ミラーと映像でリハビリナビゲーションを行う「デジタルミラー」。
パナソニック(株)エイジフリービジネスユニットが、企画・開発を行うこの製品は、介護現場に新しいリハビリスタイルを提案するプロダクトとして、注目を集めています。
“ゲーム感覚で楽しくトレーニング”
“便利な連続訓練メニュー”
“撮影・データ比較によって効果が見える機能”
多彩な機能を搭載するデジタルミラーは、リハビリ効果の向上、介護スタッフの負担軽減を実現します。
▲高橋伸彰さん。エイジフリービジネスユニットのオフィスにて
それでは具体的に、どのような機能・特徴がリハビリに効果的なのか?
エイジフリービジネスユニットでデジタルミラーの開発を担当する高橋伸彰さんに、詳しく伺いました。
長く楽しく続けるための工夫が満載!
デジタルミラーは、本体に、ディスプレイ・ハーフミラー・パソコン、重心などを測定する立位バランス計及び座位バランス計、正面カメラ及び横からの動作を確認できるオプションカメラで構成される製品。
さらに、内部にリハビリプログラムを組み込んだソフトウェアが搭載されており、ソフトウェアとハードによって、リハビリの可視化、数値化・定量化、記録・比較が行えるとのこと。
実際にプログラムを実演しながら、高橋さんにその魅力を紹介していただきました!
まずは「ストレッチ」。
ミラーに映し出されたデモ映像に合わせてストレッチを行います。
「正面の姿勢はミラーを見ながら、横の姿勢はオプションカメラの映像をディスプレイに映し出すことで、ストレッチ時の正しい姿勢を確認できます」。
正面と横から映像に合わせることで、手軽に効果的なストレッチが可能になるとのこと。
続いて、上肢の可動域を拡げるトレーニング「上肢運動 シャボン玉割り」。
▲付属の赤と緑の色玉。独自の色認識機能を使うことで、色玉を動かすユーザーの動きをトレースできる
「色玉を画面の前に掲げると、ディスプレイにも同じものが表示されます。ランダムに現れるしゃぼん玉に色玉を当てると、しゃぼん玉が割れポイントが換算されます。早くシャボン玉を割れば、高いポイントがつく設定になっており、ゲーム感覚で楽しみながら肩から腕までのトレーニングが行えます」。
こちらは介護予防につながる筋力トレーニング「筋力 足踏み運動」。
犬の散歩をしながら、クイズと答えが交互に現れるシステムで、単調な足踏みという動作を楽しく続けることができます。足踏みをすると、犬がどんどん前進し「こたえ」の場所まで行くと木の標識がひっくり返り、答えがわかります。
▲足踏みは立位バランス計で計測。身体の重心を捉えるセンサーが使われている
「足踏みとクイズを組み合わせることで、身体と頭の運動を同時に行えます。また、現在位置の表示としては、歩数を1歩が10メートルとして『江戸からスタートして京都までたどり着く』というゲーム性を盛り込んでいます。ご利用者さん同士で『どこまで行った?』というコミュニケーションにもつながっているようで、人気プログラムのひとつですね」。
そして、最後にバランス力を鍛えるトレーニング「バランス 金魚すくい」。
「バランス計に乗り、前後左右に重心を動かすと、ミラーに表示された網が動きます。重心を動かしながら金魚の近くまで網を持っていき、1秒ほど体勢を保持すると金魚をすくうことができます。重心の移動と体勢の保持を同時に行い、歩行に必要な筋力とバランス感覚を鍛えることができるんです」。
寝たきり予防のためにも、歩行に必要な最低限のバランスと筋力を維持することが大切だといいます。長く楽しくリハビリを続けられるよう、ゲーム性を多く取り入れ、利用者さんのモチベーションにつなげているとのこと。
また、これらのプログラムの他「連続訓練メニュー」もデジタルミラーの特徴だと高橋さん。 「利用者さんに合わせて個別にプログラムを設定して、10分前後の連続したトレーニングを続けることができる仕組みです。自動でプログラムが進行するので、介護スタッフの負担も軽減できます」。
さらに、個別にデータを保存して、過去と現在を比較できる「履歴表示メニュー」やトレーニングの成果がわかる「らくらく測定」など、リハビリの効果を実感できる機能を搭載。
