※この「プロにキク!」では、毎回その道のプロに話を聞いて、私たちエンジニアに効きそうなノウハウをシェアしていきます。
さて、今回登場いただくプロは「アプリ開発」のプロです。私たちの身近にある「お金」に関係するアプリとして急成長しているそうなので、その辺りの秘密を聞いてみたいと思います。
――pringの荻原充彦社長、よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。「pring(プリン)」というアプリを手掛けています。
株式会社pringの荻原充彦(おぎはら みつひこ)代表取締役CEO
――さっそくですが、その「pring」というのはどういったアプリなんでしょうか。
簡単に言えば送金特化型アプリですね。
――送金特化型アプリ?
pringは送金特化型アプリ
ええ、スマホで相手にメッセージを送るような感覚で、簡単にお金のやりとりができる送金アプリです。色んな場面でお使いいただいてまして、送金総額は2020年1月に200億円を突破しました。
――200億円!送金する際の手数料はどのくらい掛かるんですか?
送金手数料は掛かりませんので、いつでもどこでも簡単にスマホでお金のやりとりができます。スマホの中のお金は、全国の銀行40行とも提携していますので、銀行のATMからすぐに引き出して現金化もできます。地方の大学に通うお子さんに仕送りを送られている方もいます。
――へえ、それは便利ですね!
もう少し丁寧に説明しますと、プリンには3種類の機能があります。お金を相手に送ったりもらったりできる個人間のお金のやりとり、SNSで発信者にいいねを送るようにお金を送れる「お金SNS」、アルバイト代や経費精算など会社が個人へ送るお金をスマホで受け取れる機能です。
――お店での支払いに使うというのは他にも「○○ペイ」みたいなのが多くありますけど、会社が個人に支払う機能っていうのは珍しいですね。
そうですね。従業員への給料の振込だけでも結構な手数料が掛かりますが、それを抑えられるということで好評です。
――支払いをしたり、送金をしたり、色んな使いかたができるんですね。
まさに、「pring」という愛称には、「Pay(支払い)」「Present(贈る)」の「Ring(輪)」を作る、『送金によってコミュニケーションの輪を広げていきたい』という意味が込められているんです。
――なるほど、そんな意味が。これ、銀行業とはまた違うんですよね。
ええ、海外ではネオバンクとかチャレンジャーバンクと呼ばれているジャンルのビジネスです。資金移動業という金融庁の免許は取っていますが、銀行のような事業をベンチャー企業がやっていると考えてもらえれば良いかと思います。
――ネオバンクとかチャレンジャーバンクって言うんですね。そうか、アプリですから支店とかキャッシュカードも無いわけですよね。
ええ、支店もキャッシュカードもATMもない、すべてスマホで完結する銀行と考えて頂ければ。それでも実際のお金を扱っているというのが他の電子マネーと違うところですね。たとえばSuicaさんだとお金相当のものをチャージしているのでATMで現金に戻すことはできません。「pring」は実際のお金ですから、コンビニのATMで出金もできます。
――海外だとこういったサービスはどのくらい進んでいるんですか?
たとえばWeChatPayだったら10億人以上が使っていますし、アメリカだとVenmoというサービスがあります。この分野は海外のほうが進んでいると思います。
こだわりは、「ひらがな」で「動詞」
――では、このpringというアプリについて具体的にお伺いしていきたいのですが、パッと開くと非常に分かりやすい画面ですよね。「おくる」「もらう」「はらう」という文字が目に飛び込んできます。
ええ、国語的な表現で「言葉をひらく」といいますが、あえて“ひらがな”にひらいています。「動詞をひらがなで表記する」という部分はこだわりましたね。pringには5歳から80才までのユーザーがいますので、どんな人でも使えるというのは相当意識しています。
――お金まわりのサービスでこんなに分かりやすいって、珍しい気がします。
そう、私も昔「大和ネクスト銀行」という銀行の立ち上げ業務に携わっていましたが、ネットバンクの画面とか分かりにくい言葉が多いんですよね。たとえば「為替」とか。
――ああ、「為替」。確かに、色んな意味が含まれますよね「為替」って。
そもそも「為替」って、お金を送ることなんですよ。
――そうなんですか? 『ドル円レート』みたいなものをイメージしますけど。
ドル円はつまり「外国為替」で、ドルを送ったら円がいくらになるかということなんですよね。他にも「決済」とか「融資」とか「負債」とか分かりにくい言葉が多い。
――確かに、漢字が多くて堅い印象です。
分かりにくい言葉を、敢えて使っている部分があると思います。「ほら、理解できないだろ」みたいな。僕の勝手なイメージですけど、少し上から目線になってしまっているのかなと。
――「お客様に歩み寄ってない感」はすごくありますよね。
だから動詞をひらがなにして優しくすると、直感的で分かりやすいのではないかと考えました。
――そこがデザインへのこだわりなんですね。
あ、それと「デザイン」って言うと、多くの人は絵画のようなアートな感じをイメージすると思います。かっこいいデザイン、洗練されたデザイン、とか。でもアプリのデザインってアートではなく、ビルの設計に近いと思っています。
――アプリのデザインがビルの設計?
