スマホ・家電・インフラ設備など機械や電子機器の設計・開発・製造分野に携わり、物理的なものを作る「ものづくりエンジニア」。ものづくりエンジニアとして活躍し、スキルアップし続けるには、何が必要なのでしょうか?
本記事ではスプレーガンとコンプレッサーのメーカーで設計や開発に携わり、海外勤務を経験後、新規開発チームでチームリーダーとして活躍する掛端浩之さんにお話を伺いました。また、掛端さんの妻の玲さんにも登場していただき、掛端さんのワーク・ライフ・バランスについても聞きました。
掛端 浩之(かけはた ひろゆき)さん ものづくりエンジニア
幼少期からものづくりの仕事に憧れ、2006年に塗装機メーカー「アネスト岩田株式会社」に入社。スプレーガンの設計・開発に携わり、販売も経験。タイ、中国、イタリア工場の勤務を経て、現在は新規開発のイノベーションチームでチームリーダーとして後輩の教育にあたる。
「仕事=ものづくり」。幼い頃からエンジニアになろうと思っていた
――ものづくりエンジニアを目指したきっかけを教えてください。
(掛端さん)子どもの頃から、自動車やオートバイなど機械に興味を持っていました。父親が工場で鉄板製作に携わる仕事をしていたので、もともと「仕事=ものづくり」というイメージをもっていたんです。大学で機械工学を専攻し、ものづくりに関わるエンジニアを選んだのも自然な流れでした。
――今の会社に入社しようと思った理由は?
(掛端さん)車やオートバイが好きだったので、最初は自動車メーカーを考えていました。ただ、大きな製品を扱うと部品が多くなるため、分野ごとに設計が分かれてしまいます。「それなら自分は設計から開発まで一貫して担当したい」。小さな製品を1から丁寧に設計する方が自分の性格にも合っていると感じたのです。あまり他社を検討することもなく、現在勤務している塗装機メーカー「アネスト岩田株式会社」を選びました。入社時の面接では、「今までにない新しいものを作りたい」と答えたのが採用の決め手になったようです。
入社当時は昭和の中小企業という印象で、21時まで残業するのは当たり前という環境。しかし近年は働きやすさの向上に取り組むようになり、ほとんど残業はありません。女性エンジニアも徐々に増えていて、僕のチームは現在5名中2名が女性エンジニアです。多様な人材が働きやすい環境を整えるため、ハラスメント教育なども行われるようになりました。
スプレーガンの部署に配属になり、ものづくりの楽しさを知る
――スプレーガンとコンプレッサーのメーカーに就職され、最初に配属になったのはスプレーガンの部署ですよね。
(掛端さん)希望していた部署は、動きがダイナミックなコンプレッサーの部署でしたが、配属になったのはスプレーガン。入社してから6年間、所属していました。そこの部署はしばらく新入社員が入っていなかったので、ひたすらOJTを通じて知識と技術を身につけていきましたね。
――スプレーガンの部署ではどのようなお仕事を担当されていたのでしょうか?
(掛端さん)お客さま向けの特注の仕様書に沿って、いくつかの部署と連携しながら 塗装設備を作る仕事でした。未塗装の製品をベルトコンベアに乗せて、特定の場所に流れてきたらロボットが塗装する。そして乾燥用の設備に移動させるのが工業塗装の一連の流れなのですが、所属していた部署では、ロボットに噴射させるスプレーガンの設計を行っていました。
塗装場所ではスプレーガンをロボットに持たせて、塗料を噴射させます。塗料について考えるだけではなく、例えばスプレーガンのノズルニードル、ホース、エアーホースなどの付帯設備の長さ・色、材質といったスペックを決める必要があります。設計だけではなく、材料の手配、現場での設置作業、試運転、開発の手伝いなども担当しました。
エンジニアは図面で対話ができる
――入社2年目でスロバキアに出張に行かれたんですよね。
(掛端さん)ええ、そうなんです。あるメーカーがスロバキアに多くの液晶テレビ工場を建設することになり、塗装設備を納入するため、現地に行くことになったわけです。
――その後、タイで営業も担当され、中国、イタリアを渡り歩いたとか……!
(掛端さん)入社して6年後、ASEAN地域でスプレーガン販売のマーケティング活動をするためにタイに転勤になりました。その期間は営業がメインでしたが、営業を経験することによって、お客さまの生の声を聞くことができました。開発する上での意識も変わりましたね。
タイから帰国後は中国の上海工場に転勤になり、開発担当者として1年半ほど滞在していました。海外勤務の中でも最も難しいと感じた場所が中国でしたね。中国では部品工場への発注も行っていましたが、タイ時代とは大きく異なりました。注文を出しても部品がなかなか完成しなかったり、実際に完成できなかったり……。ストレス耐性はあるほうだと思っていましたが、環境の違いもあってか、仕事のストレスがマックスだったのを覚えています。その後はイタリア工場に転勤となり1年間、開発を行っていました。
――海外への出張や駐在を経験して、どんなことを感じましたか?
(掛端さん)先輩からよく「どこの国に行ってもやることは一緒」と聞いていましたが、本当にそうなんですよ。たとえ言葉が通じなくても、エンジニアは図面を通じて会話ができるからです。僕は英語のリスニングは大丈夫なんですが、伝えるのがあまり得意ではありません。それでも、海外のエンジニアとは、図面を見ながら「こういうものが作りたい」と伝えることができる。「ああ、そうなんだね。わかったよ」と現地で働く海外のスタッフとそうやって何度も意思疎通をはかってきました。
――すごいですね。仕事で英語が必要な方は、どのようにスキルアップすればいいでしょうか?
