スマート化で活躍の場が広がる産業用ロボット
大きくて重たい自動車や精密な電気・電子機器など、高品質な産業製品を高効率で生産する産業用ロボットは、製造業に無くてはならない存在です。
現在、新興国市場の成長に伴う世界の消費者市場の拡大によって、産業用ロボットの導入台数は急激に増大。
さらに、モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)の活用、人間が持っているような五感を獲得によって、その役割も拡大しつつあります。
ここでは、技術の進化によって活躍の場が広がる、産業用ロボットの最新動向について解説します。
Contents
人間の仕組みを模してさまざまな仕事をこなす
SFやアニメではおなじみのロボットですが、現在、街で目にするのはソフトバンクが販売している「Pepper」くらいで、まだまだ日常的に目にする状態だとは言えません。
ところが、製造業の工場の中では、別世界の未来を垣間見ることができます。
多種多様な産業用ロボットが生産ライン上にずらりと並び、キビキビと動いて製品を作り上げています。
産業用ロボットとは、製造業やサービス業などの作業を自動化する機械の一種です。
工場の中には、「きれいに素早くリールに電線を巻く」「ひたすらネギを輪切りにする」といった、特定の仕事だけをこなす専用の自動化装置もあります。
こうした「専用自動化装置」は、産業用ロボットではありません。
作業内容や扱うモノに応じて、多目的に利用できる自動化装置を産業用ロボットと呼んでいます。
人間には、さまざまな仕事を、目的や状況に合わせて柔軟にこなす能力が備わっています。
こうした人間の構造や動く仕組みを模倣した機械を作ることで、機能に汎用性を持たせたのがロボットなのです。
特に産業用ロボットでは、高度な作業を行う人間の腕と手の仕組みを模して、多目的に利用できる機械の腕(マニピュレータ)を、ソフトウエアによって動きを制御する複数の関節(軸)でつないだ構造を取っています。
少品種大量生産から変種変量生産へ変化する工業生産
製造業の発展は、大量の製品を効率的に作る「ファクトリーオートメーション(FA)」技術の進歩に支えられています。
生産活動を自動化できれば、生産時間が短縮して生産効率は向上し、なおかつ人件費の削減や重労働からの解放、製品品質の均一化なども実現します。
これまでの製造業では、なるべく少ない品種の製品を、大量生産することで生産効率を高めるビジネスモデルが取られてきました。
なぜなら材料や生産を同一化することで、作業を規格化しやすくなり、無駄なく均一な品質での生産が可能になるからです。
その結果、20世紀始めに登場した“元祖・大量生産ライン”と呼べるベルトコンベアによる流れ作業方式のラインで生産していた米・フォード社の「T型フォード」は、1種類のモデルで色も黒だけに絞り込むという徹底した少品種大量生産を行っていました。
ところが近年、社会の成熟やグローバル化の進展によって消費者の嗜好が多様化。
さらに市場で求められる製品が目まぐるしく変化するようになりました。
もはや、同じ製品を大量に作り続けるだけでは競争力の高い製造業を営むことができず、市場が求める仕様と量を迅速かつ的確に生産する「変種変量生産」が必要とされています。
それに伴い、FAにはこれまでの大量生産時代に活躍していた専用自動化装置に代わる汎用性の高い自動化装置の導入が必須になりました。
こうした時代の要請に応えるのが産業用ロボットなのです。
急成長し続ける産業用ロボットの市場動向
国際ロボット連盟が発表した「World Robotics : Industrial Robots 2018」によると、産業用ロボットの市場は、年率平均14%のペースで成長しています。
この傾向は今後も継続し、2017年に38万1000台だった年間販売台数は、2021年には63万台に達すると予測されています。
ここで特筆できることは、産業用ロボットの世界の販売台数の56%を安川電機、ファナック、デンソー、東芝機械、川崎重工業などの日本企業が占めていることです。
新規導入される産業用ロボットの用途別内訳を見ると、自動車産業とエレクトロニクス産業の2つの産業で約65%と過半数に達しています。
これらの産業では、製品のモデルチェンジが頻繁に起こります。
産業用ロボットならば、生産ラインを大規模改修することなく、スムーズに新製品の生産を立ち上げること可能なため、導入が進みました。
近年では、自動車産業とエレクトロニクス産業の工場の多くが中国に置かれるようになりました。
中国の工場というと、人海戦術で製品を大量生産しているというイメージを持っている人もいるかもしれません。
しかし実際には、最先端の産業用ロボットが、まず中国に導入され、多くの作業が自動化されている状況です。
このため、中国の産業用ロボット市場の成長は目覚ましく、2017年の世界総販売台数の36%を占める世界最大市場になりました。
また、現地企業の技術力の向上も目覚ましいものがあります。
2016年には世界4大産業用ロボットメーカーの1つである独・KUKA社を、中国の家電メーカーグループである美的集団が買収して業界を驚かせました。
産業用ロボットの構造の分類と歴史
産業用ロボットを構造に着目して分類すると、大きく以下の7種類に大別できます。
- 極座標型ロボット
