読者のみなさんは「まだ使えるけど不要になったもの」ってどうやって処分していますか?
捨ててしまうのはもったいないし、リサイクルに出すのも手続きが面倒くさい。どうしよう……。となって、結局、不用品がたくさん自宅に眠ったままの方も多いのではないでしょうか。(ちなみに筆者も、そのひとりです)
その問題を解決してくれるのが、地元の掲示板「ジモティー」。特定の地域に住む「ゆずりたい人(売りたい人)」と「もらいたい人(買いたい人)」をWeb上でマッチングさせることで、双方にとってメリットのある取り引きを実現してくれます。
今回の主人公は、ジモティーを開発・運用する株式会社ジモティーのシステム開発部 部長 橋本吉治さん。2016年に同社へジョインしたという彼。その入社理由は「子どもに良い日本を残すため」だったそう。
なぜジモティーが、“良い日本”に結びつくのか。実はそこに、このサービスが持つ「地域」という特徴が大きく関係していたのです。
地域の暮らしをつくる。クラシファイドサービス
橋本:どうぞよろしくお願いします。今日はお暑い中、ようこそおいでくださいました。
――こちらこそ、よろしくお願いします! まずは、ジモティーのサービス概要を聞かせてもらってもいいですか?
橋本:ジモティーは、誰でも無料で簡単に情報交換できる日本最大級の「地域の情報掲示板」です。クラシファイドサービスという形式のサービスになります。現在のアクティブユーザー数(MAU)は月間約650万人以上を超えて成長しています。
「○○県」とか「△△区」といった地域ごとに、不用品の売買情報やアルバイトの求人情報、空いている不動産の情報などを「ゆずりたい人」が掲載。その近辺に住む「もらいたい人」が連絡をすることで取り引きが成立します。
たとえば、「いらなくなった冷蔵庫を引き取ってください」といった情報を掲載すれば、冷蔵庫を欲しがっている方が引き取りに来てくれます。
――えっ!? お金を払って購入するケースだけではなく、無料でもらえるケースもあるんですか?
橋本:そうなんです! すごくお得でしょう。
売買情報の投稿がメインですが、他のカテゴリーも充実しています。たとえば、ジモティー上でママ友募集をしてシングルマザーさん同士がつながったり。近所で開催するお祭りの参加者を募ったり。本当にバリエーション豊かなものが出品されていますよ。
――でも、それだけ便利だと、きっと手数料とかお高いんでしょう?
橋本:いえいえ。ジモティーはユーザーから一切手数料を取っていません。広告収益で運営しているサービスなんです。
――めちゃくちゃ良心的ですね。なんだか私も使ってみたくなってきました。
ジモティーが地域の絆を再構築する
▲ペットの里親募集やサークル・コミュニティなどのメンバー募集、イベントの告知など、ジモティーで出品されているサービスは驚くほど多種多様だ。画像はジモティー公式サイト(http://jmty.jp/)より。
――橋本さんは、なぜジモティーに入社されたんですか?
橋本:ジモティーへの入社には、自分が持っていた「世の中にとって何かプラスになる仕事がしたい」という考えがかなり影響しています。
――その考えは、橋本さんがエンジニアになったばかりの頃から持っていたんですか?
橋本:いえ、昔はどちらかというと「自分のスキルをもっと磨きたい」という気持ちの方が強かったです。でも、結婚して子どもが生まれてから「自分の技術を磨くだけではなく、子どもに何かを残してあげなければ」と思うようになりました。
――ジモティーのどのような部分に「子どものためになる」要素があるのでしょうか?
橋本:順を追って説明すると、現代の日本人の人間関係って希薄になっているなと私は感じているんです。たとえば、ご近所さん同士のつながりが昔と比べるとどんどん弱くなっていますよね。一方で、SNS上のコミュニケーションは深くつながり過ぎている状態になっています
――たしかにそうですね。「SNS疲れ」みたいな言葉も、最近よく聞くようになりましたし。
橋本:そうそう。たとえばSNS上でフォロワーがたくさんいる人はよくあることだと思うんですけど、書いた内容に対する相手の反応を気にして、だんだんと無難な投稿しかできなくなってしまったりするじゃないですか。
それって、なんだか息苦しいですし違和感のある人間関係だと思ったんです。そうではなく、かつての日本がそうだったように、地域の情報をベースとした緩やかなつながりができれば、人と人とのコミュニケーションってもっと心地よくなるし素敵になるだろうなと考えたんですね。
――「地域の情報をベースとした緩やかなつながり」。なるほど、それがジモティーに興味を持った理由だと。
橋本:そうなんです。ジモティーというサービスを通じて「地域」というコミュニティの再構築がしたかったんですね。それが実現すれば、自分の子どもにとっても、きっとプラスの影響があるだろうと考えました。
取り引きの1つひとつにドラマがある
▲ミーティング中のエンジニアチーム。雰囲気の良さが、その表情から伝わってくる。
――ジモティーをきっかけにして、その地域のコミュニケーションが活性化された事例はありますか?
