派遣と請負・業務委託の違いをわかりやすく図解|「どっちがいい」の基準となるメリットとデメリット
人材のアウトソーシングには、さまざまな形式があります。「派遣と請負はなにが違うのか?」「業務委託とはどのような働き方なのか?」など、これまでに疑問を感じたことはありませんか?
- 人材派遣
- 請負
- 業務委託
これらの働き方には類似する部分もありますが、それぞれのメリットや契約の種類、雇用関係など、さまざまな面における違いがあります。働き方を選ぶ際、これらの違いを把握できていないと、デメリットを被ったり、あるいは法令に違反したりすることにもなりかねません。
本記事では、派遣と請負の違いをメインに、業務委託も含めた働き方の特徴や適性を解説します。
Contents
派遣と請負の違い
派遣と請負の違いを簡単にいうと、派遣は「労働者を派遣して労働力を提供する」形式であるのに対して、請負は「仕事の結果に対して報酬を支払う約束で仕事を請け負う」形式で仕事をする、契約内容に差異があります。
つまり、派遣は「労働力」に対して報酬が支払われるのに対して、請負は「完成した仕事」に対して報酬が支払われる点が、大きな違いです。
派遣 | 請負 | |
---|---|---|
目的 | 労働力の提供 | 仕事の完成 |
結ばれる契約 | 労働者派遣契約 | 請負契約 |
労働者との雇用関係 | 派遣会社 | 請負会社 |
指揮命令関係 | 派遣先企業 | 請負会社 |
契約期間の定め | 数ヶ月単位(原則、最大3年) | 成果物など仕事の納期による |
労働関係法 | 適用される | 適用されない |
また、派遣労働者の雇用主は派遣会社ですが、実際の業務における指揮命令権は常駐する派遣先企業に置かれます。これに対して、請負は請負会社が雇用主であり、かつ指揮命令権を有する点もポイントです。
その他、派遣は労働者派遣法により、数ヶ月単位での契約期間の制限があり、最大でも原則3年までしか同じ職場で働けないのに対して、請負は成果物の納期に応じて契約期間を柔軟に設定できることも明確な違いです。
業務委託(準委任契約)との違い
※「業務委託」は法律用語ではなく、法律上は「請負契約」、「準委任契約」の2つに分類されますが、ここでは「請負契約」を除いた「業務委託」として、「準委任契約」を「業務委託」として解説しています。
業務委託(準委任契約)とは、特定の「業務(法律事務を除く)」を委任する契約を指すものです。これは成果物などの「仕事の完成」に対して報酬が支払われる「請負」と混同されやすい形式ですが、両者の違いは「仕事の完成が必須か否か」に認められます。
- 請負:仕事の完成(成果物の納品)が必須で、完成しないと報酬は請求できない。(原則)
- 業務委託:成果の納入が必要か否か、報酬をいつ支払うかは契約内容による。(無報酬でも契約が成立する。)
また、業務委託と派遣の違いは、「指揮命令権」と「報酬の対象」に認められます。
業務委託の場合は、委託者と受託者の関係性は対等か、あるいはプロフェッショナルとしての受託においては受託者が上であり、委託者は業務の進め方についてまでの指示は出せません。報酬は作業時間や成果などに対して支払われます。
これに対し、派遣では派遣先企業が指揮命令権を有し、報酬の対象は労働時間になります。
続いて、「派遣」「請負」「業務委託」のメリットとデメリット、それぞれの働き方ごとにフォーカスしていきます。
派遣とは
派遣とは、労働者が派遣会社と雇用契約を結び、実際に働く(常駐する)派遣先企業にて就業する働き方です。派遣先企業は派遣会社に対し、労働者派遣契約に基づいた労働者派遣料を支払い、労働者への給与の支払いや福利厚生の提供などは、雇用主である派遣会社が担う建付けとなります。
なお、派遣労働者への業務における指揮命令権は、派遣先企業が有します。
労働者のメリット・デメリット
メリット・デメリットの観点から、労働者が派遣社員として働く際の特徴を確認していきます。
メリット | デメリット |
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労働者が派遣で働く大きなメリットは、派遣会社の各種サポートを受けられる点とワークライフバランスが取りやすい点にあります。
一方、数ヶ月単位で更新を繰り返すうえに、同じ職場では原則として最大3年までしか働けないため、キャリア形成に柔軟性は持たせられるものの、それは「安定性」とのトレードオフとなり、不安定であるとも言い換えられます。
派遣会社のメリット・デメリット
派遣会社が人材を派遣するメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
