ネットワークエンジニアの将来性|今後の需要とクラウドの普及との関係性
これまでのネットワークエンジニアは、ネットワーク設計や構築、保守・運用を主に行ってきましたが、いまではクラウド関連スキルを身に付ける必要性に強く迫られています。また、他のエンジニア職に比べて求人数が少ないなど、「従来の」ネットワークエンジニアに対する人材市場での需要は減少の一途をたどっています。
クラウドサービスの普及が進むいま、ネットワークエンジニアにはどういった対応・変化が求められているのでしょうか? ネットワークエンジニアの仕事内容や、必要とされるスキルを確認していきましょう。
Contents
ネットワークエンジニアとは
ネットワークエンジニアは、ネットワーク設計や構築、運用・監視を行う技術者のことです。なお、企業で働くネットワークエンジニアは、これらすべての業務を1人でカバーしているのではなく、それぞれの業務ごとに担当者が決まっていることが一般的です。
ネットワークエンジニアと混同される職業のひとつにシステムエンジニアがあります。システムエンジニアの主な業務内容は、業務支援ツールなどのシステム設計やプロジェクト管理であり、クライアントが求める要件をクリアするために、ヒアリングや要件定義といったシステム開発の上流工程を主に担当します。
システムエンジニアが個々のコンピューターやサーバー内で稼働するソフトウェアを開発するのに対し、ネットワークエンジニアはルーターなどを用いたネットワーク環境を開発します。
ネットワークエンジニアの仕事内容
ネットワークエンジニアの仕事内容は主に以下の3つです。
クライアントの要望に即したネットワークシステムの設計や、構築手順の決定、運用方法の策定などがメインの仕事となります。クライアントの要望をヒアリングしながら詳細なネットワークシステムを構築していくため、プロジェクトチームの中でも多くの知識を有した責任者クラスの人材が担当します。
設計資料をもとに実際のネットワークシステムを構築していきます。ケーブルの敷設やルーター機器の設置といったハード面での作業も必要とされ、設計資料に即した要件の通りにネットワークシステムが稼働するかをチェックしていきます。
テストをクリアしたネットワークシステムが正常に稼働できるようにトラブルシューティングや監視を行います。比較的経験や知識の浅い人材が担当する領域となりますが、トラブルの内容によって高度なスキルが求められることもあります。
ネットワークエンジニアの年収
経済産業省が2017年に発表したIT関連産業の給与等に関する実態調査結果によると、ネットワークエンジニアの平均年収は768.2万円(ITアーキテクト・IT技術スペシャリストを対象)とされており、IT関連産業における給与水準では相対的に高い場所に位置していることがわかります。
顧客向けシステムの開発・実装を行うシステムエンジニアの平均年収593.7万円、顧客向け情報システムの運用を行うIT運用・管理職の平均年収608.6万円と見比べると、エンジニア系職種の中でも比較的高収入の職業といえるでしょう。
また、CCIE(シスコ技術者認定のエキスパート資格)を保有しているネットワークエンジニアは、平均年収が900万円~1500万円となるデータも発表されています。
ネットワークエンジニアの将来性
知識やスキル、保有する資格に応じて年収に大幅な差が生まれるネットワークエンジニアですが、今後のIoT・ICTの普及にともない、より高度なネットワーク設計・構築・運用が求められると考えられます。
また、高度なスキルが求められるにあたって、求人数は他のエンジニア職と比べて少なくなっていることが特徴です。しかし、経済産業省が発表したDXレポートや、総務省が発表した自治体戦略2040構想研究会 第二次報告を考慮すると、最新テクノロジーを利用した社会全体のデータ活用需要は右肩上がりに上昇すると推測されています。
したがって、現在は求人数こそ少ないものの、市場ニーズに沿う形で徐々に求人数も増えていくでしょう。
ネットワークエンジニアの需要
「Indeed 求人検索」を使ってエンジニア関連職種の求人数を調べた簡易表が以下となります。
ネットワークエンジニア | システムエンジニア | サーバーエンジニア |
---|---|---|
6,923件 | 63,439件 | 50,568件 |
参照元:Indeed 求人検索
ネットワークエンジニアの求人数は、システムエンジニアやサーバーエンジニアといった隣接する業種と比べて明らかに少ないことがわかります。しかし、ネットワーク設計に関する高度な知見とスキルが必要なほか、ネットワークシステム開発の上流工程を担当する可能性があることも考慮すると、需要が少ないとは一概にいえません。
ネットワークエンジニアの仕事はなくならない
企業のDXに向けた潮流や、コロナ禍におけるリモートワークの推進など、ネットワークを通じたビジネス市場は拡大を続けています。
また、経済産業省が発表したDXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~においても、DX実現シナリオとして「システム再構築やアジャイル開発に適した契約ガイドラインの見直し」や、「(ベンダーがユーザーと)プロフィットシェアできるパートナーの関係になる」といった道筋が示されています。
これらの事柄から、ネットワークエンジニアの仕事は今後も無くなることはなく、最新テクノロジーの影響を受けながら変化していくものと推測されます。
ネットワークエンジニアとクラウド普及の関係性
先述したように、ネットワークエンジニアの求人数は他のエンジニア職と比較して少ないですが、この理由のひとつに「クラウドの普及」があります。
従来のネットワークエンジニアが構築するネットワークは「オンプレミス型」と呼ばれる企業ごとのサーバー環境構築が主流だったため、自社サーバーを管理するネットワークエンジニアの存在は必要不可欠でした。しかし、新たに登場したクラウド型サービスでは、サービスを提供するベンダー側がサーバーの運用・監視を行うため、自社サーバーを用意する必要がなく、同時に管理する人材の需要も減った、と考えられるのです。
