総務省の「労働力調査」(2022年)平均結果によると、情報通信業で働く女性は約3割となっています。中でも女性が少ないといわれているのは機電系エンジニア。そもそも理系学部に進学する女性が少なく、採用したくても人材がいないと悩む企業もあるようです。一方で、機電系エンジニアに興味はあるものの、周りに相談できる人がいないと悩む女性もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、現役機電系エンジニアと、元エンジニアの女性2人に対談していただき、ものづくりエンジニアの仕事とは何か、女性エンジニアの悩みやキャリアの築き方などについて語ってもらいました。
伏見碧さん
ライター、テクニカル文章の翻訳などフリーで活動
電気自動車や産業用機器のモータ制御を専門に約6年働いていたが、体調を崩したことをきっかけに退職。現在はテクニカル文章の翻訳や記事執筆の仕事に携わり、エンジニアと別の視点からものづくりに関わる働き方を模索している。
友部さん
電気・制御系エンジニア
電気系の分野でIoTやAIを活用しながら、エレベーターや空調の研究・開発に約6年携わる。人の動きを予測しながらビル全体や工場全体が効率よく省エネになるような動かし方について難しく感じながらもやりがいをもって仕事をしている。
ものづくりエンジニアの仕事とは
――ものづくりの分野で働こうと思ったきっかけを教えてください。
(友部)高校生のときの数学の先生が、理系科目の面白さを教えてくれて、理系学部への進学に興味を持ったんです。女子高に通っていて、周りに理系進学する人はあまりいなかったんですが、かえってそれが好奇心を刺激して理系に進むことを決意しました。
(伏見)理系科目の面白さを教えてくれるなんて素敵な先生ですね。私の場合、子どもの頃から飛行機や車、船などの乗り物が好きで、ものづくりの世界に興味を持ったんですよ。
(友部)男女を問わず、理系の人って乗り物やコンピューターなどのマシン好きな人が多いですよね。私は進学した後、映画「アイアンマン」シリーズを見て、ものづくりのカッコよさにハマってしまいました。
(伏見) 私も映画やアニメに影響を受けた部分は大きいです。
(友部)ものづくりの分野ってエンジニアの中でも女性比率が少ない方ですが、マシン系の楽しさって男女関係なく味わえるんだなと、しみじみ思います。
(伏見)車や鉄道は男性の趣味と捉えられることがありますが、性別関係なく好きになったらハマっちゃいますよね。
(友部)女性は子どもの頃から乗り物やパソコンなどマシン系に触れる機会が少ないように思うんですけど、それは性別ゆえの特性というよりは社会的な構造の影響が強いからかなと思います。
(伏見)そうですよね。私が子どもの頃は電車のおもちゃで遊ぶ女の子が少なかったですし。
(友部)今はだんだん、おもちゃもジェンダーレス化しているようなので、もっとものづくりに興味を持つ女性が増えていくのではと密かに期待しています。
――これまでと現在の仕事内容について教えてください。
(伏見)会社員時代は電気自動車や、空調などの産業機器のモーター制御の研究・開発をしていました。モーターっていろんな機械に備わっているので、幅広い製品に携われて楽しかったです。
今は退職して、自営業としてテクニカルな記事制作や、翻訳・構成をする形でものづくりに関わっています。
(友部)私は産業機器や家電製品、ビルの空調やエレベーターのデータを分析して、快適にかつ効率よく動かせるようなシステムを開発しています。例えば、エレベーターの人員を数えて自動で空調制御して省エネ化しよう、みたいな。
(伏見)人を制御に絡めると動きの予測が難しそうですね。
(友部)そうなんですよ。IoTとかビッグデータとかを駆使しながら模索しています。
――求められるスキルについて教えてください。
(友部)基礎的な数学や物理の知識は必要ですね。でも、会社の製品や優位的な技術は仕事をしながら学ぶしかありませんし、入社後にどれだけ知識を自分のものにできるかが大切だと思います。