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昨今では、労働人口の減少や働き方の多様化により、企業が人材を確保するのが難しい状況が続いています。そんななか、希望する人材を派遣してくれる派遣会社は重宝する存在です。企業からのニーズの高さを背景に、優秀な人材を獲得できれば、派遣会社は安定的に利益を上げられます。
ただし、一般社団法人日本人材派遣協会の報告によると、派遣会社の営業利益率は1.2%ほどと、人材派遣業の利益率は他業種や他の契約類型と比較してそれほど高いものではありません。
また、派遣社員は派遣会社と雇用関係にあるため、労働者が派遣先企業で問題を起こした場合は、派遣会社が使用者として責任を問われます。その点を踏まえても、いかに優秀な人材を集めるかが鍵となってくるでしょう。
発注元のメリット・デメリット
発注元(派遣先企業)が派遣社員を受け入れる場合には、次のようなメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット |
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派遣社員を登用するメリットには、人材採用や育成、労務管理にかかるコスト削減があります。また、数ヶ月単位で契約を更新する特性から、繁忙期のみ人材を確保し、人的リソースを有効に活用できる点も大きいでしょう。
一方、同じ職場で受け入れられるのは最大3年までという、いわゆる「3年ルール」は、長期就業は望めず、就業により蓄積された属人的な技能・ノウハウを利活用できないという点においてはデメリットです。
しかし、派遣期間を試用期間と捉え、優秀な人材をそのまま直接雇用へと切り替えることも可能です。ただし、契約内容にない業務や時間外労働には対応できないなど、一定の制約は必ず発生します。
請負・業務委託とは
請負や業務委託は委任者(発注企業)から業務を委託される形式です。両者は混同されやすいですが、前述のとおり「仕事の完成が必須かどうか」がポイントになります。
また、請負や業務委託の場合は、指揮命令権は雇用主である請負・業務委託会社が有します。発注企業には指揮命令権は認められません。
なお、発注元が直接指示を出しているケースでは、いくら契約書を「請負契約」の形式で締結していたとしても、そのこと自体が潜脱行為(せんだつこうい)※として偽装請負とみなされ、罰則を科されたり、大臣から許可を取り消されて事業が行えなくなる可能性があります。労働者派遣法や職業安定法などに抵触するため、指揮命令権を行使するには人材派遣契約や直接雇用契約などに切り替えなくてはいけません。
※潜脱行為:法令等による規制を、法令で禁止されている以外の方法により免れようとする行為をいい、「法の網をくぐる」違法行為とされています。典型的な例としては「脱法ハーブ」等があります。
労働者のメリット・デメリット
労働者が請負・業務委託で働くメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
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請負や業務委託で働く際の指揮命令権は、自社あるいは自身に帰属するため、契約内容に従っていれば仕事の進め方は自由です。また、企業に所属して別企業の業務を請け負う(もしくは委託される)場合は、派遣社員のような契約期間の定めはないため、雇用にも安定性が生まれるでしょう。
一方、デメリットには、特に個人で請負・業務委託をする場合、単発で終わる案件が多くある点が挙げられます。安定的な収入確保には至らないため、複数の取引先と仕事をする必要があるでしょう。
また、請負の場合は仕事の完成に対して報酬が支払われます。原則として、成果を納入し、検収がなされて仕事の完成となるまで収入が発生しないことを念頭に置かなければいけません。(相手と合意できれば契約書で報酬の前払いや中間金の支払いの定めをすることは可能です。)
請負・業務委託会社のメリット・デメリット
請負・業務委託会社におけるメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
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請負・業務委託会社のメリットには、多数の業務を引き受けることで自社に多くのノウハウや知見が蓄積されることが挙げられます。従業員のスキルや知識が高まれば、会社の成長の原動力となることはいうまでもありません。
さらに、特に請負の場合は、優秀な人材のはたらきで短期間、かつ高クオリティな成果物を納品できれば、案件単価も高まります。得られる利益幅も大きくなるでしょう。
