情報銀行とは?私達のパーソナルデータはどのようにビジネスに活用されるのか
「情報銀行」という言葉をご存知ですか。
インターネットやSNSが進化を続けた結果、私達の個人情報・行動履歴・興味関心に関する情報などのパーソナルデータは、過去とはまったく違う価値を持つようになりました。
情報銀行とは、パーソナルデータの価値を持ち主が正しく理解し、それを有効活用するためのサービスです。
この記事では情報銀行とはどんなものか、私達のパーソナルデータはどのように扱われるのかを解説します。
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データ流通ビジネスの情報銀行とは?
政府が提唱する「Society5.0(人工知能・IoT・ロボットなどの新しい技術を、産業や生活に取り入れた新しい社会)」の取り組みには、パーソナルデータを含めたビッグデータが必要不可欠です。
最大限のデータ利活用を図るためには、価値ある情報を安心・安全に流通させることが重要です。
ここではデータ流通ビジネスの取り組みや情報銀行について説明します。
情報銀行サービスが発足した背景
まずは情報銀行サービスが発足した背景を説明しましょう。
データ流通システムの先駆けとなったのは、2011年に英国政府がおこなった「midata(マイデータ)」というプロジェクトです。
midataは、企業が保有する個人データを消費者へ還元するというコンセプトを持っています。
消費者は自分の銀行取引実績やエネルギー消費などに関するデータを閲覧することができ、取引企業の取捨選択に役立つサービスです。
残念ながら、データの相互運用性の偏りや、消費者に一定以上のデータリテラシーが必要だったこともあり、あまり普及しませんでした。
しかし、この取り組みの推進によって個人データに対する意識が高まり、2016年に制定されたEUにおける個人データ保護の法律「GDPR(一般データ保護規則)」にも活かされています。
情報銀行
情報銀行は、利用者の個人情報を預かり、管理・運用するサービスです。
総務省・経済産業省から出されている「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」では、以下のように定義されています。
現状では、GAFAと呼ばれる米国IT企業4社(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)が、個人の購買履歴や行動記録など多くのパーソナルデータを収集しています。
データ情報は広告や商品紹介などに利用されていますが、同意なくおこなわれていることが多く、自分のデータがどのように流通しているのかを知らされていない状態です。
情報銀行は企業と個人がお互いに利益を得ながら個人データを活用するサービスのため、GAFAに対する対策としても注目されています。
パーソナルデータストア(PDS)
パーソナルデータストア(Personal Data Store/PDS)とは、個人が自分のパーソナルデータを管理できるシステムのことです。
個人で管理するので自分に関わるデータを把握でき、データを企業などへ提供・販売するかどうかも自ら決定できます。
情報銀行の仕組みにはパーソナルデータストアが用いられており、本人の同意を得たうえでデータの蓄積・管理などが行われます。
個人でパーソナルデータの価値や情報提供先を正確に判断するのは非常に難しいので、情報銀行に信託してパーソナルデータを管理・運用するほうが賢明といえるでしょう。
データ取引市場
データ取引市場は、データ提供者とデータを利用する企業の取引を仲介するサービスです。
データ取引市場の運営者は中立性が重視され、自らデータの収集・保持・加工・販売を行うことはできません。
情報銀行とデータ取引市場が連携することでデータの収集や提供の拡大が可能になり、信頼性と利便性の向上も期待されます。
日本IT団体連盟と総務省
情報銀行を営む事業者は、総務省などの指針に基づき「一般社団法人 日本IT団体連盟」の審査・認定を受ける必要があります。
2018年10月には事業者向けに「情報銀行認定」についての説明会が行われ、定員の倍の約200社が参加しました。
このことからもわかるように、情報銀行サービスの今後には多くの企業が多大な関心を寄せています。
第一弾の情報銀行の申請開始から認定までは、以下のような流れでおこなわれました。
- 2018年12月 :「情報銀行」認定に関する申請の受付開始
- 2019年06月 :三井住友信託銀行株式会社とイオングループ・フェリカポケットマーケティング株式会社の2社の認定が決定される