(伏見)例えばCADやシミュレーションソフトの使い方は会社で手厚く教えてくれることが多いですよね。エンジニアにとって大切なのは新しい情報や知識を自分の中にインプットして分析し、自分のものにする過程を自分なりに確立していることだと思います。
(友部)それはとても大切ですよね。エンジニアって新しい技術や知識、世界的な傾向を考慮しないといけないので、常に勉強が必要ですし。
(伏見)そういう知識や情報を積極的に入手していくアグレッシブさや、信頼のできるソースから情報を得ることが一番大切かなと思います。
(友部)あとは英語ができた方がいいですよね。日本のものづくりって世界にマーケットを広げているので、英語の資料を読んだり作ったりすることもありますから。
(伏見)英語は大切ですよね。私は入社してから必死で英語の勉強をしました。
(友部)会社にTOEIC対策などの英語研修を受講できる機会があればそれらを利用して勉強するマインドが必要ですね。
――職場の女性比率はどれくらいですか。
(友部)私が今いる部署だと70人中2人ですね。
(伏見)部署や分野によって大きく比率は変わりますよね。私のときも似たような比率でした。化学系やIT系はもう少し多くて、比率が半分になるところもありますよね。
(友部)どの分野も徐々に女性比率が増えてきているので、今後また変わってくるかもしれません。
――どんな時にやりがいを感じますか。
(友部)新しい製品に携わったときにやりがいを感じます。
コンプライアンスや守秘義務があるので言えないんですが、「あの製品のここの部分、私がやったんだよ」って自慢したくなります。
(伏見)その瞬間がやっぱり一番やりがいを感じますよね。プロジェクトが終わった後は燃え尽きてしまっていますが、少し時間が経って製品化した時にじわじわと嬉しさが広がっていきます。
(友部)自分の知識や経験、スキルを増やして仕事の幅が広がった時もやりがいを感じます。
(伏見)これまでできなかったこととか、大きなプロジェクトに携われる実力を認めてもらえた、って嬉しくなりますね。
(友部)最近は本当に働きやすい時代で、男性エンジニアと性別を気にせず切磋琢磨したり、助け合ったりしながら一つのチームとして働けることにもやりがいを感じます。
(伏見)親世代の女性エンジニアの先輩から、苦労されてきた話を聞くことがあるので、今の環境があるというのも、やりがいにつながりますよね。
(友部)あとは自分の成果がボーナスに反映されたら嬉しいですよね。
(伏見)実力と成果が目に見える形で見えますからね。そういう時は、ちょっとぜいたくな自分へのご褒美を用意してモチベーションを上げます。
「ライフステージに合わせた働き方ができる」「人数が少ないからこそ助け合う」……女性エンジニアとしての働き方
――エンジニアあるあるについて教えてください。
(友部)とりあえず男女関係なく、飲み会で車やコンピューターなどの推しマシンや推しソフトの話をしがちですよね。
(伏見)そうですね。新しく買ったガジェットの自慢をしたり、推しポイントを語ったり。
(友部)あとは何でも数値で語りがちで、根拠の怪しい話を持ち出すと一斉に詰められます。
(伏見)経験や感覚だけで物事を捉えず、数値やデータに基づいて考えろって教え込まれますからね。
(友部)「女性」というところに焦点を当てると、人数が少ないがゆえにお互い助け合えているなと感じます。
(伏見)お互い尊重し合って助け合いますよね。お菓子を交換したり、元気がない時は飲みに誘ったりして。女性が少ないからこそ助け合えているんですけど、これから女性比率が増えてもこの助け合い精神が廃れないと良いなと思います。
(友部)リクルーターとか看板になることが多くないですか?
(伏見)確かに。私もリクルーターをしていました。そういう看板になるような役割を兼任しがちなのは女性エンジニアあるあるかもしれませんね。
(友部)あとは「気が強い」って言われませんか?
