こんにちは。本日はハイスピードカメラの製造、販売をしているフォトロンさんにお邪魔しています。
IQが低めの皆さんのことですから「ハイスピードカメラって、何?」とお思いでしょうが、まずはこちらをご覧ください。
はい。こういうのが撮れるカメラです。
汚いオッサンがおもっくそビンタされてる映像なんて誰も得しないので、別のやつも紹介しておきますね。
こちらはクラッカーが飛び出す瞬間の映像。クラッカーってこういう風に飛び出してるんですな……!
GIFアニメにすると容量の関係でビンタもクラッカーもカクカクになっちゃいますが、動画で見るとすごく滑らかに動いていることがわかります。
ハイスピードカメラがスポーツのスロー映像撮影で重宝するのはわかるのですが、意外にもこういうカメラの大部分が製造業の現場や研究開発の拠点でも活躍してるらしい。なんでも、NASAやJAXAでもフォトロンさんの製品が使われているのだとか。
よーし! その辺の話をいろいろ聞いてみよう!
ハイスピードカメラって、何に使うの?
そんなわけで、株式会社フォトロンの鈴木洋介さんにお話を聞いてみました!
「ハイスピードカメラが製造業や研究開発で使われるって聞いて全然ピンときてないんですが、本当に使われてるんですか?」
「ええ、本当ですよ。製品の大部分がそういった用途に使われていますね」
「YouTuberの悪ふざけを撮るためじゃなくて?」
「はい」
「研究開発はわかるんですが、製造業の現場でハイスピードカメラなんか使います……?」
「それがね、使うんですよ。どんどん需要も増えています。なぜかといいますと、今の工場の生産ラインって、ものすごく小さなものを、ものすごいスピードで動く機械が作ってるんですよ。要するに、機械の動きがもう人間の目で追えないんですよね」
「おお。なるほど」
「例えば、1000個に1個の割合で製品に不具合があったとします。それを改善するために『どこのラインでその不具合が発生したか?』『なぜ不具合が起こったのか?』というのを現場で日々追究するんですが、機械のスピードが速すぎて人間の目だと不具合の原因がわからないんですよ」
「例えば、これは実際の現場の映像なんですが、これを見ておかしいところに気付きませんか?」
「なんか、ペットボトルの中身がハネてますね」
「そうです。元々はできあがった商品をチェックする際に『飲み口に中身の付着してるものがあるぞ』と気づいたんですね。それだと雑菌が繁殖するのでよろしくない、と。そこで原因を探そうとするんですが、ラインがものすごい速さで動いているので、人間が見てもやっぱり原因がわからないんですよ。でもこうやってスローにすると、右側のアームがペットボトルに当たるときの衝撃で中身がハネているという原因が明らかになります」
「おーーーー。現場の歩留まりを上げたり改善したりっていう使い方ができるんですね」
「はい。科学技術が進歩して、工場ではどんどん小さなものを作るようになるし、機械が動くスピードもどんどん上がるので、目視でどうにかなるレベルを超えているんですよね。自動車工場をはじめ、食品や薬品の製造現場など、あらゆるところでハイスピードカメラが導入されるようになってきました」
「へーーーー。じゃあ、売れまくって笑いが止まらないんですね」
「嫌な言い方をしないでください」
「今日は『エンジニア向けのサイト』に掲載する記事の取材ということですが、ハイスピードカメラってエンジニアにとってもホットな話題なんですよ。インダストリー4.0、第四次生産革命なんて言うんですけれども、ロボットや生産ラインを全部ネットワークでつないで状況を分析して最適化する、みたいな取り組みが始まってるんですね。そこにはAIとかディープラーニング、ビッグデータといった技術が絡んでくるので、先端的な分野なんです」
「なるほど。僕は文系なのでサッパリわかりませんが、そういうのをゴリゴリやろうと思うと、工場にハイスピードカメラが必要になってくる、と」
「そうです。目に見えないものは解析できないので、ハイスピードカメラで撮影して可視化し、その上で解析して最適化する」
「へーーー。すごいなーーー。なんか、NASAも使ってるって聞きましたけど」
「おかげさまで、弊社のハイスピードカメラは世界シェアの3割くらいを持っています。ロケット発射の瞬間のスローモーション映像とか、自動車の衝突実験の映像って、よくYouTubeでアップされてるじゃないですか。ああいうのは、けっこう弊社の製品で撮影されたものなんですよ」
「なるほど。ちなみに僕、変な動画を撮って遊んだりするのに1台欲しいなって思うんですよね。いくらするんですか?」
「そうですね。一番安いので……」
「300万円くらいです」
「高すぎ。完全にナメられてる」
「いや、そんなことないですよ。一番高いのだと1300万円くらいします。これでも技術革新でずいぶん安くなった方です。昔は1台3000万円のカメラがありましたから」
「なんでそんなに高いの……!?」
「例えば、テレビが30FPSで、家庭用のゲームも30~60FPSくらい、つまりは普段見ている映像って1秒間に30~60コマくらい動くんですよ。それが、弊社の研究開発用のカメラだと、1秒間に2,100,000FPS、つまり210万コマ撮影できます。このコマ数は当然普通の技術では撮れません。特殊な部品も使いますし、研究開発にも相当時間とお金がかかりますから……! 全て日本製ですしね」
「Oh……。買うのは無理か……!」
変な動画を撮ってみよう
買うのは諦めましたが、無理を言ってカメラを貸していただきました。フォトロンさんの駐車場で許可をもらったからいろいろ撮るぞ〜〜〜!
