デジタルファーストとは|法案やデジタル化のメリット・デメリットも解説
IT技術が浸透し、生活にもビジネスにも欠かせないものとなった昨今、デジタル技術を徹底的に活用する「デジタルファースト」を念頭に置いたサービスが官民問わず提供されるようになりました。
2019年には「デジタルファースト法」が施行され、国や自治体においてもデジタル技術が積極的に活用されはじめています。デジタルファーストがなぜ必要なのか、デジタルファースト法の内容と法がもたらすメリットについて解説します。
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デジタルファーストとは
デジタルファーストとは、デジタル処理を前提としたサービス設計を行い、デジタル技術を徹底的に活用する施策です。2019年に施行されたデジタルファースト法によって広く知られるようになりましたが、言葉自体は以前から存在していました。なお、従来のデジタルファーストは、紙の印刷物を電子形式で出版・提供することを意味しています。
近年では、ビジネスや行政サービスにおいてデジタル技術を取り入れ、業務効率化やサービスの向上に取り組むことをデジタルファーストと呼んでいます。
デジタルファースト法案(デジタル手続法)の施行
2019年12月に施行されたデジタルファースト法(デジタル手続法)は、行政手続きの利便性の向上や行政運営の効率化を目的として制定されたもので、行政手続きを原則として電子申請に統一することなどを定めた法律です。
具体的な法律の内容を確認していきましょう。
デジタルファースト法の基本3原則
はじめに、デジタルファースト法の基本の3原則について説明します。
- デジタルファースト
- ワンスオンリー
- コネクテッド・ワンストップ
個々の手続きとサービスを、一貫してデジタルで完結できる環境を実現するのがデジタルファーストです。ワンスオンリーは、一度提出した情報を以降再提出しなくてもよいようにすること、コネクテッド・ワンストップは民間サービスを含めた複数の手続きとサービスをワンストップで実現することを指します。
これらデジタル技術を活用した行政の推進の基本3原則によって、政府は行政手続きの利便性の向上と、行政運営の効率化を目指しています。
デジタルファーストの実現
行政におけるデジタルファーストは、行政手続きを一貫してデジタルで完結することを指します。
行政手続きにおいては、これまでも申請をオンラインで行い、書類を郵送するといったように一部をデジタル化したフローはありました。さらにデジタルファースト法が施行された現在では、申請だけでなく申請書の提出や手数料の納付もデジタルで行えるよう体制を整えています。
例えば、企業向けの補助金では申請がオンラインで完結するように補助金申請システムを構築する、個人ではマイナンバーのポータルサイト「マイナポータル」で各種届出を行えるようにするといった変化は、デジタルファーストが実現した例といえます。
ワンスオンリーの実現
ワンスオンリーの実現によって、一度行政に提出した情報は、以降提出しなくても行政側で把握できるようになります。
何度も同じ書類に同じ情報を記入して提出する必要がなくなるため、行政サービスの利用者は各種手続きにかかる時間を短縮できます。行政側も同様に、同じ書類を何度もチェックする必要がなくなるため、担当者の業務負担が軽減されるのです。
例えば、マイナンバー制度の活用では、すでに行政側が保有している情報についての添付書類(住民票や戸籍謄抄本など)の提出は不要になります。
コネクテッド・ワンストップの実現
コネクテッド・ワンストップでは、行政だけでなく民間サービスも含めることで、複数の手続き・サービスをワンストップで実現することを目指しています。
例えば、引っ越しでは行政手続きに加えて電力・ガス・水道の利用休止・開始手続きや、自動車運転免許証の住所変更など、さまざまな手続きが付随してきます。このコネクテッド・ワンストップの実現によって、これらの手続きをスマートフォンなどから仕事の合間にでも、まとめて手続きができるようになります。
デジタルファースト法によって変わること
デジタルファースト法の施行でマイナンバーの活用が進み、国外転出者の手続きやライフイベントの際の手続きの簡素化などが見込まれています。
- 国外転出者の手続き
- 押印の撤廃
- 出生・死亡などの手続き
- 妊娠・子育てに関する手続き