しかし、クラウド型にネットワークサービスの潮流が移行することで、クラウド環境におけるサービス利用、保守運用を行う人材の需要は高まることが予想されます。実際、企業のDXへの取り組みを筆頭に社会全体でクラウドサービスの利用やクラウドへの段階的なシステム移行(IaaS)が進んでおり、こうした動きに対応できる業種・人材のニーズは拡大しているのです。
これまでネットワークエンジニアとして活躍してきた人材は、クラウド環境を活用したサービスの構築や運用、保守の方法について知識を身に付けるとよいでしょう。
クラウドサービスの利用率
総務省が発表しているデータによると、クラウドサービスを活用している企業の割合は年々増えており、2015年では45%程度に留まっていた利用率も、2019年には65%程度まで上昇しています。このクラウドサービスの利用率は、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響や、企業のDX推進の波を受けて今後も増えていくことが予測されます。
クラウド化で求められること
企業のネットワーク利用がオンプレミス型からクラウド型へと移行していくことで、従来のネットワークエンジニアが行っていた業務内容は縮小の一途をたどるでしょう。しかし、企業のネットワーク利用はクラウドへと形を変えるだけで、クラウドサービスの設計や構築、運用・保守を行う人材は今後も変わらず必要とされます。
既にネットワーク関連の専門知識を有するネットワークエンジニアはこうした社会全体の動きを変革の機会と捉え、既存のスキルに上乗せする形で知識を深めていくことが重要となるのではないでしょうか。
もちろん、クラウド環境の利用によるデータ保護のリスクも想定されるため、オンプレミス型サーバーに残すデータと、クラウドサービスで運用するデータ、といった使い分けの必要性も出てきます。つまり、企業のクラウド移行に際しては「オンプレミスの知見」と「クラウドの知見」両方を兼ね備えた人材が求められるのです。
オンプレミス型サーバーにおける運用・保守方法を身に付けているネットワークエンジニアからすれば、またとないビジネスチャンスといえるかもしれません。
今後の為になるネットワークエンジニアに必要なスキル
企業のクラウドサービス利用率が年々増加している状況を踏まえ、今後ネットワークエンジニアに求められるスキルを以下にまとめました。
- クラウドのスキル
- セキュリティのスキル
- プロジェクトマネジメントのスキル
- 資格の取得
クラウドのスキル
クラウドサービスがさまざまな企業・分野に浸透していくにあたって、ネットワークの構築や運用のスキルはますます重宝されることでしょう。クラウドスキルの習得方法は、書籍やAWSトレーニングサイトといったWebサイト、スクールの利用が挙げられます。
セキュリティのスキル
一言でクラウドサービスといっても、導入クラウドには下記の種類があり、それぞれに応じたセキュリティ対策を実施する必要があります。
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パブリッククラウド:インターネットを経由で他社とサーバー環境を共有してインフラ構築を行う
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プライベートクラウド:VPN・閉域網接続を経由し、他社と共有しないサービス環境でインフラ構築を行う
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ハイブリッドクラウド:パブリック・プライベートをセキュリティ要件・コストに応じて使い分ける
クラウドサービスはパブリッククラウドで利用しつつ、自社の機密情報はプライベートクラウド環境、あるいはオンプレミスに残すといった選択肢を提案できるのも、クラウドセキュリティに関する知識があってこそです。企業の経営層やプロジェクトチームにて導入・運用コストについて話し合い、企業のデータ活用方針決定に貢献しましょう。
また、さまざまなサービスの動作環境をクラウドに移行することで、「サービス停止時の業務停止」が問題になると想定されます。事前にクラウドサービスが停止した際の復旧プロセス、代替サービスを検討しておくことが重要になります。
プロジェクトマネジメントのスキル
ネットワークエンジニアはこれまでの知見の上にクラウド関連スキルを積み重ねていくため、率先してプロジェクトを引っ張る存在となり得ます。企業のクラウドサービス利用や、システムのクラウド移行プロジェクトの全体を俯瞰して、必要となる人材の選出、方針策定などが行えるよう、プロジェクトマネジメントスキルを身に付けておくとよいでしょう。
資格の取得
クラウド関連スキルについて紹介してきましたが、ネットワークエンジニア関連の資格取得も検討してください。ネットワークエンジニアとしてのスキル証明のバックグラウンドとなり、保有する資格によっては年収が倍増する可能性があるからです。
ネットワークエンジニアが習得しておきたい資格は以下の通りです。既存のネットワークエンジニア関連の資格とはいえ、サーバー構築や運用・保守に関する知識、サイバー攻撃といったセキュリティ面の知識も習得できます。
- シスコ技術者認定
- ネットワークスペシャリスト試験
- 基本情報技術者試験
- LPIC
ネットワークエンジニアは常に変化に対応することが大切
従来のネットワークエンジニアは、主にオンプレミス環境におけるネットワーク構築や保守を行っていましたが、今後求められるスキルはクラウド環境をベースとしたサービス開発や運用スキル、保守スキルとなります。
とはいえ、企業のクラウド移行の動きはオンプレミス環境との調整を経て行われるものです。クラウド関連の知識を蓄えていきながら、時代に求められるスキルに合わせて変化していくことが重要となるでしょう。
- ネットワークエンジニアは、ネットワーク設計や構築、運用・監視を行う技術者
- 主な仕事内容は「ネットワーク設計」「構築」「運用・監視」
- エンジニア系職種の中でも比較的高収入の職業
- 「従来の」ネットワークエンジニアに対する人材市場の需要は減少中
- 一方、クラウド環境におけるサービス利用、保守運用を行う人材の需要は高まる
- 「オンプレミスの知見」と「クラウドの知見」両方を兼ね備えた人材が求められる