世界を旅して働くフリーランスエンジニア・森和宏さんが会社に7年半勤めていた理由とは?【若手フリーランスエンジニアの実態】

皆さん、“フリーランスエンジニア”に対して、どんなイメージを持っていますか?

「自由な時間に自由な場所で働ける」といったポジティブなイメージを持っている人もいるでしょうし、一方で「仕事が安定しなさそう」「収入が減ってしまいそう」というイメージを持つ人も少なくないでしょう。いずれも間違いではありません。でも、皆さんがフリーランスエンジニアに対して抱いているイメージとはちょっと違った一面も、もしかしたらあるかもしれません。

フリーランスエンジニアは、どんな働き方をして、どうやって収入を得て、どんな生活をしているのか。今回は、フリーランスになって世界中を旅しながら働いている森和宏さんにお話をうかがいました。会社員からどうしてフリーランスになったのか、現在のお仕事内容や働き方、そしてフリーランスになる人に大切な心構えなどについてうかがいました。

森和宏(もり・かずひろ)さん
フリーランスエンジニア

1993年生まれ。大学生のとき、交換留学制度を使ってアメリカのオハイオ大学に1年留学。卒業後、未経験からエンジニアとなり、2社で計7年半勤務したのち、2023年からフリーランスに転身。世界各国を旅しながら、フロントエンド、バックエンド、インフラをカバーするフルスタックエンジニアとして活動中。

 

“直感”でスペインを目指しながら、フルスタックエンジニアとして働く

――森さんはフリーランスエンジニアとして、いまどんなお仕事をしているのでしょうか。

森さん(以下敬称略):フリーランスのフルスタックエンジニアとして働いています。主にウェブアプリの開発やウェブサイトの保守など、インフラからバックエンド、フロントエンドまで対応しています。

クライアントは、今のところ日本企業がほとんどです。海外を旅しながら働いていることもあって、海外の企業の仕事も増やしていきたいと思っています。一度しかない人生なので、海外の企業、外国籍の方と仕事をする経験をしたいし、そうした経験を積んでキャリアに活かしていきたいと考えているんです。また、自分でサービスを開発している最中だったりもします。

ウズベキスタンのサマルカンドにて

 

――いろんな国を巡りながらエンジニアの仕事をされているんですよね。

森:はい!今年のはじめにインドから旅を始めて、年末にスペインに着くことを目指し、時間をかけて西に向かっている途中です。スペインを目指したのは、特に理由がなくて……直感ですね(笑)。

今は、東ヨーロッパのジョージアに滞在しています。ジョージアは自然と料理、ワインが魅力的な国です。先日は、仕事の合間に、カズベキと呼ばれる地域にある「天国に一番近い教会」に行ってきました。私が会社員のときだったら、絶対にあり得なかったような働き方ですね。

フリーランスは、やはり自由度が高いのが魅力です。働く場所と時間に制約がないので、自己管理しながら、望んでいた働き方ができています。

タジキスタンのSeven Lakesにて

 

いつか自由な働き方を実現するために。会社員として、スーツを着て客先常駐で7年半勤務

――森さんはもともとなぜエンジニアを目指したのですか?

森:実は、小中学生の頃から「いつか自由な働き方がしたい」と思っていました。毎朝同じ場所に出勤するような、一般的な会社員の働き方を見ると「自分の人生がずっとそうなるのはちょっと嫌だな」って思っていたんですよね。

大学生になって、交換留学でアメリカとカナダに行ったとき、「世界はもっと広くておもしろい」と再確認して、「どこにいても求められる人材になれるよう、手に職をつけたい」と考えました。当時は、「未経験からエンジニア」といった言葉がよく聞かれるようになった時期だったんですね。エンジニアとは関係のない文系の大学に通っていたのですが、「世界のどこにいても必要とされる人材になれるのではないか」と思い、エンジニアになることを選択し、エンジニア未経験で就職しました。

――今のような働き方を目指して、エンジニアを選択したんですね!就職後はどのようなお仕事をしていたんですか。

森:会社員としては、2社で計7年半、エンジニアとして働いていました。

新卒で入った会社では、デスクトップアプリやWebアプリの開発していました。5年間勤めたあと、転職してインフラエンジニアとなり、クラウドサービスの開発に携わっていました。2社で7年半、一貫してSIerの業界に勤めていて、客先常駐で仕事をしていました。

当時は、今の自分とは全然違って、髪の毛を短くして、前髪を上げてワックスで固めて、毎日スーツを着て、電車に揺られながら出勤していたんです。小中学生時代の私があまり望んでいなかったような働き方をずっとしていましたね。長時間労働になってしまうことも多くて、つらいこともありました。

今回の取材はジョージアに滞在中の森さんとつないで、リモートで実施しました

 

――学生時代から「自由な働き方をしたい」と思いながら、なぜ7年半も会社員として働き続けていたんですか。

森:フリーランスとして働くための実力をつけたかったからです。フロントもバックもインフラもできるフルスタックエンジニアになりたかったんです。フリーランスとして生き残っていくために、「1人でも何でもできます」と言える状態になり、それを証明できる履歴書を携えておきたいと考えていました。