旋回可能な垂直軸の上部に天秤のように動く伸縮可能なアームを取り付けたロボット。産業用ロボットの構造としては古典的なものであり、可動域の自由度や応用分野から見ると汎用性はそれほど高くない。 - 円筒座標型ロボット
極座標型の改良型で、支えるモノを水平に保つことができるロボット。アームを上下方向に移動させることが可能。 - 直角座標型ロボット
同じく極座標型の改良型のロボット。ゲームセンターのクレーンゲームのような動きをするシンプルな構造で、誤動作しにくい。組み立て作業などに使われている。 - 垂直多関節型ロボット
人間の腕に近い構造のロボット。可動域が広く、動きの自由度が極めて高いため、現在最も多く使われている。腕の先に取り付ける手(ハンド)の部分を取り替えれば、移送や溶接、塗装など様々な用途で活用可能。 - 水平多関節(スカラ)型ロボット
自由度を水平面での回転に制限する分、制御を簡単にして小型化や低価格化を可能にしたロボット。 - パラレルリンク型ロボット
並列配置した複数の関節でアームを支える高速動作が可能なロボット。ベルトコンベア上を流れる製品を持ち上げ、別のコンベアに移したり、パレット上に並べたりする作業に使われる。 - 双腕型ロボット
垂直多関節型を2つ組み合わせて、より複雑な仕事もこなせるようにしたロボット。人間がよく行う、一方の腕でモノを支え、もう一方の腕で作業するといったことが可能で、近年実用化が進んでいる。
世界で最初の産業用ロボットは、1961年に米国のUnimation社が発表した「Unimate」で、主に自動車部品の鋳造工程で活用されていました。
一方で、日本の産業用ロボットは、Unimation社と技術提携した川崎重工業が1969年に発表した「川崎ユニメート2000型」から始まりました。
川崎ユニメート2000型は極座標型を採用しています。
技術が進歩するにつれて改良型の円筒座標型や直角座標型、より自由度の高い垂直多関節型や水平多関節(スカラ)型、パラレルリンク型、双腕型と順にロボットは発展してきました。
IoTとAI、さらに五感の獲得で活躍の場が拡大中
機械的な構造に関しては、産業用ロボットは完成の域に近づいてきたと言えるかもしれません。
その一方で、IoTやAIといった情報処理技術をフル活用することで、産業用ロボットに新たな機能を付与し、活躍の場を広げる取り組みが進んでいます。
例えば、IoTでロボットの稼働状況や作業した結果をデータ化し、AIに学習させることで、より高度な作業を正確にこなせるようにする技術の開発が進んでいます。
これによって、熟練技能者だけに任せていた高度な作業を産業用ロボットに任せ、より多くの作業を自動化できる可能性が出てきました。
人間は、一人ひとりの経験から学んで技能を習得していきます。
これに対し産業用ロボットは、複数台のデータを共有することで、人間よりも速く、効率的に学ぶことができます。
さらに、カメラや各種センサーを使って周辺環境を把握する機能を実装し、人と共存して安全に働くことができる「協働ロボット」が実現しました。
これは自動運転車のロボット版と呼べるような安全技術を備えるロボットで、産業用ロボットの活躍の機会を飛躍的に拡大させることでしょう。
ところで、どんなにロボット技術が進化しても、自動化工程の合間にところどころ人手による工程が挟み込まれるのが通常です。
しかし、これまでの産業用ロボットでは、80W以上の出力を持つものは、作業員の安全を確保するために柵や囲いで隔離することが法律で義務付けられていました。
ロボットと作業員を隔離していたのでは、両者の間でモノを受け渡すたびに、手間と時間がかかって非効率です。
2012年、この問題に対して法改正が行われ、80W以上のロボットでも、国際標準化機構(ISO)が定める規格に沿った措置を講じれば、隔離不要で運用できるように規制が緩和されました。
これによって、製造業での生産がより効率化すると共に、人との接触が頻繁に起こる販売補助や案内、警備といったサービスを提供する分野での産業用ロボットの活用に道が開きました。
さらに、近年ではロボットの手の部分にセンサー技術を応用した触覚が搭載され、モノの感触を確かめながらやさしくつかむことができるようになりました。
その恩恵を最も大きく受けるのは、これまで作業の自動化が遅れていた農業や食品業界などです。
同じトマトでも、大きさや形が全く同じ個体は存在しません。
また、豆腐やたまごのように、扱う際には微妙な力加減が求められるモノも多くあります。
触覚の実用化は、これらの、形が定まらないモノやデリケートなモノの扱いに期待されています。
応用と技術の両面で、大きな伸びしろが残されている
世界中の製造業が取り組む第4次産業革命「Industry 4.0(インダストリー4.0)」では、市場のニーズに合わせて、必要な仕様の製品を必要な数だけ無駄なくタイムリーに生産するマスカスタマイゼーションと呼ばれる工業製品の生産形態の確立を目指しています。
そうした変種変量生産に柔軟に対応するためには、産業用ロボットのさらなる進化が求められています。
また、日本で顕在化している労働人口の減少は、今後も喫緊の課題です。
そうした時代でも豊かな生活を維持していくためには、これまで人手に頼ることが多かったサービス業に産業用ロボットを導入していく必要があることでしょう。
産業用ロボットには、応用と技術それぞれに大きな伸びしろがあります。
これからは、産業用ロボットを暮らしの中で、当たり前のように目にする時代が到来するかもしれません。