「文系出身の自分が未経験でエンジニアになった理由」株式会社フォトラクション田中喜規さん【U30エンジニアのリアルボイス】

建設業の生産性と品質向上を目的とした施工管理アプリサービスを展開する株式会社フォトラクションで働く田中喜規さん(29)。2021年にエンジニアとして入社したが、実は根っからの文系出身だ。一橋大学商学部卒業後、スタートアップ企業・個別指導塾を経て、2021年に現在の会社に転職したという。

 

今回は田中さんの職場を訪問し、エンジニアを目指した経緯や未経験エンジニアとして抱えた不安、現在の仕事のやりがいについて聞いた。

 

「大企業に就職して出世する気はなかった」紆余曲折を経てエンジニアの道へ

そもそも、文系出身だった田中さんは、どういう経緯でエンジニアの道に進んだのだろうか。

「大企業に就職して出世していくことに興味がなかったんです。そういう働き方は何となく自分に合わないのだろうな、と思ってスタートアップ企業への就職を決めました」

新卒で入社したスタートアップ企業では、新卒採用やマーケティングなどの仕事を担当。しかし、会社の業績悪化、経営陣とのコミュニケーション不足、会社の放任主義など、入社1年目から逆境に立たされたという。手探り状態で駆け抜けたものの、限界が訪れ、入社した年の12月末には辞表を提出する。

「正直、自信喪失でした。新卒で何も能力が無い中で頑張っていたけれど、成果に結びつかない。自分は社会人に向いていないんじゃないかと悩みましたね」

 

退職後、大学時代にもアルバイトしていた個別指導の学習塾で働くことに。しかし、ひょんなことから田中さんが臨時で教室長を務めることになったそうだ。

「ちょうど夏休みで受験生もいたので、責任を持たないといけないと思ったんです。ただ、教室長として働くのは受験がひと段落する3月末までという条件で引き受けました。長く教育業界にいると、転職先も自然と教育業界になってしまう。次の転職の選択肢を狭めたくなかったんです」

社会人としての下積みがほとんど無いまま、現場責任者としてマネジメントすることにも不安と課題を感じたという田中さん。だからこそ、次は、自分の選択肢を広げつつ、きちんと経験を積むことができる環境に身を置きたいと考えたという。

「いろいろ考えた末にプログラミングを学んでみることにしました。すでにエンジニアとして活躍していた弟の勧めがあったんです。もともとアイデアを出すのは好きだったので、それを形にする能力が欲しいとも思っていたので挑戦することにしました」

 

2020年3月、約束通り個別指導塾を退職した田中さんは、プログラミングスクールへ入学。全くの未経験だったプログラミングの世界に飛び込む不安は無かったのだろうか。

「自分がこうしたいな、と思ったら飛び込めちゃうタイプなんです。大学時代も体育会系の人たちの思考を知りたいと思ったのと、カッコいいなという理由で半年間だけアメフト部に入部したこともあるくらいなんで(笑)」

スクールは楽しかった、と笑顔を見せた田中さん。分からないことが多く苦労したが、コツコツと学ぶ中でプログラミングの知識が増えていくことに喜びを感じたという。

しかし、プログラミングの知識を身につけることができても、実務未経験でエンジニアとして転職することは厳しいのが現状。未経験でもエンジニアとして入社させてもらえるか否か、それが大きな壁となる。ただ、通っているスクールは、エンジニア採用を行っている企業が集まるイベントが開かれるなど転職支援も手厚かったという。そのイベントがきっかけで、現在所属するフォトラクションへの転職が決まった。

「もともとフォトラクションの代表は、僕が通っていたスクールの卒業生だったんです。しかも、偶然にも1社目で一緒に働いていた先輩も入社していた。それを知って、よし、この縁に乗ろうと決めました」

 

入社後は、エンジニアと顧客をつなぐCustomer Reliability Engineering (以下、CRE)や、プログラマーとしてのプロジェクト進行を担当した。ただ、スクールでプログラミングを学んだとはいえ、実務経験が無いことに当初は不安を感じていたという。「自分が作ったプロダクトに不備があれば顧客に迷惑がかかり、時間がかかってしまったら他の人の手を煩わせてしまう。そのため、入社直後はかなりのストレスを感じていた」と田中さんは語る。

「新卒で入社したスタートアップでは、誰にも仕事を教えてもらえませんでした。助けてくれた先輩もいたのですが、助けを借りづらかった。塾の教室長のときは、自分が責任者だったので、自分が何とかしないといけないという思いがありました。そのせいか、エンジニアになってからも、能力が無いくせに『自分が何とかしなければいけない』と思い過ぎていましたね。自分の弱さを受け入れて、もっと人に頼っていい。そう思えるようになってからは少し気が楽になりました」

ちなみにこちらは取材当日の田中さんの昼食。実家暮らしだが「在宅勤務の日の昼食は手軽に済ませられるようコンビニで買うことが多い。その分、夜はしっかり食べている」のだとか

 

