こんにちは。ヨッピーです。
突然ですがみなさんは、東京工業大学をご存じでしょうか?
東京工業大学はその名の通り東京にある工業系の国立大学なのですが、理系では都内の大学の中でも東京大学に次いで偏差値が高く、めちゃくちゃ優秀な学生が集まるすごい大学なのです。
しかしながら、早稲田大学や慶應大学に比べると全国的な知名度は低く、
・地元の集まりで「ふーん、知らない大学だけどがんばってね」とバカにされる。
・彼女の親に「どこのバカ大学だ! 聞いたこともない!」と怒鳴られる。
・Googleで「東工大」で検索をかけると「もしかして東京大?」と修正される。
などといった、ウソか本当かわからない自虐ネタが流行ったりするような不憫な大学なのです。本当はめちゃくちゃ賢いのに。
そこで本日は……、
知られざる東工大生の実態に密着したいと思います!
そんなわけで急遽お邪魔した34歳のオッサンを出迎えてくれたのは、東京工業大学ロボット技術研究会、部長の折重(おりしげ)さん(写真右)と、副部長の五十嵐さんのお二人。ちなみにロボット技術研究会ことロ技研は、NHK主宰のロボコンに自作のロボットを出場させたりしている。
よーし! 東工大を探検するぞー!
ちなみに今日お邪魔しているのは東工大の大岡山キャンパスなのですが、もうひとつのキャンパスであるすずかけ台キャンパスは、今年大ヒットを記録したディズニー映画「ベイマックス」のサンフランソウキョウ工科大学のモデルともウワサされるくらいに外観が似ていたり、ベイマックスに登場する黒幕のシンボルマークと東工大のロゴがほぼ同じだったりするので、恐らくかなり参考にされたんだと思う。
この特徴的なデザインの建物は「カマボコ」の愛称で東工大生に親しまれていて、中身は100年の歴史を持つ東工大の博物館的な展示室になっているそうだ。
こちらの長方形の建物は通称「チーズケーキ」。図書館が入った学習棟になっている。
そして入口の「警察官立寄所」の文字が怖すぎる建物がサークル棟になっているそうです。
過去に何かあったのかも知れんね。
■これが東工大の部室だ!
そして部室の中身がこれだー!
狭すぎ。そしてめちゃくちゃ物が多い!
そうなんですよ。僕ら部員が200人いるのにこの狭い部室しか使わせてもらえなくて……、
さすがロボット技術研究会というだけあって、ド素人の僕が見ても完全に意味不明なモノがたくさんある!
ん? これはなに?
これはKinect(Microsoftから発売されてるデバイス)ですね。
え? なんでKinectが天井に?
えっとですね。このKinectのセンサーで今何人くらい部室にいるのかを読み取ってるんですが、ネットと連動してるので、このようにTwitterに作った専用のbotにリプライを飛ばすと……、
こんな感じで今部室に何人いて、それぞれどのあたりを陣取ってるか画像付きリプライで返してくれるんです。
ええええええぇぇぇええええ! すごすぎ! 何それ!? これを自分たちで作ったの!?
そうです。さっきも言った通り、僕ら200人部員がいるんで、せっかく部室に来たのに混んでいて作業する場所がなかったりするんですよ。お目当ての工作機械を誰かがもう使ってたり。そういうバッティングを避けるために、離れた場所からでもTwitter経由で混雑具合の情報を得られるようにしています。
ヤバい。
どうしました?
「東工大とは言え所詮は学生でしょ?」みたいな感じで完全に舐めてたかも。しょっぱなで度肝抜かれた! こんなの絶対売り物になるじゃん! 飲食店の混雑具合が外から分かるとか、売り場のヒートマップを自動で作ったりとか、欲しがる企業は絶対あると思うんだけど……!
