ティール組織とは|意味やメリット・デメリットをわかりやすく解説
日本でも注目を集めるようになった「ティール組織」。これは上下関係や部門が存在せず、個人の裁量で意思決定や行動ができるという、従来組織とは大きく異なる考え方を採用した組織論です。
この革新的な組織改革に再現性があるのか、疑念を持つ人もいるでしょう。しかし世界規模でみると、20年ほど前からティール組織の考え方は浸透しており、導入して成功を収めている企業や団体が存在しているのも事実です。
こちらでは、ティ-ル組織について徹底解説。メリット・デメリットはもちろんのこと、段階的な考え方やティール組織化を実現するために重要なポイントを紹介します。
Contents
「ティール組織」の意味とは
ティール組織とは、経営者や上司などが、部下の業務に関して指示出しや管理を行わなくても、組織に所属するメンバーが主体となり目的達成のためのアクションを起こす組織のことです。
2014年にフレデリック・ラルーが著書である「Reinventing Organizations」内で紹介したことをきっかけに、この考えが広まりました。著者は本書の中で「旧来の組織マネジメント法は、成果が上がっている反面、組織に悪影響を与える可能性がある」と指摘しています。
そのため、ティール組織は従来型組織とは一線を画す組織のあり方を提唱した、次世代型組織モデルといえます。たとえばティール組織には、指示系統となるヒエラルキー自体が存在しません。これにより従来型組織の慣例であった、定期ミーティングや予算・売り上げ目標の設定などの廃止も可能になります。
一方で指示を出す人がいないため、1人ひとりが組織のルールや仕組みを理解して創意工夫し、意思決定をする必要があります。そのため、従来型の組織からの転換においては、根本的な改革を要することになります。
ティール組織のメリット
ティール組織を導入するメリットには以下のような点が挙げられます。
- メンバーの主体性の強化
- 業務効率の向上
- 柔軟性の高い組織になる
指示系統不在のティール組織では、メンバー全員が主体的に考え動くことが求められます。上下関係も存在しないため、何かの決定において他人に許可を求める必要もありません。従来型のように上司の指示待ちや判断待ちをすることがない分、業務を回すスピードが速くなります。
また指示・判断を下す人、作業をする人といった区別も存在しません。そのため全てのメンバーが「作業」に回れるため、市場のスピードに合わせた動きがとりやすい、柔軟な組織を作り上げることができます。
ティール組織のデメリット
ティール組織を導入するにあたっては、以下のようなデメリットがあることにも留意しておきましょう。
- メンバー1人ひとりの意識改革が必要
- 進捗管理やリスク管理が難しい
- 明確なモデルが存在しない
先述のとおり、ティール組織では指示系統が存在しないため、従来の組織のようにメンバーが上司からの指示待ちをしていては組織の活動が立ちゆかなくなってしまいます。そのため自らに意思決定権があり、各々の決定や行動が組織運営に影響をおよぼすことを念頭においてもらう必要があります。
また、個々の裁量でプロジェクトが進んでいくため、進捗やリスク管理が困難になりやすいです。問題発生時の対応が遅れたり、趣味嗜好の要素が強い無益なプロジェクトを立ち上げていたりする危険性があるので、少しでも進め方や進捗に疑問に感じることがあれば、担当メンバーへの状況確認を行うなど、迅速な対応が求められます。
またティール組織はまだ歴史が浅く、体系化された明確なモデルが存在しません。そのため、自社にあったルールや方法、最適解を探りながら組織を形成していくことになります。
ティール組織実現への5段階の組織フェーズ
従来型で統率されていた組織をいきなり「ティール組織」に転換しようとしても当然ながら上手くいきません。下記の5つの段階を経る必要があります。
- Red組織
- Amber組織
- Orange組織
- Green組織
- Teal組織
リーダーによる独裁的な組織形態から、徐々にヒエラルキーによる支配が緩和され、ティール組織となる頃には完全に個々のメンバーが尊重されるようになります。段階を追うごとに、少しずつ意識改革が図られていくのです。
Red組織
「狼の群れ」にたとえられるレッド組織では、特定の個人(リーダー)による支配的なマネジメントが特徴です。メンバーはリーダーからの指示によって安心感を得て活動を行います。「今日明日をどう生きていくか」といった衝動的な部分が強く、短期的な目線で判断を行うことが多くなります。
リーダーの力は絶対的であるため、レッド組織は良い意味でも悪い意味でも依存度の高い組織形態です。
Amber組織
アンバー組織は、厳格で社会的な階級に則ったヒエラルキー組織です。上意下達で情報処理が行われ、指示系統が明確であることから「軍隊」に比喩されています。
各階層で役割分担をしているため、大人数の統率も可能。それぞれのメンバーが役割を担うことによって、リーダーに依存しているレッド組織よりも一歩進んだ、長期的目線を持つ組織に進化していきます。
ただし、階級的ヒエラルキーを優先するため、変化や競争に弱いという課題を内包しています。
Orange組織
オレンジ組織でも、社長や従業員といった階層構造によるヒエラルキーが存在します。ただしアンバー組織ほど厳格ではないため、成果を上げたメンバーは評価を得て出世も可能です。時代に適した能力やスキルを持っているメンバーが、その頭角を現しやすい環境が整っています。
組織内外の流動性に対して拒否感のない組織形態であるため、革新や改革が起きやすいのもオレンジ組織の特徴です。ただし、数値により徹底的にマネジメントされることから、メンバー同士においても熾烈な生存競争を行うことになります。