- 2019年7月8日 :情報銀行のP認定マーク・認定証の授与式を開催
P認定マークは、サービスの開始可能段階と認定するものです。
情報銀行の認定への取り組みはまだ始まったばかりのため、通常の認定を受けた事業者は2019年時点でありません。
P認定の有効期限は最長2年間となり、その期間中に通常の認定の取得が必要です。
今後、情報銀行の通常の認定・P認定を受ける企業は増えていくと予測されます。
情報銀行が集めたデータの種類と利用目的
情報銀行に預けられた個人情報は、どのように使われるのでしょうか。
情報銀行から提供されるデータは消費者が同意した範囲で妥当性が判断され、必要に応じて匿名化されたうえで、情報を求める企業に提供されます。
企業からの需要があるパーソナルデータはさまざまですが、情報銀行での取り扱いが予測される情報は主に以下の5種類です。
- 健康状態などの身体情報
- 仕事や収入に関する情報
- ネットショッピングでの購買履歴
- 位置情報や行動履歴
- 金融情報
健康状態などの身体情報
医療やヘルスケアなどの分野では、個人の健康状態に関する情報が商品開発における分析データなどに活用されます。
高齢社会や健康意識の高まりもあり、健康に関するパーソナルデータは市場価値が高い状態にあります。
利用者に意思確認をおこなった上で、スマホアプリ・オンラインアンケート・ウェアラブルデバイスなどから運動量・食生活・睡眠時間・病歴などのデータが情報銀行に収集されます。
仕事や収入の情報
企業が求める情報のなかには、職歴・役職・業種・転職回数などの仕事や収入に関するものもあります。
これらの情報は、企業の信用スコアリングや宣伝活動をする際のユーザーターゲティングなどによく使われます。
求人サイト経由でのアンケートや金融機関での申し込み手続きなどから、それぞれの情報が収集されます。
ネットショッピングでの購買履歴
ネットショッピングの購買履歴からは、利用者のよく購入する商品や頻度、金額などを知ることができます。
企業は利用者の購買履歴を入手できれば、商品開発のマーケティングやユーザーターゲティング、消費性向分析などに活用できます。
位置情報や行動履歴
企業はGPSによる現在地、交通機関の利用情報、海外移動頻度などの位置情報や行動履歴を知ることで、ユーザーターゲティングや一人ひとりに合ったサービス提供がおこなえます。
これらの情報は、利用者のスマートフォンにダウンロードした地図アプリや決済用アプリなどから取得できます。
金融情報
貯蓄、支出履歴、資産状況のデータなど、金融機関から取得できる口座情報も信用スコアリングやユーザーターゲティングに活用されます。
金融情報を必要とする企業にとっては、融資、貸付、投資商品の営業などに大いに役立ち、リスクの軽減と顧客の獲得にもつながります。
情報銀行のメリット・デメリット
情報銀行のメリットとデメリットを企業側・利用者個人側の両面から説明します。
企業側が情報銀行を活用する際のメリット
企業が情報銀行を利用するメリットは、情報銀行利用者の個人情報を本人の許可を得て使用できることです。
利用者に魅力を感じる対価を提示できれば、希少性の高いデータも入手可能になります。
情報銀行を通して幅広いデータを取得することで、新商品の開発やサービスの改善に役立てられます。
企業側が情報銀行を活用する際の課題
情報銀行は企業側のデータ利用目的やセキュリティ体制などをチェックし、データ提供をしても問題ないかを審査します。
そのため、十分なセキュリティ体制が整備されていることを明示する必要があります。
また、データ提供者からの信頼を得られるか、魅力を感じるような対価を用意できるかといった課題もあります。
個人が情報銀行を活用する際のメリット
利用者個人側から見たメリットには、以下のようなものがあります。
自分の趣向に合ったサービスを受けられる
情報銀行を介したデータ流通の実現によって、企業側はより個人に向けたサービスの提供が可能になります。
情報銀行を通じて利用者がデータを提供することで、提供先から自分の趣向に合ったサービスが受けられることもあるでしょう。
たとえば、旅行先のデータの分析から自分に合った詳細な観光プランが提案されるなど、よりパーソナライズされたサービスが受けられる可能性があります。
情報を提供することで報酬がもらえる
データを提供することで、現金による報酬を受け取れるケースもあります。
企業側の目的によって必要なデータや報酬はさまざまですが、より目的に近いデータや、希少価値のあるデータほど高い値がつくことが予想されます。
企業独自のポイントやクーポンがもらえる
データの対価として、企業の独自サービスのポイントやクーポンがもらえる場合もあります。
