学生のときは体を動かしていたけれど、社会人になってから運動する機会が徐々に減っていき、年齢がプラスされるごとに体重もプラス。気がつけば、学生時代にあれだけなりたくないと願った「肥満体型」になりかけている……。読者の中にも、そんな方はきっと多いはずです。
現代社会はデスクワークが増え、体を動かす機会が減ってきています。特に、エンジニアは朝から晩までパソコンと向き合っていることも少なくありません。座りすぎによる体力低下やヘルニア、猫背なども社会問題になっています。
そんななか、検索サービス「Pathee」を開発する株式会社tritrue(トライトゥルー)が、オフィスで手軽に取り組めるエンジニア向けのフィットネスプログラム「エンジニアFit」を、社内向けの福利厚生としてフィットネス会社と共同開発。社員から予想以上の評判を得て、つい先日、一般企業向けにリリースしました。
今回は、同社代表の寺田さん(写真左)と、エンジニアFitの仕掛け人、マーケティング担当の原嶋さん(写真右)に、サービスが生まれた経緯と、エンジニアと運動の関係性について話を聞きました。
体調不良を減らして、楽しく開発できる環境を作りたかった
――tritrueは主にアプリやウェブサービスを開発されていますが、エンジニア向けフィットネスプログラムを開発しようと思ったのはなぜですか?
寺田:「エンジニアが楽しく開発できる環境を提供する」という創業からの思いを実現するためです。
――その理念は、寺田さんがtritrueを創業したときから持っていたものなのですか?
寺田:そうですね。私は「Googleのように、エンジニアが楽しみながら開発できる環境を作りたい」という想いもあり、起業を決意しました。
Googleには「20%ルール」といって、業務時間の20%を好きなプロジェクトに割いてよい制度があります。エンジニアにとって自由に気持ちよく働ける環境が整っているからこそ、優秀な人材が集まってきて、良いサービスが生まれるのだと思います。
大学院や企業での研究開発にも携わりましたが、Googleのような環境を作るためには、自分で起業するのが一番良い方法だと思い、気の合う仲間と起業するに至りました。
――フィットネスプログラムを作ったのも、「楽しく開発できる環境づくり」のひとつだと。
原嶋:そうですね。私は組織作りの改善をミッションとして入社したのですが、取り組んでほしいと頼まれたことの1つに社員の健康面の改善がありました。当時は体調不良で休むエンジニアもいましたし、作業効率という面でも運動をするということは重要だったためです。
多くのエンジニアは、体の不調に“気づいていない”
――なぜ、体調を崩しやすい人が多かったのでしょうか?
原嶋:自分の体に気を遣っている人が少ないからかもしれません。社内だけでなく世間でも、座りすぎが原因で腰痛やヘルニアを引き起こしたり、室内にいてずっとパソコンと向き合っており日光に当たらないので鬱を発症してしまったりと、デスクワーカーの健康状態が問題になっていると聞きます。
特に、エンジニアは仕事が終わっても、家で趣味としてコードを書くような人もいるので、デスクワーカーの中でも健康問題が多いのかもしれません。
でも、健康状態は仕事のパフォーマンスにも確実に影響します。昔、私がマッサージ店にいった際に、全然痛みを感じなかったことをいったとき、マッサージ師さんに、「それは痛みを感じなくなっている」と言われてしまって。マッサージを続けていたら体が軽くなったことで集中力が増して、仕事のパフォーマンスも上がったんです。
――確かに、体調が良くないときは、思考もボンヤリとしている気がします。
原嶋:おそらく、多くのエンジニアは自分の体が万全でないことに“気がついていない”んだと思います。なぜなら、肩こりだったり、腰痛だったりを慢性的に抱えていて、もはやその状態が当たり前になってしまうから。なので、とにかく体を動かして、体調を管理して欲しいと思っていたんです。
継続できる秘訣は「小さな達成感をこまめに得てもらう」こと
▲先日リリースされた『エンジニアFit』のストレッチプログラム(一例)。社内の限られたスペースでも、全員で楽しくフィットネスできるよう、オフィスの椅子を使用したプログラムなどが組まれている。
――「エンジニアFit」のサービスコンセプトは、どのように思いついたんですか?
