※この「エンビジ!」では、エンジニアに役立つであろうビジネス書をご紹介しつつ、著者の方にもお話を聞いていきます。
さて、今回のテーマは「NO.1になる秘訣」です。
エンジニアとしてNO.1になりたい、プログラマとしてNO.1になりたい、アプリ開発でNO.1になりたい、といった願望をお持ちのエンジニアに向けて、“その道のNO.1”からお話しを聞いていこうと思います。
お話しを聞くのは『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 』(祥伝社)という本の著者でもある、小野正誉さん。
――こんにちは、よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。小野正誉(おのまさとも)です。
――丸亀製麺は私も大好きでよく食べています。この本の著者である小野さんはどういった仕事を担当されているんですか?
いつもご愛顧いただきありがとうございます。私は丸亀製麺を運営する株式会社トリドールホールディングスのIRや社長秘書を担当しています。
丸亀製麺で一番売れているお店の秘密
――丸亀製麺と言えば、いつも賑わっているイメージがありますよね。
ありがとうございます。ちなみに一番売れているお店って、どのあたりの地域か分かりますか?
――え、やっぱりビジネスパーソンが多いビジネス街とかですか?
いえ、実は羽田空港店なんです。
――羽田空港店! そういえば行ったことありますね。飛行機に乗る前に立ち寄ったような。でも別に大混雑でもなかった気がしますが。
ええ、あの店舗はピークがないんですよね。
ピークがなく常に賑わう羽田空港店
――そうか、飛行機に乗る前にちょっと小腹を満たそうという感じだから「ランチタイム」とか明確な時間がないんですね。
そうなんです。一般的な店舗だと売上の6割くらいがランチタイムに集中するんですが、羽田空港店はそういった波がほとんど無いのです。
――常に一定して混んでいる感じなんですね。それはそれで大変そうですけども。
そうですね。何か問題があるとすぐに行列が長くなってしまいますので、流れをスムーズにしなければいけないわけです。そうしなければ、売り上げをさらに伸ばすこともできません。
――流れをスムーズにするために、何をされているんですか?
徹底的にムダを取り除いてきました。
――ムダを取り除く。それは従業員の動きとか?
いえ、客席側のオペレーションのムダに注目しています。お客様の動きをよく見ていると、動きにムダがあるんです。たとえば、天かすを取りに行ったり、お替りの水を汲みに行ったりとか。食器を返していただく際もそうですね。
――なるほど、店内をウロウロしてしまうような動きですね。
ええ、お客様をムダに歩かせてしまってはいけません。そこで、そういった動きをいかに減らせるかを考えて、天かすを取れる場所を増やしてみたり、レジを増やしてみたり、と色々考えながら試しました。お客様側のボトルネックを減らすという発想ですね。
――そうか、それアプリの設計でいえば、UIをいかに改善してUX(ユーザーエクスペリエンス)を高めるかっていうのと同じ発想ですよね。
そんな単語は初めて聞きましたが、そうなんですね。飲食業界では売り上げを増やそうとするとメニューを増やしたり単価を上げたりという発想になりがちですが、私たちは「お客様の居心地をいかによくするか」と考えているわけです。
――スムーズに動ければ結果的に回転も早くなりそうですものね。
結果的に、ということですね。お客様に向かって「早く出ていってくださいね」なんて言えませんから、いかにスムーズに過ごしていただけるかを考えている、と。
――逆に居心地を悪くして回転率を上げようとするお店もありますよね。椅子を座りにくくしたりとか。
そういうのも業界内では聞いたことはあります。でも、長期的に見たら逆効果だと思いますね。もっと長い目で見てお客様に喜んでいただかなければなりませんから。
アナログとデジタルの最適化を図れ
――なるほど。でもその「ボトルネック」ってどうやって確認しているんですか?お店の人は常に忙しくて見ていられないと思うんですが。
それは本社のマネージャーが現場でジッと見たりしています。“定点観測”のような感じですね。それに、防犯目的のカメラも設置してありますが、それも活用してお客様や従業員の動きを確認したりもしています。
――へえ、強盗が来たりした時の対策だけでなくお客様の動きを分析しているんですね。
ええ、丸亀製麺には「カメラサポート部隊」というのがいるんです。カメラをチェックしながらお客様の動きやお店の状態を確認する。例えば商品の陳列の状態とか、看板の配置だとか、細かくチェックしているんです。
――遠隔でそんなこともやっているんですね!
まあ、店舗数が多いですから、マネージャーが一日に全店舗を回るなどは物理的にも無理ですし非効率ですからね。そこはITの力を駆使しています。
――ITの力を駆使して、という話ですが商品を作ったり接客をしたりという部分でのIT化は進んでいるんですか?
いえ、何でもかんでもIT化ではなく、泥臭く手を動かすところは動かしています。丸亀製麺でいうとうどん作りは命ですから、そこはひたすら手を動かします。ただ、期間限定フェアが始まったからPOPを取り替えようとか、陳列をしっかりやろう、といった部分はITを活用して確認している。アナログとデジタルのバランスを最適化させているという感じですね。
――なるほど。先ほどムダ取りという話がありましたが、お客様の動きのムダ以外に意識しているムダってあるんでしょうか。
社内のムダも意識していますね。特に「会議」でしょうか。
――ああ、会議はムダが多いですよね。
昔は会議をじっくりやっていたんです。毎週月曜なんてほぼ1日会議で。でも結局のところ単なる報告会になっていたりして、その報告のための資料を作ったりしていて。まさにムダですよね。そうではなく、テーマが原価改善だったらそのプロジェクトを作り、関係するメンバーが社内SNS上でグループを作って進捗を確認し合うと。
――なるほど、社内SNSで。
ええ、そうすれば同時進行でプロジェクトを走らせることができますからね。参加意識も高くなりますし。
――SNSというのは具体的に何を使っているんですか?