そうなんですかね? 僕らは儲けたいっていうより、純粋に作るのが好きでやっているのでそういうのはあんまり考えてないですね……。
ちょっと君たちが怖くなってきた。
ちなみにこの「作業者は神」というスローガンは、「作業をしている人が一番偉く、一番優先されるべきで邪魔をしてはいけない」という意味だそうだ。ほかにも「無いものは作れ」というスローガンもある。先ほどのKinectを利用したシステムは、この「無いものは作れ」を具現化したような存在なのかもしれない。
■ほかにもオリジナルアイテムがいろいろ
例えばこの機械も何がどうなってるのか僕にはサッパリ分かりませんが、
アプリ、ネットと連動していて外からでも部室の音楽を変えたりできるらしい。これも自分たちで制作したそうだ。
ロボット技術研究会っていうからロボコンとかに出す作品を一生懸命作ったりしてるもんだと思ってたんですけど、アプリを作ったりもするんですね。
そうですね。別にロボットには限定してないんですよ。「何かを作る」くらいしか決めてないので、ロボットを作る人もいれば、プログラム組む人もいるしゲーム作る人もいるっていう感じでわりとそれぞれが好き勝手なことしてますね。
いろいろ見せてもらっているうちに段々部員の方々が集まって来たので、お話を聞いてみたいと思います!
まず、「東工大、知名度低すぎて損してる問題」なんですけど……。
あー、ありますね。
あるんだ。
僕、受験の時に早稲田と慶応と東工大受かったんですけど、そのことを友だちに話したら「早稲田、慶応受かったんだ! すごいね!」って言われて東工大には一切触れられませんでした。
笑う。
東工大の知名度がないのはもともと知っていたんですけど、入ってからバイト先で「東工大です」って言ったら「どこそれ?」みたいなこと言われるから「あ、ほんとに通じないんだ」ってなりましたね。
やっぱり損してる気がするなぁ~! 例えば、早稲田とか慶應とかは合コンでモテるって言うじゃないですか。東大ももちろんそうなんでしょうけど。そういうのに「ズルい!」みたいな気持ちがあったりしません?
そもそも「合コン」って存在するんですか?
あ、そんなレベル? 泣けてくるわ……。
彼女は確かに欲しいんですけど、その合コンをしたりとかがんばって口説いたりとかっていうプロセスがちょっと面倒臭いな、っていう……。
学生の発言とは思えん。
結局、何か作っている時が一番楽しいんですよね。それで満たされて満足しちゃってる部分があるんで、そういう方向に興味が向かないと言いますか……。
なるほどなぁ~。
ちなみに白衣を着ている彼は物理学科の清水さん。白衣を着てるし、研究の途中で抜け出して来たのかと思ったら私服だそうです。
彼は物理学科なんで、研究でも普通は白衣を着ないんですよね。
えっ。じゃなんで白衣着ているの?
白衣が好きなんですよ。
変わってるなぁ……。ちなみに白衣の下は何着るの? Tシャツとか?
えっ?
もちろん白衣ですけど?
「もちろん」の意味が全然分からない。
白衣しか着ないんで、合計14着持ってます。今日はアウター白衣とインナー白衣ですね。
でもさ、これから寒くなったらどうするの?
そういう時は、もう1枚白衣を着ます。
頭おかしい。
その清水さんが「オシロスコープ」という機械を取り出して何やら見せてくれた。ちなみにこれも私物だそうです。なんでこんなの持ってるんだよ。
清水さんがあれこれイジると変な模様が浮かんできた。
これが物理学と何の関係があるんですか?
これはですね、Chua(チュアー)アトラクターっていうカオスを起動してるんです。
すみません。全然意味が分からないです。
うーん、えっと。どう説明すれば良いんだろう……? そうか……! そうなんだな……!!
ちょっと! 僕がテンパってるのに一緒にテンパらないでくださいよ。
まぁこれってある意味では計算機なんですよ。普通の計算機では解くのに時間のかかる複雑な方程式の答えが、この電子回路に電圧をかけた瞬間に出てくるんですよ。だからデジタルコンピューターよりも速い計算機なんですね。
特定の方程式の解がここに出るってこと?
