大切なことはみんな本から学んだ!シェアNo.1のクラウド会計ソフト「freee」を作り出したCTO「横路隆」の本棚を覗いてみよう

決算書作成や確定申告が簡単に行えるクラウド会計ソフト freee(フリー)。その多機能性や、会計に詳しくない人でも使用できる優れたUI、特許権を取得した人工知能技術に基づく自動仕訳機能などが評価され、利用者は年々増え続けています。

同ソフトウェアを開発・運用するfreee株式会社で、CTOを務めるのが横路隆さんです。新卒でSonyに就職した後、2012年に佐々木大輔氏(現freee株式会社CEO)と2名で、freeeの元となる旧CFO株式会社を設立。その後、まさに驚異的と言えるスピードで、同社を成長させてきました。

同社の技術力の中枢を担う横路さんは、これまでどんな本を読み、そこからどのような知見を得てきたのでしょうか?その秘密を探ります。

プログラムを“書けた”けど“理解していなかった”新卒時代。本質を学ぶため、仲間と輪読した1冊

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―1冊目は『コンピュータプログラミングの概念・技法・モデル』。これはどういった内容の本なのでしょうか?

横路:これは、プログラミングの概念を科学的に分析している本ですね。例えば、“関数型言語”や“オブジェクト指向”といったプログラミングの手法が、どういった概念を具現化したものなのか解説してあったりします。

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―相当に高度な内容ですね。この本に触れたのは、いつ頃なのでしょうか。

横路:私が新卒でSonyに入社した頃です。Sonyは9時半からの出社だったのですが、この本を読み進めるために、同じ社員寮の仲間と毎日7時に出社していました。一緒に輪読して、「どういう意味なんだろう」と議論を交わしていたんです。

―新卒の頃に、それをやっていたというのはすごい話ですね!その原動力となったのは、何なのでしょうか?

横路:当時の私は、プログラムを書くことはできたのですが、プログラムとは何かという“概念”の部分をきちんと理解していませんでした。元々、ものごとの仕組みを解き明かす事がすごく好きだったので、その本質的な部分を学んでみたいと思ったんです。

―エンジニアがそういった抽象的な概念を学ぶ意義は、どのような所にありますか?

横路:コンピューターが進歩している現代では、機械によって代替される仕事がどんどん増えてきていて、「どう作るのか」はどんどんコモディティ化してきています。しかし、「なぜ作るのか、何を作るのか」といった高レベルな議論は、やはり人間でなければできません。その力を身につけるためにも、こういった背景や根本の部分を学ぶ必要性があると考えています。

大事なのは、未知の事象に解決策を見出す事と、テクノロジーへの愛を持つこと。CTOとしての価値観を形成した書籍

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―次は、freee創設後に読んだという『The Data Model Resource Book: A Library of Universal Data Models for All Enterprises』。これはどういった本なのでしょうか?

横路:それぞれの業界や業務ごとに、ベストプラクティスとされるデータモデルを紹介している本です。どういった経緯があってこういうデータモデルになり、それがどのように変遷してきたのかという部分も一緒に書かれているのが、この本の優れている点ですね。

―なるほど。これを読むことで、データモデルだけではなくビジネスの原理そのものも学べそうですね。

横路:はい。ちなみに気をつけなければいけないのは、この本は「過去の事例を元に作られたベストプラクティス集」であるということです。これが出版された当時と現在とでは、当然ながらビジネスが置かれている状況や、使われているテクノロジーは全く異なっています。だからこそ、その点を考慮しながら読み進める必要があるんです。

―そこで重要になるのが、先ほども出てきた“概念を理解する”ということなのですか?

横路:そういうことです。どうして、このような抽象化をしたのか。それを現代のビジネスシーンに当てはめると、どのように変更すべきなのか。そういったことを考えるのが重要です。こういった、未知の事象に解決策を見出していく事の重要性を、CTOになってからは余計に強く感じるようになりました。

同じように、CTOとしての考え方に影響を与えた本として『シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき』が挙げられます。

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―これは、どういった内容の本ですか?

横路:これは、人工知能研究の分野で世界的権威の1人であるレイ・カーツワイルという方が書いた本で、人工知能が人間の脳を超える“シンギュラリティ(技術的特異点)”という事象について説明しているものです。

シンギュラリティそのものというよりは、この本の筆者が持つ「科学技術への深い造詣と愛情」に感銘を受けました。筆者自身が、「技術によってイノベーションが起き、それによって素晴らしい未来が待っている」と信じているのが、この本の文面を通して伝わってくるんです。CTOは技術への愛と信頼を持つべきだと、これをきっかけに強く思うようになりましたね。

最高の答えは、最高の問いから生まれる。そして、問いを考える仕事は、コンピューターでは代替できない

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―『銀河ヒッチハイク・ガイド』。これはSF作品だそうですが、どのようなストーリーなのでしょうか?

