誰もが知っている大企業のソニー。
歴史に残るような素晴らしいプロダクトが生まれています。
その1つになりうるであろう製品であるスマートウォッチのwena wristが注目されています。
この注目のガジェットを開発したのは、なんと入社2年目の若手エンジニアである對馬哲平(つしまてっぺい)さん。
wena wrist が、他のスマートウォッチと大きく異なるのは、アナログ時計のような外観です。
ごく普通の腕時計のように見えますが、スマートウォッチとしての機能はバンド部分に集約されており、スマートフォンとペアリングすることで、着信やメールの通知などをバイブレーションとLEDで知らせます。
活動量計としてログをとることもできるため、アナログな外観にも関わらず、スマートウォッチとしての基本的な機能を持っています。
それだけでなく、FeliCaを搭載しているので、コンビニなどでスマートフォンを取り出すことなく決済をすることも可能。
また、バンドに集約した機能は一度の充電で平日の間は使用することができるなど、既存のスマートウォッチにありがちな、「毎日充電する」という手間も省いています。さらに時間を確認する時計部分はアナログ時計なので、充電せずに使えます。
wena wristはソニーのクラウドファンディングとEコマースのサービスを兼ね備えたサイト「First Flight」で支援を募ると、国内で初めて1億円を超える支援が集まり話題となりました。
キャリアわずか2年のエンジニアはいかにして、圧倒的な注目と、出資という”数字”を集めたのでしょうか。
開発者である對馬さんにお話しを伺ったところ、この製品には熱い想いが込められているということが見えてきました。
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「ウェアラブルを作りたい」その思いが実現した入社1年目は、とにかく行動した
―今日はよろしくお願いします。早速ですが、ソニーに入社し2年目の現在でwenaプロジェクトのリーダーとして推進されるに至った経緯を教えてください。
對馬:僕らの新人研修は「3週間で好きなモノを作る」というものだったんですが、実は入社前からこの研修の存在を知っていて、アナログ時計のようなスマートウォッチの「wena wristを作るぞ!」って意気込んでいたんです。そして、アイデアを提案したら上司がOKをくださったのですぐに開発を始めました。
販売されたばかりのウェアラブルデバイスを分解して基盤を取り出し、時計の筐体を3Dプリンターで印刷し、ハンダ付けをして…… などという作業を繰り返してプロトタイプを作っていきました。
ほんとに、もう試作の山みたいな(笑) 何度も試行錯誤して、ようやく動くものができました。
現在のwena wristと比べるとかなり大きかったんですけど、「このアイディアはもしかしたら実際の製品として作りこめるるんじゃないか」と思いましたね。
そのあと研修の発表会で試作品を見せて、wena wristのアイディアを事業化したいと言わせてもらったんですけど、いざ事業化に向け計画を立てようとしても製品化のプロセスが全然分からなくて。
来年の予算に組み込んだとしても、プロジェクトマネージャーは誰、何人でどうやって開発するの、對馬くんの関わり方は?という話になるんですよね。いったいどうやって製品化をしようか悩んでいたら、ちょうど平井社長直轄のプロジェクトとして発足した新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(以下、SAP)」の社内オーディションが開催されるタイミングだったので応募しました。
SAPは既存の事業領域には当てはまらないような新規の事業アイデアを社内から集めて、スタートアップに必要な資金や人、ノウハウなどを提供する平井社長直轄の組織である新規事業創出部のプログラムです。
3ヵ月に1度開催されるオーディションに、なんとか合格できて、製品化への道が見えたという感じです。
―すごいタイミングですね。これは入社1年目のときですか?
對馬:はい。本当にいいタイミングでした。当時はどうやってい製品化すれば良いのか製品化をどうするか悩んでいたので、昼休みに先輩を捕まえて、毎日のように自分で資料を作って相談していましたね。
そうすると、あれやこれやといろいろ突っ込まれるじゃないですか。だから、そのフィードバックを元に資料を作りなおしてということを繰り返していたんです。
たぶん、社内の50人以上のエンジニアや知財、新規事業の先輩方に話しを聞いていただいたと思います。
毎日のように相談して、資料を作りなおしていたら、200枚くらいになって、「これだったらもう何を質問されても大丈夫」っていうくらいの資料ができあがりました。
そして、ちょうどSAPのオーディションがあったので、「wena wristを製品化したい」とプレゼンして合格。製品開発をすることになりました。
本当に周囲の方々のお陰でここまでくることができました。
――ソニーを入社先として選ばれた理由というのも、新しいことに挑戦できるという文化や先輩エンジニアの人柄などがあったからでしょうか。
對馬:そうですね…… ベンチャー企業と大企業のどちらでウェアラブル製品を作るのがいいかは、すごく悩んだのですが、最終的には大企業を選びました。その中でもソニーを選んだのは、人や技術に惹かれたからです。
学生時代は、店頭に通いつめて、実際にウェアラブル端末に触れて気に入ったモノを買う生活をしていました。
ソニーは小さい製品でも機能面はもちろん、しっかり防水が施されているなどモノづくりのノウハウが感じられたので、すごく魅力的な会社だと感じていました。
自分の作りたい製品を実現するなら、ソニーだと思い入社しました。
▲wena wristは、バンド部分にIPX5 / IPX7、ヘッド部分には3気圧の防水加工がされている
最高のウェアラブルデバイスを作りたい! この想いがクラウドファンディングで1億円の支援を集め製品化につながる!