(掛端さん)必要なのは「会話力」だと思います。もし機会があるとしたら、短期でもいいので海外留学をすると良いかもしれません。僕も学生時代、1カ月間、アメリカに留学したことがあります。会社でも週に1度アメリカ人の先生から英語を習う機会があったので、新入社員の頃は一生懸命勉強していました。そこから、海外志向も強まったと思います。会社で利用できるものは何でも利用した方がいいですね。
帰国後はスプレーガンの開発から後輩を率いるチームリーダーに
――日本に帰国されてからはどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
(掛端さん)帰国後はスプレーガンの開発に携わっていましたが、2021年に新規開発を行うイノベーションチームのチームリーダーになりました。ゼロから何かを作るというよりは、既存の技術を組み合わせて新しい価値を生み出すような仕事です。開発テーマは中期経営計画の中で決まっていて、それに沿った製品開発を求められます。
――新製品開発の流れについて教えてください。
(掛端さん)新製品開発では、要求品質→設計方針書→設計試作→生産試作→量産試作という流れにそって工程を進めていきます。
まず、製品開発のマーケティングの部署から、市場の要求に沿った製品を作ることを依頼されます。その後、設計開発側から方針を回答し、試作品を作ります。提案した要求仕様に対して満足しているかどうかを検証し、最終製品に近い形で設計。評価結果で問題点が見つかった場合は設計変更します。最終製品を実際の工場で製作、生産性を検証した後、量産体制に入ります。
――現在のお仕事でやりがいを感じている点はどのようなことでしょうか?
(掛端さん)スプレーガンの垣根を超えて、自由に新しい製品を考える仕事なので、楽しんで仕事をしています。製品の中に自分の考えを活かせて、設計の中に取り入れられるとやりがいを感じますね。
ちなみに、僕は料理が好きなんですが、料理をしているときも新製品のアイデアを考えてばかりいます。また妻の話では寝ているときも新しいアイデアについて、寝言を言っているようです(笑)。
――改めて、設計を考えるうえで難しいと感じる点はどのようなことでしょうか?
(掛端さん)テーマに沿って考えていても、現在の技術力が達していないと、行き詰まるときがあります。計画がうまくいかないときは、視野を広げて考えるように心がけています。例えば、他業界の技術を調べてみて、類似した技術を応用できないか検討することもありますね。
――チームリーダーとして後輩の指導をすることもあると思います。気をつけていることはありますか?
(掛端さん)現在は入社3~5年目の後輩の面倒を見ています。後輩に対しては指導しすぎないようにして、自分で問題解決に対して考える時間を与えるようにしています。ただ、時間を与えすぎると壁にぶつかって止まってしまうんですよね。2週間に1度は30分程度、後輩と話す時間を設けています。
コミュニケーションを円滑にするために、例えば韓国好きな後輩だったら僕も韓国のものに触れるようにしていますね。後輩が細かい指導をしなくても自力でできるようになると、成長を感じてうれしく思います。
ご家族から見た掛端さんのワーク・ライフ・バランス
――掛端さんが仕事でストレスを感じたとき、どのような方法で解消していらっしゃいますか?
(玲さん)夫はメンタルが強いのか、ストレスがあっても全然へこたれない人なんです(笑)。でも、中国滞在時は違いました。仕事が大好きな夫なのに悩みが多そうに見えました。そこで日本にいるときと同じような「普通に生活すること」を心がけ、家でご飯を作ってもらったり(笑)、週末に自転車に乗ったりして、ストレス発散をしていましたね。
昔から料理は夫の担当。「食生活が乱れるとメンタルにも影響する」という考えがあり、どこに行っても自分で味付けをして食べることがストレス発散になっているようです。また、料理に対してもひとつのものづくりだと考えているみたいです。
――土日にお仕事することはありますか?
(玲さん)土日は完全にオフなので、仕事を家に持ち込むことはありませんね。決められた時間の中で仕事をやり切るという自己管理が徹底しているようで、オン・オフの切り替えが上手です。休日はバイクで走ったり、料理をしたり、お菓子作りをしたり、猫と遊んだりしていますね。
ものづくりエンジニアを目指す人たちへ
――ものづくりエンジニアに必要なスキルは何だと思いますか?
(掛端さん)好奇心が大事だと思います。好奇心があると、解決できない課題があっても、違う業界の技術を調べてみようと考えますよね。
また、最近はAIの活用も進んでいますが、AIに学習させるためにはデータセットが必要です。「AIに何ができるのか」「何ができないのか」「どういうデータセットを与えればうまくAIが返してくれるのか」についての基礎知識が求められます。AIは一見何でもできそうですが、できることとできないことがあります。基礎知識をベースに、そういった判断力が必要になってくると思いますね。
――最後に、ものづくりエンジニアを目指す方にアドバイスをお願いします。
(掛端さん)時間があるときに幅広い知識を習得し、様々な経験を積むことが必要だと思っています。学生であれば、まとまった時間を取れるうちに留学するのもひとつの方法です。年齢を重ねるとなかなか時間が取れなくなってきますから。
それから好奇心をもつことも非常に大事だと思っています。困難な課題に直面しても、違う角度から調べてみようと考えることにつながります。好奇心があると、エンジニアは知らず知らずのうちにスキルアップしていくのではないでしょうか。