5分でわかる「パワー半導体」とは|用途と材料・メーカー世界シェアランキングから将来性を考察
電気自動車や再生可能エネルギーシステムなど、世界的なトレンドになっている技術革新に、大きく関わるデバイスである「パワー半導体」への関心が高まっています。関連銘柄へも熱視線が注がれ、株式市場においても需要の急増が見られます。
パワー半導体は、私たちの生活を支える電気製品にも使われているように身近な存在ではありますが、いわゆる「通常の半導体」とは何が違うのでしょうか? 本記事では、パワー半導体の用途や、仕組みを支える材料、メーカーの世界シェアから見えてくる将来性や市場規模について解説します。
Contents
パワー半導体とは
パワー半導体とは、わかりやすく説明すると、「高電圧」や「大電流」に耐えうる半導体デバイスで、電力制御や変換を目的に使用されます。ここでいう「デバイス」には、トランジスタやダイオード、サイリスタなどが含まれ、パワー半導体は「パワーデバイス」とも呼ばれています。
耐電圧性に優れ、高電力を効率的に制御できるよう設計されている特性から、パワー半導体は次のような幅広い分野にて用いられています。
- 電気自動車
- 再生可能エネルギーシステム
- 電力変換装置
- 家電製品 など
通常の半導体との違い
そもそも半導体とは、金属など電気を通す素材である「導体」と、ガラスやゴムなど電気を通さない素材である「絶縁体」の中間の性質を備えた物質です。具体的にはシリコンのような素材が該当します。
しかし一般的には、この半導体が使用された集積回路(IC)やトランジスタなどを含め、広義な意味で「半導体」の言葉が使われています。
通常の半導体との主な違いは、取り扱う電力の「規模」と「耐電圧性」にあり、パワー半導体はより高い耐電圧と大電流を処理できるように設計されています。
家電製品などに搭載されている通常の半導体は、演算や記憶が得意分野であり、製品のいわば「頭脳」の役割を担います。一方、パワー半導体は電力の供給や電圧の変換を行う、いわば「筋肉」の役割を担う関係性です。
パワー半導体の働きと用途
パワー半導体は、スイッチのON/OFFを繰り返す(スイッチングを行う)ことにより、以下のような電力制御および変換を実行しています。
- インバータ:直流を交流に変換する
- コンバータ:交流を直流に変換する
- レギュレーター:直流の電圧を変換する
- 周波数変換:交流の周期を変える
身近な例でいえば、パワー半導体は電圧や電流を変換して、家庭やオフィス、工場などで「使える電気」にする役割を果たしています。
発電所で作られる電気は、各家庭やオフィスなどに届けられます。しかし、発電所から流れてくる交流電圧のままでは、家電製品やOA機器は動作しません。多くの家電は直流で動作するためです。そこでパワー半導体を経由し、直流を交流に変換することで、家電製品が使えるようになる要領です。
また、日本では東日本は50Hz、西日本は60Hzと、周波数が地域によって異なります。そこで、周波数を変換するためにもパワー半導体が用いられています。
このようにパワー半導体は、いまでは日々の生活に欠かせないデバイスとなっているのです。
パワー半導体の材料とSiC次世代パワー半導体
パワー半導体の材料には、シリコン (Si)、炭化ケイ素(SiC:シリコンカーバイド)、窒化ガリウム(GaN:ガリウムナイトライド)などがあります。
なかでも、シリコンはもっとも一般的とされる材料です。純度を高めたり不純物を調整したりといった加工の容易性に優れ、熱や光のエネルギーの影響を受けても比較的安定した電流制御を実現できる特性から、広範な用途に活用されています。
一方、高電圧や大電流を扱うパワー半導体には、シリコンよりも耐久性に優れ、かつ電力変換の効率性が高い素材も必要とされています。これらの課題を解決する次世代の材料として、炭化ケイ素や窒化ガリウム、酸化ガリウム(Ga2O3)を使用した、次世代パワー半導体の開発も進められています。
パワー半導体の主な種類
パワー半導体の種類は、大きくパワートランジスタのような「スイッチングデバイス」と、電流を一方向に流す「ダイオード」や「サイリスタ」に分類できます。
パワートランジスタ |
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---|---|
ダイオード |
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サイリスタ |
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このように、それぞれのデバイスが異なる特性と用途を持ち、電力制御を支えています。
パワー半導体の日本メーカーと世界シェア
パワー半導体の世界市場では、欧州やアメリカの企業に割って入り、複数の日本企業も世界シェアにおける上位を獲得しています。
世界企業のシェア率ランキング | 日本企業のシェア率ランキング | ||
メーカー(国) | 企業シェア | メーカー | 企業シェア |
インフィニオンテクノロジーズ(ドイツ) | 25.2% | 三菱電機 | 7.7% |
オンセミコンダクター(アメリカ) | 9.3% | 富士電機 | 6.1% |
STマイクロエレクトロニクス(スイス) | 7.8% | 東芝 | 5.1% |
三菱電機(日本) | 7.7% | ルネサスエレクトロニクス | 3.3% |
富士電機(日本) | 6.1% | ローム | 3.3% |
世界シェアでは、ドイツ企業のインフィニオンテクノロジーズが多くの割合を占めていますが、三菱電機や富士電機などの企業も追随し、市場において少なくない割合を占めていることがわかります。
日本企業がパワー半導体のシェアを大きく占めている背景には、長年にわたる技術開発、ならびに製造における高度な専門知識の蓄積があります。また、自動車産業や産業機械など、パワー半導体を多用する分野での国内需要も高く、これらの業界との密接な連携がなされる点が、日本企業の強みとなっていると見られます。
さらに三菱電機や富士電機、東芝、ロームは、各社とも数年以内に数千億円をかけてパワー半導体に関連する設備投資を発表しており、今後の市場規模拡大が期待されています。
パワー半導体の将来性
パワー半導体の将来性は高く、電気自動車や再生可能エネルギーなど、世界的に注目度が高まっている分野を中心に需要増加が見込まれています。
拡大するパワー半導体の市場規模
パワー半導体の将来性においては、上述した炭化ケイ素や窒化ガリウム、酸化ガリウムなどの新材料の開発が進んでいる点も追い風になります。
これら次世代パワー半導体は、従来のシリコン半導体を超える性能を実現すると期待されており、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の市場は、2021年からの10年間で約24倍に成長すると見込まれています。
なお、パワー半導体は高度な技術が要求される分野であり、参入障壁は低くはありません。すでに高い市場シェアを獲得している日本企業には、さらなる成長が期待されます。
パワー半導体の課題
一方で、技術的な課題や高額な開発コスト、生産設備への大規模な投資が必要となる点への懸念はぬぐい切れません。また、大きな電力や高電圧を扱うパワー半導体では、電力が熱として逃げてしまう「電力の損失」も発生します。放熱性の強化や耐熱性の向上による解決が急がれます。
エネルギー効率に優れた社会の実現のために、パワー半導体分野における技術革新は不可欠といえるでしょう。
- パワー半導体とは、「高電圧」や「大電流」に耐えうる半導体デバイスのこと
- 通常の半導体との主な違いは、取り扱う電力の「規模」と「耐電圧性」にある
- パワー半導体は、スイッチのON/OFFを繰り返し(スイッチングを行う)ことにより、電力制御および変換を実行する
- 炭化ケイ素(SiC)などを用いた次世代パワー半導体の開発が進んでおり、パワー半導体の市場は、2021年からの10年間で約24倍に成長すると見込まれている
- パワー半導体の世界市場では、複数の日本企業も世界シェアにおける上位を獲得している