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私たちを魅了するゲームは、どのようにして作られているのだろうか?
ゲーム開発の裏側を明らかにするために、モンスターハンターやバイオハザードでおなじみの『カプコン』に訪れた。
今回の取材に答えてくれるのは、プログラマーであり、ゲーム開発の要となるゲームエンジン開発に携わる是松匡亮(これまつ まさあき)さん。
ひとつのゲームを作り上げるのに欠かせないというゲームエンジン。その開発に携わる是松さんに、ゲームの作り方、カプコン独自のゲームエンジン『MT FRAMEWORK』や『REエンジン』の役割、ゲームエンジン開発に携わる魅力を伺った。
ゲーム開発のフローとゲームエンジンの役割とは?
▲是松匡亮さん。技術開発室在籍。カプコンの独自のゲームエンジンの開発をしながら、ゲームタイトル開発現場をサポートしている。
是松さんによると、ゲーム開発は、企画→試作品開発→本開発という流れで完成に至るという。
「企画で上がったコンセプトを元に、少人数のチームでプロトタイプを作ってプレイしてみるんですよ。それでプレイしてみて、面白い!ってなったら本開発に進むという感じですね」。
試作開発の段階で、キャラや映像の美しさなどを作りこむことはないと是松さん。試作では、そのゲームが人間の感情に訴えかける何かを持っているかどうかを判断する。
「ゲームの面白さの本質は、プレイしている人の喜びであったり、感動であったり、怖さであったり、ゲームの世界で起こったことがプレイヤーに刺さるかどうかっていう部分なんですよ。だから、試作開発の段階で、そういうユーザーが求めているものを表現できるのかって部分を判断しますね」。
▲是松さんが入社後最初に携わったタイトルが、『ロスト プラネット エクストリーム コンディション』。Xbox360からPS3版のへの移植業務を行った。
試作が承認され、本開発に至るとそこから1年~数年単位をかけて完成に至る。最終的にデータをパッケージ、もしくはサーバーにアップロードして、私たちユーザーの元に届けられるとのこと。
この開発フローの中で、プランナー、プロデューサー、サウンドクリエイター、モデラーなど、その道のスペシャリスト達がゲームを構成するパーツのひとつひとつを作り上げていく。そして、集まったパーツをゲームの世界に落とし込み、ひとつのデータに落としこむのがプログラミングという作業。
「音だったり、キャラだったり、絵だったり、ゲームの中でそれぞれのパーツが、どのようにゲームの中で動くかを設計するのがプログラミングです。どれだけ良い素材が集まっていても、プログラムが悪いと素材の良さが消えてしまうので、プログラマーの能力がゲームのクオリティに大きく関わっています」。
プランナー、プロデューサー、サウンドクリエイター、モデラー、プログラマーなど、いわゆるゲームクリエイター達は、私たちがプレイするゲームの目に見える部分、いわばフロントエンドを担っている。
しかし、ゲームをプレイしたり、開発したりするには、フロントエンドだけではなく、裏で全体を指揮するバックエンドの働きが必要不可欠なのだという。そのバックエンドの動きを担っているのが、是松さんが関わるゲームエンジンの世界だ。
是松さんが「すべてのゲームはゲームエンジンの上に成り立っている」と語る、ゲームエンジンの役割とはどのようなものなのだろうか?
自社開発ゲームエンジンでゲーム開発効率化を目指す
私たちからは目に見えないバックエンドで、重要な役割を果たしているゲームエンジン。まずはその機能について聞いてみる。
「ざっくり説明するとゲームに必要な情報を管理・処理するためのシステムです。スマホでタッチしたり、コントローラーを触ったり、プレイヤーが操作をしたとき、その操作の通りにゲームが動くよう、ゲームの世界に指示を出すのがエンジンですね。また、ゲーム開発時に、データを保存するための倉庫のような機能も持ち合わせています」。
カプコンでは10年以上前から自社でゲームエンジンを開発している。その最初のバージョンとして発表されたのが、MT FRAMEWORKだ。
「以前は、ゲームタイトルごとにゲームエンジンから作られていたんです。タイトルの数だけゲームエンジンもあるという状況だったのですが、これでは効率が悪い。ひとつのゲームエンジンですべてのタイトルを開発できるようにしようということで、MT FRAMEWORKが作られました」。
複数のゲームタイトルで利用できるMT FRAMEWORK。このゲームエンジンの登場によって、エンジンを作る時間を短縮して、ゲーム開発に入ることができるようになった。
また、ゲームエンジンが一元的に使えるようになることで、社内での人員移動もスムーズになるという。
「カプコンでは入社した社員全員がMT FRAMEWORKの研修を受けて、ゲーム開発の基礎となるゲームエンジンの使い方を学ぶんです。ある開発チームで人員移動があっても、ゲームエンジンの使い方が共通していれば、作るタイトルが変わってもスムーズに開発に入れる。ゲームエンジンの使い方から学んでいた以前に比べると、MT FRAMEWORKの導入で人員をよりスムーズに動かすことができるようになりました」。
ゲームエンジンMT FRAMEWORKの導入で、ゲーム開発のスピード・クオリティ、双方が向上した。入社2年目ごろからMT FRAMEWORKの開発に携わる是松さんは、現在MT FRAMEWORKをさらに進化させた、REエンジンの開発を進めている。
REエンジンは、MT FRAMEWORKの設計思想を受け継ぎながら、さらなる改良が加えられた最先端のゲームエンジン。
ゲームエンジンを進化させることで、ゲーム開発にどのような変化が起こるのだろう?また、ゲームエンジンを進化させる必要性とは何だったのだろうか?
