こんにちは。ヨッピーです。本日は東京大学に来ています。
僕みたいな低IQの屁こき豚がこんな所に来てしまったら、一歩入っただけで知恵熱出してぶっ倒れそうな気がしますが、取材のためなので仕方がありません。
さて、「i:Engineer」ではこれまで、京都大学の先生や東工大の学生など、いわゆるアカデミックな方々にも取材をさせていただきました。その取材の際に、
「数学者は変人しかいない」
「人格破綻してる」
「狂人の巣窟」
なんて、「数学者やべぇ」みたいなニュアンスの話を聞くことがしばしばありました。僕の知人で、京都大学を中退後、現在は優秀なエンジニアとしてゴリゴリ最前線で働いている方も「ずっと数学をやっていたかったけど、数学をやるには全部捨てなきゃ無理だなと思って諦めた」みたいなことを言っており、がぜん「数学者ってどんな人なんだろう」と興味が湧いたわけです。
そこで今日は実際に、
数学者にお話を聞いてみたいと思います!
天才数学者・千葉先生に会いに行こう
じゃん! 九州大学の千葉逸人(ちば はやと)先生じゃ~い!
千葉逸人
九州大学マス・フォア・インダストリ研究所 准教授。京都大学物理工学科という、工学系出身の珍しい数学者でもある。著書『これならわかる工学部で学ぶ数学』(プレアデス出版・新装版)は、名著として高く評価されているようだ。
ちなみに、取材する前に千葉先生のTwitterをチェックしたのですが、
北大出張、年に3回くらいあるけど、飲みに行くとうんこ好きな先生がずっとうんこの話してて尻が好きな先生がずっと尻の話をしてるから、すごいアットホーム感で安心する。
— 千葉逸人 (@HayatoChiba) 2016年10月27日
ああ、みんな数学者です。
いわゆる天使の輪(ビールを一口飲むごとに残る泡のあと)。
— 千葉逸人 (@HayatoChiba) 2016年10月27日
単位時間あたりにある断面を流れる流体の量に関するベルヌーイの法則がよく見てとれる。 pic.twitter.com/ZpBlKwZdke
靴下を全部使ってもう履くのがないに、まだ使ってないパンツがあると洗濯機を回すのがもったいないから靴下は2週目に入る。するとパンツの1週目が終わったときに靴下はまだ2週目の途中だからまだ洗濯するのはもったいない。結局、洗濯の周期が靴下とパンツの数の最小公倍数になるから、数学は大事。
— 千葉逸人 (@HayatoChiba) 2016年10月23日
基本的に下ネタとビールの話ばっかりです。大丈夫か、この人。
今日はよろしくお願いします。早速ですけど、数学者の仕事ってどんな感じなんですかね……? 何をしているかサッパリ見当がつかない……!
僕は大学に所属しているので、研究と学生向けの講義、それと大学の運営ですね。今日はちょうど、この東京大学で院生向けの集中講義をするために福岡から出張で来てるんですけど、よかったら授業を受けてみます?
僕、高校生の頃にサイン、コサイン、タンジェントで挫折して以来、一切数学やってないですけど。
一切理解ができないとは思いますが、雰囲気はなんとなくわかるんじゃないかと。
なるほど! やります!
~講義に参加し、2時間後~
1ミリもわかりませんでした。
講義中に書き写したノート。もう何が問題で、何をしているのかすらわからない。何かを、証明しようとしてる……?
そんな講義を受けている最中の僕はずっとこんな感じの表情でした。
要するに「無」ですね。
数学者の生態を知ろう
※2時間の講義のせいで知恵熱出てぶっ倒れるかと思ったので、ゴールデン街の居酒屋に移動しました。
ちょっと! なんなんですかあれ! あんなもん完全に意味不明ですよ!
まあまあ。でもずっとあんな感じなんですよ。普通の人からすればもうわけがわからないでしょうね。
先生はずーっと数学やってるんですか? 1週間のスケジュールってどんな感じです?
講義は週に2回、3コマあるんですけど、午前中に授業や会議がない日は徹夜で数学したり酒飲んだりしますね。
ただの酔っ払いじゃねぇか。数学の研究は? いつやるんですか?。
24時間ですよ。
は? 24時間?
