「就職には困らない」という姉の言葉をきっかけに、高専に進学したという山田さん。人と話すことが好きで、高専で学んだ電気系の知識も活かせる、サービスエンジニアとして医療機器メーカーに就職しました。
しかし、あまりのハードワークに転職を経験し、現在は産業機器検査装置のフィールドエンジニアとして活躍しています。結婚や年齢を機にキャリアプランを見つめ直したと語る山田さんに、エンジニアの仕事のリアル、今後のキャリアプランを伺いました。
高等専門学校の電気系学科を卒業後、20歳のときに医療機器メーカーにサービスエンジニアとして就職。都内23区の病院・クリニックをまわり、機器の設置や故障時対応、定期点検などを担当する。その後、半導体の製造・検査装置も扱う光学機器メーカーに入社。フィールドエンジニアとして全国の工場に出向いて機器の故障時対応などを担当する。
エンジニアでも「人とたくさん話す」仕事ができる
――電気系の高専(高等専門学校)出身と伺いましたが、もともとエンジニアを目指していたのでしょうか?
いえ、むしろ文系科目のほうが得意だったくらいで、高専への進学を決めたのも姉が通っていたことがきっかけです。姉から「高専を卒業すれば就職には困らない」と聞いており、就職活動で苦労したくないと思い、気軽な気持ちで選びました。
高専ではまわりのサポートもあり、なんとか留年せずに卒業までたどり着きました(笑)。同級生のうち半分は国公立大学の電気系学科の3年次に編入し、私を含む残りの半分は就職しました。就職組の中にはシステムエンジニアになる子も多くいましたが、私は設計やプログラミングよりも人と話せる仕事を希望していたので、サービスエンジニアとして医療機器メーカーに就職しました。
――サービスエンジニアとして、どのようなお仕事をされていましたか?
営業が病院やクリニックにエコーなどの機器を売ったあとに発生する、アフターサポート全般を担当していました。たとえば機器の設置や故障時の対応、定期的な点検などですね。お客さまと製造・開発などの間に立ってスムーズに機器を使えるようにするのがサービスエンジニアの主な役割です。
また、扱う機器の業界知識は必須。私の場合は医療機器メーカーだったので、医療についても詳しく学んでいました。担当している機器がどのようなシーンで使われるものなのかを理解していなければ、お客さまに説明できませんから。新人研修中に医療機器系メンテナンスに関わる資格を取り、現場で医師の先生方にも教えてもらいながら日々学び続けていました。
――エンジニアは女性が少ないイメージがありますが、医療機器の業界ではいかがでしょうか?
たしかに女性は少ないですが、医療機器のサービスエンジニアは多いほうだと思います。各支店に一人は女性エンジニアがいた気がします。営業時間内は女性しか施設内に入れない健診センターがあったり、実際に患者さまの検診の立ち合いをしたり、むしろ女性のほうが受け入れてもらいやすいシーンも多くありました。
――やりがいを感じる瞬間はありましたか?
やはり人と話すのが好きなので、高専で学んだ知識を活かしながら多くのお客さまと話す機会を得られるのは楽しかったですね。サービスエンジニアが対応に呼ばれるのは機器が壊れたときなので、基本的にはお客さまは怒っていたり困っていたりする状態です。ていねいにコミュニケーションを取りながら、無事に機器を修理できて、お客さまから感謝の言葉をいただいたときは大きなやりがいを感じていました。
――反対に、大変だったことがあれば教えてください。
車の運転です。ペーパードライバー講習にも行きましたが、東京23区を運転するのは本当に怖かったです。修理部品や工具を運ぶので、サービスエンジニアは運転免許必須の企業が多いと思います。
また、業務自体は楽しかったのですが、人材不足でかなりハードワークだったのも大変でしたね。当時は3千台近くの機器をたった5人のサービスエンジニアで担当していて……。残業は繁忙期では月100時間近く、休日出勤も当たり前のなか、新卒で入社して3年目でようやく「おかしいかもしれない」と気づき、転職を決意しました。
ハードワークを経験して気づいた、本当に大切な働き方
――新卒で入社した会社だと、他社と比較できないために、たとえハードワークだったとしても「社会人なら普通」と考えてしまう人は多いと思います。山田さんはどうして「おかしい」と気づけたのでしょうか?
まわりの友人に指摘してもらえたからです。遊びの予定を合わせようとしても、私だけ休みが取れずにずっと予定が合わなくて。勤務時間を伝えると「それ、おかしいよ!」と言われました。まさに働いた経験がないと、1社目がスタンダードと思ってしまいがちなので怖いですよね。
――転職にあたって準備してよかったことを教えてください。
新卒での就職活動と違って転職活動で大切なのは「何ができる人か」を明確にしておくことです。私は3年間のエンジニア経験で学んだことや得たスキルをまとめ、面接では最大限アピールすることを心がけました。資格はわかりやすい指標になりますし、取っておいて損はないと思います。
――企業選びで大切にしていた軸はありますか?