また、フィットネスジムに健康情報のデータを提供することで、入会金が無料になるといった割引サービスが受けられるケースも考えられます。
多くの企業に個人情報を預けるリスクを軽減できる
私達はポイントカードを作るときなどに、企業に対して個人情報を渡しています。
提供先がセキュリティに力を入れていない企業の場合もあるので、提供先が増えるほど情報の漏洩や流出などのリスクを負うことになります。
情報銀行に預けた情報は厳しいセキュリティ基準で管理されるので、多数の企業に情報を渡すより安全といえるでしょう。
個人が情報銀行を活用する際のデメリット
情報銀行のメリットとして、各企業に個人情報を預けるよりもリスクを軽減できると解説しました。
しかし、どんなに安全性が期待できる場合でも、漏洩・流出する危険性はゼロではないことを考慮しておかなければなりません。
また、「一般社団法人 日本IT団体連盟」による情報銀行の認定はあくまでも任意になり、認定事業とならなくても情報銀行の事業をおこなうことは実質可能です。
利用者としてどのような情報を提供するのか、どの情報銀行に預けるのかをきちんと選ぶことが重要です。
情報銀行の認定企業はどのような会社があるか
情報銀行サービス運営の認定を受ける際には、申請事業者の適格性や情報セキュリティの基準を満たしているか、個人への同意をきちんと取れる仕組みになっているかなどが審査されます。
これらの審査基準をクリアした情報認定企業の例を紹介します。
フェリカポケットマーケティング
フェリカポケットマーケティングの「地域振興プラットフォーム」(仮称)は、地域の活性化に貢献する地域のための情報銀行をコンセプトとしています。
スーパーやフィットネスジム、居酒屋など地元店舗が情報提供先となり、利用者はお得な情報やクーポン、ポイントなどを受け取れるシステムになっています。
利用者の個人データは情報銀行が管理するので、提供先は個人データに直接アクセスできません。
また、情報銀行の利用者は自分の情報を誰がどのように保有し、どのように利用されているかを閲覧でき、自分の意思で削除や修正をおこなうことが可能です。
三井住友信託銀行
三井住友信託銀行は、銀行業務や資産管理・運用、証券代行などの事業を手がけている国内唯一の専業信託銀行です。
さまざまな個人情報を安全に管理してきた経験をもとに着手した、情報銀行事業「データ信託」サービス(仮称)にも期待が集まっています。
個人の顧客からの委任に基づいて個人データを管理・利用し、データ提供者に対価を還元することを目的としたサービスをめざしています。
情報銀行の実証実験から見えるビジネスへの利活用
情報銀行の実証実験の一例を紹介します。
三菱UFJ信託銀行の「DPRIME」
三菱UFJ信託銀行の情報銀行サービス「DPRIME」(仮称)は、個人の意向に沿ってパーソナルデータを集約・蓄積・管理し、情報の対価としてその人に合ったサービスや金銭を提供するモバイルアプリケーションです。
2018年11月19日~12月16日には、「DPRIME」β版が実証実験として試行されました。
株式会社アシックスおよび株式会社no new folk studioは生活者の歩行データを記録できるスニーカー型のウェアラブル「スマートフットウエア」を共同開発しました。
そのスマートフットウェアの可能性と情報銀行サービスの有用性を検証するために実証実験に参加しています。
取得した歩行データはDPRIMEで管理され、利用者が提供することに同意すればデータを希望する企業から対価を得ることができます。
今後、歩行データを生かした商品開発や、フィットネス分野での活用が期待できるかもしれません。
情報銀行のこれからの課題
情報銀行は個人情報を含むデータを扱うため、まだ解決できていない問題点やリスクもあります。
まだ新しいサービスのため、情報銀行を真似た悪徳業者が出る可能性も否定できません。
今後、データ提供者が安心して利用できる企業側の体制作りが重要になりますが、個人が自分の情報の重要性を知り、信頼できる情報銀行を選ぶことも大切なポイントです。
情報銀行を正しく活用することで、今まで無頓着だった人もパーソナルデータの本来の価値を知り、賢く安全に運用できるようになるでしょう。
- 情報銀行とは、パーソナルデータをプラットフォームで収集・一元管理し、データを持つ個人の意向に沿って企業に提供するサービス
- 三井住友信託銀行株式会社と、イオングループのフェリカポケットマーケティング株式会社の2社に、第1弾の「情報銀行」認定マーク・認定証が授与されている
- まだ新しいサービスなので、情報銀行を利用する際は慎重に選ぶことが大事