横路:これは、コメディSFの名著です。ざっくりあらすじを話すと、ものすごく高度な文明が発達した宇宙人達がたくさん登場し、彼らが生命や宇宙、万物に関する“究極の真理”とは何かを考え続けています。でも、どれだけ考えてもその答えがわからないから、スーパーコンピューターを作って解答させようとするんです。

―興味深いテーマですね。そのスーパーコンピューターは、答えに到達できたのでしょうか?

横路:はい。750万年もの歳月をかけて、その答えを出すんです。

―気になります。その答えとは…?

横路:“42”です。

―42ですか?すみません、よく意味が理解できないのですが…。

横路:そう、ワケわかんないですよね(笑)。これはどういう事かというと、「問いを発した者が、その意味を根本的に理解していなければ、どんな高性能なコンピューターで処理してもアウトプットは意味のないものになる」という事を示唆しているんです。

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▲同社では、書籍の購入補助を行っている。会社の業務に“3割以上”関係するものであれば、どのような内容の書籍であっても経費で購入できるという。(ちなみに、何をもって3割以上とするかは、「なんとなく決めている」そう)

―なるほど。それ、ものすごく含蓄のあるエピソードですね。

横路:そうなんです。同時に、皮肉の効いた物語でもあると思います。そしてこの哲学的なテーマは、そのままfreeeという会社が持っている想いにも繋がってくるんです。

私達は、「本質的(マジ)で価値ある」というのを会社の価値基準にしています。これは「ユーザーに価値があると本質的に信じられる事をやっていこう」という姿勢を意味しているんです。テクノロジーが進歩し、コンピューターが人間の仕事を代替するようになっても、それをなぜやるのかという“問い”にあたる部分は、やはり人間でなければ考えられません。

私達がバックオフィス業務を効率化するためのソフトを開発しているのも、それが理由です。ユーザーの単純労働をテクノロジーによって軽減し、より創造的な活動にフォーカスしてほしいという想いがあるからなんです。

ものごとを俯瞰して考える事の重要性。“概念”を考える力が、エンジニアには求められている

―freeeという会社が目的としているものは、単なるシステム開発ではなく、より人間の真理に迫ったテーマを解決する事なのですね。

横路:その通りです。そしてそれを実現するためには、世の中にあるものが「そもそもどういう仕組みで動いているのか」「なぜそれが作られたのか」という部分を知ることが重要です。それが、最後に紹介する『コンピューター&テクノロジー解体新書』に繋がってきます。

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あらゆる技術が進化を遂げていると、全ての技術を網羅的に知る事ってけっこうむずかしくなってきます。例えばWebアプリケーションを例に出すと、アプリケーションレイヤーの事“だけ”、もしくはネットワークレイヤー“だけ”を詳細に解説した書籍やWebサイトってたくさんあります。けれど、それら複数のレイヤーがどのように関係し合い、動いているかを解説したものって少ないです。それをいろんな領域でやってくれているのが、この本なんです。

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▲ページをめくると、わかりやすい図とともに各事象のフローが描かれている。「これほどの情報量を、このページ数に収めているのは驚異的」と横路さんは語る。

―コンピューターやテクノロジーの“仕組み”の部分を、徹底的に図解しているという感じですか?

横路:そんな感じですね。子供の頃に私達が百科事典で色々なことを学んだように、こういう本が1冊あると、ITに関することをより効率よく学び始める事ができると思います。

テクノロジーが進歩し、機械や人工知能が担う業務の領域はだんだんと大きくなってきました。だからこそ、具体的なプラクティスではなく、全体を俯瞰して抽象的な“概念”にあたる部分を考えられる力が、エンジニアには求められているように感じますね。

本質的(マジ)な価値を提供するため、freeeは今日も走り続ける

目を輝かせながら、テクノロジーへの深い愛情を語ってくれた横路さん。誰よりも彼自身が、ITが実現する未来が素晴らしいものになる事を、強く信じているようでした。

重要なのは、ユーザーに本質的な価値を提供すること。そのために、“問い”の部分を考えられる人間になること。その思想が、横路さん、そしてfreee株式会社の根底には流れているようです。

取材協力:freee株式会社

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