IT系のスタートアップでは現在多くのエンジニアが活躍していますが、その大半はパソコンやスマートフォンを利用したインターネット系のサービスを提供するプログラマーがほとんどです。
中でも、株式会社Cerevoは「インターネット×家電」の名のもと製品を作り続けるIoTの先駆者的存在。
同社を一躍有名にしたのが、Ustreamをカメラのみで配信することができる「CEREVO CAM」。ミュージシャンの坂本龍一さんが、ライブ配信に使用するなど、一般ユーザーだけでなく、プロの使用に耐え得るレベルのハイクオリティな製品を生みだし続けています。
今回、同社の代表を務める岩佐琢磨さんに、なぜ今ハードウェアスタートアップなのか、商品の開発秘話や発想法、DMM.make AKIBAへの想いなどについてお話を伺いました。その模様を前編・後編に分けてお届けします。
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「0を1にする仕事」をしたいとの思いからPanasonicを退社。そして起業へ
—まず、Panasonicに就職されて商品企画をされていますが、どのようなポジションでエンジニアの方とは仕事をされてきたのでしょうか?
岩佐:僕が当時やっていたのは、Web制作でいうところのディレクターみたいな仕事。僕がディレクションをして協力会社の人がコードを書くという形でしたね。
いまもディレクターの仕事をしていますけど、その当時から気を付けていたのは、技術面については完ぺきに知った上で相手と議論するということです。
僕、大学時代からエンジニアをやっていて、就職してから文系の企画職に就いた関係で、商品企画をしているときに技術のことが分かっていると、エンジニアから「あっ、この人は結構知ってるぞ」という具合に見られるので、コードが書けなくても割りと仕事はスムーズに進みました。
やっぱり、チームのナレッジを管理するという意味でも技術を知っているということは、信頼関係を築くことにつながりますね。何よりも、エンジニアの経験があったからこそ、当時もエンジニアたちと良い関係だったのかなと思います。
—現在のCerevoのように「ネットと家電を結びつける」IoTを考えはじめたのはいつ頃からでしょうか?
岩佐:僕、高校に入ったぐらいの時からインターネットにハマって、同時にDOSベースなんだけどパソコン通信で世界の人とゲームで対戦したり、ゲームの情報をWebで見て情報交換をする、みたいなことをやっていて「インターネットは生活どころか、人類をもっと高みに持って行くんだろうな」ということは、ぼんやり考えていました。
とはいえ、急に何かができるというわけでもなく、インターネットの進化を横目で見ながらSEとかライターみたいなことをしつつ大学を卒業しました。
当時、PCベースのインターネットはYahoo!JAPANや楽天のような大企業ベースの文化ができていて、ただ、彼らがやっていたのは「PC×インターネット」だったんですね。
もうその分野には先駆者がいるので、僕はとしてはまだ誰も踏み込んでいない「インターネット」とハードウェアを結びつける仕事がしたい、と思って家電メーカーに就職しました。が、いわゆる「大企業が行うインターネット×家電」の開発スピードや世の中の変化への対応力などに限界を感じて、もっとダイレクトにユーザーに寄り添った製品を作りたいと思い、起業にいたりました。
大企業は、「10を100にする仕事」は得意でも「0を1にする仕事」をバンバンやっていくというのは難しい。2000年以降は、多くのベンチャー企業が「0を1にする仕事」をしていて、上場したり、大企業に何十億、何百億でM&Aという流れになっていましたから。
「0を1にする仕事」をするなら、外に出ようということで就職してから5年後にCerevoを立ち上げました。
—現在Cerevo製品は海外でも好調ですが、御社の「グローバルニッチ戦略」というのは設立当初から掲げられていたのでしょうか?
※グローバルニッチ戦略・・・ニッチ層をターゲットにした小ロット製品をグローバル規模で多品種販売するCerevoの戦略
岩佐:設立して最初の製品を出すまでは、正直そこまで戦略を考える余裕はありませんでしたね。とにかく、最初はがむしゃらに「モノを作って売ってみよう!」という感じで、「ゆくゆくはアメリカとかに行ってみたいな」「海外でのビジネスってかっこいいな」くらいに思っていました。
ですが、最初の製品を作った直後から、「これはアメリカでも売れるんじゃないか」と思って、実際にやっていくと、英語もなんとかなるし、「次はヨーロッパにも行けるんじゃないか」という感じで一気に戦略化していきました。
坂本龍一さんが配信ライブで愛用!ユーザーの要望から生まれた世界初のUstream配信カメラ
—Cerevoの製品は普段どのような企画から生まれることが多いのでしょうか?