橋本:実は最近、自分自身がユーザーとしてそういう体験をしました。
先日、私は引っ越しをしたんです。それで、古いものを誰かに譲ろうと思って0円でジモティーに出品してみると、なんとすぐ近くに住んでいる人が「欲しいです」と書きこんでくれて。それを機につながりができました。
――それはすごい! 近くに住んでいる方でも、そういう機会がないと会話することなんて滅多にないものですよね。
橋本:そうなんです。ちなみに余談ですが、そのときは「家具を0円で頂いたので、代わりにフルーツいりますか?」と言ってもらえて、フルーツを頂きました(笑)。
――ほほえましい(笑)。
橋本:他にも、小さいお子さんのいらっしゃる家族同士が子ども用の服やオモチャなどをジモティーでゆずり合い、それが縁で友人になったという話も聞きます。
それから、ある地域で使われなくなったお神輿をジモティーに掲載したところ、隣町に新しくできたマンションの組合の方々が「貰いたいです」と書きこんで、話しが盛り上がって、一緒に譲渡式をやることになったりとか。
――取り引きの1つひとつにドラマがあるんですね。
橋本:他にも、数えきれないほどそういった事例がありますよ。
――なんだか不思議ですね。ジモティーを通じて、かつて日本にあった「ご近所付き合い」が再構築されているというか。
橋本:そうですね。これは、他のEC系サイトにはない、地域に特化したジモティーだからこその特徴だと思います。
ちょっと話が変わりますが、昔の日本では町内の「世話焼き係」みたいな人が仲介に立って、人と人を会わせたり、何かをゆずったりもらったりという光景が当たり前のようにあったじゃないですか。
それに近い役割をジモティーが担っているのかもしれないですね。
ジモティーを社会のインフラにしたい
――ジモティーをこれからどのようなサービスに育てていきたいですか?
橋本:私たちは、ジモティーを最終的に「社会のインフラ」にしたいと思っています。ガスや水道と同じように「日本全国どこでも、ジモティーをひねれば欲しい情報が出てくる」状態を実現したいです。
――インフラになる、というのはすごい目標ですね。
橋本:これは当社の代表取締役社長である加藤がよく話す例なんですが、誰かがどこかに引越したとしても、ジモティーを使えば家具や家電をもらえて、住むところや働くところも見つけられて、その地域に定住できる。そして、その地域の人々との交流も生まれて愛着が湧く。というところまで達成したいと思っています。
そんな世界が実現できたら、きっとすごく暮らしやすい世の中になるじゃないですか。
――それが実現して日本中の人たちがジモティーを利用するようになれば、人々の文化はどのように変わってくると思いますか?
橋本:安価もしくは無料で物やサービスのやり取りができる世界になると、人間の持っている「信用」が価値を持つようになってくるのかもしれないと思っています。
――それは、どういうことですか?
橋本:ジモティーでは売り手と買い手が取り引きの後にお互いを評価するんですが、良くない行動(約束をしたのに待ち合わせ場所に来ないなど)をした人は、当然ながら低い評価をつけられてしまうんです。
私たちがこうしたサービスで誰かとやり取りをするか決める際、絶対に「過去にその人につけられた評価」をチェックするじゃないですか。だからこそジモティーが普及するにつれ必然的に、「人間的に信用できる人」であるかが重要な世の中になっていくんじゃないでしょうか。
――デジタルの力によって、古くからあった「人間性」や「人間同士のつながり」といったアナログなものの価値が高まってくるなんて、なんだか不思議ですね。
橋本:確かに、不思議ですよね。
それに関連して最後に話したいことが1つあって、私は社会人になってから16年くらい経つんですが「これまで働いてきた中で、ジモティーは最も良いメンバーが揃っている会社だな」とよく感じるんです。
それはどういう部分においてかというと、人間性の良さ。とにかくみんな高い志を持っていて、素直で良いメンバーなんです。だから、「開発しているサービスが人を呼ぶんだな」と思うときがよくありますね。
だからこのメンバーと、「地域」や「人」を軸にしたサービスを開発できるのは、大きなやりがいがあります。ジモティーで働いていて本当に良かったです。
――心温まるエピソードをありがとうございました。これからも、ジモティーがより素晴らしいサービスになっていくことを楽しみにしています!
取材協力:株式会社ジモティー