その一方で、買い叩かれるリスクがあったり、従業員への教育コストが発生したりする点は否めません。また、請負・業務委託企業に指揮命令権が帰属することは仕事の進め方において自由が利くためメリットに数えられますが、指揮命令に割かれるコストの発生はデメリットとも捉えられます。
加えて、請負・業務委託会社においては、派遣契約と比較した契約上のリスクも把握しておく必要があります。
発注企業との「請負」契約では民法上の「契約不適合責任」として、契約の目的(種類や品質、数量)に合致しない場合の追完義務(修補、代替物の納品、不足分の納品等)が課せられます。また、契約不適合責任が問われない「業務委託」(準委任契約)契約ではプロフェッショナルとしての「善管注意義務」として、低水準の仕事によって派遣先企業に損害を与えてしまった場合には賠償責任が課せられる点も注意が必要です。
発注元のメリット・デメリット
発注元における請負・業務委託を活用するメリット・デメリットには次のようなものがあります。
メリット | デメリット |
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派遣社員を登用する場合とは異なり、請負・業務委託の業務における指揮命令権は請負企業に帰属します。指揮命令にかかわるコストを省略できるほか、報酬は成果物に対して発生するため、自社の人件費も削減できるでしょう。
その一方、指揮命令権がないことの反作用として、業務の進捗やクオリティをコントロールしにくい側面は否めません。また、ノウハウや技術が蓄積されにくいため、請負・委託した業務を継続して外注する必要性も出てくるでしょう。
場合によっては大きな費用が発生することもあるため、常に費用対効果を考慮した運用が求められます。
派遣と請負はどちらがいい?
働く方々にとって、派遣や請負、業務委託のどの形式で働くのがベストな選択肢なのか。それは仕事内容や働き方など、希望する条件によって最適解は変わってきます。
それぞれの働き方の特徴や、自身の特性との適合を加味しながら、自分に合った働き方を選びましょう。
派遣社員が向いている方
次のような方は派遣社員での働き方がおすすめです。
【派遣社員が向いている方の特徴】
- ワークライフバランスを重視したい
- 希望する条件で働きたい
- 定期的に職場環境を変えたい
- さまざまな仕事を経験したい
派遣社員は数ヶ月単位で契約更新があります。契約更新には派遣社員と派遣先企業の双方の同意が必要で、派遣社員側から契約更新を拒否することも可能です。プライベートの状況に合わせて働き方を変えるなど、柔軟性が確保されています。
また、希望する条件に合わせて派遣会社が勤務先を紹介してくれることから、スキル等のミスマッチが起こりにくいことも派遣社員のメリットに数えられます。
同じ職場には最大3年までしか務められませんが、定期的に職場環境を変えたい人やさまざまな経験を積みたい人に適した選択肢となるでしょう。
請負・業務委託が向いている方
一方、請負や業務委託に向いている方の特徴は次のとおりです。
【請負・業務委託が向いている人の特徴】
- 自分のペースで仕事を進めたい人
- セルフマネジメント力がある人
- 臨機応変に対応できる人
- プロフェッショナルとして高度なスキルや知識を活かして仕事をしたい人
請負は、納期までに成果物などの仕事を完成させることができれば、基本的には仕事の進め方やペースに関する裁量が認められています。ただし、あくまでも納期の厳守が大前提となるため、計画性に乏しい人には難しい働き方でもあります。
また、複数の業務を請け負っている場合、納期が重なる局面などは珍しくありません。難しい状況のなかでも業務にコミットメントし成果物を確実に納品しなければならないため、セルフマネジメント力や臨機応変の対応力も重要です。これらは業務委託も同様であり、時期によって業務量が増減することは多々あります。
発注元は請負や業務委託の事業者にプロフェッショナルとしての能力を求めているため、専門知識やスキルを活かしたい方にもおすすめです。さまざまな案件を経験することで、さらにスキルや知識が磨かれていくため、年収アップを狙う方にも向いています。
- 派遣は「労働者を派遣して労働力を提供する」形式であるのに対し、請負は「仕事の完成を約束して請け負う」形式で仕事をするように、契約内容に大きな差異がある
- 派遣労働者への業務における指揮命令権は常駐する派遣先企業に置かれるが、請負は請負会社が指揮命令権を有する
- 請負は仕事の完成(成果物の納品)が必須となるが、業務委託では個別の契約内容にしたがう
- 派遣社員はワークライフバランスを重視したい方や、希望する条件で働きたい方向け
- 請負や業務委託は、自分のペースで仕事を進めたい方や、セルフマネジメント力が高くスキルや知識を活かして仕事をしたい方に向いている