岩佐:最初に作ったものは「CEREVO CAM」なんですけど、一番の特徴はカメラ一台だけでUstreamの映像配信ができるというところですね。
▲カメラ単体でUstreamライブ配信ができる世界初のデジカメ「CEREVO CAM」
Ustreamやインターネットライブ配信サービス自体がまだ始まったばかりの頃、当時はパソコンのスペックも低かったんで、ノートパソコンではまともに映像配信ができないという時代でした。
動画系はパソコンに詳しい人でないと基本的に難しいというような状況もあり、そこを打破すべく素人でも映像をシンプルに配信できるようにしたのが「CEREVO CAM」でした。
しかし、iPhoneが登場したことで、楽にスマホでも配信できるようになりました。で、その次に発売したのが、より高画質・高音質で配信をすることができる「LIVE BOX」ですね。このLIVE BOX誕生のきっかけは坂本龍一さんの存在が大きいです。
当初、坂本龍一さんのライブ映像をUstream配信する際、「CEREVO CAM」を愛用いただいてました。
映像はそこまで高画質でなくてもいいけど、演奏は「高音質で配信したい」という想いがあり、外付けの集音マイクを無理やりガムテープで本体の側面につけた状態でライブ配信したら、SNSで「今回の教授の演奏、音が良いぞ」と評判が良くて、次にカメラもつなげられるようにして欲しいという要望がありました。
スマートフォンで動画を撮って流すという時代でも、一定のユーザーからは、一眼レフカメラのような望遠レンズや広角レンズとマイクもガンマイクを使って、「高画質・高音質で配信したい」という需要が結構ありました。
「LIVE BOX」は、「CEREVO CAM」からレンズやマイクを外して、自分のカメラとマイクを接続して電源を入れるだけでハイクオリティな映像と音声を配信できるようにした製品です。
▲既存のカメラやマイクをつなぐだけで高品質な映像を配信できる「CEREVO LIVEBOX」
当初、「LIVE BOX」は数百台しか作らなかった試験的な製品でした。この辺りから小ロット生産のノウハウの蓄積が始まったといえるかもしれません。
—そんなユーザーの要望を受けて製品化するまでに、どれぐらいの期間を費やしたのでしょうか?
岩佐:「LIVE BOX」は早かったですよ。半年くらいで作っちゃいましたね。その代わり、非常にラフな設計で「CEREVO CAM」の基板が一部そのまま入っていたりしていました。「LIVE BOX」の発売から4年経ちましたが、いまでも愛用していただいている方もいます。
そして、その次に出した「LiveShell」は、ビデオカメラとHDMIケーブルを接続して配信ができる製品です。
▲PC不要でUstreamなどに手軽に高画質配信ができる「LiveShell」
「LiveShell」は、2時間駆動可能な内蔵バッテリーや無線LAN・有線LANの両方に対応するなど、僕らが作ったというよりもユーザーの様々な要望を叶えていった製品なので、”お客さんが作った製品”だと思っています。
自分自身や身近な人たちの「不便」を「便利」に変えたいという思いが発想の原点
—製品開発する際、いつもどんなところから発想されるのでしょうか?
岩佐:自分とその周囲の人の実感を伴うことが、やっぱり大事だと思います。
例えばですけど、男性しかいない会社で女性用下着を開発しようっていっても難しいですよね。自分たちがちょっとでもターゲットユーザーに引っかからないものを無理に作るというのは本質ではないと思っています。実際に女性の脚の形と男性の脚の形とは違うので。
なので、やっぱり自分も含めてそうした身近な人たちの課題を意識できた段階、その「不便」を「便利」にしたいと思ったときが発想の原点ですかね。
—まさに、ユーザーの実感をしっかり捉えた上で、その課題に対する解決策を製品に落としこむことが「0を1にする仕事」であり、かつそれらを早い開発スピードで行えることが、”今”ハードウェアスタートアップが必要とされる所以なのですね。
ありがとうございました。後編では、より詳しく商品開発における発想法やIoTを利用した製品のお話を伺いながら、ハードウェアスタートアップのコミュニティを現在進行形で作り上げている「DMM.make AKIBA」にも迫っていきたいと思います。
▼後編はこちら
DMM.make AKIBA 開設から1年。Cerevo 岩佐琢磨が未来のハードウェアスタートアップに託した思い【後編】
岩佐 琢磨さん
株式会社Cerevo 代表取締役
1978年生まれ、立命館大学大学院理工学研究科修了。松下電器産業(現:パナソニック)にて商品企画に携わる。同社を退職後ハードウェアスタートアップ株式会社Cerevoを立ち上げる。世界初のUstream配信機能付きカメラ「CEREVO CAM」や、既存のビデオカメラでライブ配信を可能にする配信機器「LiveShell」などを開発・販売。