、すぐ壊れても怒らないでください。「そんなもんだよね」「諦めよう」っていう心持ちで買うのがいいでしょう。

――何%かの確率で不良品が出てくるから、それをたまたま買ってしまうこともある、と。

山崎:国内家電メーカーの商品と同じ感覚で100円ショップのガジェットを買うのは駄目ですね。そこは意識したほうがいい。安かろう悪かろうの「悪かろう」の品質が上がってきているけど、確実に品質の差はあるので。僕はいつも分解しているので、ハズレを引くのも楽しいですけどね(笑)。

――様々なガジェットを分解している中で、「機能」「安全性」と「価格」は釣り合っていると思いますか?

山崎:はい、基本的には価格差に応じていますね。分解すると、「ああ、なるほどね。この価格なら、このぐらいの設計だろうな」と思いますから。

――でも、もし国内の家電メーカーが安全性を無視した製品を出して、利益を大幅に取ろうとしても、消費者としては分からないですよね?

山崎:日本のメーカーは過剰なくらいの品質基準があるので、やらないでしょう。特に最近は、消費者の目が厳しくなっていますから。事故なんて起きたらすぐSNSで拡散されちゃうし、致命傷です。昔に比べても慎重に作っているような気がしますね。

まとめ

「同じLED電球なのに、何がそんなに違うのだろう?」と、ぼんやり疑問に思っていたのですが、山崎さんの解説でよく理解できました。同じような機能に見えても、価格差に応じた設計になっています。値段は高いけど安全性の高い国内メーカーの商品を買うか、すぐ壊れる可能性はあるけど安い商品を買うか。消費者側も明確な意識を持ったうえで購入する必要がありそうです。

取材+文:村中貴士

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