マスカスタマイゼーションとは|メリットと課題・アパレルなどで広がる導入事例
消費者のライフスタイルや価値観が多様化するなか、生産・販売のボリュームを維持しながら顧客それぞれのニーズに合わせた製品やサービスを提供する「マスカスタマイゼーション」という生産概念を取り入れる企業が増えています。
本記事では、マスカスタマイゼーションのメリットや現状の課題、導入による成功事例を紹介します。
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【わかりやすく解説】マスカスタマイゼーションとは
マスカスタマイゼーションとは、「大量生産(マスプロダクション)」と「受注生産(カスタマイゼーション)」の2つをかけ合わせた生産方式です。経験や体験を経済的な価値とする「エクスペリエンスエコノミー(体験経済)」の考え方を浸透させた学者・経営顧問であるジョー・パイン氏が著書「マス・カスタマイゼーション革命―リエンジニアリングが目指す革新的経営」にて示した概念で、近年では多くの企業がマスカスタマイゼーションの手法を事業に取り入れています。
企業から見ると、顧客一人ひとりに製品をカスタマイズして販売することはコスト高になるだけでなく、納期までの時間を要し、かつ大量生産しづらいという難点があります。マスカスタマイゼーションでは、こうした課題をクリアして顧客それぞれのニーズにあわせた製品を大量生産し、利益拡大を図ります。
マスカスタマイゼーションは、各顧客のニーズに最適な設計で提供するフルカスタマイズとは異なり、いくつかの部品を用意して、顧客側が組み合わせを選択する「マスカスタマイズ生産」方式で商品のバリエーションを実現します。
マスカスタマイゼーションは、化粧品や食品、アパレル業界でも広がっており、アパレルにおいては、価格を抑えたオーダーメイドスーツの販売も浸透してきました。そのほか、自動車メーカーが内外装パーツを選んでカスタマイズできるモデルも話題になっています。
マスカスタマイゼーションが注目される背景
マスカスタマイゼーションを取り入れる企業が増えている背景には、顧客ニーズの多様化や製品ライフサイクルの短縮化、IT技術の進歩などがあります。
- 顧客ニーズの多様化による市場競争の激化
- 製品ライフサイクルの短縮化への対応
- IoT技術の進歩によるスマートファクトリーの実現
顧客のニーズはますます多様化しています。近年では越境ECも活発化し、国内企業は海外企業との競も余儀なくされる状況です。そこで企業は、大量生産によってコストを下げ利益拡大を図る手法から、ニッチ戦略による販売機会の創出へと戦略を切り替えているのです。
特にハイテク製品においては、新しい製品でも短期間で市場が成熟し、激しい価格競争に見舞われるケースが増えています。新たな製品を大量生産しても、製品ライフサイクルが短縮化されているなかでは在庫管理を抱えてしまうことになりかねません。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業やスマートファクトリーを実現する企業が増えていることもマスカスタマイゼーションの実現を後押ししています。
前述したように、従来はコスト面・納期面などの課題から、顧客のニーズに合わせてカスタマイズした製品を販売することは現実的ではありませんでした。ところがIT技術の進歩によって、顧客ニーズを素早くくみ取り、設計・製造を自動化して円滑に出荷できるようになったのです。
顧客、市場、技術の3つの変化を背景に、マスカスタマイゼーションは今後さらに注目されていくでしょう。
マスカスタマイゼーションのメリット
マスカスタマイゼーションは、大量生産と受注生産のメリットを両立できる生産方法です。具体的には、次のようなメリットがあります。
- 大量仕入による原価の低減
- 納期の短縮
- システム化による生産コストの低減
- 顧客ニーズに応じた細かな仕様変更が可能
- 「カスタマイズ」という付加価値
- 必要以上に在庫を抱えることがなくなる
マスカスタマイゼーションでは、大量生産に劣らない生産性を維持できるため、大量仕入による原価の低減や納期の短縮、システム化による生産コストの低減が可能です。また、受注生産と同様に顧客ニーズに細やかに対応でき、製品に付加価値が生まれます。さらに在庫を抱える心配もなく、ライフサイクルの短いアパレル製品などでも、大量の在庫を抱え廃棄するリスクが減少するのです。
コストを削減しながら付加価値をプラスできるマスカスタマイゼーションの活用によって、企業は利益の最大化を図れます。
マスカスタマイゼーションのデメリット
一方、マスカスタマイゼーションには次のような課題もあります。
- 新たな生産システムの構築にコストがかかる
- 従業員に負担がかかる
- 顧客のニーズ把握の困難化
マスカスタマイゼーションの実現には、サプライチェーンの刷新にともない新たなシステムや機器を導入する必要があります。新たなシステムを導入する前後にはイニシャルコストが発生するだけでなく、業務負担が増してしまうことも難点です。
また、製品をカスタマイズできるようになると顧客の選択肢が増え、その結果、ニーズの把握は複雑化します。トレンド予測の困難化の可能性も否めません。
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マスカスタマイゼーションの実現に必要なこと
マスカスタマイゼーションの実現には、企業はいくつかの課題をクリアする必要があります。どのような課題が考えられるのか、具体的に説明します。
多品種少量生産する手間やコストの課題
多品種少量生産では、大量生産に比べて大きな手間とコストが発生します。マスカスタマイゼーションを実現するには、大量生産と同等あるいはそれよりも低いコストで、効率的に多品種少量生産を実現しなければなりません。
