こんにちは。「i:ENGINEER」担当編集者の宇内(うない)です。
これまで「i:ENGINEER」では「技術」をテーマにさまざまな人にフォーカスを当ててきました。
例えば……、
▼東工大って賢いのに知名度で損!? ロボット技術研究会にいろいろ聞いてみた
/i-engineer/interesting/toukoudai
こちらは東京工業大学の「ロボット技術研究会」を取材した記事です。彼らのものづくりに対する姿勢は、数万リツイートされるなど大きな反響を呼びました。
▼【誰でも分かる】「量子力学」ってなんなの? 詳しい人に聞いてきた【入門編】
/i-engineer/interesting/ryoshirikigaku
こちらはいかにも難しそうな「量子力学」について、京都大学の先生にお話を伺った記事です。難しいテーマの割に読者からの反響も上々。ご出演いただいた大関先生はこの記事をきっかけに、小学館から本を出版しました。
▼職人が作る10万円のコマに、1000円の「ベイブレード」で挑んできた
/i-engineer/interesting/beyblade-vs-koma
他にもタカラトミーさんにご協力いただいて「ベイブレード」でコマ対決した記事や、
▼「YAMAHAのコピペ」ってどこまで本当なの? ヤマハ本社に聞いてきた
/i-engineer/interesting/yamaha-history
ネットで有名な「YAMAHAのコピペ」についてどこまで本当かYAMAHA本社に聞きに行った記事など、これまでライターのヨッピーさんと共にさまざまな技術者の方々にいろんなお話をお伺いしてきました。
が、実はこういった過去の実績に不満を持っている人がいまして……。さっそくですが、その人を紹介しましょう。
ライターのヨッピーさんです。
なぜヨッピーは怒っているのか
この連載を書いてるの、全部ヨッピーさんじゃないですか。自分で書いた記事に自分で腹を立てるってどういうことですか?
いや、えらい先生とか企業の人とかね、そういう人たちの「技術」についてフォーカスするのは素晴らしいとは思うんだけど、同時に「ねたましいな」とも思ってて。
ちょっとよくわかりません。
だって、記事に出てくれた人のことをみんな褒めるじゃん。「すごい!」とか「カッコいい!」とか。
まあ、エンジニアのスゴいところを読者の方に伝えるのがこの連載の趣旨でもありますからね。
そうそう。だから僕も「すごい!」「カッコいい!」って褒められたいし、そろそろ僕の技術にもフォーカスを当ててくれてもいいんじゃないかなって。
えっ、でもヨッピーさん、特別な技術なんて一切持ってないですよね?
あるよ!
これこれ! くにおくんシリーズの「大運動会」!
●ダウンタウン熱血行進曲 それゆけ大運動会
1990年に発売されたアクションゲーム。一連の「くにおくん」シリーズの中でも最高傑作と言われている。4人対戦でひたすらどつき合うゲームで、のちに発売された任天堂の「大乱闘スマッシュブラザーズ」をイメージするとわかりやすいかもしれない。ハメ技、バグ技の類いも多く、熱くなりすぎてリアルファイトに発展することも。歴史に名を残す友情破壊ゲームとして知られる。
えっ、ゲーム!? しかもファミコン……?
いや、僕これめちゃくちゃうまいんですよ。ひょっとしたら日本一うまいんじゃないかなっていうレベル。最近だとプロゲーマーの梅原大吾さんみたいに有名な人だっているんだから、僕もくにおくんのプロとして活躍したいなって。だから今日は、僕がめちゃくちゃくにおくんの達人であることを証明します!
そんなもんプライベートで勝手にやれよ。
でもほら、たくさんの人に知ってもらってチヤホヤされたいから……。
完全に公私混同。
そんなわけで、Facebookでイベントページを立ち上げ、腕に自信のある猛者を集めたところ、
10人のチャレンジャーが貸切の居酒屋さんに集結!
でも、大運動会って結局、「れいほう」【※】を選んだ人が1位になるんじゃないですか?
