町工場の音を“クラブ音楽”に。INDUSTRIAL JPのグルーヴが、世界を熱狂させる

高い技術を持った町工場と、才能豊かなクリエイターがコラボレーションして作品を作り上げる工場音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」。町工場を愛する有志が集まり、2016年に結成されました。

同レーベルでは、工場の“機械”が生み出す規則的なリズムを用いてクラブミュージックを作成し、映像と組み合わせることで、動画コンテンツを制作し続けています。その作品のひとつがこちらです。


今回は、同レーベルを先導している、運営/映像監督の下浜臨太郎さん(写真右)と音楽監督のMOODMANさん(写真左)。そして、自社工場の機械音の作品化に協力した坂本製作所・代表の坂本信太郎さん(写真中央)に、INDUSTRIAL JPが歩んできた道のりと、未来の展望を聞きました。

町工場って格好いい。その良さを表現したかった

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―「町工場の機械音を音楽にする」というのは、かなり斬新な試みですよね。このコンセプトを思いついたきっかけは何だったのでしょうか?

下浜:由紀精密という町工場の社長さんから、「動画を使って、何か町工場の魅力を発信するプロモーションができないだろうか」と相談されたことです。僕はもともと工場の工作機械などを格好いいと思っていたので、「なんとか形にできないか」と思い、その方法を模索していました。その時期にたまたま、ある技術展示会に参加したことがターニングポイントになったんです。

―その展示会で、何と出会ったのでしょうか?

下浜:ある工場の展示ブースで、ばねを製造する機械の映像が流れていたんです。その機械が、本当に格好いい動きをしていて。「この動きと音楽と組み合わせたら、ミュージックビデオになるのではないか?」と考えました。そして、このアイディアを実現するために、元々知りあいで、個人で音楽活動をしていたMOODMANに声をかけたんです。

―その呼びかけにMOODMANさんが応える形で、プロジェクトは走り出したわけですね。

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MOODMAN:そうなんです。実は僕、工場の技術力の高さには、もともと興味がありました。話が来たときは嬉しかったですね。

せっかくいただいた機会なので、「1回きりで終わってしまうのはもったいない」と考え、音楽レーベル化することにこだわりました。それが元となり、INDUSTRIAL JPが誕生したんです。私は音楽のディレクションをさせていただいていまして、実際の音楽制作は、様々なミュージシャンに協力してもらっています。

―どのような手順で、音楽と映像を作っているのですか?

下浜:まず工場を訪問し、映像を撮影します。その時に、映像とは別に機械の音だけを、いくつかのパターンに分けて録音しているんです。音の素材を、その工場の映像にマッチしそうなミュージシャンに渡し、それをベースに音楽を作ってもらっています。出来上がった音楽をこちらで映像と組み合わせたものを見てもらい、最後に曲を少し調整してもらって完成させるという感じですね。

―「工場との相性」も考えてミュージシャンのアサインを決めるというのは、すごくユニークですね。

MOODMAN:工場ごとに特色がかなり異なっているので、なるべく親和性が高いミュージシャンの方が良い作品が生まれやすいんです。出来上がったものを観ると、工場やミュージシャンによってテイストがかなり違ったものになっていて面白いですよ。ぜひ、それぞれの出来上がりの違いをチェックしてみてください。

最初は、「よくわからんやつらが来たな」と思った。でも、良いやつらだったよ

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―坂本さんは、最初に下浜さんやMOODMANさんが工場を訪れて「機械音を音楽にしたい」という話をしたとき、何を思いましたか?

坂本:「なんだか、よくわからんやつらが来たな」と思ったよ(笑)。最初はそこまで乗り気じゃなかったんだ。

下浜&MOODMAN:(笑)。

―急にこのプロジェクトの話をされたら、それは驚きますよね(笑)。なぜ、プロジェクトに参加することに決めたのですか?

坂本:2人と話しているうちに、彼らの持っていた「町工場の魅力を伝えたい」という情熱が伝わってきたんだよね。だから、この人たちなら信用してもいいなと思ったんだ。

町工場ってのは、高い技術を持ってるところはたくさんあるけど、それを世の中に発信できる機会は少ない。うちが作ってる金具もそうだけど、小さな部品は製品になったときには隠れて見えなくなっちゃうからね。

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だからこそ、「2人のやっている活動を通じて、町工場の仕事そのものや技術力の高さが多くの人に伝わればいい」と考えて、参加することにしたんだ。

―プロジェクトに参加してみた感想は?

坂本:僕らにとっては、いつも当たり前にやっている仕事だから、彼らがそれを一生懸命に撮影したり、録音したりしていたのが不思議だったな(笑)。

でも、実際に出来上がったものを視聴したり、YouTubeにアップロードされた動画の再生数とかコメントとかを見たりすると、やっぱり嬉しかった。普通だったら、僕らのやっている仕事に触れない人たちが、たくさん見てくれてるんだってね。

―これをきっかけに、町工場が活性化されるといいですね。

坂本:町工場全体の経営が厳しい状況にあるって言われながらも、こうして毎日ご飯を食っていけているのは、職人の技術力を必要としてくれる人がいるからこそなんだよね。こうした技術が全部後世に残るのは、難しいことだと思う。でも、「今の日本のものづくりを支えているのは、こうした町工場の技術力なんだ」ということを、知ってもうらうきっかけになってくれたら嬉しいな。

INDUSTRIAL JPのグルーヴが、“世界”というフロアを揺らす

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▲坂本製作所で使用されている工業機械。重量感があり、機能美にあふれたそのフォルムは、そこに佇んでいるだけでも十分に絵になる。

―そうして2016年の10月から、YouTubeで動画の公開を開始。25万以上の再生数を記録する作品もあるなど、大きな反響を集めました。

下浜:本当にありがたいことです。周囲から「良いプロジェクトだね」という声を多くいただきました。それに、動画を観た様々な工場の方から、「自分たちの工場でもやりたい」と言っていただいています。僕たちの活動に魅力を感じてくれる人がいるというのは、とても嬉しいですね。

―今後は、どんな活動をしていきたいですか?

下浜:「自分の工場も」と手を挙げてくださっている方々をどんどん巻き込んで、より活動の幅を広げていきたいです。その魅力を最大限に伝えることによって、自分たちがプロジェクトを通して町工場を好きになったように、製造業へのイメージに良い影響を与えていきたいです。こんな素敵な機会を与えてくれた町工場のみなさまへ少しでも役立てれればいいなと思っているのですが…。

―MOODMANさんは、どうですか?

MOODMAN:今後、海外へも映像と音楽を発信していきたいという目標があります。実は、いま公開されている動画は海外の音楽関係者の反響がとても大きくて、「ぜひ一度コラボレーションしよう」と声をかけてもらっているんです。日本の町工場は、外国人から見ても十分に魅力的に映るんだということを確信しました。日本の町工場の素晴らしさや格好良さが、世界中の人たちに向けて届く。そんな日が来ることを夢見ています。

町工場のビートが、人々の心に届く

「町工場が好き」という、下浜さんとMOODMANさんの想いから始まったこのプロジェクト。その歩みが刻む小さな音のビートは、様々な工場の個性とハーモニーを奏で、今や多くの人々の心を揺らすグルーヴを生み出しています。

日本のみならず“世界”というフロアの上で、INDUSTRIAL JPはこれからどんな音楽と映像によって私たちを楽しませてくれるのか。そのセットリストに、乞うご期待です!

取材協力:INDUSTRIAL JP、坂本製作所

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