最近webやテレビでも大きく取り上げられ、話題になっている「アンドハンド」プロジェクト。
このプロジェクトによって開発されたプロダクトが「&HAND / アンドハンド」です。
身体や精神に不安や困難を抱える人と、それを手助けする意思のある方をマッチングさせるアンドハンドは、2017年の3月に行われた「LINE BOT AWARDS」でグランプリを受賞。思いやりとやさしさを促進するテクノロジーとして注目を集めています。
「アンドハンド」プロジェクトとは?
このプロジェクトを立ち上げたのは、ワークショップデザイナーのタキザワケイタさん。
2016の6月頃、前身となるチームを結成、2016年の8月に行われたGoogle主催のプロジェクト「Android Experiments OBJECT」に10案を応募。そしてこのとき、4つの賞があるなかで2案がグランプリを受賞します。そのうちのひとつが「スマート・マタニティマーク」でした。
電車で立っているのがつらい妊婦さんと、席をゆずる意思のある方をマッチングするサービスとして誕生した「スマート・マタニティマーク」。妊婦さんがキーホルダー型のデバイスを押すと、半径2メートル程度の声をかけられる距離にいるサポーターのスマホに通知が届き、スムーズな席譲りを促します。
▲こちらのキーホルダー型のデバイスが、妊婦さんが持つ「スマート・マタニティマーク」。
▲デバイスが押されると周囲のサポーターに通知が届く
2017年の3月に行われた「LINE BOT AWARDS」では、対象者を目や耳の不自由な方、車いす利用者、ヘルプマーク利用者などに広げ、ChatBotを活用したアイデアに展開し、見事グランプリを受賞。
▲聴覚障害者向けのデバイス ぎゅっと握ると通知が発信される仕組みを検討中
▲デバイス内蔵のBeaconの電波範囲にいるサポーターにLINEメッセージを送信
そして現在、「アンドハンド」プロジェクトチームは、大日本印刷株式会社・東京地下鉄株式会社・LINE株式会社と連携しながら社会実装を推進しており、2017年の11月に渋谷で行われた「超福祉展」への出展や、来月にはメトロ銀座線で実証実験を予定するなど、幅広く活動しています。
アンドハンドのアイデアのきっかけや開発のエピソード、今後の展望について、プロジェクトメンバーの皆さんにお話を伺いました。
困っている人と助けたい人をテクノロジーでマッチング。アンドハンドの取り組みとは
―はじめに、そもそもこのプロジェクトやアイデアはどのように誕生したのでしょうか。
タキザワさん「僕は本業では企業が抱えるさまざま課題の解決に向け、ワークショップを実践していますが、『仕事ではなく本当に自分がつくりたいものを、やりたい仲間と一緒に形にしてみたい』という思いがあり、知り合いでメンバーを募って2016年に現在の前身となるTEAMminedを結成しました。TEAMminedでGoogle、LINEのコンテストを受賞後にチームを一度、解散。メンバーを再編しながら「アンドハンド」プロジェクトチームとして活動しています。」
―最初のアイデアが生まれたきっかけはありましたか?
タキザワさん「うちは子どもが2人いるんですが、妻が1人目を妊娠したとき、切迫早産で安静にしていないといけない状態になりました。そんななか、通院で止むを得ず混み合う電車に乗ったとき、座りたいのに座れないという状況になってしまったんです。でも、とてもスマートに席を譲ってくださった方がおり、非常に助かった経験がありました。それ以降、私も妊婦さんの存在をこれまで以上に意識するようになりました。また、フィールドワークやインタビューをしてみて、みんな妊婦さんにやさしくしたい気持ちはあっても、電車に座るとスマホに集中して妊婦さんに気づかなかったり、気づいていても恥ずかしかったり、声を掛けるタイミングを逃してしまう、という人がたくさんいることが分かりました。こうした状況をテクノロジーを活用して解決できるのでは?という発想から、『スマート・マタニティマーク』が生まれました。」
―妊婦さんを思いやる発想からスタートしたプロジェクトが、目や耳の不自由な人なども対象として視野を広げていったのはなぜでしょうか?