いや本当に。歩きながら数学やって、ご飯食べながら数学やって、酔っぱらって数学やって、寝る前に数学やって、夢の中で数学やって、目が覚めたらその続きをやるっていう。朝起きて「よーし、じゃあ今から数学やるかー!」ではなくて、常にやってるんですよ。
えっ? ノートとかペンもなく?
もちろんノートやペンも使いますけど、頭の中に無限に広い黒板があって、その中で全部やっちゃったりとか。
「今、なんかとんでもないやつに話を聞いているぞ」と思ってビールを飲む手が止まる僕。
昔ね、金縛りに悩まされていた時期があったんですよ。でもあれって科学的には解明されてるから、怖くともなんともないんですね。
ああ。脳みそは起きてるのに、体がまだ寝たまんまっていう?
そうそう。でも、数学って脳味噌さえ動いてたらできるので、「ラッキー! じゃあ寝たまんまでも数学やれるじゃん!」と思って、「金縛りになった時に解く問題」を頭の中に用意しておいて、金縛りがきたらそれを解くっていう。
わけがわからん。
でもそんなもんですよ、本当に。
常人の理解を超えつつありますね。そんなにずっとやってて大変じゃないですか……? ノイローゼにならない……? 「もう方程式ばっかり嫌だーーー!」ってなったりしないんですか……?
いや、むしろ最高じゃないですか。好きなことやってお金もらえるなんて、こんなに素晴らしいことはないですよ。
それが楽しいのか……! 数学って、なんなんですかね……?
数学はね、終わりのないRPGみたいなものなんですよ。新しい計算方法とか公式とかは、RPGでいうところのすごく強い武器なんです。たとえば、公式が「どうのつるぎ」だとしたら、それを使えば敵をばんばん倒せる、つまりはいろんな問題が解ける。でも今度は「どうのつるぎ」だと倒せない敵が出てくるわけです。そこで新しく「はがねのつるぎ」みたいなものを作って、また敵をやっつける。でも、すぐにまた「はがねのつるぎ」では倒せない敵が出てくるので、それをどうやってやっつけようかなってみんなで考える。そういう作業を永遠に繰り返してるんです。
なるほど。じゃあフーリエ級数とか、ああいう公式みたいなものって、RPGでいうところの「めっちゃ強い武器」ってことで、ミレニアム懸賞問題(※)なんかは「めっちゃ強いボス」ってことですね。
(※)ミレニアム懸賞問題……アメリカのクレイ数学研究所によって100万ドルの懸賞金がかけられた7つの数学的問題のこと。そのうちの1つ「ポアンカレ予想」については、ロシアの数学者グレゴリー・ペレルマンによって解決済だが、残りの6つは2015年8月末の時点で未解決。
そうそう。いろんな問題を解けるような強い武器を作るのは、数学者にとってすごく名誉なことなんですよ。それをみんな目指してる感じですね。
そのRPGってクリアはないんですか?
ないです。
絶対に?
絶対にないです。
数学者には変人が多いのか?
数学者には変人が多いっていう話を聞いたんですけど、それって本当なんですか?
本当ですよ。シカゴ大学教授(東京大学名誉教授)の加藤和也先生は、大学院生の頃に、数学のことを考えながら街を歩いていたらいきなり両脇から警察官に捕まったんですって。「なんなんだ急に!」と思ってたら自分がほぼ全裸だったっていう。
それ、単なる露出狂とかじゃなく!?
それくらい数学に没頭してたってことなんですよ。周りが見えなくなるんですね。
先生も全裸で数学やったりします?
僕もやりますね。
そのうち捕まるかもしれないですね。
僕はちゃんと「自分は全裸である」ということを自覚しながらやってるから大丈夫です。あとは、とある数学者が「日本だと事務仕事が多くて研究ができない」ってアメリカの大学に行っちゃったんですが、その方は漢字が書けなくて有名なんですよ。修士論文で提出した自分の名前が間違ってたそうです。講義中に「座標」という漢字が書けなくて、悩んだ末に「ザヒョー」ってカタカナで書いたんですけど、今後は「ザヒョー」の「ヨ」の横棒が右向きか左向きかわからなくなって悩んでたっていう。
めちゃくちゃ面白い。やっぱり数学に全部突っ込んでるから、他のことができなかったりするんですかね。
そうですね。知り合いの先生にも車のナンバーを頭の中で素因数分解して「あれは素数だ」って喜んでる人がいますし、数学者の逸話についてはググればゴロゴロ出てくるので、見てみるといいかもしれません。
読者の質問に答えてもらおう
数学者の千葉逸人先生(@HayatoChiba)に取材中なのですが、数学の話とかは僕完全に意味不明なので聞いてみたい事がある人はぜひリプライ下さい!(インタビュアーとしての責務を放棄) pic.twitter.com/iHtd8J914z
— ヨッピー (@yoppymodel) 2016年12月1日
さきほどTwitterで千葉先生への質問を募集したんですが、答えていただいてもいいですか?