従来、大量生産で顧客に選択肢がない状態で製品を生産・販売していた企業がマスカスタマイゼーションに移行しようとすると、受注・見積・生産を顧客ごとに個別に対応する必要があります。これらの作業を人力で行う場合、多くの手間と時間が必要です。また、製品の多様化によって各工程でヒューマンエラーも増えるでしょう。
これを解決するのがデジタル技術です。IoT機器などを用いたソリューションやECサイトの活用、サプライチェーンマネジメントシステム(SCM)や顧客管理システム(CRM)の導入などによって、受注から生産・販売までの業務を大幅に効率化できます。
マスカスタマイゼーションという概念が広まった1990年代には、手間やコストといった課題の解決が困難でした。IT技術の進歩によって、近年では中小企業においてもマスカスタマイゼーションの実現が現実味を帯びてきています。
実現に必要な技術と設備
前述したとおり、マスカスタマイゼーションの実現には先進的な技術や設備が必要です。
製品の設計においては、顧客ニーズをデータ化する技術が欠かせません。近年では、顧客側が自身の好みをデザインに反映できる「ジェネレーティブデザイン」が多く取り入れられています。
製造においては、顧客ニーズのデータをもとに製品を作れるよう、3Dプリンタやレーザーなどの最新技術も必要です。オーダーに応じて柔軟に生産できるよう、無人でも製造できる産業用ロボットやデータの送受信を行うIoT技術も用いられます。
これらの技術や設備を取り入れたスマートファクトリーの建設も視野に入ります。スマートファクトリーは、最新技術を用いた生産の自動化、無人化、知能化などによる生産性の向上や、データによる生産の可視化を可能にします。工場では、取得されたデータや監視システムから送られる画像・動画データを活用して、最小限の手間で品質の管理を行えます。
マスカスタマイゼーションを導入している事例
マスカスタマイゼーションの実現で事業を成功に導いた企業の事例は複数あります。身近なところでは、スニーカーやスーツ、パソコン、自動車などを扱う企業もマスカスタマイゼーションを取り入れています。例えば、次の3つの企業(製品)もマスカスタマイゼーションを導入しています。
- DELL
- Nike By You
- yuniku
ここからは、各社がどのようにマスカスタマイゼーションを実現しているのか、詳しく見ていきましょう。
DELL:BTOパソコンの製造・販売システムをいち早く構築
PCメーカーのDELLでは、受注生産方式(BTO:Built To Order)のパソコンを販売しています。BTOとは、顧客がパーツを選択して、目的や用途に合ったパソコンを購入できるシステムです。
BTOのパソコンを販売する企業は現在数多くありますが、DELLはその先駆け的存在です。DELLでは、中間業者を介さずパソコンを製造・販売するシステムを構築し、性能を保ったまま価格を抑えてPCを提供できる体制を作りました。
保有する在庫は部品単位で、部品はさまざまな製品に利用できるため在庫リスクも抑えられます。また、メーカーから顧客に直接届ける直販形式のため流通コストもカットできています。
Nike By You:付加価値の高いオリジナルスニーカーを提供
Nike By Youは、スポーツ用品メーカーのNIKEが提供する、シューズをカスタマイズできるサービスです。このサービスでは、Webサイト上でベースのスニーカーに好みの生地や色を選択することで、カスタマイズしたシューズを購入できるようになっています。
この事例では、製品にオリジナルスニーカーを作成できるという価値を付加しつつ、マスカスタマイゼーションにおける受注にかかる手間とコストを削減しています。
Yuniku:3Dスキャン技術で顔に合わせメガネを調整
Yunikuは、オーダーメイドのメガネを作成できるサービスです。眼鏡用レンズを製造するHOYAと、メガネのデザインを手がけるフート・デザインスタジオ、3Dプリント事業を営むマテリアライズの3社が共同開発したもので、自分の顔を3Dスキャンして、自分に合ったメガネを簡単に作れます。
メガネのフレームはすでにできあがっているものを顧客が選び購入し、その後顧客の顔に合わせて微調整を行うのが一般的です。Yunikuのアプローチはそれとは異なり、まず顧客の顔を3Dスキャンし、ソフトウェアが顔の形状と視力をもとにレンズの位置を決定。次に別のソフトウェアが、レンズの位置を保ったまま顧客が指定したメガネのフレームのデザインや色、仕上げオプションを自動で調整します。
3Dスキャンや外見シミュレーションは、店舗設置用のディスプレイから確認可能です。マスカスタマイゼーションを、メガネ店の従業員などに負担をかけず実現しています。
マスカスタマイゼーションの浸透でIT人材の需要が高まる
IT技術の発展によって、マスカスタマイゼーションを実現している事業にはすでに多くの事例が見られます。マスカスタマイゼーションの実現には先進的な技術が必要不可欠なため、製造現場でもこれまで以上にIT人材が欠かせなくなるはずです。
IoTやAI技術、3Dプリンタなどへの理解を深め、スキルを身につけることで、多くの企業から求められる人材になるでしょう。
- マスカスタマイゼーションとは、「大量生産」と「受注生産」の2つをかけ合わせた生産方式
- 各顧客のニーズに最適な設計で提供するフルカスタマイズとは異なり、いくつかの部品を用意して、顧客側が組み合わせを選択する「マスカスタマイズ生産」方式で商品のバリエーションを実現している
- IT技術の進歩によって、顧客ニーズを素早くくみ取り、設計・製造を自動化して円滑に出荷できるようになった
- 多くの企業は、大量生産によってコストを下げ利益拡大を図る手法から、ニッチ戦略による販売機会の創出へと戦略を切り替えている
- コストを削減しながら付加価値をプラスできることがマスカスタマイゼーションの特徴
- マスカスタマイゼーションには、顧客ニーズをデータ化する技術や3Dプリンタやレーザーなどの最新技術が求められる
- ソリューション導入などに手間やコストが発生するが、IT技術の進歩によって、これらの課題は軽減へ向かっている