このゴツいケースは特注品ではなく、「Speeder」というカメラを買うと付属してくるのだとか。めちゃくちゃ精密な機械なのでケースを頑丈にしないといけないらしい。
中身はこんな感じ。カメラ本体と液晶モニタ、あとは付属のケーブル類が箱の中に収まるようになっている。
Speederは製造現場で使えるカメラで、長時間の撮影も可能な商品なんだそうだ。秒間何千、何万というコマ数で撮影すると普通のハイスピードカメラだとすぐに容量がいっぱいになるんですが、大容量のSSDを搭載することでその問題を解決したそうです!
「ちなみに何を撮ると面白くなりますかね?」
「普段は目で追えない、鳥の羽ばたきや落雷の瞬間といった自然現象は面白いです。あと、火とか水はわかりやすいですね」
「じゃあそれやります」
さあそんなわけで、火がわかりやすいとのことでしたので軽く火を吹いてみることにしました。
雑技団的な人がよくやってるアレです。最初に言っておきますが絶対に真似しないでください。アルコール度数96%の「誰が飲むんだこんなもん」というお酒の代表格、スピリタスを使用します。
カメラもセット完了!
「じゃ、いきます!」
「ウェーーー! 口の中がメチャクチャになってる! 火も着かなかったし!」
「では、このSpeederで『なぜ、火が着かなかったか』を検証しましょう!」
「なるほど。火に当たってないんですね」
「そうですね。現場でもこうやって検証して、それが不具合の解消につながるんですよ」
「こんなことでハイスピードカメラの活用法を知るとは……」
ちなみに逆再生にすると、幽霊を気合いで吸い込む除霊師のおっさんみたいになります。
そして成功したのがこちら!
「うーん、でも寄りすぎて炎全体が映ってないですね。撮り直しましょうか?」
「嫌です。なぜなら口の中がメチャクチャになったから。こんなの飲む人間がいるなんて信じられない……!」
他にもいろいろ撮らせてもらった
ウヒョー! 楽しい!
ちなみに今までのはGIFアニメで、容量の関係もあってカクカクして見えますが、実際に撮った映像はすごく滑らか! この辺は動画で見た方がわかりやすいかも!
「まあ、これは本来の使い方とは完全に違うのですが、ハイスピードカメラに興味を持っていただくきっかけとしてはいいかもしれませんね」
「いやー、楽しすぎる。マジで1台欲しいな……」
さて、そんなこんなで全身ビショ濡れになったわけですが、なんとなく「ハイスピードカメラってこんな感じ」というのがご理解いただけたのではないでしょうか?
モノづくりの現場を陰で支えているハイスピードカメラは、日本企業が世界を相手にリードしてがんばっているわけです。フォトロンさんも、もっともっと大きくなってめちゃくちゃ儲かったら、このカメラを1台くらいポンと寄付してくれないかな、と思ってます。
フォトロンさ~~ん! がんばってくれぇ~~~!
https://www.photron.co.jp/mitaiken/
こちらはフォトロンさんのハイスピードカメラの映像を集めたサイト。楽しいので皆さんも見てみるといいと思います!
【取材協力】
株式会社フォトロン
【取材・文】
ヨッピー + ノオト
ヨッピー
フリーライター。平日毎日更新のおばかサイト「オモコロ」にて体を張った実験記事を執筆。ほかにも「ジモコロ」「トゥギャッチ」などで連載中。ブログ「ヨッピーのブログ(仮)」 TwitterID「@yoppymodel」
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