これまで国外転出者においては、国外に転出した時点でマイナンバーが失効するために各種手続きの際には国際郵便を利用しなければなりませんでした。しかしデジタルファースト法の施行により、国外転出者もオンライン上でマイナンバーを利用して各種手続きを行えるようになります。
また、市町村などの窓口で手続きが必要だった各種手続きもオンライン上で完結できるようになるだけでなく、認め印の押印が撤廃される予定です。
行政が行っているデジタルファースト推進
各自治体はデジタルファーストを推進し、すでにさまざまな取り組みをはじめています。ここでは、東京都の取り組みを紹介します。
東京都では、「東京デジタルファースト条例」を2021年4月1日に施行し、書面を前提とした都の行政手続きをデジタル化する環境を整えていくとしました。また、同年7月に策定された「東京デジタルファースト推進計画」において、行政手続きのデジタル化により24時間365日手続きが可能になり、かつオンライン上で申請の受理や審査状況を見える化するとしています。
また、デジタル化自体を目的とするのではなく、利用者の利便性の向上を重視し、高齢者などでも利用しやすい施策を展開することも基本方針に盛り込まれており、2022年2月現在は3,768の行政手続きがデジタル化または廃止・統合されています。
デジタルファースト法は個人のみならず企業にも波及
デジタルファースト法によって、個人のみならず企業の各種行政手続きの方法も変わりつつあります。
例えば、資本金が1億円を超える企業においては、2020年より法人税などの電子申告(e-TAX)や、社会保険にかかる各種手続きの電子申請が義務化されています。今後は大企業だけでなく、中小企業や個人事業主にも電子申告・申請の義務化が適用される可能性もあるでしょう。
補助金などの申請がデジタル化されるといったメリットのほかに、新たな対応が必要な部分もあるため企業によってはそれが負担になることもあるでしょう。デジタルファースト法は具体的にどのようなメリット・デメリットをもたらすのか、それぞれ解説します。
デジタルファースト法のメリット
デジタルファースト法で各種手続きが変わることにより、企業は主に次のメリットが得られます。
- 業務効率化
- 書類の保管スペースの縮小・コストの削減
- 人的コストの削減
こうしたさまざまな手続きをオンラインで完結できるようになれば、業務は大幅に効率化されます。
これまで、行政における手続きでは書類に記入・押印をして該当する窓口に足を運び、修正があれば再度記入・押印して窓口で再提出を行う必要がありました。それらがオンラインで完結することで、申請をオンラインでできるだけでなく、押印の必要がなくなり、再提出の必要があった場合でもオンラインでの再提出が可能です。
煩雑なフローの解消にともない、これまでにかかっていた時間を別の業務に割けるようになるため、人的コストの削減にもつながるでしょう。また、紙の書類を保管する必要がなくなるため、保管場所を縮小して保管にかかるコストも削減できます。
デジタルファースト法のデメリット
メリットを享受できる一方で、企業には次のような負担が発生する可能性があります。
- 紙からデジタルへの移行の手間
- デジタルに対応できない従業員への研修
- セキュリティリスク対策
紙からデジタルに移行するためには、デジタルインフラを整備しなければなりません。インターネット環境とデバイスを用意して、デジタルに対応する環境を構築する必要があります。これらの準備ができていない企業にとっては、大きな手間とコストのかかる作業です。
また、パソコンやITツールに慣れ親しんでいない従業員に対しては、これらの使い方を指導したり、研修を実施したりする必要があるでしょう。
セキュリティの強化も重要です。情報漏えいによる損害が発生しないように、デジタルインフラの整備と同時にセキュリティリスク対策および対応可能な人材も求められるでしょう。
- デジタルファーストは、デジタル処理を前提としたサービス設計を行い、デジタル技術を徹底的に活用する施策
- 2019年12月にデジタルファースト法が施行され、行政手続きの利便性向上や行政運営の効率化が推進されている
- デジタルファースト法の施行でマイナンバーの活用が進み、国外転出者の手続きやライフイベントの際の手続きの簡素化などが見込まれている
- デジタルファースト法は、業務効率化やコスト削減など、企業にも多くのメリットをもたらす
- デジタルファーストに対応するIT技術を有する人材の需要は、これからますます高まっていく