「USB3.0の転送速度に驚いた」家電販売員が見た端子の変遷とは

USB端子って、どうしてこんなにたくさんの種類があるんでしょう。

その疑問が強まったのは、つい先日。メインで使っているパソコンを最新機種に変更したときでした。本体にいつものようにUSB端子を差し込もうとするも、端子の形が違う。

どうやら普段私が「USB」と呼んでいたのは正確には「USB Type-A」という名前で、新しいパソコンは「Type-C」という、給電性能やデータ転送速度が向上した最新モデルになっていたのです。

気になってもう少し調べてみたところ、Type-AやType-Cだけでなく、「Type-B」、「Micro-B」など、似たような形でたくさんの規格が存在するUSB。なぜこんなに種類が? ケーブルを買い換えるのも面倒だし、ぶっちゃけ、もっと少なくても良くないですか……?

そんなUSBの変遷について、「総合家電アドバイザー」の資格を持つ家電販売員のたろっささんに伺いました。家電量販店の売り場に立ち、新しい規格が出るごとにパソコン本体やケーブルを売っている販売員さんだって、これだけたくさんあったら大変ですよね?

たろっさ さん
プロの家電販売員兼家電ライター。20歳から家電販売店で働き、年間2億円を売り上げたことも。企業やメーカーでの家電紹介記事や、記事監修も請け負っている。
お持ちの資格「家電製品総合アドバイザー」は、白物家電を専門とする「生活家電アドバイザー」、黒物家電専門の「情報家電アドバイザー」とそれぞれの資格があり、その両方を取得すると名乗れるものなのだとか。
ブログ:家電損をしない買い方をプロの販売員が教えます

USB、増えた理由は「Type-Aが大きかったから」?

——規格化されているUSBの端子って、どう考えても多すぎると思うんです。この前も新しいガジェットの充電ケーブルを買いに行ったら端子を間違えちゃいましたし……。

たろっささん(以下、敬称略):そうなんですよねぇ。Type-AとかType-Bとかで収まってくれればいいんですけど、細かいものがたくさんありますね。お客さんの「端子間違い」はお店側でもあるあるなんですよ。

——例えば、一般的に皆が想像するUSBは、「Type-A」のことですよね。でも、その他の有象無象が……中には、「こんな端子見たことないぞ」みたいなものもあるんですが。

たろっさ:もちろん時代の流れの中で使われなくなった端子もありますが、まだまだ現役のものも多いですよ。「有象無象」の説明に入るまえに、それぞれの役割からおさらいしていきましょうか。

▲他にも、外付けHDDなどでよく使用される「Micro USB 3.0 Type-B」なども。上で紹介しているのはごく一部

たろっさ:USB端子って、ごちゃごちゃしていますが大きく分けて2種類なんです。名前に「A」とついているものは、パソコン側につく端子。「B」とついているのが、周辺機器側につく端子、と覚えておくと間違いないですよ。

——どうして機器側とパソコン側で端子の形が違うのでしょう? 全部同じ形で統一しちゃえばいいのでは?

たろっさ:どうしても、Type-Aでは都合が悪い場合があるんですよ。例えばBでも「Micro-B」という端子があるんですが、これ、見たことありますか?

▲Micro USB Type-B(左)と、USB Type-A(右)

——プレイステーション4のコントローラーの端子がこれですね。他にはボイスレコーダーとか、少し前のAndroid端末でこの端子を見た覚えがあります。比較的目にする形ですよね。

たろっさ:そうです。Micro-Bを使っているものは、だいたいコンパクトな機器なんですよ。コントローラーとかレコーダー、スマホとかの小型機器には、Type-Aの端子は大きすぎるんです。だから、機器のサイズにあわせた小さい端子が必要になります。

ですので、「USBの端子がどうしてこれだけ増えた?」という質問に対する回答の1つは、「最初に登場したType-A端子が大きすぎて、小さい機器に使えなかったから」

——いくらUSBがデータ転送も給電もできる万能な端子とはいえ、サイズだけはどうしようもないですからね。

たろっさ:後に小型機器の端子はほとんどMicro-Bで統一されましたが、その前には「Mini-B」っていう端子もあったんですよ。小型のデジタルカメラとかに使われていたやつです。

このMini-Bというのがくせもので。まだ現在ほどUSB規格が統一されていなかったので、メーカー各社が「Mini-Bっぽいけど、実はちょっと違う」独自規格の端子を各々で開発して、カメラとセットで売っていたんですよ

——使う側からしてみたら、「似た形の中身が違うケーブル」がたくさん手元に来る状態ですね。紛らわしい。

たろっさ:そうなんです。そもそもMini-Bはサイズも中途半端だったので、結果として、その後に出てきたMicro-Bにほとんど置き換わっていきました。

こんなカオスな端子だったんで、お客さんがとにかく間違いやすいのが「Mini-BとMicro-B」です。「USBの充電ケーブル探してます、端子はなんか小さいやつ」というお客さんに対しては、ケーブルを探す前に、何に使うものなのかをまず確認するようにしています。