タキザワさん「スマート・マタニティマークを開発している時から視覚障害者や聴覚障害者、車椅子利用者も使えるようにして欲しいと要望を頂いており、妊婦さんに限らず不安や困難を抱えるすべての方を手助けするインフラにしていくという構想が漠然とありました。それをより具体的な形にしていってくれたのが、プロジェクトに初期から関わる池之上でした。」
池之上さん「私の親しい友人に聴覚障害をもつ人がいるんですけど、あるとき彼女と駅の構内を歩いていたら『電車が運休になったので振替をしてください』というアナウンスが流れたんです。アナウンスを聞いて皆が足を止める中、彼女だけはそのままホームに向かって歩き続けました。そのとき『耳が聞こえないってこういうことなんだ。』と実感したんです。駅で飛び交うタイムリーな情報は音声として発信されることが多いですが、耳が聞こえない人はその情報をキャッチできず、大きな不安を感じたり、事故の原因にもなったりし兼ねません。このことがきっかけで、私が彼女にできることはないかと考えるようになり、この想いがアンドハンドにつながっていきました。」
―それでは、実際に開発するうえで技術的に苦労したことはありましたか?
河津さん「私は池之上さんと徳大寺さんの3人で連携しながら11月に渋谷で行われた『超福祉展』に向けてアプリケーションを開発するという立場でしたが、僕らの思ったようにLINE Beaconが動いてくれないなど、壁を感じることもありましたね。」
徳大寺さん「LINE Beacon自体、信号を発信するということはやってくれますが、あくまで発信するだけなので、多数の信号が同時に発信された場合の処理などは、全てアプリケーション側で行わなければいけません。その点がとても苦労しましたね。」
―みなさん本業を持ちながらプロジェクトを進めることも大変だったのではないですか?
河津さん「そうですね。作業自体は本業を終えた定時後の夜中2〜3時間や、休日を利用してやりました。直前は池之上さん、徳大寺さんとスタジオにこもり、3人で合宿のような状態でした。」
―逆にやりがいを感じることはどんなときでしたか?
河津さん「普段の仕事では使えない技術を試すことができたり、エンジニアとしての知見を溜めることができたりしました。大変でしたが、それ以上に収穫が大きいです。」
中根さん「僕は以前メーカーでパソコンやタブレットの開発をしていて、大量生産の製品しか扱ってこなかったですが、こうした本当に必要な人を助けるプロダクトに関わることができ、大きなやりがいを感じています。また、本業ではTechShop Tokyoという六本木アークヒルズにある会員制DIY工房でワークショップをコーディネートしていますが、会員さんにも協力してもらい「&HAND Beaconモジュール」を作りました。アンドハンドのロゴを入れたり、ディテールにもこだわりました。」
徳大寺さん「『私はこのプロジェクトに途中から入ったのですが、『超福祉展』での反響を目の当たりにして、改めてコンセプトがしっかりした素晴らしいプロジェクトだと感じました。」
池之上さん「私が一番嬉しかったのは、耳の不自由な友だちにプロジェクトのことを話したところ、とても喜んでくれたことです。『これがサービスとして実現するといいな』と言ってくれました。大変なこともたくさんありましたが、大きなやりがいを感じています。」
テクノロジーが思いやりとやさしさを促進。アンドハンドが創る温かい未来
―12月に実証実験が控えているとのことですが、どのような効果を検証するものなのでしょうか?
タキザワさん「大日本印刷、東京メトロ、LINEと連携し、12月11日(月)から15日(金)までの5日間、東京メトロ銀座線の最後尾車両内で「#LINEで席ゆずり実験」を行います。一般の人も乗車しているリアルな環境で検証することで、今まで気がつかなかった課題がたくさん見えてくると思うので、ひとつづつ改善して、より良いサービスにしていきたいと思います。LINEアカウント「&HAND」を“友だち登録”をすることで&HANDサポーターになり、指定車両に乗車することで実証実験に参加いただけます。」
―最後に、今後の展開を教えてください。
タキザワさん「アンドハンドのヴィジョン「やさしさから やさしさが生まれる社会」の実現に向け、2020年オリンピック・パラリンピックまでに&HANDのインフラ化を目指します。アンドハンドのサポーターが全国にいる状況となることで、日本を訪れた外国の方に「日本のおもてなし体験」を提供したいです。そのためにもできることから実践し、少しづつみんなの意識や行動を変えて行ければと思っています。」
多くの人が使っている「LINE」によって、困っている人と助ける人を繋げるアンドハンド。「家族や友だちのために」と、身近な人を思う気持ちから生まれた、人の温もりを感じるプロダクトでした。
現在アンドハンドは、一緒にプロジェクトを推進させるメンバーを募集中。
想いに共感したあなた。メッセージでその思いを伝えてみてはいかがでしょうか?