生まれたばかりの技術の多くは、そのままでは利用できないことが多くあります。
その技術を製品へと磨き上げるのは、ニーズを読みそのニーズに合わせて開発を行い、何度も失敗を繰り返しながら製品化へと導くエンジニアたち。
近く創立50周年を迎える、ソフトウェア・システム開発企業、データプロセス株式会社が開発した「ぴあ電さん」は、そんな新技術の製品化に挑戦して生まれた製品です。

インターネットを介さず、ブラウザのみでテレビ電話が行える技術「WebRTC※」の活用方法を模索する中で生まれた「ぴあ電さん」。
※WebRTC
WebRTCとは、ビデオや音声データをブラウザ間で直接やり取りできるようにした技術(RTCは「Real-Time Communication」の略)。WebRTCの機能を利用することで、ネットに繋がっていなくても、ブラウザを使ってビデオ・音声チャットのやり取りができる。
「WebRTCを利用した『ぴあ電さん』とはどのような製品なのか?」
「エンジニアは生まれたばかりの技術をどのようにして製品へと磨き上げていったのか?」
「ぴあ電さん」を開発したデータプロセス株式会社のエンジニア江見佳奈代さん、太田浩彰さんと営業担当の小西国造さんの3名に詳しくお話を伺いました。
企業のシステムとの連携も可能。工場の新しいコミュニケーションツール!

ぴあ電さんの最大の特徴はインターネットにつなげずに利用できる点。「ネットにつながらずに機能すること」のメリットとは何なのでしょうか?
まずは、ぴあ電さんの機能について営業の小西さんとエンジニアの太田さんに伺います。

「ぴあ電さんは、インターネット環境が無くても利用できるテレビ電話です。スマートフォン、タブレット、PCなどで利用することができて、工場や駅といったネットがつながらない特殊な環境のコミュニケーションツールとしてご利用いただいています」
工場や駅などの作業現場は、情報漏えいを防ぐために厳しいセキュリティ要件を設けており、今でもインターネットが使えないところが多いとのこと。
ネットがつながっていれば、スカイプなどでコミュニケーションが簡単に取れるものの、ネットがつなげないために、現場と事務所を何度も往復するなど、工場ではコミュニケーションに非常に時間がかかっていました。

「ぴあ電さん」を利用することで、リアルタイムで事務所とコミュニケーションが取れるため、コミュニケーションにかかっていた時間を大幅に削減することができます。
さまざまな工場の中でも特に便利なのが、生産ラインがクリーンルームになっているところ。
生産物に厳重な気密性や精度が求められる場合、生産ラインから事務所に問い合わせがあると、エアシャワーを浴びる、防塵服を着用するなど、入場するまでにかなりの時間が必要です。

ぴあ電さんを導入することで、生産ラインに入ることなくテレビ電話で状況を確認することができるようになるため、クリーンルームの入退場という時間を大幅に削減できるのです。
このような「ぴあ電さん」の機能は、工場だけでなく鉄道会社でも活用されています。
「ある鉄道会社さんでは、駅の設備に問題が発生したとき、スタッフが本社と駅を何度も往復して対応にあたっていました。テレビ電話を利用すれば、行き来の回数を減らすことができたのですが、インターネットを利用すると駅のデータが流出してしまう恐れがあるため、利用できなかったそうです。そこに「ぴあ電さん」を導入することで、駅と本社の往復を最小限に抑えることができるようになったんです」
工場や駅など、ネットがつなげない環境での作業効率を改善する「ぴあ電さん」。
コミュニケーションだけでなく、企業が利用している既存のデータベースやシステムと連携できるのも魅力で、作業手順書や点検簿など、業務システムとテレビ電話を連携させることで、利便性をより高めることができます。
「タブレットの片方に作業手順書などのデータを出し、片方に映像を映すことで、作業がわからなくなったときに、まるで隣で教えてもらっているかのように、同じデータ、同じ映像を見ながら説明を受けることができます。テレビ電話を中心に、業務システムの簡略化やタブレットへの移行など、トータルで業務効率化が行えるのが、ぴあ電さんの最大の魅力ですね」
テレビ電話と業務に合わせたカスタマイズで、コミュケーションだけでなく、さまざまな業務改善に役立つ「ぴあ電さん」。
「WebRTCを利用した製品を作ってみよう」という実験から始まったというこちらの製品は、どのように開発されたのか?
「ぴあ電さん」の開発を進める、江見さんと太田さんのお二人に、開発プロセスについて詳しく伺いました。
仮説と実施、失敗を繰り返しながら正解を探す開発プロセス

