市場規模は右肩上がりを続けるドローンビジネスの活躍分野を紹介
昨今、ドローンの普及によって、高額な費用をかけていた空撮映像が手軽に得られるようになり、テレビや映画でも迫力のある映像を目にする機会が増えてきました。
また、この他にもインフラの点検、農業、測量、物流、防犯など、ドローンの活躍範囲である低空の領域を活用して様々なイノベーションが生まれています。
ドローン関連ビジネスは、今後生活や社会をどのように変容させていくのでしょうか。
ここでは、ドローン活用ビジネスのこれからの成長と、応用の広がりについて解説します。
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毎年約40%の市場成長が続くドローン関連ビジネス
インプレス総合研究所が発表した『ドローンビジネス調査報告書2018』の調査によると、2017年度のドローン関連ビジネスの国内市場規模は、16年度の353億円から約42%増加して503億円に達しました。
同期間の日本の国内総生産(GDP)の伸びが約1.5%だったことを考えれば、この市場がいかに急成長しているビジネスであるかが分かります。
さらに、18年度は前年度比で71%の成長が見込まれており、24年度までに17年度比で約7倍の3711億円の市場規模へ成長すると予測されているのです。
急成長を遂げているドローン関連ビジネス
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ドローン関連ビジネスは、新型ドローンの機体の開発・製造と、ドローンを活用した新サービスの提供の大きく2つに分かれており、新しいサービスを生み出すためには先行して新しいドローンを用意する必要があります。
このため、2017年時点では、ドローン関連ビジネスのうち、機体市場の規模が最も多く、全体の41.7%を占め、サービス市場の30.8%を上回っています。
ただし、今後大きく拡大するのは、開拓余地が十分に残るサービス市場です。
現在も多くの企業が積極的にビジネス開発に取り組んでおり、24年度までにサービス市場が17年度比で16.3倍の規模にまで成長し、ドローン関連市場全体の68.2%を占めるとみられています。
テレビや映画の空撮はドローン応用の一部にすぎない
一般的にドローンといえば、テレビや映画の空撮で利用するものを思い浮かべるかもしれません。
ところが、空撮は数あるドローン応用のうちの1つに過ぎず、2017年度の時点でもサービス市場のおよそ1割を占める程度の市場です。
ドローンを活用したサービスとして、現在最も大きな期待がかかっているのが、道路や橋脚、送電網など社会インフラや、工場設備、産業プラントなどを対象にした点検・検査での利用です。
例えば、川に架かる橋の安全性を維持するためには、常に老朽化に目を配り、必要に応じて補修する必要があります。
ところが、橋脚などを人手で点検・検査しようとすると、落下などの危険な作業が避けられません。
さらに、こうした社会インフラは人里離れた場所にもあるため、点検・検査の担当者が現地に出向くだけで大きな労力と時間、コストを費やすことになります。
ドローンは、インフラの点検・検査での活用で期待されている
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日本には、1970年代の高度経済成長期に作られた社会インフラがたくさんあります。
その中には現段階でコンクリートの耐用年数(30?50年)を超えるものもあり、これまで以上に頻繁に点検・検査をしなければなりません。
しかし、予算と人材が不足しているため充分な対応ができていない状態です。
こうした作業にドローンを活用できれば、低コストかつ頻繁に点検・検査できるようになる他、点検のために交通規制による渋滞やインフラの一時閉鎖が起こることもなくなります。
これら点検・検査に関わる市場規模は2024年までにドローン関連サービス全体の38.3%にまで膨れ上がる予想されています。
また、農業もドローン活用に期待がかかる分野です。同年までに30.0%が農業関連のサービスになると予想されています。
農業では、いかに効率よく作物を生育させるかがとても重要です。
高品質な作物を多く収穫するためには、日照条件や天候、病虫害の影響などを常に把握し、肥料や農薬の散布など、田畑の作物の生育状態に合った適切な施策を打つ必要があります。
ところが、農業は慢性的に人手が不足している産業であり、きめ細かな目配りや丁寧な手入れができない状態です。
そこでドローンを活用すれば、広い田畑の中での生育状況も上空から俯瞰して知ることができるようになります。
