仮想通貨だけじゃない!あらゆる業種に広がるブロックチェーンの応用
「ブロックチェーン」を、様々な産業分野の取引きや契約に広く応用する動きが活発になってきました。
その熱気は、さながらインターネットが世に知られ始めた1990年代後半の状況のよう。
ブロックチェーンは、その仕組みのわかりにくさと、最初の応用である仮想通貨に関わるネガティブなイメージから、とかく取っ付きにくい技術とみなされがちです。
しかし、その潜在能力は極めて高く、あらゆるビジネスの取引きや契約の方法を根底から覆し、生活や社会システム、企業や国のあり方を一変させるほどのインパクトを持つ技術です。
ここではブロックチェーンの基本的な仕組みとその展開について見ていきましょう。
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そもそもブロックチェーンってどんなもの?
近年、ディープラーニング(深層学習)や量子コンピューターなど、新たなIT技術が話題になることが多くなってきました。
「ブロックチェーン」もまた、こうした革新的技術と並び、近未来の生活と社会活動に大きなインパクトをもたらす技術だといえます。
そもそもブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る正体不明の人物が書いた、仮想通貨「ビットコイン」の価値を保証する方法を論じた1本の論文の中で初めて提唱されたものでした。
現実の通貨の価値は権威・信用のある人や金融機関・政府といった第三者によって保証されています。
例えば、日本で流通している10,000円札。
製造原価は約20円に過ぎないといわれています。
たった20円程度で作られている紙が10,000円の価値を持ち、使用することができるのは日本銀行という権威のある機関が「この紙には10,000円の価値がある」と保証しているからなのです。
また、取引きの公正さを担保する第三者も必要です。
通貨の取引記録が改ざんされたり、二重の取引きが発生すると、通貨の正常な価値を維持できなくなります。
現実の通貨ではこの取引きの公正さという点を各金融機関や政府が保証しています。
ところが、仮想通貨には価値や公正な取引きを保証する第三者が存在しません。
そこで生み出された技術がブロックチェーンでした。
ブロックチェーンは、通貨価値の保証と取引きの効率化を実現するための以下のような要素を実現します。
ブロックチェーンが実現するもの
- 第三者機関を必要としない直接取引の実現
- 非可逆的な取引き(取引記録を勝手に改ざんできない状態)の実現
- 少額取引での信用コストの削減
- 手数料の低コスト化
- 二重支払いの防止
取引きの参加者全員で通貨の価値と取引きの正当性を保証する
それでは、ブロックチェーンという技術は第三者を介在させずに、いかにして通貨の価値を保証するのでしょうか。
カギを握るのは「信用はITシステムを介した取引きに参加する全員の合意で生み出す」という基本理念とシステムです。
ビットコイン向け技術を例にして簡単に説明していきます。
ビットコインでは、10分間に世界中で起きた取引きの記録を、ネットワーク上の参加者全員で共有する分散型デジタル取引台帳に記録して管理しています。
この10分間のすべての取引記録を「ブロック」と呼び、10分ごとにできるブロックを鎖のようにつないだものが「ブロックチェーン」です。
そして、各ブロックの間には、取引きが行われた順序を示すデジタル割印が押されます。
通貨の取引記録であるブロックは、その時点での通貨の価値とイコールをなすものです。
つまり、すべての取引記録がネットワーク上の参加者全員に共有されることで、通貨の価値を第三者の介在なしに、参加者全員で合意し、お互いに保証しあう環境が構築されているのです。
また、参加者全員が取引きを監視可能で、デジタル割印によって、取引きの順番も保証されるため、取引記録の改ざんは不可能になります。
これがブロックチェーンの核となる仕組みです。
※平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書(経済産業省)より作成
ちなみに、従来の通貨の流通に必要とされていた、信用・権威を持った第三者は、コスト増や取引スピードの低下をもたらす存在でもありました。
与信がブラックボックス化されて、信頼していた第三者自身が不正の温床になる可能性さえあったのです。
ブロックチェーンによる取引きでは、こうした欠点がすべて解消します。
あらゆる産業分野で応用が活発化するブロックチェーン
ここまで紹介したように、ブロックチェーンは仮想通貨を生み出すために発明された技術です。
仮想通貨の価値が乱高下する様子やサイバー攻撃の対象になった事件を知り、ブロックチェーンという技術そのものにも危険なにおいを感じている人がいるかもしれません。
しかし実際には、仮想通貨が定着する、しないに関わらず、ブロックチェーンという技術の応用が今後急激に広がることは確実です。
契約、取引き、合意、協力といったビジネスに欠かせない行為を伴う様々な用途にブロックチェーンを応用する動きが、あらゆる産業分野ですでに広がっています。
検討されている用途の中には、カーシェアリングや不動産の売買、保険、遺言信託など、生活に密着したものから、クラウドファンディングやサプライチェーンの管理のようなビジネスに関するもの、さらには行政の可視化・効率化、著作権や特許権の管理、選挙などもあります。
ここでは、生活や社会活動が変わる可能性が感じられる応用例を2つ紹介します。
洗濯機が少なくなった洗剤を自動的に調達
米IBMは韓国サムスン電子と共同で、ブロックチェーンを活用した洗濯機を開発しました。
この洗濯機には、洗剤の残量が少なくなったことを自動検知すると、販売店に自動発注し、契約に則った支払いを実行、そして所有者に一連の取引きを報告するところまでを自動的に進める機能が搭載されています。
故障時にも、修理や保守部品を自動的に手配します。
さらには、他の家電との間で、家庭内での総電力消費量を最適化するための稼働調整も自律的に進めます。
この洗濯機は、人間ではなく、機械がお金の支払いなどの決裁権限を持っている点がポイントです。
ブロックチェーンを利用することで、販売店や保守サービス業者は、機械からの発注に安心して応じることができるようになります。
こうした決裁権限を持つ機械による自律的な契約・取引きのことを「スマートコントラクト」と呼びます。
ブロックチェーン技術を応用し、自律的に消耗品の発注や故障修理の依頼、稼働調整などを行う家電の開発が進められています。
選挙の有権者登録や不正防止に応用
選挙での有権者の登録、身元確認、集計時の不正の防止にブロックチェーンを活用する試みもあります。
これによって、投票会場に出向かなくても、ネットを通じて投票できるようになるかもしれません。
米Democracy Earthは、ブロックチェーンの特徴を生かして、民意をより柔軟に汲み取ることができる斬新な投票の仕組みを開発しました。
一定量の票を独自の仮想通貨のかたちで各有権者に分配し、いくつかある政治課題ごとに、取り組ませたい候補者に持っている票を配分投票する仕組みです。
これらの例は、ブロックチェーン応用のほんの一端にすぎません。
ブロックチェーンの特徴をより深く知ることは、情報システムを開発するエンジニアや新規ビジネスを創出するイノベーターにとって、欠かせない素養になることでしょう。