(伏見)言われました。男女比が極端な環境でいたら自然とそうなるのかもしれません。今後、気が強くない女性でも働きやすい環境になっていくことに期待しましょう。
――キャリア形成はどのように考えていますか。
(伏見)よく結婚、出産で女性はキャリアが大きく変わると言われますよね。でも、結婚するときに「キャリアについて考え直さなきゃ」とは思わなかったですね。
(友部)共働きをするならそうですよね。例えば転勤があれば、男女関係なく考え直すタイミングになると思いますが……。
みんな仕事のためだけに生きているわけではありませんから、仕事と家庭のバランスを取りながらキャリアをどう築いていくかは男女関係なく、都度考える必要があると思います。
(伏見)出産については生物学上、産めるのは女性側ですし、そこで発生する1〜2年のブランクは仕方がないと思っています。
(友部)退職まで30年以上ある中での1〜2年のブランクは微差ですよね。男性だって育休を取る時代です。それをディスアドバンテージと捉える会社なら、転職して環境を変えるのもありかなと思います。
(伏見)転職することでそういう声があることを会社に残せますしね。そういえば、男性の育休取得率はどうですか?
(友部)部署の中で毎年1人取得している感じですね。今は男性社員が育休を取ったり、子どものお迎えに行ったりするようになってきました。会社側も制度を活用しやすい風潮を整えざるを得ない状態になってきています。
(伏見)キャリア形成ってスパンが長いので、こうって決めすぎず自分なりに考えながら進んでいった方が良いですよね。時短勤務も制度化されていますし、男性も介護休暇を取るようになってきて様々な制度が整えられてきていますから。
(友部)そうなんですよ。男女関係なく、自分のライフステージに応じてちょっとずつカスタマイズしていくしかないです。そういう意味でいうと誰がマイノリティーかって分からないですよね。病気で休職する人もいますし。
(伏見)最近は良い意味で「普通」というのがなくなってきているので女性だから、男性だからということに焦点を当てすぎず、自分にあった生き方、働き方を模索する必要がありますね。
(友部)伏見さんは自営業で、ものづくり業界に関する記事を書いたり翻訳したりしているんですよね。
(伏見)私の場合、体調を崩してしまって。シリアスな状態になる前に気づけたのでよかったのですが、現在は心身ともに健康に働ける方に優先度を置いて会社を離れています。
(友部)そういう働き方ができるというのも、良い時代の流れだなと思っています。自分なりのキャリア形成をみんな模索していくしかないですね。
――女性が少ないということで悩みがあれば教えてください。
(友部)うーん……これはよく聞かれるんですけど、すぐに思いつかないんですよね。
(伏見)考えてみれば「女性だから」という悩みってあまりないですね。1人のエンジニアとして悩むことはありますが。
(友部)あえて言うなら、産休や育休を取った人のアドバイスが聞きにくいことでしょうか。制度の話だけでなく、コツなどが知りたい時に先行例が少ないと聞けないので。
(伏見)「女性ならではの意見」を求められることが、悩みといえば悩みですね。なんで「エンジニアとして」ではなく「女性として」プロジェクトに意見をしないといけないの?と思うことはありました。
(友部)そういうの、私にもありました。あとはアファーマティブアクション*として、男女関係なく能力を発揮できる環境を作るために、採用や昇進に女性を優遇することがあるじゃないですか。それでたまに「評価されているのは女性だからなんじゃないの?」という目で見られることもあって……悩みとまではいきませんが、少し困っています。
(伏見)リクルーターをしていた頃、女性の応募が増えたんですが、採用率は大きく変わらなかったんですよ。やっぱり能力がないと採用されないので「女性だから」というだけで採用されているのではなく、公平に評価されているのかなと思いました。