また、肥料などを搭載して、生育状況の悪い場所にピンポイントで散布する作業を自動で行うことも可能です。
その他にも、測量の低コスト化、過疎地や非常時の物流、人手不足で充分な警備が出来ない防犯など、多くの分野でドローンを応用したサービスが始まっています。
イメージングからセンシングへと応用広がる空の目
ドローンといえば、空中からカメラで地上の様子を撮影する機械であると考えている人が多いことでしょう。
確かに現時点では、そうした利用法が中心ですが、ドローンには、もっと多様な使い道もあります。
近年、IoTデバイスの活用が活発になってきました。
あらゆる道具や機械、設備がインターネットに接続し、遠隔地に置かれたモノの利用状況やその場所の状態を知ることが可能になってきています。
ただし、IoTデバイスを利用するためには、道具や機械、設備の中にセンサーなど電子回路を埋め込まなければなりません。
これには、余分なコストがかかります。ならば、センサーを搭載したドローンを飛ばして、情報を収集した方がよほど効率的になるケースが多くあります。
実際に、カメラ以外の情報収集手段として、多様なセンサーを搭載してIoTデバイスの代わりに利用する例が増えてきています。
例えば、太陽光発電設備の点検用に地表の温度分布を検知する赤外線センサーを搭載したドローンや上空から地肌が見えにくい森林の地形の測量に3Dレーザースキャナーを搭載したドローンが使われています。
農業分野では、日射、温湿度、CO2などの情報を取得するセンサーを取り付けたドローンで生育環境を定時監視しています。
この他、有名な例では、東日本大震災で被災した福島第一原発の内部の様子を、放射線量計を搭載したドローンを飛ばして調査されたこともありました。
このように、ドローンを高い機動力を持つセンシングデバイスとして利用する試みは、今後もますます広がっていくことでしょう。
最近では、倉庫の中に置いたモノの在庫管理にドローンを使おうというアイデアも実用化しています。
在庫管理を効率化するため、管理対象となるモノにバーコードやICタグを付けて管理する方法が一般的になってきていますが、この方法でモノを管理するためには、人手でICタグなどの情報を読み取る必要がありました。
ドローンにICタグなどを読み取る装置を搭載すれば、在庫数や保管場所を自動的に知ることができるようになります。
この方法は、在庫管理だけではなく、人流管理や生産管理など様々な用途でのブレイクスルーが期待されています。
ドローンが起こすイノベーションで人の命をも救う
また、情報を収集するだけがドローンの仕事ではありません。
荷物を運んだり、人が踏み込めない場所で作業をこなしたりするためにも利用されることになりそうです。
ITが発達したことによって、過疎地でも都会と同じ情報に簡単にアクセスできるようになりました。
しかし、いまだに物流においては交通網が発達している都会と過疎地で輸送力に大きな差があります。
この課題の解決策として検討されているのがドローンです。
ドローンによって荷物を世界の隅々まで送り届けることが可能になり、山間地や離島などに住む人々の暮らしを一変させる可能性があります。
実際に、こうした用途にドローンを使い、人の命を救っている例があります。
例えば、アフリカのルワンダの場合、居住地が点在しているため、これまでは長期保存が難しい医薬品や輸血用血液を備蓄することが困難でした。
そこで、あらかじめ中央に薬や血液を備蓄しておき、病院の要求や必要に応じてドローンで輸送する仕組みが作られました。
これにより十分な治療が受けられずに命を落とす人が減り、多くの命が救われています。
日本においても、瀬戸内海の離島に医薬品を送ったり、山間部に自動体外式除細動器(AED)をドローンで送ったりする実験が行われています。
また、宅配便など日常的な物流にドローンを活用するための検討・実験も盛んに行われています。
2013年には、米Amazon.com社がドローンを活用した商品配達「Amazon Prime Air」の事業化を検討していることを発表し、世界中を驚かせました。
今では、同様の取り組みが世界中で進められるようになり、日本でも千葉市の幕張新都心でドローン宅配サービスの事業化を目指した実験が始まっています。
この実験では、東京湾臨海部の大型倉庫から海上を飛行し、新都心内の集積場まで運ぶことを想定しています。
また、超高層マンション各戸のベランダに荷物を直接配送することも視野に入れているようで、身近な場所でドローンをフル活用する未来が、すぐそこまで来ているといえるでしょう。
宅配便をドローンが運ぶ未来が、すぐそこまで来ている
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