いいですよ。
【質問1】
最先端の数学は、最先端の応用科学の数十年後、数百年後に位置する良くも悪くも数学という学問の特性ですが、数学者として「現在よりも進歩しすぎている」というもどかしさをどう考えてますか?
これ、数学って実験とか実証をすっとばして紙とペン、つまりは理論だけでガンガン進めていけるから応用とのギャップがあるってことですよね。
そうですね。でも最新の数学の理論って、絶対に後で役に立つんですよ。この方がおっしゃる通り、それが何十年後、何百年後かはわかりませんけど。ただ僕は工学出身なので、工学上の問題を数学的に解く感じの応用を考えるのも好きで、そういう他の学問と数学との間のラグを埋めるのも大事だと思ってるんです。実際、そうやって数学的なアプローチで解決する問題ってけっこうある。数学って抽象的なものだけど、抽象的だからこそ応用がきく。だからアメリカなんかだと「数学は役に立つもの」という意識が高く、必然的に数学者の地位が高かったりするんです。その点で日本は遅れてますね。
なるほど。粘土がグニャグニャしてるから、いろんな穴も埋められるって感じなのかな。
日本では基礎科学にお金を突っ込む背景があんまりないのと、あとは先生によっては「数学的な美しさ」だけを追求するというか、「応用されたら恥だ」くらいに考えてる人も多いですね。本当は数学の理論をいろんなものに応用していった方がいいんでしょうけど。
アメリカはやっぱり数学もすごいんですか?
そうですね。人とお金があるから。本当は、数学って天才が1人いればそれで済むんですよ。さっきのポアンカレ予想を解いたロシアのペレルマンも1人で解いちゃいましたからね。でも、単純に人数が多ければ天才を引く確率も高いよね、っていう。あとは環境もあってアメリカにすばらしい人材が集まるっていう背景もあります。
さっき聞いた「座標」が書けない数学者の方もアメリカに行っちゃったって言ってましたもんね。
そうそう。教授になるといろいろ面倒くさいんですよ。事務仕事が増えるし、いろんな組織のボスみたいなのに据えられたりして。そうなると、忙しくて研究できなくなりますから。学生に教えるのもそうです。アメリカだと研究する人と教える人が分業されてるんですけど。
数学者が研究に集中できないことについて、日本では問題視されないんですか?
うーん、それが当たり前になってしまって、変えていくのは難しいのが実情だと思います。
なるほど。じゃあ次の質問!
【質問2】
数学を突き詰めて、何を目指してるんですか?
これも根源的な質問ですね。さっき、先生は「数学は永遠に続くRPG」っておっしゃってましたけど、それってつまり終わりがないってことですもんね。なんのために数学をやってるんでしょう?
最終的には自己満足ですね。周りにも「俺は数学で世界を救うんだ!」みたいに立派なことを言う人は全然いなくて、知的好奇心だけでやってる人がほとんどです。だから、結局は自分が死ぬときになって、自分の人生に満足できているかどうかですかね。「俺はいい数学人生を過ごしたなぁ」って思えるかどうか、みたいな。
先生はどういう環境で育ったんですか? やっぱり昔から頭が良かったとか?
家庭はごくごく普通の家ですよ。父親は公務員ですし。親は僕をスポーツ選手にしたかったらしいです。頭は確かに良かったんですけど、かといって天才タイプではないんですよ。数学オリンピック出て金メダル取ったり、模試で一番取ったりするタイプでもなかったんです。ただ、1個の問題をずーっと考えるのが好きで、解けても解けなくても楽しかった。考えるのが好きなんでしょうね。親と一緒に京都大学の合格発表を見に行って、受かってたのにその夜泊まったホテルで加法定理の新しい証明を思いついて夜中にずっとやってたら、親がそれを見て「せっかく受験が終わったのに今度は頭がおかしくなった」と思ったそうです。
数学の楽しさとは
ガバガバとビールを飲む千葉先生。学会などで海外に行くことも多いため、海外でおいしいビールに出会ってから大のビール党になったらしい。
数学の楽しさって、なんなんですかね? 僕からしたら頭が爆発しそうですけど。
なんでしょう。美しいんですよね。
数式が美しいってこと?