プログラマーの負担を減らしゲームの表現をより豊かに
REエンジンは「ゲーム開発の効率化」というMT FRAMEWORKの思想をより発展させたゲームエンジン。「ゲーム機のスペックが上がったことで、よりリッチな表現を求められるようになった。それに対応するために生まれたのがREエンジンです」。
REエンジンとMT FRAMEWORKの最大の違いは、エンジンからゲームの画面にデータを移す速度の違いだという。「MT FRAMEWORKで10分以上かかっていたゲームの動作確認がREエンジンでは1分未満でできるようになり、ゲーム開発の足かせとなっていた動作確認作業を素早く終わらせることができるようになりました」。
日々研究・開発を行なっている中で、是松さんはREエンジンに『プログラマーやデザイナーが能力を発揮しきれない現状を変えたい』という想いを込めている。
「以前は『このエンジンの性能なら、できるのはここまでだ』っていう制限を、ゲーム開発者たちが設けてしまっていたんです。エンジンの性能が上がれば、プログラマーやデザイナーがもっと自由に自分たちのイマジネーションをゲームで表現できる。REエンジンでは、それを実現したいと思っています」。
▲REエンジンによって開発された「バイオハザード7 レジデント イービル」。実写映画に匹敵するフォトリアルな表現を実現。
是松さんのそんな想いは、REエンジンに宿り、ゲーム開発者たちに届きはじめているという。ゲーム開発者たちからの喜びの声が、エンジニアとして最大の喜びだと是松さんは語る。
「新しい機能を定期的にリリースするんですが、使われないことも多々あるんです。そんな中で、自分が作った機能がゲームタイトルの開発に使われると本当に嬉しい。もちろん社内なので、『この機能があって助かった』とか『こういう機能が欲しかったんだよ』という声をかけていただけることもありますね」。
プログラマーやデザイナーなど、ゲーム開発側のニーズを読み取り、新しい機能を追加する。MT FRAMEWORK から受け継がれる、『ゲーム開発の効率化』という思想と、是松さんの『ゲーム開発者がより自由に表現できる環境作り』という想いは、REエンジンによって確実に実現しつつあるようだ。
未知の課題を愛するエンジニアが生み出したシステム『REエンジン』
開発環境を整えることで、ゲーム開発者たちの作業を支える。日進月歩で進化するゲーム業界の影には、是松さんのような、開発環境を整備するエンジニアたちの努力があるのだ。
「自分で限界を作ってしまうと、そこで開発自体が止まってしまう。終わりのない課題に対して、手を止めることなく改良を加えていけるのが、この仕事の最大の魅力かもしれません」。
新しいテクノロジーが生まれるたびに、同じ量の新しい課題が生まれる。エンジニアは、そんな未知の領域に果敢に飛び込んでいく職業だ。難題を前にしたとき、逃げ出してしまいたくなるのが一般的な反応だが、彼らは、難題を前にしてニヤッとほくそえむ。
未知の課題を愛する彼らがいる限り、私たちは新しいテクノロジーの恩恵を受け続けることができるだろう。
CAPCOMのゲーム開発を支え、さらに進化させるREエンジンは、そんなエンジニアたちが作り上げたシステム。REエンジンによって生み出されるゲームから、私たちはどのような体験を味わうことができるようになるのだろうか?
進化し続けるカプコンのゲームから、今後も目が離せそうにない。