【※】「大運動会」では、「ねっけつ」「はなぞの」「れんごう」「れいほう」の4チームの中から1チームを選んで戦うが、「れいほう」だけ明らかに平均ステータスが高く、必殺技も強い。
あ、申し訳ないんですけど、「結局れいほうが強いんじゃ?」みたいなセリフが出てきた時点で「まだまだ甘いな」って思ってしまいました。このゲーム、うまい人同士で煮詰まってくるとチーム格差の問題より、読み合いと駆け引きの部分がデカくなるんですよ。れいほう取ったら、残りの3チームから集中リンチ食らってボコられるので。
なるほど……。
ちなみにみなさん、本当にやり込んでたんですか?
子どもの頃、姉とめちゃくちゃ戦ってましたよ。
ははーん、その「姉と戦ってた」っていう時点でもやっぱり甘いなって思ってしまいますね。姉ちゃんとやってたってことは2人でやってた、つまり4人対戦をあんまりやってないですよね?
確かにそうかもしれません。
この勝負完全にもらったわ。2人対戦と4人対戦は完全に別のゲーム【※】になるからね。4人対戦の駆け引きを知らない人だと勝負にならないと思う。
【※】2人対戦(他2チームはコンピューター)だと結局は1対1になるので、強いチームを取った方が有利という単純な戦いになる。4人同時に遊べるゲームとはいえ、ファミコンで4人対戦を可能にする「マルチタップ」は結構レアだったため、実際に4人でやりこんでいた人はそんなにいないのかもしれない(ヨッピー談)。
いや、僕マジで優勝すると思う。しかも割とアッサリと。
えっ、ヨッピーさんって本当にそんなにうまいんですか?
うん。僕は大学生の頃とか、友達の家に4人で集まって徹夜でやりまくってたからね。当時はもうプレステ2とか発売されてたけど、そういうの全部無視してひたすら「大運動会」やってた。多人数対戦のゲームが異常に好きだったんだと思う。ゲーセンの「スパイクアウト」とか「SPAWN(スポーン)」【※】とかでもしょっちゅうやり合ってたし。
【※】スパイクアウト・SPAWN……本来は4人で協力して進めていくゲームだが、同士討ちも異常に盛り上がる。特にスパイクアウトは根強いファンも多く、発売から15年以上経つ今でも現役で稼働中のゲームセンターがチラホラある(ヨッピー談)。
なんかもう全然わかんないんですけど、そんなに自信満々でこられると、むしろサクッと負けて欲しくなりますね。
いや、でもみなさんと話してみた感じ、たぶん僕、楽勝で勝つよ。しつこいようだけど、完全勝利。
頼む! 絶対に負けてくれ……!
1回戦開始
うだうだ言わせておいても腹が立つだけですので、とっとと試合を開始しましょう。ルールはこんな感じだそうです。
●各予選で優勝した人2名、シード枠の1名、敗者復活のジャンケンで勝ち上がった1名の計4名が決勝ラウンドに進む
●チームの選択はジャンケンで決める
●武器投げによる点数稼ぎ禁止
●もりもとの覚醒阻止禁止
●「かちぬきかくとう」のみ、こばやしの使用を禁止
●「クロスカントリー」1回、「しょうがいべや」1回、「たまわりきょうそう」1回、「かちぬきかくとう」9回で決着をつける
この「大運動会」をやったことがない人にはサッパリわからないかと思いますが、ヨッピーさんが言うには「割と一般的なルール」だそうです。知るか!
勝敗に影響する大事なチーム選びですが、ジャンケンで勝ったヨッピーさんが、一番強いとされる「れいほう」を選択。
まぁ、どのチーム取っても100パー勝つけど、手の内を隠すためにもれいほうパワーのゴリ押しでサクッと優勝したいと思います。
ちなみにこの「大運動会」は、「クロスカントリー」「しょうがいべや」「たまわりきょうそう」「かちぬきかくとう」の4種目を争うゲームで、合計得点で優勝が決まります。
初戦「クロスカントリー」
クロスカントリーは、町内を一周して順位を競うレース。街中や公園を走るだけでなく、民家の中を突っ切ったり、マンションをよじ登ったり、下水道を泳いだりと「なんでもあり」の競技になっている。
ヨッピーさんが言うには、この下水道コースの間に全滅させることが重要だそう。しかし、この時はうまく逃げられてしまった様子。
それでもあっさりトップでクリアするヨッピーさん率いる「れいほう」。
この時点で観戦者たちから「ヨッピーさんマジでうめぇ!」みたいな歓声が上がっていました。あれ? ヨッピーさん、マジでうまいの?