うーん、この世の全てには数学が隠されてるんですよ。いま座っている椅子も、構造計算とかですね。ビールの泡の流れ方もそうです。現実にある難しい問題には、絶対に美しい数学が隠れてるんです。それを見つけた時の喜びがすごいんですよ。
遺跡を発掘してる人みたいですね。数学そのものにロマンを感じるというか。
ロマンだけじゃありません。さっきも言った通り、現実の問題を解決する時に数学は役に立つんです。新しい数学の理論ができて、それを応用にフィードバックして、それで世の中が動いていくっていう。そして、その裏にはやっぱり美しい数学が隠れてるんですよ……!
なるほど。全然わからんな。じゃあ数学者の人たちは、その美しさに魅入られて全裸で街を徘徊するんですね。
全裸は関係ないです。
どうやったら数学者になれるのか
先生のペースに合わせて飲んでいたら、だいぶ酔っ払ってしまった僕。
数学者って、どういう人が向いてるんですかね?
やっぱり数学を愛しているかどうか、ですね。24時間やってても、苦にならないレベルじゃないとしんどいと思います。
わー、やっぱり。生半可な気持ちでやれないんですね。
修士まではなんとかなっても、博士号取るのがめちゃくちゃ難しいんですよ。論文の問題の設定も自分でしなきゃいけないので、まず「いい問題に出会えるか」っていうのもありますし。3年かかっても博士号取れないなんて話、ザラにありますから。
それで路頭に迷ったり、「数学じゃ食えない」って諦める人も多かったりするんですか?
食えないとか路頭に迷うっていうことはないと思いますよ。研究の道がダメでも院卒で金融系に行く人は多いですし、そういう人は意外と稼いでるんじゃないかな。あとは高校の先生やったり、高専の先生やったり。
なるほど。最近のIT系のエンジニアだと、AIとかビッグデータとかをやろうと思ったら数学的なバックグラウンドがないとしんどいらしいので、その辺からは引く手あまたかもしれませんね。
ただ、やっぱり大学の仕事もらって、研究しながら教授目指すみたいな道がかなり険しいことは間違いないです。僕は工学系で、比較対象が周りにいなかったので「数学やろう」って思いましたけど、それこそ数学系に進んでたら周囲のすごい連中に圧倒されて諦めてたかもしれません。ただし、そもそもその「食うために数学やる」みたいなスタンスだと厳しいのかなって。数学を就職の手段として捉えているようだと競争に勝てないというか。数学者になる人たちって、数学以外は何もできない、何もしたくない、みたいな人たちばっかりですもん。
なるほど。生きるために数学をやるんじゃなくて、数学をやるために生きる、って感じなんですね。
おっ。いいですねそのセリフ。講演で使わせてもらってもいいですか?
いいですけど、今度焼肉おごってくださいね。
そんなわけでざっと2時間、数学についていろいろお話を伺いました!
これを読んでいる人も、「数学者」がどういう人なのかなんとなくわかったのではないでしょうか!
僕は「完全に違う生物だな」って思いました。頭の構造が違う。
ちなみに、千葉先生はインターネットで数学について書くホームページを運営していて、それをきっかけに『これならわかる工学部で学ぶ数学』を出版することになったくらい「ネット好き」だそうです。
今回寄せられた質問にも個別に答えてくれているので、先生のTwitterをチェックしてみるといいかも!
千葉逸人先生のTwitter
https://twitter.com/hayatochiba
ひょっとしたらこの記事を読んで「俺、数学なんて絶対できないわ……!」って自信をなくす人もいるかもしれません。しかし文中でも触れた通り、AIやビッグデータといったこれからのエンジニアリングに数学的な教養が必要になることも多いそうなので、関心を持った方は将来の選択肢を広めersol-tech-s\.co\.jp/i-engineerるためにも勉強してみてはいかがでしょうか!
【取材・文】
ヨッピー + ノオト
ヨッピー
フリーライター。平日毎日更新のおばかサイト「オモコロ」にて体を張った実験記事を執筆。ほかにも「ジモコロ」「トゥギャッチ」などで連載中。ブログ「ヨッピーのブログ(仮)」 TwitterID「@yoppymodel」
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