2016年頃から社会問題として取り上げられるようになった待機児童問題。その原因のひとつが、保育者の業務過多であると言われています。
手書きで行われる園児の連絡帳記録、保護者に向けたお知らせの配布。子どもたちの写真の張り出しや販売……。保育者は、そんな負担を背負いながらも子どもを見守り、働いているのです。
そんな保育業界の課題を解決すべく開発されたのが、園と保護者間で利用できる保育クラウド「hugmo」。hugmoのなかには連絡帳サービス「hugnote」、写真販売サービス「hugphoto」やショッピングサービス「hugselection」などの機能があります。どのサービスも、これまで保育者や保護者が担ってきた負担軽減に向けて考案されたもの。
<hugnote>
<hugphoto>
今回は、同サービスを開発した株式会社hugmo (ハグモー)のCEO湯浅重数さんと、新規戦略担当でエンジニアとして開発にも携わる石井あかねさんにインタビューを実施。保育業務のICT化によって、果たしてどのような未来を育もうとしているのか、お聞きしました。
保育園に8回落ちた経験が、hugmo設立のきっかけ
――まずはhugmoという会社を立ち上げた経緯についてお聞かせください。
湯浅:会社設立のきっかけは、保育業界における問題について知ることになった僕自身の経験でした。実は2年前、自分の子どもを保育園に入園させようとしたら8箇所も落ちてしまい、結局妻が育児のために仕事を辞めざるを得なくなったのです。
そこで初めて待機児童問題の深刻さを知り、保育者不足の要因のひとつである「業務負担軽減」に向けて貢献したいと考えるようになりました。
――業務負担の軽減を目指す中で、なぜ「連絡帳」という業務を効率化させようと考えたのですか?
石井:私も子育て中に体験しましたが、保護者と保育者が毎日書いている「連絡帳」って互いに負担がかかるんです。
子どもがまだ幼い間は、自分の話を自分の言葉ですべて伝えきれません。だからこそ周囲にいる親や保育者が子どもを見守り、
・食事、排泄の状況 ・睡眠状況 ・毎日の体温 ・自宅(園)の様子
などの様子を細かく「連絡帳」で報告し合う必要があるのですが、毎日ノート1ページほどにびっしりと情報を書き込むのって本当に大変でした。
湯浅:例えば保育者に、1人の園児につき毎日10分連絡帳を書く時間が割り当てられている園もあるそうです。その場合、担当している園児が6人いれば連絡帳を書くだけで1日1時間。もし園児に擦り傷などがあった場合には、保護者を不安にさせないようさらに詳しく説明しなければいけません。
この作業をすべて手書きでやるのって、信じられないくらいアナログですよね。僕たちが保育園に通っていた時代と何も変わっていないんです。だから、保育者と保護者の両者における負担をできる限り削減していこうと、まずは連絡帳サービスの開発に着手することになりました。
▲これまでの連絡帳。保護者は家庭での様子、保育者は保育園での様子をびっしりと書く。
何度も保育園に足を運び、保育者や保護者の声を聞いた
――2016年1月から開発に着手し、同年11月にリリースしたとのことですが、その過程で保育者や保護者からヒアリングなどは行ったのでしょうか?
湯浅:知人の市川保育園の園長にhugmoプロジェクトの趣旨をお話したところ協力してもらえることになったので、何回も定期的に市川保育園まで足を運び、ヒアリングを実施しました。
実際に保育者の方に使っていただいて感想を聞いたり、取り入れて欲しい機能について意見を聞いたりしましたね。
例えば、毎月デジタル上の連絡帳を製本して、ご家庭にお届けする「連絡帳ブックレット」は保護者からの声を反映させたプロダクトです。「連絡帳は子育ての結晶だから、手元に残しておきたい」という想いを聞いて、開発しました。
市川保育園にはたくさんご協力いただいたので、保育者の方にも保護者の方にとってもhugmoは待望のリリースだったようです。リリースした当日は「市川保育園ばんざーい!」ってみんなで喜んでくれました。
――開発したプロダクトがそんなに多くの人に喜んでもらえるとは、開発者にとっては嬉しい限りですよね。なかでも保護者から特に人気のサービスは?
湯浅:保育園が配信する毎日の活動写真ですね。「今日は外で遊んだよ」など、写真付きで1日の報告を更新しているんです。もしお子さんに擦り傷などがあっても、この活動報告に外で遊んでいる写真があれば「外で転んだのかな」って安心できますよね。
▲提供:市川保育園
また、お知らせ機能には開封数と開封者、開封時間がわかるようになっています。これは保育者から保護者への連絡漏れを事前に防ぐためです。これまではお知らせを紙で渡していたので、保護者がきちんと目を通しているかわかりませんでした。
「◯◯ちゃんのお母さん、まだ読んでないな」ってことがわかれば、保育者から保護者に「あのお知らせは読んでおいてくださいね」と伝えることができます。
――開封者欄には、お母さんらしき人以外の名前も載っていますね。
▲活動報告の開封者欄。
湯浅:お母さん以外のご家族も、登録すればアプリを見られるようにしているんですよ。
僕も忙しいときは子どもの連絡帳をゆっくり見る時間がなく、保育園の様子をまったく把握できませんでした。
だからこそ、hugmoは母親以外の家族も閲覧できる仕様にすることで、仕事で忙しい父親や離れて住んでいる親戚まで、スマートフォン上で子どもの様子を気軽に見れるようにしたんです。
――ご自身の子育て経験もhugmoというプロダクトに反映されているのですね。実際にサービスを使った保護者から、嬉しい声があがったことはありましたか?
石井:2017年6月に、送迎バスの位置情報がわかるバスロケーションサービス「huglocation」をhugmo内に追加したのですが、これは保護者から「本当に助かった」という声を聞いています。
送迎バスが遅延している場合などに、これまではいつバスが来るのかわからなかったので、無駄な待機時間が発生して困っていた保護者も多かったようです。
▲送迎バスがどこにいるのかリアルタイムに把握できる「huglocation」。到着予定時刻もわかるようになっている。
ICTの導入によって「子どもと過ごす時間」を増やす
――1人の母親でもある石井さんが、エンジニアとして保育のICT化に注力できる理由とは何でしょうか?
石井:子育てしながら働く女性にとって、悩みの種はあまりにも多いんです。
子どもの毎日の健康はもちろん、子どもの教育への不安など細かい心配事から将来のことまで、やらなければいけないことや考えることがたくさんあります。
だからこそ保育業務のICT化を進めていくことで日々の負担を減らし、仕事と育児の両方を楽しめる社会にしていきたいですね。hugmoによって、働く女性が大事な家庭や仕事を見つめ直すきっかけになればと思っています。
――ICTの導入によって、アナログ業務中心の保育現場が大きく変わっていきそうですね。今後、hugmoを通じて子育てをどのように変えていこうと考えていますか?
石井:今、自治体によって「保育の質」が異なることが問題になっています。しかし、hugmoが全国に普及することで住んでいる地域に関係なく、同等のサービスを受けられる環境を整えられるのではないかと考えています。
湯浅:保育者と保護者の負担をなくしていくことで、子どもとゆっくり過ごす時間が増えてほしいと思っています。
これまでの保育業務はアナログ中心の作業が負担になっていて、保育者も保護者も子どもと過ごす時間を削らざるを得ませんでした。
しかし、連絡や申請業務、写真・保育関連用品の購入などをデジタル上で行えるようにすることで、空いた時間を子どもと過ごせるようになる。hugmoのサービスは、そんな可能性を秘めていると考えています。