2017年のものづくり日本大賞の「ものづくり+企業」部門を受賞したTEAD株式会社は、産業用ドローンメーカーです。
もともと食品や雑貨の卸売業を手掛けていた同社がドローンに注目したのはなぜなのでしょうか。また、ものづくりの経験が浅かった同社のエンジニアが、産業用ドローンにおいて国内でトップクラスのシェアを誇るまでになったのにはどういう理由があったのでしょうか。
自らもエンジニアとして商品開発を手掛ける同社の古屋誠一さん(ビジネス開拓本部長)に話を伺いました。
卸売からものづくりへ
――古屋さんはもともとものづくりに携わっていたのですか?
古屋:食品や雑貨の卸売業をやっていました。ただの卸売ではなく、企画卸と言いまして、商品を自分たちでつくってそれを問屋に卸します。半メーカー、半卸みたいなことをやっていたんです。
企画することには慣れているんですけど、つくっているものはお菓子やキッチン雑貨や美容雑貨などで、ロボットや機械的なものは特に手掛けてはいませんでした。
――ドローンに着目したのはどんなきっかけですか?
古屋:ある日、中国でのおもちゃ展示会でドローンを見つけました。もともと社長の横山が、ラジコンのヘリコプターなどの「飛びもの」が趣味だったこともあり、「これだ」と直感したんです。プロペラがたくさんあって、やけに安定して飛ぶ。おもちゃとしても面白いし、ほかに使い道があるんじゃないかと着想したんです。
そして商品開発を始めたのが今から6年前くらいです。ドローンについて勉強し、産業用としての用途があると気づきました。ただ、ビジネスにはならなかったんです。
――なぜですか?
古屋:買う人が少なかったからです。それに、良いとされるバッテリーを使っても10分~15分しか飛ばないので、産業用として使うにはずいぶん改良が必要でした。
――農業の農薬散布という用途に使われていると伺いました。農業に着想したのはなぜですか?
古屋:国際ドローン展という展示会に出品したところ、農水省の方から「農薬散布はできますか?」と声をかけていただいたことがきっかけです。当時はラジコンのヘリコプターを使って農薬を撒いていましたが、ドローンで撒けるか試験をしたい、と言うのです。「では協力します」ということでチャレンジが始まりました。
――ラジコンヘリに比べてドローンのメリットはどんなところですか?
古屋:まず、ラジコンヘリは高価です。一機が1,500万円もするんです。そして、操作が難しいんです。高くて操作が難しいということは、プロしか使えないことを意味します。ドローンはそれに比べて価格も300万円程度と安いし、操作も簡単。メンテナンスも簡単です。今までやっていなかった人もできるんじゃないかという可能性があるんです。
――これまでは、ラジコンヘリを買えない農家さんはタンクを背負って農薬を噴霧していたわけですね。
古屋:そうです。動力噴霧器と言いまして、あれは例えば1ヘクタールを農薬散布するのに2~3時間かかるんですね。で、農薬を浴びながらやるんです。まずそれが危険だということ。あとは重たいものを背負って足場の悪い中を歩きますから体力的にもキツイんです。
それに対してドローンだと1ヘクタールが8分で終わるんですね。立っている場所もあぜ道とか、もうちょっと安全なところで操縦して、要は農薬を自分で浴びないですむわけなんですね。なので、動力噴霧器よりは全然良いんです。高年齢でもできるし、コストも安い。いいことずくめです。
ものづくり日本大賞での入賞
――なぜ「ものづくり日本大賞」に応募しようと思ったのですか?
古屋:ふたつ理由があります。ひとつは、群馬県の産業技術センターから「応募してみませんか?」とお声がけいただいたこと。もうひとつは、ドローン自体がまだ新しいビジネスで、良い業種として認知されていなかったということです。
例えばドローンはテロや盗撮など、テレビとか映画で見ても悪いふうに使われていることが多いんです。でも僕たちはドローンを使ってみなさんの生活を良くしたいと思っているので、やっぱり良いイメージのものには広報活動などをしていくべきだと思いました。
それに、僕たちはもともと食品や雑貨の卸売業をやっていたものづくりの素人なんですね。エンジニア畑を歩んできた人だけがエンジニアになれるんじゃないというか、本当に勉強すればそういう技術とか知識も身に付くわけです。
また、僕たちがエンジニアではない時代、つまりものづくりをしていなかった時代に培った経験を持っているエンジニアって逆にいないわけなんですね。なので、今いるエンジニアじゃないエンジニアになれるんです。だから「やろう」と思ったときが遅くても、必ずできるようになるということを証明したかったんです。
スペックよりも大事なこと
――ものづくりに対するこだわりを教えてください。
古屋:ものづくりの分野、すなわちエンジニア畑から来ると、どうしてもスペックを大事にするような気がするんです。製品としてのスペックを重視する方が多いと思っているんですけど、僕なんかから見るとそれは間違っているんです。
僕が求めるのは、「ほしい」と思わせる商品力なんです。この商品はスペックが高いからほしいと思わせるのではなくて、見た瞬間から「なんかほしい」と感じる、そういうフィーリングを大事にしたいんです。恰好いい商品と言うんですかね。
あとは、スペックを抑えてでも低価格を実現するとか、ユーザーさんが手に取りやすい商品をつくるとか、そういうところにこだわりを持っています。ずっとエンジニア畑を歩いてきたわけではないので、エンジニアが目指す機能美のようなものよりも、ユーザーさんから見た格好よさを優先したいと思っています。
――機能美やスペックとは例えばどんなことですか?
古屋:ドローンだと、何キログラムのものを持ち上げられるというのがありますね、あと何分飛べるとか。弊社も当然、そういうスペックは求めているんですよ。低くてよいと思っているわけではなくて、スペックはスペックでいちばん良いものを出そうとは思っているんです。
でも、スペックが高ければ良い商品だとは思っていないというか。スペックが高くでも使いづらかったりとか、使っているうちにすぐ壊れちゃったりとか、あとはそもそも格好悪いとか、そういうものは良い商品だとは思っていないということですね。
――昨年は、ものづくり日本大賞の「ものづくり+企業」部門を受賞しました。次の目標を教えてください。
古屋:ドローンを工業製品として認知させたいと思っています。今はドローンには規格がないんです。普通、製品にはJISとか規格があるじゃないですか。やはりジャパンブランドとしての規格をつくって世界に輸出できるような製品にしたいんです。
――食品や雑貨の卸売業をしていたころと今とではどちらが楽しいですか?
古屋:今のほうが楽しいですね。卸売業のときも、世の中にないものをつくりたいとは思っていたんですよ。お菓子をつくるにしても、カルビーさんもコイケヤさんも明治さんもつくっているお菓子を僕たちがつくっても意味がないので。
でもドローンについて言えば、他社のやっていないことを狙うんじゃなくて、この時代にないものを狙っているんだと思うんですね。なので、やっぱり新しい時代をつくるというのは楽しいですね。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材協力:TEAD株式会社