クロスカントリーは、ジャンプ力が高い選手だと塀を登らずにジャンプで直接上がれたり、フライングを利用して肘打ちでスタート時にしばき回したりっていう細かいテクニックをどれだけ知っているかが命運を分けます。
なるほど。サッパリわかりません。
「しょうがいべや」&「たまわりきょうそう」
さまざまな仕掛けのある部屋を順に回っていき、その順位を競う「しょうがいべや」も、はしごを登る敵をしつこく蹴り落とすなどして順調に相手を倒していくヨッピーさん。
最後に残った人にとどめを刺そうと、余計な動きをしたせいで1位を逃してしまいましたが、順当に2位に入賞。
そして、別のチームとランダムでタッグを組んで競う「たまわりきょうそう」においては、味方チームも含めて全滅させたヨッピーさん。どうやら本当にうまいのかもしれません。
あ、やっぱり楽勝すぎるな。もう勝ちはゆるぎないと思います。
最後の「かちぬきかくとう」
そして最後の「かちぬきかくとう」。リング上でしばき合うバトルロワイヤルです。
ヨッピーさんのチーム「れいほう」には「りゅういち」と「りゅうじ」という凶悪に強いキャラクターがいる。ほかのチームが「れいほう」に勝つには、全員協力してこの2人の体力をなるべく削って出場機会を減らす作戦が正解らしい。
しかし、そういう定石はヨッピーさんにはまったく通じず、おかまいなしに「りゅういち」「りゅうじ」を駆使して他のチームをボッコボコにやっつけていく……。
そしてあっさりヨッピーさんの「れいほう」が優勝。
うわーー、なんか腹が立ちますね、ほんと。
クゥゥゥゥウウーーー! 気ン持ちいいィイイイイ!!!
負けた対戦者たち。悔しそう。
「ヨッピーさんに強いチームを取られたのが敗因ですよね?」と聞いてみたところ、「いや、それがですね、ちょっとチーム力どうのこうのの話じゃないレベルで強かったですね……。3人がかりでもフルボッコにされました」とのこと。なるほど。嫌な展開だな……。
2組目の試合〜敗者復活ジャンケン
1組目の勝ち抜けはヨッピーさんということで、残った参加者たちで2回戦をスタート。
めちゃくちゃ腹立つ顔してますね。見ていてどうですか? うまい人はいますか?
奥に座ってるワイシャツの方は「けっこうやるな」っていう感じ。ちゃんと「知ってる人の動き」をしてますね。この回はおそらく彼が優勝するかと。
ワイシャツの笠原さん。
なるほど。笠原さんは「大運動会で過去負けなし」って言ってました。
ただまあ、今日でその無敗記録も終わっちゃうんだけどね。無念だなぁ……。
ちょっと黙っててください。
僕はこのゲームのことが本当にわからないのですが、めちゃくちゃ盛り上がっていてびっくりしました。いい年こいたおじさんたちが、こんなにもゲームに夢中になるってある意味スゴい。
そしてこの回の優勝はヨッピーさんの予想通り、ワイシャツの笠原さんに決定!
このあと、敗者復活のジャンケンを行い、
見事勝ち残った直海さん。
敗者復活枠の直海さん、シード枠として控えていた実力未知数の有賀さん、予選を勝ち抜いたワイシャツの笠原さんとヨッピーさん、合計4名で決勝ラウンドを争います!