ええ、建築物の設計図というか、要は「どこから人が入ってきて、トイレがどこで、出口がどこにあって…」っていう設計ですね。アプリもそういう視点が大事なんです。
――ああ、だから「チャージ」と「もどす」の箇所には矢印を書いていたりするんですね。
そうですそうです。配置にも意味がありますね。アート的な発想で「こうするとカッコいい」なんてやると使いにくいので、それよりも建築的な発想で、「どこから人が入ってきてどう動くか」を考えるのが大事だと思います。
――どう使われるかを考えるわけですね。なるほど。
Appleの有名なデザイナーだったジョナサン・アイブさんは、機能と美の両立が長けていましたね。「外観だけを繕うのはデザインではない」と断言していて、使いやすさとカッコ良さを両立させていました。
“誰でも使える”デザインのコツは「対面でのやり取り」
――では、アプリの使いやすさのコツってあるんでしょうか。
基本的に日本のアプリなら日本語で書くというのは大事ですね。アイコンだけで説明させようとすると実は結構難しい。
――アイコンだけが置かれていて「何のボタンだろう?」というのはよくありますね。
QRコードのアイコンくらいなら分かるけど、それ以外は難しいので日本語で説明するところはすべきでしょうね。
――確かに、プリンを開くとスキャンを指示するところは「画像から読み取る」という表現にしていますね。
これだと文字数は多くなりますが、敢えて“ちゃんと説明するほう”を選択しています。やはりバランスですよね。
――デザインと機能のバランスを取るために何かやっていることってあるんでしょうか。
実際に対面でやり取りをしてみるということでしょうか。
――実際に対面でやり取りをする?
我々も「スマホで送金したら便利だ!」といいながら、実際の硬貨をやり取りすることもあるわけです。会議室で「ああ、この間借りてたお金返すわ」って500円を出したりとか。実際にそういった動きをしてみたうえで、「じゃあこれをスマホ上で再現するにはどうしたらいいんだろう」と考えるわけです。
――スマホ内だけで完結させて考えないということですか?
そう、例えばメールサービスを作っている人だったら実際に手紙を書いて渡してみるといいと思います。手紙を書いて渡すのと、そのアプリを使うのでどう違うのかとかを確認してみるわけです。
――なるほど、それで便利さの違いを見るわけですね。
そうです。便利というのは特に動きの少なさを意識します。4タップでやっていたことを3タップ、2タップでできるようにできないか、という感じです。
――いかにラクにできるか、ということですか。
毎日使うものは、「いかにお得か」よりも「いかにラクか」のほうがいい。いまUberEatsが流行っているのも、ラクだからですよね。キャンペーンならいざ知らず、UberEatsは今だと少し高いわけです。でも、わざわざ外に出てご飯食べにいくよりも、割高でも家に持ってきてほしいと多くの人が思っている。
――確かに、ラクだから呼びますね。
この「ラク」と「得」のバランスも重要で、日常使いのアプリなんかは特に「ラク」が重要になるんです。あとは操作したときの気持ちよさですね。
――ああ、スマホゲームなんかは特に「気持ちいい」と感じるものが多いですね。ゲームとして考えると大したものじゃないけれど。
そうですね。特に金融というのは堅いので、“カジュアル化”はキーポイントです。でも従来の金融って「カジュアル化しよう」というと、ゆるキャラを作ったりとか通帳にキャラクターを採用したりしてて……
――そういうことじゃない、と(笑)
そう、そういうことじゃないと思うんです(笑) まあ、それはそれでいいんですけども。本当のカジュアルって機能の親しみやすさだと思うんですよね。
今の時代に合わせて機能を追加
――お金のアプリというと「○○ペイ」というのが多いですが、お話を伺っているとpringは全く違いますね。コンセプトとか目指すところとか。
はい、違いますね。我々は「お金の摩擦を減らしましょう」とよく言っているんです。お金って張り付いている感じがして動く設計になっていない。
――確かに、日本では貯金だとか節約だとか動かさない人が多いかも知れませんね。
だからお金の摩擦をなくして動きやすくするためにどうするか、ということを常に考えています。
――新しい機能とかもあるんですか?
最近だと「マルチフェイス機能」というのも搭載しました。今の時代って“多重人格社会”で、副業とか色んな顔を持つ人が増えていますよね。その顔によって繋がりも違うので、それによってアカウントを使い分けることができるんです。
――なるほど!Twitterのアカウントも複数持つ人が増えていますけれど、それと同じですね。
そうです。たとえば自分がいて、別人格の自分がいて、それぞれの人格に別のコミュニティの友達がいて、それぞれのpringワールドがあるという感じ。
――事業別に通帳を使い分けるみたいなことは従来からあるんでしょうが、お金のアプリでアカウントを使い分けるって今っぽいですね。
ええ、そういう時代ですからね。個人にフォーカスした設計にしています。あとは「お金SNS」のサービスも追加しました。
――「お金SNS」とはどのような機能でしょうか?
「エールを円に」というコンセプトで、インスタグラムやFacebookのようなSNSなんですが、従来のいいねの代わりに1円からお金を送ることができる「チーム」というサービスです。
――チーム、ということは仲間と一緒に使う感じですか?
ええ、1対Nで使えて投稿に対してお金を送ることができる、クラウドファンディングのような機能ですね。
――それはまた、今の時代にあった機能ですね。
簡単にチームを作れて、簡単に1円単位のお金を送ることができるので、まずは試してみて欲しいですね。
まさに「お金の摩擦」を減らしながら機能を追加しているpring。
機能性とデザインのバランスに優れていて、使いやすくて便利なアプリだと感じました。ぜひ皆さんも今の時代に合ったアプリ、体感してみてはいかがでしょうか。
荻原社長、ありがとうございました!