(友部)今は女性も働きやすい社会を作るため、とにかく社員の女性比率を上げることがフォーカスされすぎていると思います。ただ、女性も男性も本当に変わらず働けて、エンジニアも女性だからといって躊躇することがない時代になるために、今は必要なことだと思います。
(伏見)これまで数少ない女性エンジニアとして制度を整えて、働きやすい風潮を作ってくれた先輩方のおかげで、私たちが働きやすい環境ができました。だから次の世代にバトンを繋ぐ時にはもっと良い環境にできるように、私たちの代が乗り越えなければならない課題があるのかなと思います。
(友部)そうですね、今は活躍できる場が増えてきていると感じますが、一方でまだ課題もあると思います。
*アファーマティブアクション(Affirmative Action):性別や人種による格差を埋めるために、マイノリティ側を優遇して人数を増やすなどといった取り組み
ものづくりの世界へ興味のある女性に向けたメッセージ
――どうすれば、この業界で働く女性が増えると思いますか。
(友部)確かに、ものづくり業界は男性が多く女性が少ないのが現状です。だからと言って男性の方が向いているというわけではなく、性別関係なく活躍できる世界だと思っています。
(伏見)本当にそうですよね。日本の産業の中で大きな部分を占めている業界なので、活躍できる場は多いと思います。興味がある人はどんどん挑戦してほしいですね。
(友部)理系学部に進学するときに、「女子だから」というので周りからいろいろ言われたことがあるんです。性別関係なく理系を志すことができて、エンジニアとして羽ばたいてほしいと思っています。
(伏見)ものづくりに関わらず、「働くこと」に関しては性別による特性の傾向より、個人の能力差が大きく影響します。男性だから、女性だから、という枠組みで考えず「個人の能力や興味」で活躍できる場が増えると良いなと思いますね。
(友部)やりがいのある仕事ですし、社会にも求められている分野なので、興味がある人はどんどんチャレンジしてほしいです。
――これからのものづくり業界についてどう考えていますか。
(伏見)全盛期の頃より日本のものづくり業界は遅れているという意見があります。当てはまる部分もなくはないですが、車や鉄道、家電、インフラなど日本の技術は世界を牽引できるものです。日本人の勤勉さと技術への探究心を鈍らせずに、もっと盛り上がってほしいなと思います。
(友部)欧州のEV化に対して遅れているという意見もありましたが、実は日本の自動車メーカーはEVでアドバンテージがありますしね。最近は家電などもどんどん賢くなって消費電力のピークカットができるように制御されていてワクワクしています。
(伏見)ものづくり技術が発展することによって便利な製品が世に出れば、働きやすい社会になっていくとも思います。環境問題も、技術によって解決できる部分が大きいので発展の余地があるということにワクワクしています。
(友部)自分たちの開発した技術や製品が世の中のためになっているという誇りを持って、これからも働きたいです。
――ものづくりの世界で働くやりがいについて教えてください。
(友部)ものづくりって一人一人がする仕事はけっこう地味なんですよね。一つの製品の一部分のさらにその一部を担うことが多いので。でもそういう仕事を積み重ねて新しい製品や技術が世の中に浸透していくと、自分の成果が見える気がしてやりがいを感じます。
(伏見)渦中にいるときは分かりにくいんですけどね。数年前の製品に搭載された最新技術が、今ではスタンダードになっていると聞くと嬉しくなります。
(友部)新しいものがどんどん出てくるのを見るのもワクワクしますね。プロジェクトがお蔵入りになったり、忙しい時期が続いたりすることもありますが、自分の製品や技術が地味なものでも世に出ると嬉しくなります。
(伏見)退職後に欧州に住んでいた時期があるんですよ。そのとき「日本の製品は信頼できる」「日本の技術は素晴らしいしエンジニアも勤勉だ」と言われてすごく嬉しくなりました。課題はまだまだ沢山ありますが一つずつ乗り越えて、ものづくり業界で世界に影響を与えてほしいなと思います。
※記事に記載の内容は、2024年3月時点の情報です