新卒で入社したときは未経験ですから、何もわからない状態でした。そこで5年勤めて、アプリの開発について大方わかってきたときに、「裏側のことがわかっていないな」と思ったんです。「この状態でフリーランスになったとしても、私のようなスキルがあるエンジニアは他にもたくさんいるだろうな」と思って、次はインフラ側のエンジニアになったんです。インフラエンジニアとして2年半ほど経験を積んだ頃に、ようやくフルスタックエンジニアと言える経験を積めたと思えました。

 

本業のかたわら副業も経験。自信をつけてから満を持してフリーランスに

――そこからどういったステップを経てフリーランスになったのでしょうか。

森:会社員としての最後の1年間は、副業でアプリ開発もしていました。私とプロジェクトリーダーとデザイナーの3名だけで、ウェブアプリを作っていました。ここでフルスタックの開発を経験して、開発着手から1年弱でリリースしたんです。

本業でもスキルが充足してきて自信がつき始めたうえに、その副業での経験も後押しになって、ようやくフリーランスになる決意ができましたね。

――フリーランスになってみて、収入や働き方はどのように変化しましたか?

森:ありがたいことに、収入は会社員の頃と比べると増えました。

タスクの優先順位を決めてそれを日々進めていますが、「1週間のうちにこのタスクをやる」と決まっているので、1週間のうちならいつ作業をしてもいい。だからこそ時差もあまり問題にならないですし、自分の好きなタイミングで働けていますね。他の職種に比べると、そこまで時間を意識しなくていい部分があると思います。もちろん、スケジュールがタイトなプロジェクトのときには、1日10時間ほど仕事をする日もありますけどね。

ただ、会社員時代はほぼ毎日ミーティングがあったのが、今はほとんどなくなったことですね。フリーランスになって自由度が高まった大きな要因のひとつです。

働く場所は、ホテルの自分の部屋、現地のコワーキングスペースなどです。コワーキングスペースは、どの国でも日本とあまり雰囲気は変わらないですね。みんなそれぞれのパソコンでカタカタと仕事をしています。

スケジュールに余裕があるときには、現地で観光することもありますよ。小中学生だった頃に夢見ていた働き方ができていると思います。

 

ホテルで作業していると、ときにはこんなこともあるそうです……

 

――フリーランスにとって一番大変なのが「案件の獲得」だと思うのですが、どのように営業されていますか?

森:自分で営業活動することはほとんどないんです。エンジニアのコミュニティに参加していると「こんな案件で今人手が足りてないからどう?」と声をかけてもらえるパターンが多いんですよね。自分で営業をかけているわけではないのですが、自分のスキルが1人歩きして、勝手に営業してくれるようなイメージです。フリーランスとして案件を獲得したいなら、エンジニア同士のつながりを持っておくことはおすすめですね。

SNSも活用しています。SNSで「本業を辞めました。今、案件を探しています。スキルはこんな感じです」と発信していったことで、仕事依頼のDMをいただいたこともあります。

あと、フリーランスのエンジニアはエージェントを通じて仕事を得る方もいると思います。私も利用したことがありますが、「好きな場所で好きな時間に働く」というより「決められた納期とクオリティを守る」案件が多い印象ですね。

 

フリーランスエンジニアになりたいなら、「フリーランスになること」だけを目的にしない

――森さんはこれからどんな働き方をしていきたいですか?

森:まずは今の生活をしばらく続けていきたいと思っています。まだまだ場所や時間に縛られない自由な生き方をしていきたいです。自分で作りたいと思っているサービスも作り上げたいですし、海外の企業との仕事も増やしていきたいですね。

ただ、この生活をいつまで続けるのかは決めていません。フリーランスでなくても、スタートアップ企業やその企業が作っているサービスで「おもしろい」「参加したい」と感じられるところでご縁があれば、会社員に戻ることもあるかもしれません。

時代の波に身を任せつつ、ワクワクできるところに向かっていきたいとは思っています。

 

――これからフリーランスエンジニアになりたいという人も少なくありません。そういった方にどんなことを伝えたいですか?

森:皆さんが大事にしたいことを叶える手段として、フリーランスという働き方があると思います。私の場合は旅をしながら働くという夢がありましたが、例えば子育てをしやすい状況にするためにフリーランスになる方もいるでしょう。

だからこそ「フリーランスになる」ということを目的にしてしまうとつまずいてしまうかもしれません。フリーランスはあくまでも働き方の選択肢のひとつ。フリーランスとして働くことで本当に自分が大切にしたいことを叶えることができるのかどうかを考えてから、一歩踏み出すとよいのではないでしょうか。

仕事をしながら各国を巡る森さん。タイのコムローイ祭りにも足を運んだ

 

文:遠藤光太 編集:エディット合同会社 協力:えりんご

 


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