※この「プロにキク!」では、毎回その道のプロに話を聞いて、私たちエンジニアに効きそうなノウハウをシェアしていきます。
さて、今回登場いただくプロは「障害者雇用を成功させるプロ集団」です。
障害者というとネガティブなイメージがあるかも知れませんが、近年ではそのイメージも変わりつつあります。
数々の名作を作った映画監督のスティーブン・スピルバーグも、自らがADHD(注意欠陥多動性障害)であることを告白しています。
そこで、「実際に障害のある方に対して、どのような仕事の支援をしているのか聞いてみよう」ということで、障害者雇用の支援をしているパーソルチャレンジを訪れてみました。
――パーソルチャレンジの吉田さん、早川さん、よろしくお願いします。
お二人:はい、よろしくお願いします。
パーソルチャレンジのお二人。 左:早川さん 右:吉田さん
高い可能性を持った障害のある方が多数いる
――今回は事前に御社のことを調べてきたのですが、次のような情報であっていますでしょうか。
・会社名:パーソルチャレンジ株式会社
・創立年:2008年
・ミッションステートメント:「障害者雇用を、成功させる。」
・主な事業内容
▼障害者専門の人材紹介事業
「dodaチャレンジ」・・・国内最大級の求人数を持つ転職・就職支援サービス
▼法人企業向け 障害者雇用コンサルティングサービス
▼障害者の雇用支援事業
「ミラトレ」(就労移行支援事業)・・・就職率98%、定着率80%
▼特例子会社として、パーソルグループ各社の業務を受託
吉田さん:調べていただきありがとうございます。そうですね、弊社の強みは障害者に対する支援の領域が広いことです。
――障害者向け求人数が日本最大級というのもすごいですが、就労以降支援事業所の就職率や定着率も高いですよね。
吉田さん:そうですね。日本全国で訓練をしても就職できない就労以降支援施設の割合は約30%におよびます。私たちの事業所ではなぜ就職率も定着率も高いかというと、それなりのノウハウがあるからですね。
――言える範囲で構いませんが、具体的にどういったノウハウなのでしょうか。
吉田さん:簡単に言えば、“就職の先にある定着まで見越した支援をしている”ということでしょうか。障害者の就労移行支援には色々なものがありますが、私たちがやっている「ミラトレ」では“疑似就労”というのが特徴の一つかと思います。
――疑似就労?
吉田さん:つまり、事業所をオフィスに見立て、本当の職場環境さながらの中で実際の会社で行うような業務の実習をしているというわけです。私たち自身が障害のある多くの社員が活躍する会社なので、“オフィスではたらくこと”に対して、障害者と企業側、両方の視点を持って支援ができています。そういった取り組みをするなかで気付いたこともありました。
――気付いたことと言いますと?
吉田さん:はたらくことに関して高い可能性を持った障害者の方が多数いる、ということです。実際に障害のある方は就職先が見つからないとか、見つかってもすぐ辞めてしまうというケースがあるのですが、“その方に合った職に就くことができていない”ことなども原因になっています。
――仕事のマッチングが合っていない、と。
吉田さん:はい。例えばですが、「プログラミングなどを駆使したITの専門職に就きたい」方が「データ入力しかやらせてもらえない」などのミスマッチが起きているのです。
――本当はもっとハイレベルな仕事ができる、ということですね。
吉田さん:ええ。ですので、障害のある方でもしっかりと活躍できるように、新しくIT特化就労移行支援の「Neuro Dive(ニューロダイブ)」というサービスを始めることにしました。
IT特化型就労移行支援「Neuro Dive(ニューロダイブ)」とは?
――“IT特化型就労移行支援”、というのはどういったものなのでしょうか?
吉田さん:はい。こちらで学べるのは“先端IT”と呼ばれる「データサイエンス」や「機械学習」です。
Neuro Dive(ニューロダイブ)
https://challenge.persol-group.co.jp/datascience/
――機械学習まで学べるんですか!
吉田さん:ええ。企業の即戦力として活躍する人材を育成・輩出することを目指しています。もちろん他にも、業務スキル面以外のコミュニケーションスキルや自立した生活スキルの習得など、障害のある方にとって課題となる部分の学習も含まれます。
――スキル面は具体的にどう学んでいくのですか?
吉田さん:ITスキルに関してはオンラインで学べるUdemy(ユーデミー)を使って、個人にあったモデルコースを提案しながら進めてもらいます。一方的な学びだけでなく、ディスカッションも交えながら学んでいくのも特徴です。それと、自分に対しての理解、自己理解を深めていただく時間も設けています。
――自分に対しての理解といいますと?
吉田さん:障害のある方というのは、強みと弱みがあります。いわゆる「凸凹」ですね。多くの方は「凹のへこんでいるところが多い」というイメージを持たれますが、我々は「凸のでっぱりが高すぎる」がゆえに障害ととらえられている人もいると考えています。
――なるほど。強みにフォーカスするわけですか。
吉田さん:はい。もちろん苦手な部分もありますが、その点はこの場所で学んでもらったりITツールで補完したりもできます。いずれにしても、自分のことを知らなければ課題にも気付かないのです。
――自分のことを知り、強みを伸ばして弱みを補完する、と。
吉田さん:そうしてスキルを身に付けた後は、企業にインターンシップとして出ていけるような座組みを計画しています。
――インターンシップまで!もう普通の就職支援と変わらないですね。
吉田さん:ええ、これまで障害者が就職する際には、「障害があるからできない」という前提が強かったのですが、それは間違いだと思っています。もちろん全員が何でもできるわけではありませんが、障害のある方の中にも特定の素養がある方は一定数いらっしゃることが分かっているのです。だからこそ、その人たちが自分の可能性に挑戦できる道筋をつくってあげたい。
――なるほど。そんな吉田さんは、なぜこの事業に取り組んでいらっしゃっているのか?