寺田:順を追って説明すると、エンジニアFitを開発する前は、ジムに通う料金を割引する福利厚生を取り入れようとしていたんです。
でもジムに通うのは、もともと運動の習慣がある人だけです。もともと運動しない人たちにとって、いきなりジムに通うのはハードルが高すぎますし、立場が上の人から「運動しろ」って言われるのは、強制されているみたいで嫌じゃないですか(笑)。
原嶋:なんとかしなければと思っていたんですが、ラジオ体操を導入している企業を思い出しました。どうせやるならエンジニア会社なのでエンジニア特化で気軽にみんなで一緒に体験できて、効果を実感できるトレーニングを作ってしまおうという話になったんです。
――それでエンジニアFitの開発がスタートしたんですね。
原嶋:はい。そこで、前職で関わりがあったトリゴナルフィットネスさんに相談して、1回30分のトレーニングの中でも効果を実感できるフィットネスプログラムを開発していただいたんです。
コンセプトは「オフィスのパーソナルスペース内で、エンジニアの体調不良あるあるを解消できるフィットネス」。エンジニアが抱える体調の悩みを社内でヒアリングして、肩こりだったり、猫背に悩まされたりしている人が多いとわかったので、そういった問題を解消できるプログラムにしていただきました。
<実際行ったメニューの一例>
第1回「肩こり解消&予防簡単ストレッチ」
内容:肩の柔軟性を高め、正しい肩の位置に戻すための肩周り、肩甲骨を中心としたプログラム
実施メニュー:
1. 肩甲骨ストレッチ
2. 肩回し
3. 肩アイソレーション
4. 大胸筋ストレッチ
5. ローテーターカフストレッチ
6. 検査(肩の可動域チェック)
7. カウンセリング
――エンジニアFitはどのようなメリットを持ったプログラムですか?
原嶋:本来、運動は長期間続けないと、効果があまり見えてきません。ランニングが健康に良いのはみんな知っているけど、実際に体が絞られてくるのを実感できるのは、数か月経ってからです。でもそれだと、運動しない人にとっては、効果が現れるまでモチベーションを維持できません。
そのため、エンジニアFitは、とにかく短期間で効果を実感できるプログラムにしてあります。たとえば、初回のプログラムはストレッチだけで、ストレッチする前と後で体の伸びがどれだけ違うのか体感してもらいます。30分もストレッチすれば体は伸びるようになるんですが、実際に体験した社員は「こんなに違うんだ! すごい伸びてる!」と感動していました。
どんな分野でも、短いスパンで効果を実感できて、「やったぞ!」という成功体験を得られなければ、続けられません。「健康な体をつくる」という長期的な目標だけでは、モチベーションを維持できない。だから、エンジニアFitは小さな「やったぞ!」を積み重ねられるようなプログラムになっているんです。
▲実際に社内でストレッチをしている様子。
100歳まで生きる時代。若い頃から健康的な体づくりを
――体を動かす時間ができることで、仕事にも良い影響がありそうですね。
寺田:新しいアイデアが生まれるのは、画面と向き合ってコードを書いているときではありません。新しいアイデアは、散歩していたり、お風呂に入っていたり、ほかのことをしているときに、ふと浮かんでくるものです。
海外には、「プログラマーは、プログラミングか、運動か、寝るかしかやってはいけない」という言葉もあります。良いプログラマーになるためには、プログラミングをしているだけではダメで、適度な運動も必要なんです。
原嶋:さらに、現代は「人類100年時代」とも言われています。100歳まで生きるかもしれない私たちにとって、健康な体を維持することってすごく重要だと思うんです。80歳になったとき、もし自分の力で歩けなくなっていたら、まだまだ長い人生を楽しみが半減してしまう。20代、30代のときから運動する習慣をつけて、健康な体を維持できれば、歳を重ねても人生を楽しめるはずですから。
――最後に、エンジニアFitを一般企業向けにリリースされますが、どんなことを期待していますか?
寺田:なかなか、自分ひとりでは運動をはじめられない人も多いと思うんです。でもエンジニアFitは、運動が苦手でも、仲間と一緒に楽しく、気軽に取り組めるプログラムになっています。なので、運動をはじめられない人にとって、エンジニアFitが運動を習慣づける最初のきっかけになってくれれば嬉しいですね。
取材協力:株式会社tritrue