エッジコンピューティングとは|注目理由から課題・実際の活用事例を考察
あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)の進化にともない、世界には膨大なデータが飛び交うようになりました。こうした状況の中で注目を集めている「エッジコンピューティング」とは、利用者が保有するIoT機器にて情報処理を行うコンピューティングモデルや、端末の近くにサーバーを分散配置するネットワークの技術を指すものです。
こちらでは、エッジコンピューティングとは何か、いま注目されている背景やそのメリットについて説明します。
Contents
エッジコンピューティングとは
エッジコンピューティングとは、利用者が持つ端末で情報処理を行ったり、端末の近くにサーバーを分散配置して処理を行ったりするコンピューティングモデルを指します。簡単にいうと、データが生まれる場所やその近くで情報処理を行うソリューションがエッジコンピューティングです。なお、「エッジ」とは「端」や「縁」を意味する言葉で、「情報の収集・活用の端の部分」であることを示しています。
一方、現在広く利用されているクラウドコンピューティングでは、サーバーにデータを集約して処理が行われます。クラウドコンピューティングよりも利用者に近いエッジコンピューティングは、利用者に近い分クラウドコンピューティングよりも高速で情報を処理できるというわけです。
エッジコンピューティングでは、デバイスとインターネットの間に複数のエッジサーバーを配置し、サーバー内でリアルタイムにデータを収集・処理・分析していきます。
エッジコンピューティングが注目されている理由
エッジコンピューティングが注目されている背景には、近年の目覚ましい技術革新のほか、情報処理に求められる速度の向上やデータ保護強化のニーズがあります。
- ●IoTの普及
- 個人が所有するスマートフォンやタブレットの爆発的な普及によって流通する情報量が増え続けていることに加え、製造や医療の現場でもIoTが導入され、膨大なデータを高速に処理するシステムが強く求められるようになりました。
- ●デバイスの小型化・高度化
- デバイス自体の処理能力の向上、低コスト化、省電力化によって、データ収集のみならず、デバイス単体でデータを処理することも可能となりました。
- ●5Gと通信速度の向上
- 5Gがスタートしたことにより、多数同時接続、超高速・大容量、超低遅延な通信が可能になりました。この通信速度の向上もエッジコンピューティングの普及拡大を後押ししています。携帯電話事業者は、今後5Gを活用した「モバイルエッジコンピューティング」の展開を予定しており、携帯電話基地局の近くへのサーバー設置が見込まれています。
さらに、機密データの取り扱いやデータの保護の強化が必要とされる昨今の流れを受け、インターネット上ではなく、端末近くにデータを保存できるエッジコンピューティングに注目が集まっているのです。
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エッジコンピューティングのメリット
エッジコンピューティングには、次の3つのメリットがあります。
- リアルタイムでのデータ処理
- トラフィックの最適化
- BCP(事業継続計画)対策
エッジコンピューティングの活用で膨大なデータをリアルタイムで処理できるようになり、トラフィックも最適化されます。また、インターネット接続が必要なクラウドサービスとは異なり、災害等でインターネットがつながらないときでも利用できるため、BCP対策にも役立ちます。
リアルタイムでのデータ処理
エッジコンピューティングの利用メリットにまず挙げられるのは、膨大な量のデータをリアルタイムで処理できるようになることです。
例えば、サービスの現場等で収集されるデータや画像・映像データをクラウド上にアップしてからデータを処理しようとすると、クラウドにアップロードされるまでに時間がかかるため、データの取得から処理までにタイムラグが発生します。そこで、デバイスに近い場所に複数のエッジサーバーを置きリアルタイム処理を可能にすることで、エンドユーザーはタイムラグなくIoTシステムを利用できるようになるのです。
トラフィックの最適化
クラウドにてデータを一元管理するケースでは、データの送受信が一カ所に集中するためネットワークに負荷がかかりすぎてしまうことがあります。一方、エッジコンピューティングの場合はインターネットを介してデータを送受信する必要がありません。さらに、エッジサーバーは複数に分散されているため、それぞれのサーバーにかかる負荷も軽減されます。
エッジサーバーで処理した情報のうち、必要なものだけをクラウドに送信するように設定すれば、トラフィックの混雑解消にも貢献するでしょう。
BCP対策
エッジコンピューティング環境の構築は、BCP(事業継続計画)にも役立ちます。
すべてのデータをクラウドで取り扱うようにしている場合、災害等で通信がストップしてしまうと、データを必要とする業務を行えなくなってしまいます。しかし、エッジコンピューティングの場合では、データはインターネット上にアップされる前にエッジサーバーで処理されるため、クラウドが利用できないときでもエッジサーバーに必要なデータがあれば事業を継続できるのです。