吉田さん:僕はもともと特別支援学校など知的障害のある方のフィールドにいました。その経験から、障害のある方の雇用領域を広げないといけないと感じてきました。
――やはりマッチングが正しくないわけですか。
吉田さん:ええ、「できることがあまりなさそうだから」という妥協で事務作業などに就いている障害者が結構いるんです。その構造を変えたいと思っています。
障害者にも「ビジネスインパクト思考」を
――それでは、同じく「Neuro Dive」の事業を担当される早川さんはいかがでしょうか。
早川さん:私は今年の4月からこの会社に来ましたが、その前はグループ会社のWEBアナリストとして仕事をしていました。そこでチーム運営をするようになって思ったのは、発達障害の傾向がある人は結構いるということです。
――同じ現場にもいらっしゃったんですか。
早川さん:ええ、コミュニケーションが特別苦手だったり、スケジュール管理が全くできなかったりする人は一定数いました。ただ、そういった方はマネジメントが効いていないチームだと力を発揮できないのですが、個人に合わせた配慮をしてあげると大きな価値を発揮したり、右腕として活躍してくれたり、サービス提供のコアな部分を担ってくれる例もありました。
――発達障害のある方でも対応の仕方で全然違ったと。
早川さん:はい。ですから、そんな経験や知見を活かして活躍できる人を多く見いだせるのではないかと思いました。
――では、この「Neuro Dive」の事業に取り組むうえで抱いている野望みたいなものはありますか?
早川さん:そうですね。ITスクールとの違いを対外的にアピールしたいです。ITスクールというのはプログラミングやツールを技術的に身につける場所ですが、「Neuro Dive」で身に付けられるのは“デザイン力”なんです。
――デザイン力。
早川さん:ものごとの本質をわかりやすく伝える力、と表現すれば良いでしょうか。ただ単に技術を身につけるのではなく、「なんのためにどういった技術を使うのか」という考え方ですね。これは“ビジネスインパクト思考”とも呼ばれますが、そんな考え方を身につけてもらおうと思っています。
――なるほど。間もなく「Neuro Dive」は始まるということですが、準備に際してなにか苦労されている点はありますか?
早川さん:IT特化型とはいえ、「ジョン・フォン・ノイマンの様に大成するぞ!」みたいな大きなイメージを持っている場合に、期待値コントロールをしてどう着地させていくかというキャリアプランの構成が難しいですね。
――逆に言えば、そこまでしっかりと一人ひとりに向き合っているということですね。
早川さん:あと、先ほど言ったようにITスクールとは違うので、単純なコース構成にしてしまうのもナンセンスだと思っています。「この資格を取ればこの職業に就けます」という簡単な話ではなく、健常者の世界でも「プログラマだけどマーケティングにも理解がある」など横断的な理解がある人が重宝される時代です。
――確かに、掛け算のキャリアが有効になってきていますね。
早川さん:ですから、ここでできることを具現化してもらいつつ、そのうえでどういった強みを持っていくかという自由度も成立させなければいけないので頭を悩ませています。
――そこまで考えているんですね。すごいなあ。
早川さん:さらに言えばUdemyの講座を使って勉強してもらう際に、講座ごとに完結しているため連続性を補うための個別指導が必要になるので、そこは工夫が必要ですね。
――既存のコンテンツでは物足りないというわけですね。
早川さん:このデータサイエンス領域において「これさえやっておけば大丈夫」というものはないですからね。
――いやあ、すごく深くまで考えて手厚く充実している感じが伝わってきますね。「NeuroDive」はいつからスタートするのでしょうか。
早川さん:11月1日(金)に正式開所となりますが、今は説明会と体験を実施中です。
<「NeuroDive」 説明会 概要>
・対象者
一般企業への就職希望のある18歳から65歳までの方
発達障害、精神障害、難病のある方
・開催場所
Neuro Dive秋葉原
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2-25-16 日宝秋葉原ビル 4階
・説明会日時
10月中毎週土曜日開催(10月5日、19日、26日)
10:00~12:00
※11月以降も随時説明会&個別相談会を開催予定です、詳しくは下記ページからご確認いただけます。
・参加費:無料
・定員:各回10名程度
・申し込み方法
下記ページ内の申込フォームより
https://challenge.persol-group.co.jp/datascience/
IT業界では人材不足が叫ばれていますが、障害者の中にはデータサイエンスや機械学習の分野で活躍できる可能性のある人がまだまだ眠っているということがよく分かりました。
多くの人が活躍して業界全体が盛り上がっていくといいですよね。
皆さんの周りにも、興味ある方や該当する方などがいらっしゃいましたらぜひ誘ってみてはいかがでしょうか。
吉田さん、早川さん、ありがとうございました!
取材協力:パーソルチャレンジ株式会社
取材+文:プラスドライブ