ぴあ電さんの開発がスタートしたのはおおよそ2年前。
ビジネス・インフラのソリューションなど、システム開発を中心に行っていたデータプロセス株式会社が、新しい事業の開拓として新技術に挑戦したのがきっかけです。
開発を最初に依頼されたのはエンジニアの江見さんだったといいます。

「Web ブラウザでリアルタイムコミュニケーションができるWebRTCが当時出てきたばかりで、この技術に着目して製品開発をしてみようというのが最初のきっかけでした。営業から『インターネットを使わずにテレビ電話ができるシステムをWebRTCでできないか?』という相談が来て、当初は私一人で開発をはじめました」
元々システム開発の案件で、さまざまな工場との取引があったデータプロセス株式会社。
営業の小西さんが、いくつかの工場に「ぴあ電さん」のコンセプトを話したところ、ニーズがあることがわかり、江見さんに相談を持ちかけたところから開発がスタートしました。
開発スタートから製品化まではおおよそ4ヶ月。
開発当初は情報がほとんどなく、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら作業を進めたとのこと。

「WebRTCを使った製品がまだなかったので、見本がないというのが開発の難しさであり、楽しさでした。プログラムを見ながら仮説を立てて、動かしてみる、うまく動かなかったらまた微調整して、もう一度動かすという繰り返しですね。失敗を繰り返しながら正解を見つけていくという感じです」
当初は江見さんひとりだったものの、開発が進むにつれてメンバーが増えていきました。
太田さんは、開発の途中からサポートとしてメンバーに加わったひとり。
「ぴあ電さん」の開発に関わる中で、新技術を利用することの難しさを感じたといいます。

「新しくでてきたWebの技術はW3C※という団体で技術の標準化が行われて、ある程度技術の規格が固まります。私たちがWebRTCを使っていたときは、まだ標準化が行われる前だったので、開発途中でWebRTCのシステムに変更があったんです。それによって開発を進めていた部分が使えなくなるなど、新しい技術ならではの難しさがありましたね」
※W3C
WWW(World Wide Web)上で利用される様々な技術の標準化を推進することを目的とした非営利団体の名称。
新技術とはいえ、Webの技術はアップデートを繰り返しながら進化していくもの。
特に発表された直後は、問題点が多く、とにかく試行錯誤を繰り返しながら答えを見つけていくしかないといいます。
「一行ずつコードを解読して、問題がどこで発生しているのかを見つけるんですが、見たことがないコードがたくさんあるんですよ。そのコードの意味を調べたり、前後のコードからおおよその役割をイメージしたり、開発をしながらこちらも学んでいくという感じです。根気が必要な作業ですが、自分が立てた仮説があたって、思い通りに動いたときは本当にうれしかったですね」
新技術を利用した製品開発は、苦労は多いものの、その分やりがいも大きいと江見さん。
「〇〇が解消できるシステムがほしい!」というお客さんや営業の想いを、自分たちの技術や知識でカタチにできるのが、エンジニアという職業の腕の見せどころ。
開発スタートから4ヶ月、知識と技術をフルに使い、さまざまな試行錯誤を経てWebRTCを磨き上げ「ぴあ電さん」が完成しました。
開発は「なぞなぞ」?試行錯誤を愛するエンジニア

苦労はあるものの、新技術を使った開発に携われることは、エンジニアにとって大きな魅力。
「新しい技術を使って『世の中にまだない製品を作りたい』という想いはありますね。自社開発の製品なので、自分たちのアイデアを自由に試すこともできますし、今後もぴあ電さんを進化させるために、さまざまな機能を追加していく予定です」
現在は江見さん太田さんを含めて5名~6名のメンバーで開発を進めています。
今後も、利用シーンに合わせて必要な機能をどんどん追加していくとのこと。
工場や駅以外にも利用シーンを広げていくのが今後の課題とお二人。
「ぴあ電さん」の利用用途は、お客さんから「こういう使い方がしたい」と提案してもらう機会も多いようで、その他のシステムと連携することで、可能性は無限に広がります。
「新しい技術でこういうものを作ってほしいっていう提案が来たときは、なんとなく『なぞなぞ』を与えられたような気分なんです。どうやって解こうって考えたり、何を足したら解読できるんだろうって試してみたり、開発をしながらどんどん夢中になっていきますね」
なぞなぞを与えられた子供のように、難題があると開発に夢中になっていくと江見さん。
知識と技術を総動員して、夢中になって開発を楽しむエンジニアが「ぴあ電さん」の機能を極限まで磨き上げていきます。
進化を続ける「ぴあ電さん」は、どのような製品へと進化していくのか?
ぴあ電さんの今後の展望に要注目です!