大規模な災害が発生しやすい日本では、非常時でも各企業の事業がストップしないよう、万が一に備えたBCPの策定が推奨されています。いつでも事業を継続できる体制の構築は、リスクを回避し自社の損失を低減するためにも重要な意味を持っているのです。
エッジコンピューティングの課題
多くの企業から注目されているエッジコンピューティングですが、次の3つの課題も抱えています。
- リアルタイム性
- 高額なコスト
- データセキュリティ
インターネット通信を必要としないエッジコンピューティングですが、場合によってはリアルタイム性が損なわれてしまうことがあります。また、クラウドサービスよりもコストが高い傾向にあり、データセキュリティの面での課題も残されているのが現状です。
リアルタイム性
デバイスの増加によってトラフィックの負荷が増大した結果、クラウドの利用ではリアルタイム性が損なわれるとして、データを即時処理するエッジコンピューティングが注目されるようになりました。
しかし、エッジコンピューティングで処理されたデータは最終的にクラウドに転送されるケースもあり、通信の遅延が引き続き懸念されるなど、万全なリアルタイム性の担保とはなりません。
高額なコスト
エッジコンピューティングの最大の課題ともいえるのがコストです。一般的なクラウドサービスに比べ、エッジコンピューティングの構築にかかる費用は高額になりがちです。さらに、エッジコンピューティングではデバイスの近くに複数のサーバーを設置するため、拠点が多いほど必要なハードウエアが多くなり、その分費用も増大します。
また、必要ではないデータも収集してしまうため、通信自体に余剰なコストがかかりコスト高になるという問題も残されています。
データセキュリティ
エッジコンピューティングは、セキュリティ面にまだまだ課題を抱えている技術です。これはIoTデバイスにセキュリティの設定がなく、さらにセキュリティのアップデートを適用できない場合などの問題が残されているためです。
エッジコンピューティングに個別にデータを入れているから大丈夫、インターネット上にすべてのデータをアップロードしないから問題ない、とは言い切れないのが現状です。
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エッジコンピューティングの活用事例
エッジコンピューティングは、すでにさまざまな領域で利用が始まっています。ここからは、エッジコンピューティングの具体的な活用事例を見ていきましょう。
自動走行サービス
車をインターネットにつなぐことで、安定した自動走行を可能にする自動走行サービスでも、エッジコンピューティングが活用されています。
自動走行では、事故を防ぐためにさまざまなデータをリアルタイムに処理する必要があります。情報の取得と処理に遅れが生じれば、事故リスクが高まってしまうためです。
そこで、よりリスクの低い自動走行を可能にしたのがエッジコンピューティングです。エッジコンピューティングによってクラウドにかかる負荷を軽減し、遅延のない通信を実現します。自動運転技術のさらなる向上には、エッジコンピューティングが欠かせないものと考えられており、自動運転技術とともにエッジコンピューティングの研究や開発も行われています。
生体認証システム
顔や指紋、静脈などで個人を判別し認証する生体認証システムは、現在さまざまな場所で活用されています。
個人を判別するためには、各個人の認証データをサーバーに登録しておき、認証時にサーバーからその情報を取り出して確認する必要があります。このとき、毎回ネットワークを経由して通信していると、ネットワークに過剰な負荷がかかり、通信の遅延が起こりやすくなってしまいます。
そこで活用されているのがエッジコンピューティングです。各個人の情報を認証端末の近くに設置し管理することで、ネットワークを介さずとも認証が行えるようになります。
気象予測システム
気象予測システムにおけるエッジコンピューティングは、主に小さな範囲での気象予測に利用されています。これにより、必要な場所の気象予測をピンポイントで行えるようになりました。
また、データを高精度かつ低コストで入手できる点も大きな特徴です。各地域、あるいは各産業に収集対象を限定し、低コストで気象予測データを提供できるようになります。
エッジコンピューティングの今後の動向に注目
エッジコンピューティングは、これからの生活に欠かせないものになると考えられている技術です。さまざまな産業でIoT機器、AI技術の利用が進む中、膨大なデータをリアルタイムに処理できるシステムの活用範囲はますます広がっていくことでしょう。
さらに、5Gが国内全域をカバーするようになれば、エッジコンピューティングの活躍の場も拡大していくはずです。エッジコンピューティングの動向に引き続き注目していきましょう。
- エッジコンピューティングとは、利用者のデバイスで情報処理を行ったり、デバイス近くにサーバーを分散配置して処理を行ったりするコンピューティングモデル
- エッジコンピューティングは利用者に近い分、クラウドコンピューティングと比較して高速で情報を処理できる
- IoTの普及、デバイスの高性能化、5Gの開始を背景に、エッジコンピューティングの注目度は増している
- 高速データ処理やトラフィックの最適化のほか、BCP対策にも重要な意味を持つ
- 自動走行サービスや生態認証システムなど、エッジコンピューティングはすでにさまざまな領域で利用されている
- 5Gの普及により、エッジコンピューティングの活躍の場はさらに拡大していく