▲ 20代前半から家電量販店の売り場に立っているたろっささん。働きはじめた当時は「XPの性能が良すぎて、出たばかりのWindows Vistaがなかなか売れなかった時期」とのこと

——BのなかでもMini-Bには要注意、と。では、Aの端子はどうでしょう? 「Mini-A」とか「Micro-A」とか、これは本当に見たことがないのですが。

たろっさ:あ、これは僕もほとんど見たことないんで安心してください。本当に大きな家電量販店に行ったら、このケーブルを見つけられるかな?っていうレベルだと思います。

——こっちはマイナーな端子なんですね。

たろっさ:両者ともに小型化の結果として生まれた端子なんですが、大元のType-Aが普及しすぎていて、浸透していかなかったんだと思います。「A」端子はパソコン側に設置するものですから、新しい端子を導入するにも、そのためのコストが他の機器よりも高くつくんですよ。

メーカー側としては、新しく出てきた端子を導入したところで、それが実際に世の中に普及するかは「賭け」のようなものですから。リスクを取るくらいだったら、現時点ですでに普及しているType-Aを採用するほうが安心だろう、という判断がなされたんでしょうね。

——最新の端子に飛びついても、そこに接続できる機器やケーブルがなければ本末転倒ですからね。

たろっさ:例えば、今はプリンターやスキャナー側の端子はType-Bを使っていますが、技術的にはパソコン側と同じType-Aを使っても通信はできるはずなんですよ。

でも、「機器側の端子はType-B」という暗黙の了解があるから、メーカー側も思い切って新しい端子に取り替えたりすることはありません。今のままであれば開発コストはかかりませんし、使う私達の側も、端子やその場所を間違えずケーブルを差し込むことができる。

なので、端子が1つに統一されずにいろいろな形が使われ続けているのは、「そういうものだから」と思うのがいいんじゃないですかね? いま目にする端子としては、Type-A、Type-BとMicro-B、そして新しく出てきた「Type-C」を覚えておけばいいと思いますよ

——「いわゆるUSB」のType-A、周辺機器側に使われるやや大きめなType-B、小型機器でよく見るMicro-Bと新しいType-C。その他は覚えなくてもなんとかなる、と。4種類まで絞り込まれたので、かなりスッキリしました!

USBが登場、技術革新のときの感動

——そもそもの質問になってしまうのですが……USB端子ってなにが優秀なのでしょう? 当たり前に使われすぎていて、そのすごさに今ひとつピンと来ていないのですが。

たろっさ:僕はUSBが出るか出ないかくらいの時期からパソコンを触っていますが、当時はマウスとかキーボードを、それぞれ独自の端子でパソコン本体につなげていました。驚くと思うんですけど、当時の端子って、BIOS(Basic Input Output System、パソコンの制御システム)が立ち上がるときに接続されていないと、機器を認識してくれないんですよ。

つまり、パソコンの電源が入るときにケーブルが刺さっていないと機器が使えないんです。フラッシュメモリを起動後に抜き差しする、みたいなことが当たり前にできるようになったのは、USBが出てきたから。

——地味ですが、確かに便利ですね。

たろっさ:あとは、規格が統一されているからケーブルの使い回しができるようになりました。今って、タブレットとスマホの充電を同じケーブルでやってますよね。あれも、USBの規格が統一されているからこそですよ。

▲USB端子普及前に、キーボードやマウスで使用されていたPS/2コネクタ。ちなみにモニター接続用のHDMI端子がUSBに置き換わらないのは、映像のデータ量は他のものとは段違いだからなのだそう

たろっさ:僕の部屋でも、パソコンからスピーカーに接続しているType-Bの端子をプリンターに付け替える、みたいなことを当たり前にやっていますし。機器ごとにケーブルを用意しなくて良くなったんですよ。

——ガラケーはそれぞれ独自の端子で充電していたことを思い出しました。機種変更するごとにケーブルがたまっていくんだよなぁ……。

たろっさ:あとは、規格が統一されるとサードパーティー製のグッズが潤うのも嬉しいですね。PS/2の端子が出てくるまでは各メーカーが独自の端子を作っていたんで、端子が独特のキーボードはそのパソコンでしか使えないし、パソコンや機器を買い換えるごとにケーブルが増えていくんですよ……。あれは地獄だったし、パソコンメーカー側もしんどかったと思います。

——「皆それを使っている」というのが、周辺機器の開発メーカー側にとっても嬉しい要素だった、と。

たろっさ:「外付けのHDD」なんてグッズも、USB規格がないことには成立しませんからね。「規格化された端子を使っているから、どのパソコンにも接続できる」かつ「それなりのスピードで、データ転送ができる」というのは、USB規格ができたからこそのものです。

——そうか。「接続できる」ということだけではなく、「データ転送のスピード」という点でもUSBは画期的だったんですね。

たろっさ:従来の規格より通信速度が早くなった「USB3.0」が出てきたときのことは今でも覚えてますよ。ある日、働いていたお店に差し込み端子が青色(※)になっているパソコンが入荷されてきたんです。当時はまだ3.0が珍しくて、3つくらいついている端子のうち、1つだけが3.0に対応していました。そのパソコンに、販売店用のデモプログラムを入れることになったんです。