実力主義が徹底されることにより機械のように働き続けることになるため、オレンジ組織は「機械」と比喩されます。
Green組織
グリーン組織では、オレンジ組織と同様に階層構造によるヒエラルキーはそのままに、メンバーの個性や多様性を尊重した組織形態です。これまで目標に向いていた焦点が、ここにきて個人の主体性や多様性にあたり始めます。これによりオレンジ組織の機械のような働き方から脱却。人間らしさを尊重することからグリーン組織は「家族」に例えられます。
メンバー同士で意見を交わせる風通しの良い組織環境といえますが、合意形成には時間がかかる傾向にある点に課題が残ります。
Teal組織
ティール組織では、組織を社長や株主などの経営陣のものと捉えず、組織に関わる全ての人のものとして考えます。そうした様から、ティール組織はひとつの「生命体」として比喩されています。
グリーン組織まで存在していた階層構造はなくなり、メンバー全体が信頼関係に基づいた独自のルールや仕組みを構築。工夫を凝らしながら、組織の目的実現に動いていきます。
意思決定も個々人で行うため、メンバーそれぞれの思考や行動がイノベーションの契機となり、変化による組織のさらなる成長が望めるのもティール組織の特徴でしょう。
ティール組織実現のための3つのポイント
段階を経てティール組織を実現するためには、下記のようなポイントを意識しておく必要があります。
- エボリューショナリーパーパス(存在目的)
- セルフマネジメント(自主経営)
- ホールネス(全体性)
従来のやり方のままでは、いつまで経ってもティール組織には移行できません。上記の3つを基準に意識のブレイクスルーを講じることで、ティール組織への変革を遂げることができるでしょう。
エボリューショナリーパーパス(存在目的)
従来の組織では、組織が存在する目的やビジョンが変化することはそれほど多くないことが一般的でしたが、ティール組織では日々進化を続けます。それは、組織を構成するメンバーが日々進化し、彼らの意思決定や行動によって組織運営を行うことになるからです。
メンバーは変化していくのに対して、目的は固定というチグハグな状況を改善していくことで、組織やメンバーの可能性を最大化することができます。そのため、ティール組織化を図るのであれば組織が変化する目的を敏感に感じとり、それぞれの活動に落とし込む必要があります。
セルフマネジメント(自主経営)
ティール組織におけるセルフマネジメントは、自主経営と訳されます。ティール組織では全てのメンバーに意思決定権と責任が付与されており、自らが設定した目的や動機に基づき組織運営を行っていく必要があります。つまりメンバー全員が経営者目線を持つことを求められるのです。
経営者目線を得るためには、組織内の業務や状況を俯瞰的に見られるようにならなければいけません。そのため従来組織では部門化されていた経理や人事、営業などの業務を個人やチームで経験することが推奨されています。そうすることで、各業務がチームに与える影響や関係性などを把握できるようになります。
また役割や部門の固定化を払拭することで、臨機応変に階層やチーム、ルールが形成されます。これにより活動が円滑化。イノベーションを生み出すためにも必要不可欠であるため、ティール組織化にはセルフマネジメントが欠かせません。
ホールネス(全体性)
従来の組織では、上役から期待される役割を演じ、評価されるためにメンバー自身が持つ個性や能力を隠す傾向にありました。しかしティール組織では階層が存在しないため、権力による圧をかけられることがありません。本来の自分でいるための環境が整っているため、これまで表に出せずにいた能力や個性を最大限に発揮することができます。
ティール組織の事例
可能な限りの情報開示を行いメンバー個人の裁量による判断が下せるようにして、スタッフの賃金低下、離職率悪化にストップをかけた、オランダ介護組織「ビューゾルフ」の事例を紹介します。
● 導入前に見られた課題
政府の財政難が原因で資金が圧迫され、介護事業の業務は細分・分業化。介護を依頼する側は毎回、病状を説明することとなり、ケアに充てるはずの時間を短縮せざるをえない状況でした。短時間では対応しきれない人数への対応を要求される厳しさと、低賃金という悪条件が重なり、従事するスタッフの離職率が悪化。現状をどうにかしなければいけないと、団体はティール組織化を試みました。
● ティール組織化による成果
団体は介護の全行程を専用アプリで共有し、個人の裁量で判断が下せるようにルールは必要最低限に留めました。結果として、1万人以上のスタッフがトラブルなく稼働する大組織へと変貌を遂げています。この取り組みは介護業界での大きな注目を集め、ビューゾルフのティール組織モデルを踏襲した施設は日本でも登場しています。
ティール組織は従来組織の悪習慣を取り除き、個人と組織が共に成長することができる、革新的な組織のあり方です。その斬新な考え方から実現が難しい面もありますが、実際にティール組織化して成功を収めている企業や団体も存在しており、今後ますます注目を集めていくことが予想されます。
- ティール組織とは、指示系統となるヒエラルキー自体が存在せず、組織に所属するメンバーが主体となり目的達成のためのアクションを起こす組織
- 従来型組織のように上司の指示待ちや判断待ちをすることがない分、業務を回すスピードが速くなる
- 市場の変化のスピードに合わせた動きがとりやすい、柔軟な組織を作り上げることができる
- 一方で、進捗やリスク管理が困難になりやすいなどの課題もある
- 従来型組織をティール組織に転換するには、ヒエラルキーによる支配を緩和し、個々のメンバーを尊重する段階的な意識改革が必要
- 「存在目的」「自主経営」「全体性」を基準とした意識のブレイクスルーが求められる
- 実際にティール組織化して成功を収めている企業や団体もあり、ますます注目を集めていくことが予想される