デジタルミラー上でリハビリを「可視化、数値化・定量化、記録・比較」することによって、ユーザーのリハビリ意欲の向上を実現しています。また、デジタルミラーを活用してリハビリを行うことで、介護スタッフの負担軽減にも成功しました。
理想は施設内の訓練/測定データの一元化
リハビリが抱えていた課題を解消し効果を向上させるデジタルミラー。その開発がスタートしたのは、2007年。(旧)松下電工(株)の研究所にいた技術者が、鏡に情報を表示する製品開発に取り組んだのがきっかけ。
当初は、家庭で使うものとして開発がスタートしました。
そのころ、まだ高橋さんはプロジェクトメンバーではなかったといいます。
「試作を繰り返すうちに、『介護・医療など、身体を動かす現場で使うことができるのでは?』という方向に話が進んだようです。プロジェクトがスタートして2年ほど、2009年に医療/介護に向けた製品開発という方向性が定まり、現場での実証がはじまりました」。
国際的な展示会などへの参加を経て2012年の7月に発売を開始。
現在の開発メンバーは、2011年からプロジェクトに参加した高橋さんと、ソフトウェアを担当するエンジニアの2人。
そこに社内外の技術協力を得ながら、リリースから4年が経過した現在も製品の改良を続けています。
「現場からのフィードバックを元に改良の方向性を決定します。仕様をまとめて、社内外で作業を進めて、検証作業を経てリリースという流れですね。これまでに3度のバージョンアップを行っています」。
また、ソフトウェアを動かすパソコンのモデルチェンジも年に1回程度行うとのこと。
パソコンの選定、配線の変更など部品の交換を施し、ハード面もアップデート。
最終的な理想は、デジタルミラーで施設内の訓練/測定データを一元化することだといいます。
「介護施設には、デジタルミラーの他にも様々なリハビリ機器があるんです。それぞれの計測データや訓練データをデジタルミラーで一元管理できるのが、私が考える理想の形ですね。施設にとってはデータ管理が容易になりますし、利用者さんにとってはよりわかりやすくリハビリの効果を確認することができます」。
しかし、実現するにはさまざまな課題があるとのこと。
まずはエイジフリー製品での一元化からチャレンジしてみたいと高橋さん。
デジタルミラーの進化によって、これまでのリハビリの当たり前が、どんどんと覆されていくのかもしれません!
ver5ではどのような改良が加えられるのか?
今後の製品改良にも、要注目です。
利用者と開発者の距離を縮めるエイジフリーの仕組み
最後に、デジタルミラーにエンジニアとして関わるやりがいを伺いました。
高橋さんによると、それは「利用者さんに直接話を聞けるところ」とのこと。
「リハビリ機器の開発では、グループで運営する介護施設や病院などと直接やり取りしています。そのため、開発者である私が直接現場に行って、施設のスタッフさんや利用者さん、病院のセラピストの方々にヒアリングすることができるんです」。
パナソニック エイジフリー株式会社が介護施設の運営を行なっていることから、利用者と開発者の距離が近いのだといいます。
「直接現場に行って利用者さんに会うことで、こういう人が困っているんだとか、あの人がこう言っていたなとか、人の顔が頭に浮かぶんです。こういう感覚はエンジニアになってはじめての感覚ですね」。
開発者が利用者のニーズを直接受け取り、改良に反映できる環境。
利用と開発がキレイに循環するエイジフリーの仕組みが、より実用的な改良を可能にしています。
また、ヒアリングを重ねることで、新しい商品の開発につながる発想や課題を見つけることができると高橋さん。
▲離床アシストロボット「リショーネ Plus」。パナソニック エイジフリー株式会社の新製品 「ベッド」と「車いす」が融合する新発想ベッド
介護・医療現場のさまざまな課題を解決するパナソニック(株)のエイジフリー事業。
デジタルミラーに続き、これからどのような製品が生まれるのか?
介護業界にインパクトを与える開発は、これからも続いていきます。