――クラウドファンディングで日本で初の1億円以上を集めたことは驚くべき快挙だと思いますが、当初の目標金額はどれくらいだったんですか?
對馬:1億円には僕たちプロジェクトメンバーも驚きました。1,000万円を目標としていましたから。
SAP発の製品は、ソニーが提供しているクラウドファンディングのFirstFlightで出資を募ります。
wena wristが出資を募ったのは、テストマーケティングの意味合いが強く、この製品は世の中に受け入れられるのか? ニーズがあるのか? といった市場の意思を確認したかったんです。
幸いwena wristは、ガジェット好きな人が興味を示してくれました。
高額な製品なので、一度製品を自分の目で見て、確認してから購入したいという方が多いのかなと考えていましたが、これほど多くの方に出資して頂けるとは夢にも思いませんでした。
また、20代の人がメインターゲットになると思っていたのですが、実際にテストマーケティングを行った結果、30代、40代の購入者が多かったです。
アナログ的なモノに価値を感じる方でかつガジェットが好きな方のニーズは捉えられているのかも知れません。
――たしかにwena wristはアナログ好きにはたまりませんよね。ちなみに、アナログ時計のようなデザインにした理由とは?
對馬:「あ、スマートウォッチつけてるんだ」といったような目で見られるのではなく、普段は誰にも気づかれないけど、仲が良い友達と飲みに行って、「実はコレね……」みたいなスマートウォッチもいいのかなと思って(笑)
時計自体は、wena wristのデザインに合うように元大手時計メーカーにいたデザイナーが作成しているので、アナログ時計として見ても水準の高いものです。
ウェアラブルに限らず、ガジェットは進化のスピードが速く、消耗品のように使われがちですが、wena wristの場合はスマートウォッチとしての機能はバンド部分に集約されているので、バンド部分を新しくしつづければ、時計部分は愛着を持ってずっと使い続けられます。
上質な腕時計のように、「何年も同じものを使い続ける」という、アナログな世界観をウェアラブルにも取り込みたいと思って作ったんです。
「wena」にはwear electronics naturallyという意味があるのですが、「もっと自然に電子デバイスを身につけて欲しい」という願いを込めています。
今後は、新しいモデルのwena wristをリリースしたいという思いもありますが、もっと色々なウェアラブルデバイスを作っていきたいと考えています。
ラインナップを広げていったとしても、「自然に身につけられること」と「長く愛着を持って使えること」の2つは、「コンセプト」として大事にしていきたいですね。
挑戦するなら若い今しかない! 全身全霊をかけて作りたいものを作る
――新しいプロダクトの発表が楽しみになりましたが、プロダクトのアイデアはどうやって作っているのですか?
對馬:自分が欲しいものを形にしようと思っています。想いの強い製品じゃないとダメだと考えていて、どれだけ愛情が詰まっているかは、製品を見たら結構分かるじゃないですか。
「こんなとこまでやっているんだ!」という感動は、妥協を許さずにやっているからこそ生まれると思います。
妥協せずに、作りたい製品を作ることができるというのはエンジニアの大きな強みであり、魅力です。
僕の例を挙げると、wena wristの構想を初めて友人に話した時、想像ができない内容だったのか、誰も「いいね」とは言ってくれませんでした。
ですが、ラフスケッチやプロトタイプを作って、手を動かして製品がイメージできるようになってくると、周りの声が変わっていきました。
「話しただけじゃ伝わらないことを実際に具体化して見せることができる」というのはエンジニアだからこそだと思います。
1つの製品に対して全力で取り組むことができるのって、体力的にも20年30年と続けることはできないと思います。私の好きな映画でも、創造的活動期間は10年間くらいだと言っていました。
「作りたい!」という思いから製品をつくるには、想いだけでなく行動力なども必要になってきます。
エンジニアとして駆け出しであったとしても、全力で行動に移したりするのって「ウェアラブル市場がはじまりつつある今しかない」と思ったので、wena wristに対して120%の力を使っていましたね。
かなり短期間でFirst Flightのクラウドファンディングにて製品を発表したので、開発メンバーみんな昼夜問わず、まるで学園祭の前日みたいなのが毎日続くという感じで。
そういったことができるのも、体力のある若いうちだと思うので、若手のエンジニアこそ、もっとアイデアをたくさん出して実現できるような行動力が武器になるんだと思います。
「好きだ」という熱い想いを形にし、人々の心を動かしていく
既存のスマートウォッチとは違い、アナログ時計のような見た目のwena wristが生まれたのは、「ガジェットが好きで、最高のウェアラブルを作りたい」という對馬さんの想いがあったから。
この熱い想いは周囲の人々の共感を誘い、入社2年目にして、對馬さんはwenaプロジェクトの事業責任者になり、「最高のスマートウォッチを作りたい」という想いは、2,000人以上の心を動かし、クラウドファンディングでは国内最高額の1億円強の支援につながりました。
大切なのは年齢や経歴ではなく、好きなことを追求すること。
結果、人々の心を動かすプロダクトが生まれていく。これがエンジニアのスゴさであり魅力なのかもしれません。
對馬 哲平さん
ソニー株式会社 新規事業創出部 wena事業準備室 統括課長
取材協力 ソニー株式会社