大切にしていたのは、フロントに立ってお客さまと話せる仕事であることです。エージェントに紹介してもらった不動産業界のカウンター営業なども視野に入れていましたが、最終的にはこれまでのスキルが活かせるエンジニア職を選択しました。
また、転職理由である「ハードワークさ」も避けたい点でした。求人をよく見るのはもちろん、面接時に実際の残業時間や1日のスケジュールを細かく聞いて、本当に入社しても大丈夫か精査していました。新卒での就職活動だと、どうしても「採用していただく」と受け身になりがちですが、転職活動では「私が選ぶ」と攻めの姿勢で臨みました。
半導体製造の現場で奮闘する日々
――現在のお仕事について教えてください。
現在は半導体系の装置のフィールドエンジニアをしています。名前は異なりますが、前職のサービスエンジニアとほぼ同じような業務内容で、お客さま先の工場に行き修理対応や点検を担当しています。
――前職との違いを感じることはありますか?
お客さまの雰囲気の違いでしょうか。前職では医師や看護師、検査技師の方々と、今は工場で働く方々と接しています。最初は空気感がつかめず不安もありましたが、機械に強い方が多く、トラブル原因の調査もある程度まで自分たちでやってくださるので正直助かっています。
――不安だった「ハードワークさ」についてはいかがでしょうか?
もちろん忙しい時期もありますが、残業は月10時間程度とかなり改善されました。職場の雰囲気も良く、ホワイト企業の人はこんなにも心に余裕があるのかと感動しています(笑)。
ただ、働く環境については前職よりもハードになったと感じることもあります。半導体工場で働く方は、やはりまだまだ男性のほうが多いので、女性用トイレが少ないことがよくあるんです。
女性エンジニアが直面するキャリアの壁と未来への展望
――「女性が少ない職場」という点で、キャリアに不安を感じることはありますか? また、どのように乗り越えようとしていますか?
最近結婚したのですが、キャリアのロールモデルをまだ見つけられておらず……。たとえば、「子どもを授かりたいと思ったとき」「子どもが大きくなって職場復帰したいとき」どうすれば良いのか分からず不安に思っています。現在、任されている仕事もあるので、手放しに「産休・育休を取ります」とも言いづらいな、と。いつ自分が抜けても周りが困らないように、これまで自分が担当した修理履歴や技術資料等は積極的に残すようにはしています。
また、今の仕事は出張が頻繁にあるため、将来子どもができたら続けるのは難しいとも考えています。前職と合わせて10年近く現場でエンジニアとしてのキャリアを重ねてきたので、そろそろ現場以外の仕事に挑戦してみても良いのかもしれないと検討しています。
――働き始めた20代前半と現在ではキャリアに対する考え方に変化はありましたか?
今の職責と給料に見合った仕事をしなければいけないと思うようになりました。若手であればまずは言われたことをこなすだけでOKですが、30代でキャリアアップを目指すなら人材育成や+αの仕事に自分から取り組んでいく必要があります。
そのためにも、ビジネスの仕組みやお金の流れをより深く学び、自身の業務だけでなく、会社全体を俯瞰する視点を持ちたいです。
――あらためて、サービスエンジニア・フィールドエンジニアの魅力について教えてください。
前職でも現職でも、難しいトラブルの原因を見つけて、装置が直った瞬間は格別に嬉しく、やりがいを感じます。また、フロントに立ってお客さまとかかわっているため直接感謝の言葉をいただくことも多く、誰かの役に立てたことを実感することができます。そこがモチベーションにつながっていますね。
――エンジニアへの転職を考えている読者のなかには、キャリアの不安を抱えている方も多いと思います。最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
エンジニアと聞くと難しそうな仕事だと思うかもしれませんが、意外と何とかなると伝えたいです。私は電気系学科出身ですが、まわりを頼りながらなんとか卒業した身なので電気に特別詳しいわけではありません。それでも10年近くエンジニアを続けてこられました。一生直らないと感じてしまうような装置の故障も、力を尽くせば対処方法は何かしら見つけられます。
必要な技術力は経験を積めば後から必ずついてきます。経験が浅いうちは分からないことだらけで苦しいこともありますが、まずは適切なタイミングで「人を頼る」「人に聞く」ことを大切にしてほしいです。最初からうまくいく人はいないので、とにかく現場で学びながら成長していけば良いのではないでしょうか。