そんな感じです!
それに何の意味があるんですか?
何の意味があるんでしょうね?
僕に聞かないでよ……。
清水さんが言うにはこの「カオス」を解明することで天気予報の精度が上がったり、心臓病の治療に役立ったりするかも知れないそうです。そもそも物理学は基礎学問なので、研究が最終的にどのように社会の役に立つのかは、研究してる方にもハッキリ分からないらしい。
「カオス」について「サッパリ分からない」みたいな顔をしていると三連振り子というアイテムを見せてくれた。これも清水さんが作ったものらしい。
振り子って、原則的には同じ高さから落とせば同じような挙動をするはずなんですが、この三連振り子はほんの少しでも高さが変わるだけで挙動がまったく変わるんですよ。
へぇぇ!
すごい勢いで不規則な動きをする振り子!
あーなるほど。最初の少しの差が結果をものすごく変えるっていうことですね。バタフライエフェクト的な。台風の進路も時間が経つにつれて大きくズレますもんね。
そうです、そうです。なので、これを解明するとそういう予測が正確に行えるようになるんじゃないかっていう。
なるほど。この振り子だと高さ以外にも湿度とか気圧とかでコロッと軌道が変わる、と。
そうなんです。だから、今見せたこの振り子の動きはもう二度と再現できません。つまり……、
「今の軌道は一生に、一度しか見れないものなんですよ……!」
なんで今ドヤ顔したの?
■Oculusもあるよ
ドヤ顔がウザい清水さんは置いておいて、Oculusのゲームを作ったという保坂さんにゲームで遊ばせてもらった。
これは教授が投げてくる「マサカリ」を避けるゲームなんだそうだ。何度もダメージを受けるとキャラクターが死亡して留年が確定! 臨場感がすごい!
え、このゲーム画面も自分で作ったんですか?
そうですよ。ゆくゆくは3DCGとかやりたいですね。
ちなみにOculusも自腹?
そうです。ハッカソンとか出た時にいろいろもらえたりすることもあるんですが、これは買いました。
いやー、みんなのものづくりに対する姿勢がすごいな、マジで。ちなみにこのゲームはどうすればクリアになるの?
教授にマサカリを投げ返して倒せばクリアです。
教授に何か恨みでもあるの?
そしてこちらの森田さんが作ったのがこのアイテム。
レッドブルで動くロボットを作ろうとしたんですが、壊れちゃったんで画像しかないです。ちなみに製作期間は3日間です。
ガムテープで張ってるし急にショボくなった! でもこんなにレッドブル飲むの?
深夜の作業とかも多いんで、レッドブルはマジでめっちゃ消費しますね! 東工大生のマストアイテムですよ。それを知ってるのか、大学にしょっちゅうレッドブル配りが来ますね。
おお! そうやって学生の内から飲ませておいて立派なエンジニアになってから買わせまくるんでしょうね! 商売上手やわ……!
よし! 今日ここにお邪魔してよく分かりました! 知名度が低いとか女性との出会いがないとか、そういう次元で生きてないんですね、みなさんは。
結局、我々は何か作ってるのが楽しいんですよね。究極的には大学名とかもどうでも良くて、やりたいことができる環境かどうかっていうのが大事なんです。
例えばVR(バーチャルリアリティ)なら電通大がすごいんで、VRやりたい人ならそっち行こうかなってなるでしょうし、ほかの大学の人と知り合っても何をしている人かが大事で、どこの大学かなんて全然気にしないですもん。
それって本当に「エンジニア気質」ってやつですよね。企業とかでもそういう話聞きますもん。エンジニアにはやりたいことをやらせてあげる環境が大事って。
そうですね。会社の規模とか知名度とかもあんまり気にしないでしょうね。例えば徹夜続きで毎日遅くても、自分が楽しい仕事なら別に苦にならないじゃないですか。そういう環境なら仕事でも楽しくやれるのかな、と。
いやー、ほんと「彼女作らないの?」とか「知名度低いの悔しくない?」とか余計なお世話なんでしょうね。心が洗われる思いですよ。汚れちゃったな、僕は……。
そしてこの後、みんなで行きつけのラーメン屋だという婆娑羅(ばさら)でラーメンを食べました。みんな痩せてるのに食べる量がハンパないのは、いくら優秀でもそのへんはまだまだ大学生なんだな、と思いました。
ラーメンは小でもこの量。34歳のオッサンは食べ切ったら胃が痛くなった。
さて、最後は書き切れなかったことを箇条書きにして締めたいと思います!