プログラミングの知識と自分の強みを生かせるマネージャー職に

一度こうだと決めたら、ブレることの無い自分軸を持つ田中さん。いまの彼を作り上げたのは、中学3年の高校受験での失敗が大きく影響しているという。

「受験に向けてたくさん勉強したけれど、志望校には合格できなかった。その原因は、塾の先生に言われたことだけをやっていて、自分で何を勉強するかを決めることができていなかったからだと分かったんです。『このままだと言われたことしかできない人間になってしまう』と危機感を覚えました」

 

そこで始めたのは、身の回りの疑問を自分の中で仮説を立て、検証するということ。これが後に、田中さんの唯一無二の武器となる。

「あるとき、“嫌いな人”と“何となく嫌いな人”の違いを真剣に考えてみたんです。その結果、『自分へ危害を加える人が嫌いな人』だという結論を出しました。そうすると、それ以外の人を嫌いにならないし、寛容になれたんです。こうやっていろいろなテーマで問いを立てて、自分なりに答えを出す習慣が身につきました」

この習慣が明確に自分の強みになると分かったのは、大学3年生のとき。教授から「センスとは具体と抽象の往復運動」と教えてもらったことだという。

「自分がやっていたことは、まさに具体と抽象の往復だったんだ、と腑に落ちました。嫌いな人だったら、まず具体的な人を挙げる。それを抽象化して最終的な答えを見つけるという作業を繰り返す中で自分のセンスを磨いていたんだなと」

フォトラクションは建築業の生産性と品質向上を目的としたクラウドサービスを展開

 

ロビーには建築資材がオブジェのように飾られていた

 

この強みは、今の仕事にも役立っている。CREとしていくつかのプロジェクトを実装したのち、開発チームにも所属。プログラミングスキルを活かしつつ、開発体制がウォーターフォール型開発からアジャイル開発に移行したタイミングで、スクラムマスターの役割も担うことに。そして、現在はエンジニアとしての能力に加え、田中さんが本来持っている強みも評価されて、エンジニアチームと総合職チームの橋渡しとなるマネージャーに抜擢された。

「エンジニアはプログラミングの専門用語で話します。それをそのまま総合職の人に伝えても分かりません。そこで、僕が通訳するんです。エンジニアサイドの言い分をうまく抽象化して、具体例を用いながら説明をする。逆もまた然り。プログラミングの知識という自分の武器と、具体と抽象を行き来しながら考えるという自分の強みがどちらも活かせていると思います」

 

未経験からエンジニアとして入社して今年で3年目。エンジニアの仕事でやりがいを感じる瞬間は、できないことができるようになる過程にある、と田中さんは話す。

「エンジニアの仕事は無限にアップデートが続いていくので、知らないことを一つひとつ積み上げていく必要があります。その分、すごく苦しい時期もあるのですが、それを乗り越えることができたときはテンションが上がりますね。そこがエンジニアの面白さです」

 

一方、自分の強みをしっかりと発揮できるマネージャー職にも魅力を感じているそうだ。

「自分にできないことをいろいろな人にお願いしていきながら、アウトプットを作り上げてお客さんに届ける。人と人をつなげて橋渡しするようなことが好きだなって思えますね」

 

エンジニアとしてのスキルを“サブウェポン”として携え、他の武器を手に入れたい

現在、フォトラクションは社員のほとんどがリモートワークをしており、田中さんもオフィスに出社するのは月2回ほど。出社する際は、1on1などをセッティングし、メンバーと直接顔を見て話す機会を設けることが多いという。

取材当日も2名の部下と1on1を実施していた田中さん。いつもはオンラインでコミュニケーションをとるが、対面の機会も大事にしているという

 

「うちの会社はフレックス制でコアタイムが11〜16時。在宅勤務のときは、起きてすぐパソコンを開いて仕事して、昼は昼食をとるか昼寝しています。夕方になって仕事を終えたら毎日1時間ほど、近くの公園に散歩へ行くのが日課です」

仕事終わりに散歩を始めたきっかけは、ストレス解消と減量が目的だったそう。

 

「散歩は手と耳が空くのでいいですね。音楽や勉強系の音声を聞きながら歩いています。以前はジムに通っていたのですが、運動に集中しちゃって音楽も音声もゆっくり聞けませんでした」

散歩から帰ると夕食を食べ、仕事に関する勉強をしたり、YouTubeやアニメを見たりして、明日への英気を養う。

 

30代を目前にして、田中さんは、今後プログラミングをさらに極めていきたいのか。それとも、さらなる武器を増やし、キャリアの可能性を伸ばしていきたいのだろうか。

「自分の得意な領域は具体と抽象をベースにしたコミュニケーション力だと思います。それをメインウェポンにして、さまざまなサブウェポンを広げていきたいですね。その中の一つがコーチングじゃないかなと思って、いま勉強を進めています。もちろんエンジニアとしてのスキルも自分にとっては大きなサブウェポン。これからもさまざまな経験を重ねて、武器を探していくつもりです」

文:冴島友貴 撮影:関口佳代 編集:エディット合同会社 協力:ちょっと株式会社


※記事に記載の内容は、2024年3月時点の情報です

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