トークノートですね。メールも使いますが、ほとんどがトークノートでやり取りされています。メールだと長く書く人とか、CCいれまくる人とか、CCだとスルーする人とか。認識のずれがありますからね。
――なるほど、ここでもITの力を駆使して、というわけですね。
そうですね。ここはデジタルで。
とにかく「PDCA」を早く回している
やはり現場でお客様に向かう時間をいかに増やせるか、という軸で常に考えています。もともと現場の店長も報告業務やら事務作業が多くて店舗の奥の事務室にこもってしまうこともあったんです。
――ああ、小売店舗ではありがちな感じですよね。
でもそれは本来間違っていて、われわれは何故仕事をしているかというと、「足を運んでくださるお客様にいかに満足していただけるか」ということなのです。ですから、そこを軸に考えていったわけです。
――そうか、だからこそ羽田空港店でも「お客様がいかにムダな動きをしないか」と考えているわけですね。
ええ。最近は人手不足がどの業界でも深刻になっていますが、じゃあ人が少ないから天ぷらは自動フライヤーで機械的に作るのか?というと、それは丸亀らしくないわけです。守るべきところは守り、無駄を取れるところは取る。その判断軸はすべて「お客様」を軸にしているわけです。
――なるほど。社風としてはどうなんでしょうか。
とても動きが早いですね。ビジネスのフレームワークで言われる「PDCA」の回し方が早いというか。すぐに動いてすぐに修正しようという感じです。
――へえ、なんともアジャイル開発的な、ITベンチャーの発想っぽいですね。
私は特によく感じていますね。私のデスクは社長室のすぐそばにあるんですけど、ひっきりなしに人が出入りしているんです。
――重要な会議で2時間くらい話し込んだりとかしないんですか。
いやいや、ありえないですよね。サクサクと決めています。例えば先日も何かの打ち合わせで誰かが「では来週の火曜にまた打ち合わせをしましょうか」と言ったら、社長が「いや遅い遅い。今15時やから17時からもう1度集まろう」と言って召集されたというケースもあります。
――なるほど、もうその日のうちにと。
創業者というのは「せっかちだ」とかよく言われますけども、いい意味でスピード感がありますね。どこかで流行っている店がある、と聞くとその日には行かれたり。でも動きが早いというのは失敗してもすぐに修正できますからとても良いことだと思っています。
――ITの世界だとすぐに修正とかしやすいですが、飲食業界でそういった動きをするのは珍しいのでは?
そうですね。他社から新しく入ってきた人はそのスピードに驚きますし、社長にすぐアクセスできるということにも驚きますね。社長室もガラス張りですし。でもこの会社にいるとこのスピードが当たり前になりますね。どんな環境に身を置くかは大事だと思います。
うどんのつくり方を伝授する「麺匠」は社内に1人
――そういえばこの本に、「麺匠は1人である」って書いてあったんですけど、ちょっと詳しく教えてください。
はい。丸亀製麺には「麺匠」と呼ばれる社員が一人だけいまして、藤本智美(男性)さんという方です。
――「麺匠」ってなんだかすごい職人感がありますけど、何をされているんですか?
麺匠というのは全国の店舗を巡回して、うどんのつくり方を伝授する達人のことです。うどん以外のメニューの指導や、パートナーさんたちの接客やマナー的な指導も行っています。あと最近では麺職人の育成にも力を入れていますね。
――創業からずっとその方が?
いえ、丸亀製麺の1号店の製麺担当者が初代の麺匠で、丸亀製麺の味を決めたのは、その初代の麺匠と粟田社長です。そして、その後を継いだのが藤本さんというわけです。
――麺匠というのはどこかで修業をされたりするのでしょうか。
本場讃岐の多くの名店を食べ歩き、今も研究は続けていますが、どこかのお店で修行をした訳ではありません。
――あくまで独自の味を追求している、と。
そうです。香川県には約900軒のうどん屋があると言われていますが、一軒一軒、味も特徴も違うんです。丸亀製麺は本場の香川県にある一軒の讃岐うどん屋のつもりで営業しています。
――なるほど。麺匠は店舗でうどんのつくり方を伝授するということですが、具体的にはどういったことを教えているんですか?
うどんはシンプルなだけに繊細なんです。丸亀製麺では、小麦粉、塩、水の分量はその日の気温などに合わせて細かく調整されています。
――へえ!
配合以外は製麺機でやっているとはいえ、麺匠の藤本さんは妥協を許しません。製麺担当者には、小麦粉の袋の開け方や、空になった袋の扱い方まで、基本的なことから丁寧に教えています。一袋12. 5キロの小麦粉に対して、水と塩をきっちり計量し、塩と小麦粉は“一粒”まで、水は“一滴”まできっちり入れるということを教えたりしています。
――うわあ、細部まで徹底されているんですね。ああ、何だかうどんが食べたくなってきました。。
それなら実際にお店へ足を運んでみてください。実はちょうどこの本の帯に、うどんのチケットも付いています。
――本の帯にうどんのチケット?……ホントだ!
なんと、うどん無料の試食券が付いている
こちらを切り取って店舗にお持ちいただくと、釜揚げうどん(並)が一杯無料になりますので。
――では本を読んで気持ちを盛り上げてから丸亀製麺に行けば、より美味しく感じられそうですね!
はい、ぜひともご来店ください。
今回はこちらの本をもとにインタビューさせていただきました。
『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)
著者の小野さん、ありがとうございました!
取材協力:株式会社トリドールホールディングス
取材+文:プラスドライブ