決勝ラウンド
大事なチーム決めジャンケンで、今度はヨッピーさんが最下位となり、強い「れいほう」ではなく、「はなぞの」チームを使うハメに。これは苦戦必至ではないでしょうか。
「はなぞの」って「一番弱いチーム」みたいな扱いを受けることも多いんですが、極まってくると「ねっけつ」よりも「はなぞの」の方が実は強かったりするんよね。それなのに「はなぞの」が最後に残ってるっていう時点で「もう、勝ったな」って感じです。
ゲームを始めてみると、ヨッピーさんがライバル視していたワイシャツの笠原さんが使う「れんごう」が下馬評通り強く、クロスカントリーではヨッピーさんを含む全員がやられてしまいました。
ほう……! 今日初めて「なかなかやるやん」って思いました。では、そろそろ僕も本気を出しますね。
その後、しょうがいべや、たまわりきょうそう、かちぬきかくとうと順調に進んでいきましたが……、
自分のチームのキャラクターがやられて興奮したシード枠の有賀さんがテーブルを揺らしたせいで画面がバグるという、ファミコンならではのアクシデントに見舞われました。
ちょっとーーーーー! だいぶまくってたはずなのに!!!!!!!!
「カス!」「クズ!」「役立たず!」などと、周囲からボロカスに怒られる有賀さん(右下)。
ファミコンではこういうトラブルはありがちなので仕方がない。みなさん「怒りながら笑ってしまう」という特殊な表情を見せてくれました。これもファミコンならではの醍醐味ですね。
気を取り直してもう一度スタートしたのですが……、
結局ヨッピーさんの「はなぞの」が優勝してしまいました。なにそれ……。マジでうまいじゃん……。
優勝者インタビュー
優勝しちゃいましたね。
まあ予想してたけどね。これで僕のくにおくんの腕前が「すごい技術」って認められると思う。結局、最初の方にも言ったけど、くにおくんってうまい人同士で煮詰まって来ると駆け引きと読み合いになるんですよ。たとえば僕は、最終ラウンドで「はなぞの」を使ったわけですけど、「はなぞの」のキャラクターってみんな弱そうだからそんなにマークされないんですね。それを利用して周囲をうまくあおって、他のチームの「りゅういち」と「ごうだ」でつぶし合いをさせたり、「ごだい」が木刀持った瞬間に全員で袋叩きにしたり、「くまだ」をとっとと画面外に投げ捨てたりとか、ぜんぶ僕の作戦どおりってわけ。あと、「れんごう」を使ってたワイシャツの笠原さんが明らかに上手だったから、そこをつぶすような方向に誘導をかけて、それにみんながまんまと乗っちゃったっていう。それで僕が漁夫の利を得たってわけ。要はココなんですよ、コ・コ!(頭を指でトントンしながら)
めちゃくちゃウザいな……。
まぁ、ゲームっていうのは勝ってうれしい、負けて悔しいものでしょ。だからがんばって練習して、技術を磨いて、大きく成長していくっていう、その過程こそが美しいのよね。「大運動会」はそういう大切なことを分からせてくれる素晴らしいゲームだと思う。技術だけじゃなくて、心理の読み合いや駆け引きも必要になるから、ただの野蛮なゲームのように見えて実はめちゃくちゃ奥が深い。こういう熱くなれるゲームをみんなもっとやるべき。みなさんも僕に負けじと各々の技術を磨いてね、世の中のためになるような、新しいチャレンジにまい進していただきたいですね。
くにおくんがうまくても、一切世の中のためにはならないと思いますが……。
その後、調子に乗りすぎてだいぶ嫌われてしまったヨッピーさんを無視して、引き続き「くにおくん」で盛り上がる一同。25年前のゲームなのに、飽きることなくこれだけ夢中になれるのはスゴい。
ニンテンドースイッチも発売されたことですし、こんなふうに何年経っても楽しく遊べるゲームソフトが出るといいですね。
ちなみに今回の「大運動会」は、ファミコン本体や多人数対戦に必要なマルチタップがないと4人対戦ができません。4人対戦をするなら、WiiのバーチャルコンソールやPS3の復刻版で遊んでみてはいかがでしょうか。
なお、ヨッピーさんは「誰でもかかってきなさい」と調子に乗っている様子。
梅原大吾さん! もしこの記事を見ていたら、今度ぜひヨッピーさんをボッコボコにしてください! 連絡は、宇内(@EinsWappa)までお願いします!
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ヨッピー + ノオト
ヨッピー
フリーライター。平日毎日更新のおばかサイト「オモコロ」にて体を張った実験記事を執筆。ほかにも「ジモコロ」「トゥギャッチ」などで連載中。ブログ「ヨッピーのブログ(仮)」 TwitterID「@yoppymodel」