■東工大で聞いてきたいろんなエピソード
・東工大とはいえ、テニサーや体育会系の部活は結構チャラいらしい。
・元総理大臣の菅直人さんは東工大の出身で在学中に麻雀の自動採点マシンを作った。
・バイトを探すには先輩やOBのツテが強力で、企業の研究室で研究したりベンチャー企業で開発したりすることが多いらしい。
・「カスタムしやすい」という理由でスマホは、iPhoneよりAndroidを選ぶ人が多い。
・苦労して作ったものをロ技研のみんなに見せると、まず最初にバグや欠点などの粗探しがはじまるので萎える。
・白衣を14着持ってることでお馴染みの清水さんは、子どものころ豆電球をとても高価なものだと思っていたので、小学三年生の時、サンタクロースに豆電球を頼んだ。
・森田さんはガンダムを作りたくて東工大に入ったけど、入ってすぐに「東工大に入ってもガンダムは作れない」ということに気付いた。
・構内にあるこの坂は、雪が積もると「大岡山ゲレンデ」と呼ばれスキーで滑る連中が出現する。
・「理系バー」みたいなのが流行った時、ビーカーでお酒を出すと聞いて「理系舐めんな!」と怒ってる人がいた。
・物理学科は病んでる人が多い。
・「好きなことで生きて行く」っていうのはYouTuberより、むしろ好きなことしかやりたがらないエンジニアのことなのかも知れない。
何かPRしたいことないですか? と聞いたら見せてきたのがこちらの「テックちゃん」。学祭実行委員のマスコットキャラだそうです。そんなのPRしてどうするんだよ。
いやーほんと、今日はめちゃくちゃおもしろかったです。こんなにピュアだとは思わなかった。たぶん、学生ってどっちかって言うと「やりたいことが見つからない」とか「将来どうしよう」みたいな悩みを持ってる人の方が多いと思うんですよ。実際僕もそうだったし。
でも、みなさんはハッキリ自分たちが何をしたいか分かっていて、全然迷いが感じられないですもんね。これって単純なようで本当にすごいことだと思いますよ。
そうなんですかね? 「やりたいことがやりたい」っていうだけのことなんですけどね。
レアですよ、そういう人は。僕なんか大学生のころは「学校ダルい」以外の感情を1ミリも持ち合わせてなかったですもん。週に2回しか学校行かなかったし……。
そういう人もレアだと思います。
そんなわけで東工大のみなさん、本当にありがとうございました!
今回訪れて分かったのは、先ほども述べたようにエンジニアの方々は、「好きなことをやっている」「好きなことを仕事にしている」ということ。やっぱり好きなことをやっている人たちの目は違いますね!
このまま勉強をがんばって、優秀な研究者、エンジニアになってください!!
取材協力:東京工業大学ロボット技術研究会
公式サイト:http://www.rogiken.org/
公式ブログ:http://titech-ssr.blog.jp/(東工大生でも他大生でも、いつでも部員募集中!)
(ヨッピー+ノオト)
ヨッピー
フリーライター。平日毎日更新のおばかサイト「オモコロ」にて体を張った実験記事を執筆。ほかにも「スマホの川流れ」「トゥギャッチ」などで連載中。ブログ「ヨッピーのブログ(仮)」TwitterIDは@yoppymodel。
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