そこで、同じく売り場にあった3.0に対応しているフラッシュメモリを使って、10ギガくらいの容量のプログラムを転送したんですが……普段は1時間くらいかかるのに、それが数分で終わって

※ USB3.0に対応しているType-Aの端子は差込み口の一部が青色になっていることが多い(メーカーによって違いあり)。たろっささんの体験のようにひとつの端末でもUSB3.0に対応している差込み端子とそうでない端子が併用されている場合があり、初めて知った方はお使いの端末はどうなっているのか、こっそりチェックしてみては

▲USB各世代の通信速度の変遷。最大転送速度だけを比較すると、USB2.0から3.0ではおよそ10倍のスピードになっている(実効速度となると少し差があるので注意)

——おお、めちゃくちゃ速い。

たろっさ:「えっ! すごい、はやっ!」って売り場の皆で驚きました。あれはびっくりしたなぁ。

Appleが導入して、Type-Cの風向きが変わった

——これだけの技術革新や変遷を目にされてきたのですから、新しいType-Cが出てきたときは衝撃だったんじゃないですか?

たろっさ:それが実は、そこまでで。「また新しいの出てきたな〜」くらいの感じでした。これまでも新しい端子が出てきては消えていくのを見てきましたからね。「どうせまた新しいのが出てくるんでしょ?」って。

——いろいろな端子を見ているからこそのリアクションだ。

たろっさ:でも、Apple製品にType-Cが使われているのを見て、ちょっと風向きがかわったな、と思いました。それまでApple社はLightningっていう独自の端子を使っていたんですが、2018年に発売されたiPad Proで、急にType-Cを使うようになったんです。「あ、天下のAppleがType-Cを使ってる!」って。

——Appleが使うかどうかは大きいんですね……。Type-Cって、具体的になにが優れているんでしょう?

たろっさ端子に表裏がなく、どっちの面でも挿せることです

——やっぱりそこなんだ。

たろっさ:いやいや、これはばかにできないんですよ。裏表がないUSB端子って、これまで1つもありませんでしたから

給電とかデータ転送のスピードも優秀ですが、この端子が普及すれば「逆の向きで無理やり差し込んで、端子を壊しました」っていうトラブルがなくなるんですよ。

▲満を持して現れた「USB Type-C」端子。これまでのUSB端子が複雑な形をしていたからか、「え、これもUSBなの?」と驚いてしまうくらいのシンプルさ

——「Type-Aの裏表を間違える」というのはよく見るあるあるですが……あるあるだからこそ、「それくらい、みんな知ってるでしょ」と思ってしまうんですが。

たろっさその共通認識がない人っていうのは意外と多いんですよ。Mini-BとかMicro-Bの小さい端子は、無理な力をかけるとすぐにぶっ壊れます。ご年配の方で、「端子を無理やり差し込んだら壊れちゃった」とか、「端子を差し込んだまま機器を動かそうとしたら、折れちゃった」みたいな人はまだまだいらっしゃいますから。

でもType-Cは、裏表を気にせずとにかく差し込めばいい。どう差し込んでも大丈夫なので、端子を物理的に壊してしまう可能性はかなり低くなると思いますよ。

——では、Type-Cが普及したら、端子間違いもふくめてケーブル周りのトラブルは減っていくかもしれませんね。

たろっさ:Type-Cはコンパクトなのももちろんだし、給電性能や転送速度も優秀なのでそれは間違いないんですが……Type-Cがメインで使われるようになるまではだいぶ道が長いと思います。

例えば、最新の便利なエアコンがたくさん出ているのに、また20年前のエアコンを使い続けている人もいるじゃないですか。それと同じで、古い規格を使い続ける人がいる限り、なかなか完全に取り変わることはないだろうな、と思うんですよね。

今のType-Aほど普及するのは何年もかかるだろうな、と。まだまだType-A端子の機器を使っている人がほとんどですし、パソコン側の端子をType-Cに入れ替えるのは、メーカー側のコストも高くかかりますから。

——なるほど、完全にリプレイスするには、機器の世代が1つ入れ替わるくらいの時間がかかりそうですね。

たろっさ:かもしれません。でも、「じゃあType-Aだけ使っていればいいか」というわけではなくて。これだけ端子が乱立している中でそれについて知っているというのは、大きな強みになると思いますよ。

この時代、ある程度文化的な生活をしようと思ったら、誰でも何かしらの通信機器を持っているはずじゃないですか。そのときUSB端子についてちゃんと知っていて、「この機器はMicro-Bなんだな」とか、「これからはType-Cに移行していくんだな」とか、判断できるようになればパソコンや機器のこともわかるようになりますからね。

——そうすれば、ケーブルの買い間違いも、家電量販店に行って店員さんをまごまごさせることもなくなりますからね。

たろっさ:そうですよ! Mini-B端子を見せて「これです!」っていうお客さんは、8割がた、Micro-B端子と勘違いされてますからね……。

文=伊藤 駿/編集=黒木貴啓(ノオト)/イラスト=藤田倫央

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